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【レアシナリオ】陰陽師のお花見【戦闘あり】

陰陽師のお花見


マスター:灰島懐音




 
「ねーねーそろそろ梅の開花時期らしいよ」
 との言は、朝食の席で柚本 メイ(ゆずもと・めい)が発したものだった。
 日めくりのカレンダーを見て、もうそんな時期か、と月読 布留部(つくよみ・ふるべ)は思う。
「花見でもどっすか旦那ァ」
 馴れ馴れしく肩を組んでくるメイの手をそっとどけつつ、「平和だねえ」とぼやく。
 そもそも俺たち召喚者は、この世界の危機を救うために来たのではなかったのか。
 呼び出されて早一月、そろそろ何かをした方がいいのではないかと思いつつ、「花見で一杯、花札にもあるしな」と口は勝手に同意を示す。
「月ちゃん花札強そう」
「強いよ」
「自分で言うくらいだやべえ」
「で、何。花見すんの」
「したい次第。ねー、めぐ?」
 不意に話を振られた神凪 巡(かんなぎ・めぐる)が目をパチパチとしばたたかせた。数秒の後、「お花……好き」と返ってくる。
「んじゃ決まりね! 日時はそうだなあ、今週末が晴れるらしいからその日にしよっか」
「はいよ」
「ああ、あとそうだ」
「何?」
「花見会場から少し離れたところがもう郊外だから、モンスターには気をつけて」
「おい他人事みてえに言ってんじゃねえぞ、そんなとこで花見すんな」
「いやそこが穴場なのよ」
「穴場より命優先しろや」
「そこはほら、月ちゃんがいるじゃない。
 頼りにしてますよ? 召喚者サマ」
 食えない言い方に苛立ちを覚えながら、もう一方で、まだこの世界のモンスターに出会ったことがないことに思い至った。
 それにちょうど、何か行動を起こした方がいいのではないかと考えていたところでもある。なんの力ももたない巡がいる以上、危険はないに越したことはないのだが。
(実戦しとかねえと体鈍るしな)
 そういう体で乗ってやってもいいか、と思い、「週末な」と布留部は約束を取り付けたのだった――。


――――――――――――――――――――――――――――――――

<マスターコメント>
■ご挨拶
初めましての方は初めまして、そうでない方はお久しぶりです、灰島懐音です。
第四回ガイドは、日常寄りバトルシナリオでございます。
基本的にはお花見をしておりますし、バトル系アクションがなければ平和に終わります(もちろんそれでも構いません)。
何か希望があればご相談くださいませ。
また、いつものことですが、ガイドに出ている灰島NPCに絡む必要は必ずしもありません。
一人で訓練・鍛錬・モンスター討伐をしていた、花見に来ていた、そんな描写でも全く問題ありませんのでお気軽にご参加くださいませ。


■NPCについて
布留部……花見を楽しむ(もともと風情のあることが好き)。モンスターが近場にいるのでお酒は控えめに(護衛感覚。でも飲む)。バトル系アクション→共闘可能です(陀羅尼メイン)。
メイ……めぐも楽しそうだし月ちゃんもなんだかんだ好きなんじゃないのーとニマニマ。基本的に巡の動向を伺っておりますが、巡が唐突にいなくなるのでたまに見失います。その時は探しに行きます。バトル系アクション→共闘可能です(魔法メイン)。
巡……花が好きなのであっちをフラフラこっちをフラフラ。うっかりモンスターがいることを忘れているようです。お花、綺麗だなー、とぼんやり見つめております。バトル系アクション→メイも布留部も近くにいなかった場合、モンスターに襲われる可能性があります。

それでは、みなさまのご参加をお待ちしております。

<リアクション>

 アヅキ・バルがお花見の情報を聞いたのは、数日前、偶然柚本 メイに会った際だった。
「今度お花見すんだー」
 と笑顔で言ったメイに、アヅキは「風流ですね」と返す。
「よろしければ、ご一緒しても?」
「もっちろん。花見とかそういう行事は人数が多い方が楽しい」
 胸を張って答えるメイが微笑ましくてクス、と笑うと、彼はにひ、と歯を見せて笑った。
 その後日程や時間などを教えてもらい、簡単な挨拶を交わしてアヅキは立ち去った――。


 そして、待ちに待ったお花見の日――。
「あ? なんでいんだ?」
 という月読 布留部の第一声に、アヅキは肩を竦めてみせた。
「ご挨拶ですねぇ、ふるべぇさん。せっかく会えたのに」
「純粋に驚いた。偶然か?」
「いいえ。メイくんに日程を教えてもらいました。お友達なので誘って頂けた次第です」
 ね、とメイに目配せすると、メイは小首を傾げながら「ねー」と笑う。
「お前いつの間に友達の輪広げてんだ」
「俺ちゃん人付き合いめっちゃいいから。月ちゃんと違って」
「人をコミュ障みたいに言うな。最低限の付き合いくらいできるわ」
 二人の軽口を聞きながら、アヅキは持参したお弁当をレジャーシートの上に広げた。風呂敷を解き、出てきた重箱を並べていく。
 中身は、具材に柴漬け、ごま、鮭、昆布、梅、じゃこなどを使用したカラフルで目にも楽しいおにぎりと、定番である唐揚げ――少しアレンジを施し、カレー風味にしてある――、他、サーモンのガーリックバター焼き、ミニハンバーグ、ゆで卵、かにサラダ、とバランスにも気を配った献立である。
「すごい……作ったの?」
 と、感嘆の息を吐きながら聞いてきたのは神凪 巡だ。ちなみに、布留部とメイは未だに軽口を叩き合っていて、アヅキの弁当へのリアクションはない。ので、巡が反応してくれてよかった。だって、せっかく早起きして作ってきたのだから、ノーリアクションは悲しい。
「久しぶりに手の込んだお料理を作りました。楽しかったですよ」
 ニコリと笑って答えると、巡は再び、「すごいね……」と言った。
「巡ちゃんはお料理しない?」
「うん。できない」
「今度教えてあげましょうか。お料理教室なんてどうかな? メイくんやふるべぇさんも一緒に。あら? 自分で言っておきながらなんですが、楽しそうですね」
「うん、楽しそう……だけど、わたし、すごく不器用だから……足引っ張っちゃう」
「そんなのいいんですよ。みんなで一緒に、が楽しいんだから。ねえ、メイくん?」
 いつまでも続きそうな軽口を叩くメイに声を掛けてみれば、元気よく「うん!」と頷かれた。「俺ちゃんあんまりご飯食べられないけどね」と続いたことにより、生返事などではなかったとわかる。布留部とやり取りしながらもしっかり話を聞いていたらしい。なかなか賢い子だ。
「少食なんですか? じゃあ作りすぎちゃったかなあ。誰か他の人も来てくれたらいいんですけど……巡ちゃんは食べられる?」
「ううん、あんまり……」
「ふるべぇさんは?」
「人並み」
「それならよかった、巡ちゃんとメイくんの分も食べてくださいね」
「いや人並みだっつってんだろ、一人前以上食えねえわ」
「少食ですねえ。私のイメージではもっとモリモリ食べる人だと思ったんですけど」
「あんま食いすぎると体重くなるんだよ。今の体重がベストだから増やしたくも減らしたくもねえ」
「なるほどです」
 納得して首肯しつつ、ますます、これでは作りすぎてしまったなあ、と思ったところで、丁度いい人を見つけた。
「ホーリーじゃない」
 そこにいたのは、拳銃を二丁引っさげ、カウボーイ衣装で散策していたホーリー・ホワイトだった。
 名前を呼ばれたことで彼女は振り返り、「おう、アズーキ」と声を上げてこちらに向かってやってきた。髪に、一輪の花が挿さっている。あれはなんだろう。疑問に思っているうちに、ホーリーは花を取ってしまった。普段とのギャップが可愛かったのに、とアヅキは思う。
 こちらにやってきたホーリーは、知った顔が多かったからだろうか。いつもギラついている目を少し細め、口角を上げた。
「フルベーとメグルとメイもいるじゃん。ヘイ、偶然だな」
「本当にな」
「いいじゃん賑やかで」
「うん……」
 三者三様の反応を見せた後、メイが「ヘイヘイ、ホーリーカモン」と、空いている自身の横のスペースを叩く。ホーリーは促されるままそこへ座った。そして、その隣にいた巡に、先程髪に挿していた花を差し出す。
「メグル、花好きか?」
「すき」
「ん、いい返答だ。この花やるよ」
 頷き、ホーリーは巡の艷やかな黒髪に淡いピンクの花を飾った。あら可愛い、とアヅキは微笑む。
「似合ってますよ、巡ちゃん」
「……照れる」
「なんでだ? 可愛いぞ」
「…………照れる」
 巡はそう言って、恥ずかしそうにメイの後ろに隠れた。挙動が可愛い。
「ところで何してんだ? みんなで集まってメシか? 仲良しだな」
「違うわよ、ホーリー。……ん? 厳密には違わないかしら。これはお花見って言ってね、無礼講な集会よ」
 そう答えると、即座に布留部から「間違った知識植え付けるんじゃねえ」とツッコミが飛んできた。いい反応だ。
 ホーリーはというと、「オウ」と驚いたような声を上げている。
「これが噂に聞く花見か。そういえば前にアズーキが言ってたな、ワサビの心だって」
「侘び寂び、よ」
「ん? どこが違うんだ?」
「一文字足りてねえだろうが」
「ん?」
 きょとんとした顔で首をひねるホーリーに、「まだホーリーにはわからないかしら」とアヅキは呟く。
「ワサビの心か? 確かにわかんねえな。そもそも花見ってなんだ? メイ、説明してくれ」
「無礼講な集まりだよ!」
「お前便乗して嘘言ってんじゃねえよ」
 ここでも律儀に布留部はツッコミを入れた。相変わらず律儀ですねぇ、とアヅキは思う。
「真面目に聞かれてんだから真面目に答えろ」
「はぁい。ええとね花見っていうのはね、主に桜の花を鑑賞して春の訪れを言祝ぐ集いです」
「サクラ? コトホグ? わかりやすく言ってくれ」
「この国の伝統的な花だよん。めっちゃ綺麗だからオススメ。ちなみに俺らが見てるのは梅。桜はもうちょっと後かな」
「ウメ? ほぉ。悪くねえな」
「言祝ぐっていうのは辞書的に言えば祝福すること。あと幸運を祈ったりね」
「メイ、言葉の引き出しが多いな。頭いいのか?」
「アッホだよ」
「アッホ」
「うん、アッホ。お気楽能天気。楽しければいいよねイェアってタイプ」
「のんきなやつだな」
「よく言われる」
 二人の会話をのんびりと見守りながら、アヅキは布留部に向かって微笑みかける。なんだ、と布留部がこちらを見たので、そっと隣に移動した。
「それにしても、いいですね、お花見」
「そうだな」
「戦士の休息ってやつでしょうか。シャッドおじさんも言ってたなあ」
「誰?」
「船の保安主任だった人です。私にアラクニアン格闘術を教えてくれた人です」
「へえ、そんな格闘術あんのか」
「はい。結構しっかり叩き込まれました。シャッドおじさん、元軍人で特殊部隊の教官もしていたから、厳しかったなあ」
 あの頃のことを思い出し懐古の念に浸りつつ、意味深に笑ってみせる。
「なので私、結構デキるんですよ。そこらの雑魚モンスター程度なら指先一つでおしまいです」
「なんか歌詞みてえ」
「なんのですか?」
「俺の国の楽曲にそんなんあるんだよ」
「歌ってくださいよ、聴いてみたいです」
「やだよ。俺のキャラじゃねえし。もしも万が一歌うとしたらガチで歌うぞ」
「それはそれで聞きたいですけど」
「音響の用意からな」
「物理的に不可能な指定をしてきましたね……」
 でもいつか聴いてみたいなあ、愛依ちゃんにお願いしてみようかしら、と真面目に考えていると、「煩悩祓うぞ」と言われた。思考がバレている。観察力が高いな、と恐れ入った。そしてこれ以上想像を膨らませると本当に陀羅尼を詠唱するのではないかと思い、話を戻すことにする。
「まあ、戦えるといっても、アラクニアンスタイル限定ですけどね」
「アラクニアン格闘術って言うくらいだもんな」
「そういうことです。なので一応、念のためこれを持ってきました」
 と言って、アヅキはバールのようなものを差し出した。これ一本である程度の事柄なら解決ができる、という偏った知識がアヅキにはある。
「人型だと私、か弱い乙女なので。何かあったときは頼りにしてますよ、ふるべぇさん」
 ニッコリと綺麗に微笑みかけると、「食えねえやつだ」と言われた。本当のことなのに。


 一方ホーリーはというと、花見と侘び寂びの心についてをメイから詳しく聞き出していた。
「へえ、美意識の一つか」
「そ。だから何に侘び寂びを感じるかは人次第なのだ」
「そういうもんか」
「美意識ってのが、『人が美しいと感じる心の動き』だからねえ」
「さっきからメイ、やたらと詳しいな。アッホっていうの、嘘だろ。メイがアッホならオレはドアッホだ」
「ドアッホ。面白いこと言うねえホーリー」
「思ったまでのことを言っただけだぞ」
「じゃあセンスの塊だ。俺ちゃん面白い人好きよ」
 好き、という単語に目を瞬かせる。そんな風にストレートに感情を伝えられることは稀だったので、つい言葉を繋ぐことを忘れてしまった。けれどメイはニコニコと微笑むばかりで、話を急かすこともホーリーの反応を揶揄することもない。なんだか話しやすいやつだな、という印象を抱いた。
「ところでこれ、酒か?」
「ん? ああ、月ちゃんが『気が向いたら飲む』って言って持ってきたやつね。そーよ、酒よ。日本酒と焼酎よ」
「フーム、フルベは酒飲みなのか。後で伝えておいてくれ、酒には気を付けたほうがいいって」
「そーなの?」
「ビールならいいが、メタノールは体に毒だからな」
「待って、メタノールって酒じゃなくね。有機溶剤だよ?」
「マジで?」
「マジで。アルコールではあるけど、飲むもんじゃない」
「オウ……だから兄貴は馬鹿になってたのか……」
 漫月に召喚される前、メタノールを飲んでパッパラパーになっていた兄のことを思い出す。あれ以来飲まないと誓っていたのだが、そもそも飲み物ではなかったとは。
 などと思っている間、メイは「ヒヒヒ」と笑っていた。変な笑い方だな、と思う。馬鹿笑いするのを避けているのかもしれない。別に笑えばいいのに。アヅキもメイも無礼講だと言っていたのだし。なんだかんだ、遠慮をする人間なのかもしれない。ガキのくせに難儀なやつだ。もっとも、ホーリーも人のことを言えた歳ではないが。
「他にはー、芸とかするかな?」
 唇に細い指をあてがい、メイは思い出すようにそう言った。
「芸?」
「そ、一発芸」
「ふうん。ご所望か?」
「え、なんかできんの。見たい見たい」
「OK、任せろ」
 と答えると、ホーリーは銃を抜き、指でクルクルと回す。この時点ですでにメイは「うおかっけえ」と言っていたが、この程度ではない。軽くお手玉をしてみせる。と、すっぽ抜けた。
「えっ?」
 驚いた反応にニヤリと笑う。すっぽ抜けたのではない、抜けさせたのだ。遠くに投げた銃に向けて義手を射出し、空中でキャッチする。そして銃を元あった場所に差すと、空いた手でハットを脱ぎ、胸に添えて会釈する。すると、「ハラショー!」と拍手が上がった。
「すっげえカッコいい! 何あれ俺もやってみたい!」
「やるか?」
「技量が足りなくてアアーってなるからやめとく」
「冷静な自己分析だな」
 そんな風に芸で盛り上がったり他愛のない話をしていて、ふと気付く。メイが、巡のことをチラチラと窺っていることに。その目線から、懐かしさを感じた。そう、これは――。
「メイ、メグルとの付き合いは長いのか?」
「んー? 8年くらいかな。長いっちゃ長い」
「なるほどな」
「なんで?」
「メグルへの接し方が、オレの兄貴とちょっと似てた気がしてさ」
 そこまで言って、故郷の兄たちのことを思い出した。今頃何をしているのだろう。突然いなくなったホーリーのことを探していたりするのだろうか。見つかりっこないのだから、程々にしてくれればいいのだが。――それはそれで、悲しくもある。
「…………」
 目頭が熱くなり、知らず黙り込むと、メイがホーリーのカウボーイハットをヒョイと奪い取った。
「……?」
 疑問に思ってメイの方を見ると、メイは帽子を手に微笑み、
「種も仕掛けもございません」
 と言い放つ。そりゃ、あるわけがない。ホーリーのカウボーイハットなのだから。
「3,2,1」
 しかし、カウントダウンが終わると同時に、カウボーイハットから白い鳩が飛び出していった。何事だ。オレの帽子にはあんな機能があったのか。今初めて知ったぞ。
 ポカンとしていると、メイは目を細めて笑い、
「他にも何か手品をお見せしましょうか、お嬢様」
 とおどけて言ってのけるので、思わず、「お嬢様って柄じゃねえよ」と笑ってしまった。
 するとメイはますます笑みを深くし、カウボーイハットをホーリーの頭の上に戻した。推測するに、ホーリーのことを笑わせたかったようだ。とんだお人好しである。が、悪い気はしなかった。
 気を取り直して、ホーリーはアヅキの作ってきた弁当に向き直る。
「アズーキ、弁当彩りいいじゃん」
「まあ、頑張ったから。といっても、食材自体はほとんど冷凍食品ですけどね。そこは容赦して下さい」
「まだ誰も手ぇつけてないのか? よし、オレが毒味してやろう」
 言いながらパクつくと、なかなかに美味しかった。なので、メイと巡と布留部にも食べるよう勧める。
「ああ、うん、美味えな。マジで冷凍食品?」
「ですよ。見ろよ、こいつ、綺麗な彩りしてるだろ。ってやつです」
「お前ところどころネタぶち込んでくるな」
「あら? これも何か共有点が?」
「細かいとこ忘れた」
「ところで全然話変わるんですけど」
「何」
「ふるべぇさん、お酒も煙草も嗜まれるんですよね」
「そうだけど」
「私のいた日本では、20歳未満の飲酒喫煙は法律で禁止されていたので、未成年者には売ってもらえませんでした」
「……何が言いたい?」
「いえ、他意はなく」
「嘘だろ他意ありまくりだろ」
「ただ、ふるべぇさんってレジで年齢確認されたりして不便したんじゃないかなぁって」
「ほっとけ」
 ちょっと話を振っただけなのに、ポンポンと会話が続く。やっぱりこいつらカップルなんじゃねえの、と思ったが、おにぎりを頬張っていたので何も言わなかった。
 と――。
 不穏な空気を感じて、唐揚げに伸ばしかけた手を止めた。
「お出ましか?」
「らしいな」
 同じく気配に気付いたらしい布留部は、すでに立ち上がっている。
「あら、じゃあ私も――」
 と言って動きかけたアヅキを、布留部が制した。
「なんですか、ふるべぇさん」
「人型だとか弱い乙女なんだろ」
「はい?」
「大人しく守られてろ」
 なんだよ主人公かよその言動、と思いつつ、ホーリーは布留部と背中合わせになる。
「そっちは任せた」
「同じく」
 短く言い合うと、メイや巡、アヅキに危害が加わらないよう、二人は臨戦態勢を取った――。


*...***...*


 一戦闘終えて――。
 布留部は、息抜きがてら梅を見て、たまに弁当をつつきたまに飲み、と梅見を楽しんでいた。
 すると、見知った顔が前方から現れた。ガッシリとした巨躯が特徴的な、霜北 凪である。
 凪は当然のように布留部の座るレジャーシートの上にどっかと座ると、
「せんせーは前割り焼酎を知ってるか?」
 と、唐突に話を振ってきた。
「知ってるけど飲んだことねえな」
 前割り焼酎というのは、焼酎を水で適当な比率――飲み会のペースに合わせた割り方で――割り、それを最低3日、できれば一週間ほど寝かせておく、というものだ。この手間を加えるだけで、水と焼酎が分子レベルでいい具合に混ざり合い、まろやかで飲みやすくなる。
 その存在は知っていたが、布留部が試したことはなかった。ネットでは『知らなきゃもったいない!』とまで言われる扱いだったが、なにぶん仕事が忙しく、そのたった一手間を加えるのも面倒だったからだ。案外俺は面倒くさがりなのかもしれない、と思いながら凪を見やると、彼は魔法瓶をフリフリと振った。
「これを見てくれ。こいつをどう思う」
「ただの魔法瓶だろ」
「ちっがーう。この中には、芋焼酎で作った前割り焼酎が入っている」
「マジか」
「マジだ。温めて魔法瓶に入れてきた。
 とゆーわけで、せんせー、一杯どう? アタシお酌するわよ」
「カマ言葉やめるならいただく」
「つれないねえ、せんせー」
 飄々と笑いながら、凪は布留部に耐熱グラスを渡してきた。布留部が受け取ると、トクトクと魔法瓶の中身を注ぐ。いい香りが鼻孔を刺激し、純粋に、あ、美味そ、と思った。
 返礼にと酌をし、凪とグラスをぶつけ合う。一口飲んでみれば、確かに知らなきゃ損な味わいだった。
「こんな変わるもんなの」
「一手間が大事なんだなー、何事も」
「納得の出来」
 ついつい進みそうになるのを自制しつつ、つまみ代わりに弁当を食べる。「俺様も食べていい?」と凪が許可を求めてきたが、マイ箸を持参してきているあたり当然食べるつもりだったのだろう。ちゃっかり者め、と思いつつ、みんなでワイワイやるために弁当を作ってきたのだから食べてもらわなければもったいない。
「適当にどーぞ」
「ツッコミなし?」
「なんのツッコミだよ」
「マイ箸持参かよ、みたいな」
「お前ならそれくらいしそうじゃん」
「やだ……俺様のこと完璧に把握されてる……もしかして、恋……?」
「勝手にときめいてんじゃねえよアホ」
「アホだなんてひどい……俺様こんなにせんせーのこと好きなのに……」
 突如凪が瞳を潤ませて告白してきたので、布留部は盛大に溜息をつく。
「お前演技下手か?」
「バレた?」
「バレねえと思ってたことが驚きだよ」
 そう言うと、凪は「ケケケ」と悪い笑みを浮かべて、弁当に箸をつけた。色々なおかずを一口ずつ、酒と交互に食べている。
「せんせー、料理上手だな。どれ食べても美味い」
「まあ家事してたし」
「お嫁に行けるね」
「性別違うっつーの」
 軽快に会話を飛ばしていると、それまで近所を散策していたメイと巡が戻ってきた。メイは、凪を見るや「凪ちゃーん」と声をかけている。お前らいつの間に仲良くなったの。心の中でツッコんでおく。
「メイきゅん、めぐたん、今日も元気そーね」
「だって梅見楽しいしぃ。ねえめぐ」
「ん。お花すき」
「そうそう、今日はお誘いありがと。お礼に俺様作・巨大おにぎりを進呈しよう」
 凪が持参した袋から、それこそ巡の頭の大きさほどあるおにぎりを取り出したので、流石にギョッとした。それはメイも巡も同じだったようで、「うわお」「わぁ……」と感嘆とも呆れとも取れる声を漏らしている。
「俺ちゃんおなかいっぱいだから月ちゃんにあげて」
「おい巻き込むな俺を」
「せんせー、どうぞ」
「お前も簡単にプレゼント対象変更してんじゃねえよ。こんな量食えねえわ」
「だから細いのよ、せんせー」
「細くねえから。腹筋割れるくらいにゃ鍛えてるっつーの」
「ところで~俺様飲みすぎちゃったみたーい」
 不意に、ごろんと凪が寝転がった。頭の位置は、布留部の太腿にある。イラァ、とすると同時に、メイまで「俺も飲みすぎちゃったみたーい」と言って空いている方の足に頭を乗せる。飲みすぎただと? お前は何も口にしていないだろうが。
「せんせー、両手に花だな、モテモテだ!」
「こんなごつい花がいてたまるか」
「ラフレシアとか」
「キモいわ」
 とりあえず、二人の頭を容赦なくパーで引っ叩いておいた。グーで殴らなかったのは優しさだ。
「……ほら、そんなアホなことしてるからモンスター寄ってきたじゃねえか」
 不意に感じた殺気に振り向けば、先程も戦ったモンスター――別の群れだろう――が、こちらへ近付いてくるところだった。すかさず立ち上がる。凪もメイもそれに倣った。
 メイは臨戦態勢を取り、凪は、巡をヒョイと小脇に抱えた。
「……お前何してんの」
「え、逃げようと思って」
「武闘派みたいな見た目のくせに」
「いや俺様ウォーリアよりシーフ寄りだから。三十六計何とやら。何より、子供に見せなくていーモノってあるだろうしな」
 確かに、と納得したので、巡のことは凪に任せることにした。
「メイ、三分の一片付けろ」
「あいよー」
 そして布留部は、メイとともに向かってくる敵へと陀羅尼を唱えた――。


*...***...*


 ミーティア・アルビレオは、フラフラと郊外へやってきた。というのももちろん、お花見をするためだ。せっかくの好天気だし、梅も芽吹いたし、ゆったりお酒を飲もうと思って。
(確かぁ、郊外が梅の名所なんだよねぇ)
 というのは、偶然、子供たちが喋っているところに出くわした時に聞いた。ただしそこはモンスターの棲家の近くらしい。念の為武器は持ってきたが、使いたくはなかった。だって、風情がないではないか。
「あれぇ?」
 のんびり歩いてたどり着いた名所には、見知った顔があった。
「やぁやぁ、ふるべぇ、メイくん、巡ちゃん。奇遇だねぇ」
 三人に挨拶しながら傍に寄ると、「すっげ偶然。おいでおいでー」とメイに手招かれた。お言葉に甘えて、レジャーシートの上にちょこんと座る。
「ふるべぇたちもお花見ぃ?」
「まぁな。花見で一杯、嫌いじゃないし」
「うんうん、お花見っていいよねぇ~。木の下で、木漏れ日を浴びながらお酒を飲んでスヤスヤするのとか最高~」
「寝るならここで花見は危なくねえか。モンスターが近くにいるぞ」
「ん~? 大丈夫だよぉ、ふるべぇが守ってくれるしぃ」
「確定事項かよ。つうか俺がいなかったらどうするつもりだったんだ」
「その時はその時ってことでぇ~。細かいことは気にしなぁい」
「お前ね……」
「ということでぇ、ここにお酒があるんだけど……どうかなぁ~?」
「論点変えんな」
「このお酒ねぇ、今住んでるバーに残ってたんだぁ」
「人の話を聞け」
「子供は飲めないから、食料と違って持っていかなかったんだろうねぇ」
「お前ホントマイペースだな」
「あ、おつまみの鳥缶もあるよぉ」
「OK、わかった。お前にゃもうツッコミを入れねえ」
「ねぇねぇ、一緒に飲もうよぉ」
 と言って、持参したカバンを開けてみせると、「持ってきすぎだろ」とツッコミが入った。ツッコミを入れない、と宣言してから僅か十五秒後の出来事だった。
「ふるべぇ、意思弱いねぇ」
「お前の存在がツッコミどころなんだなって思った」
 まあ、布留部がツッコむのも無理はない。ミーティアの持つカバンの中で一番大きなものを選び、そこに詰め込めるだけ詰め込んできたのだから、大変な量である。
「誰が飲むのこんなに……」
 呆れたような声を上げる布留部に、「えぇ~、もちろん私だけどぉ」と答えると、布留部は眉を顰めた。
「待て、お前何歳だ」
「ふぇ? 21歳だよぉ」
「マジかよ」
「ふるべぇが言う?」
「お前こそそれ言う?」
「ふるべぇいくつだっけ」
「知ってて言ってんだろてめえコラ」
「さて~、そろそろお酒飲もうかぁ~。ふるべぇはどんなお酒が好き?」
「だから人の話を聞け」
 律儀にツッコミを入れる布留部を無視して、カバンから酒を取り出し、並べていく。ラインナップは様々なものだ。バーにあるものを根刮ぎ持ってきたので当然といえば当然だが。
「あらゆる酒が揃ってるじゃねえか。世界一周するつもりかお前」
「ん~、何からいこうかなぁ~。どんなお酒でも好きなんだよねぇ~。迷うからふるべぇに合わせようかなぁ。どれがいい~?」
「んじゃ、焼酎」
「焼酎派なんだぁ?」
「あと日本酒」
「ふぅん、ビールとかは飲まないんだねぇ」
「ビールは嫌いなんだよ、昔死ぬほど飲まされて潰されたから。それ以来無理」
「へぇ、そうなんだぁ」
 布留部の昔の話も興味があったが、まずは酒を飲もうと思い、焼酎の蓋を外した。ミーティアには物を浮かす能力がある。それを上手く応用して、蓋をひねりながら浮かせることで器用に開けた。
 自分のグラスと布留部のグラスに焼酎を注ぐと、「かんぱぁーい」とグラスを突き合わせる。
「たくさんあるからどんどん飲も~」
 と言ってから、巡とメイは未成年だったことを思い出した。なので、きちんと注意しておく。
「メイくんと巡ちゃんはぁ、おつまみはいいけどぉ、お酒はダメだからねぇ」
「わーかってまーっす。でもカクテルってジュースみたいでいいよね」
「あ~、その言い方ぁ、飲んだことあるなぁ~? いけない子だぁ」
「んふふ。若気の至りで。ごめんなさい」
「うんうん、正直でよろしい~。でもねぇ、い~い? お酒は大人になってからなの~。あと5年と6年? そのあとのお楽しみだよぉ」
 大人、という言葉に、巡がミーティアの方を向いた。
「大人になれる?」
「なれるよぉ。私もふるべぇも、子供だった頃があるんだからぁ。ねぇ、ふるべぇ?」
「当然。俺だって短パン履いてた時代もあんだよ」
「月ちゃんの短パンとか想像つかねえ……子供から大人へのステップアップやべえ……」
「ほっとけ」
 メイが揶揄するように言う一方で、巡は真面目な顔のまま手元を凝視していた。先程の反応といい、どうも彼女は早く大人になりたいらしい。
 ミーティアは巡の隣に座り直すと、
「まぁ、大人になるって言っても、精神的に大人になるのとぉ、法的に大人になるのは違うけどねぇ~」
 そう、のんびりと語った。
「法的に大人になっても精神は子供のままだったり、逆もまたしかりだよねぇ。そういう意味ではぁ、巡ちゃんもメイくんも頑張ってる方なんじゃないかなぁ」
 二人のことはよく知らないけれど、子供らしさを感じたことはあまりない。せいぜい、雪合戦ではっちゃけたことくらいだろうか。しかしこうして真面目な話をしてみせればきちんと聞くし、きちんとしたレスポンスも返ってくる。どちらかと言えば、彼女らは大人だろう。
「大人の基準も、人それぞれだし~。焦らなくていいんだよぉ」
 クピクピと焼酎を飲み、グラスを空にしたところで、柄にもないことを言っている気がする、と思った。巡の真面目さに触れて、つい釣られてしまったのかもしれない。
「まぁ、とにかく、お酒は成人するまでお預けだからねぇ~。メイくん、わかったぁ?」
「いやん、しっかり念を押していくスタイル。ちゃっかり者だわ、大人だわ」
「もぉ~、またそうやって舌先三寸~」
 メイの性格は知っていたので、こういう返しが来るとはわかっていたが、実際に言われるとなんとももどかしい。
 けれど、最終的には、メイだから仕方ない、という結論に至り、この話はここで終わりにする。空いたグラスにまた別の酒を注ぎ、ガッポガッポと飲んでいく。
「お前飲み過ぎじゃねえ?」
「そぉ?」
「アルコール度数いくつよ。……うわ結構ある」
「美味しいよぉ? ふるべぇも飲む?」
「やめとく。いざという時戦えないと俺がいる意味ねえし」
「ふぅん、そっかぁ。
 それにしても、あんまり飲まないねぇ。もしかしてお酒弱い人ぉ?」
「強くはねえよ。普通に酔うし、飲みすぎりゃ二日酔いになるし」
「二日酔いかぁ。なったことないなぁ」
「酒に強いんだな、お前は」
「うん、ザルだよぉ。たっくさん飲むよぉ」
「今まさに理解してるとこ」
 そう言いながら布留部はグラスに口をつけた。本当に、チビチビとしか飲まない。本人の言うように、巡やメイのお目付け役として、酔っ払うわけにもいかないからだろう。
「今度ふるべぇと安全な場所で好きなように飲みたいなぁ~」
「また今度な。でもお前と飲むとお前のペースに巻き込まれそうで怖い」
「そぉ?」
「次から次へと注がれそうなイメージがある」
「そんなことしないよぉ。お酒は楽しく飲むのが一番なんだから、無理に飲ませたりはしないってぇ」
「そうか。ならいいよ、機会があったら飲もう」
「ね~、あったらねぇ」
 そんな他愛もない話をしながら梅を見る。
 漫月の梅はとても綺麗で、晴れた空によく映えた――。


*...***...*


 公 玲蘭が拠点としている廃アパートの近くには、梅の木が林立している。
 曇った窓から見える景色に、梅の花を見つけ、もうそんな時期なのか、としんみりとした気持ちになる。
 玲蘭が漫月に喚ばれて、一月以上が経過した。こうして、季節も移ろいゆく。春の訪れを告げる梅の花を遠目に見ながら、玲蘭はアパートの外へ出よう、と思った。近場で見たい、と感じたからだ。
 先日の大雪の日が嘘のように暖かい今日は、軽装でいいだろう。玲蘭は、白い清潔なブラウスにピンクベージュのジャケット、灰色の、ベルト付きスカート姿という出で立ちで外へ出る。案の定、寒くはない。動きやすさを重視したため、暖かいわけでもなかったが。
 こうして玲蘭は、以前アパート内を探索した際に見つけたレジャーシートと果実酒を手に、梅見へ向かった――。


(あら?)
 と思ったのは、そこに知った顔を見つけたからだ。
 大きめのレジャーシートを敷き、その上に重箱やら酒やらを並べてのんびりと過ごしているあの三人組は――。
「布留部さんたちも来ていたんですね」
 近付いて声を掛けると、だべっていた三人は会話をやめ、玲蘭の方を向いた。それから、三者三様に声を掛けてくる。
「梅見か?」
 と問いかけてきたのは布留部だ。手にはグラスがある。彼の脇に置かれているのは焼酎のボトルだ。花見で一献、ということらしい。顔色は普段通りで、酔っている様子は微塵もない。酒に強いのか、あるいは顔に出ないタイプか。もっとも、彼がどれほど飲んでいるのかわからないので、そんな推測も無駄かもしれないが。
「れいちゃんも一緒に花見る?」
 人好きのする笑みを浮かべて迎えたのはメイだ。カモンカモンと言いながら自身の隣の空いたスペースをペシペシと叩く。お誘いに乗ることにして、ピープトゥパンプスを脱ぎ、彼の横に座る。
「玲蘭も、お酒、飲むの?」
 そう尋ねてきたのは巡だった。視線は、玲蘭の持つ果実酒にある。「甘いお酒が好きなんです」と答えると、巡は「ジュース飲むような感じなのかな」とひとりごちた。
「れいちゃんが来たし、改めて乾杯でもしない?」
 メイの提案に、布留部と巡が頷いた。布留部は焼酎を、メイは緑茶を、巡はオレンジジュースが入ったグラスを掲げる。玲蘭も、果実酒を持参したグラスに注ぎ、乾杯した。喉が乾いていたこともあり、つい、ゴクゴクと飲んでしまった。
 早くも二杯目に突入した玲蘭に、布留部が「へえ」と声を上げる。
「お前結構イケるクチ?」
「そうでもないですよ。軽いお酒を嗜む程度です。布留部さんこそ、お飲みになるんですね」
「俺も嗜む程度にな」
「二人とも大人ァ」
 会話にメイが乱入してきた。悪戯な笑みを浮かべている。可愛い。直感でそう思い、彼の肩に撓垂れ掛かる。
「え、どうしたれいちゃん」
「? どうもしませんよ?」
「いやめっちゃ距離近いじゃんどうした。酔ったの」
「そんなまさか。あれくらいで酔うわけないじゃないですか。酔ってませんよ」
「酔っ払いはみんなそう言うって譲(ゆずる)くんが言ってた!」
「譲くん?」
 聞き慣れない名前に小首を傾げてみせると、「私のお兄ちゃん」と巡が答えた。
「そ。俺の一番大事な友達。パンデミックで死んじゃったけど」
「…………」
 メイは、なんてことないように言ってのける。が、一番大事な友達が亡くなるなんて、そんなつらいことはない。飄々と笑っているが、その裏で感情を押し殺しているのだろうと思うと、玲蘭まで胸が苦しくなった。
「メイさん」
「んえ?」
 こちらを向いたメイのことを、玲蘭はギュッと抱き締める。彼の苦しみを癒やしたくて。
「だっちょっまっだからどうした!? れいちゃん行動がおかしいぞ!」
「酔ってません」
「聞いてもないのに酔っ払い度を申告してくるあたり酔ってるよ!」
「そんなことはありません。ただ、私は……」
「ていうか胸当たってるー待ってー俺健全な青少年だから待ってーマジ待ってー」
「私は、メイさんのことをほとんど知りません」
「抱き締めると照れるってことは覚えておいてくれていいよ。絶賛ほっぺた真っ赤だよ俺」
「メイさんたちが悲しんだり苦しんだりしたことを知りません」
「いや俺平気だよ、なんてことないよ。それよかれいちゃんお水飲もうお水。酔ってる感ヤバいから」
「メイさんは、誰に本音を話すんですか?」
「へ?」
「もっと、年相応にしていていいんですよ」
「…………」
 ついぞ、メイは黙ってしまった。勢いでまくしたててしまったので、失礼なことを言っていたかもしれない。見当違いかもしれない。だけど玲蘭は、感じた通りのことを言った。伝えることで、メイが楽になると思ったから。
 数秒の沈黙の後、「だからね」とメイが言葉を切り出す。
「大丈夫だよ」
 あくまで感情を隠そうとする彼に、玲蘭は言葉の接ぎ穂を失ってしまった。今度はこちらが黙る番になる。
「心配してくれてありがと。こう見えて俺ちゃん強いから平気」
 メイの言葉は、どこまでが本当でどこからが嘘なのだろう。
 この話はもう終わり、とばかりに、メイは「月ちゃんの作ったお弁当美味しいって評判だよ。れいちゃんも食べなよ」と話の矛先を変えていく。
 あくまで心のうちに踏み込ませる気のない彼の態度に、チクリとした痛みを感じながら、玲蘭は「そうですね……」と頷くのだった――。


*...***...*


 ティコ・ラブレースの脳裏に浮かんだ第一の感想は、「すげーな」だった。思わず声に出たほどだ。
 空が、青い。
 曇り空じゃない。
 牢屋のように、暗い場所がない。
 ただそのことだけが、鳥肌が立つほどの喜びを与えた。
「いいなー、すげーいい」
 ついつい何度も言葉にしてしまう。それほどの衝撃だったからだ。気分が良くて、外をのんびりと散策する。すると、通りすがりの人間――召喚者なのか、現地の子供なのかはわからない――が、「花見日和だな」と言っていた。
(ハナミ? ってなんだ?)
 花、とついているくらいだから、何か植物にまつわることなのだろうか。とすると、ミ、は見、か。花を見る。なんのために? 植物学者同士の交流会だろうか。ということは、そこへ行けば誰かがティコの知らない知識を与えてくれるかもしれない。おまけに、この星の植物について記録が取れるチャンスでもある。
 召喚された時に所持していた小型顕微鏡と電子ゴーグルの動作確認もしたいと思っていたところだったので、クルリと踵を返し、花見へと向かう人々の後に続いた――。


 メイが玲蘭と話し込んでいる一方で、巡はフラフラと辺りを散策していた。
 梅が、見事なまでに咲き誇っている。その光景は圧巻で、巡は上ばかり見て歩く。
 そのせいで、前方から歩いてくる人に気付かず、ぶつかってしまった。衝撃でコロン、と後ろに転がる。腰を打ったので、ちょっと痛い。
「おい、大丈夫か?」
 ぶつかったその人――明るい金髪の、とても綺麗な顔をした少女が、巡に手を伸ばしてきた。透き通った紫色の瞳が、とても綺麗だと思い、見惚れてしまう。
「え、起きれないのか? 頭でも打ったか?」
 巡がいつまでも彼女の手を取らなかったせいだろうか、少女は慌てたようにしゃがみ込み、巡に目線を合わせてきた。
 そこでようやく、相手に余計な心配をかけていることに気付き、巡は首を横に振った。
「ううん……大丈夫」
「そっか、そりゃよかった。
 えーと、お前、元々この世界にいたやつか?」
「うん」
「そっか!」
 頷くと、少女は嬉しそうに声を弾ませる。言動からして、召喚者のようだ。召喚者は、自分勝手に喚び出した現地の人間を憎むこともある。そのため、こういった好意的な反応を取られたことに、巡は少なからず驚いていた。
「なー、お前ここら辺の花の名前教えてくんねーか?」
「花の……?」
「そうだ。俺様は、この世界のことを知りたい」
 好奇心に満ちあふれた猫のような目に見据えられ、巡は勢いに押されるようにして頷いた。
「よっしゃ! お前、いいやつだな!」
「お前じゃない。巡。神凪巡」
「巡な。わかった。俺様はティコだ。好きに呼べ」
「ん」
「じゃあまず、この花の名前教えてくれよ」
 ティコが指差したのは、先程まで巡が見ていた梅だった。
「すげー綺麗だよな。こんなのがそこらにあるのか? この国すげーな」
「うん。綺麗なお花、いっぱいあるよ」
「マジかー、うわーワクワクする。早く知りてえ。教えて?」
「えっとね、これは、梅って言ってね、……」
 それ以上、なんと説明すればいいのかわからなかった。巡は、メイのように言葉の引き出しが多くない。むしろ、少ないほうだ。そのため「ええと……」とどもってしまった。
 けれどティコは急かすことなく、目をキラキラと輝かせて話を聞いてくれている。「ウメ、だな。記録しておかなきゃな」と言って、機械に向かって呟きかけた。恐らくは、ボイスメモの類だろう。同時に、電子ゴーグルを掛けると、梅に向かってカシャッ、とシャッターを切るような音を立てさせた。
「梅はね……ええとね……暖かくなりはじめた頃にね、咲く」
「へえ。ってことは、今は暖かい季節なんだな?」
 そこから? と思ったが、召喚者がどこからやって来たのかなど、巡たちは知る由もない。四季のない世界からやって来た者だっているだろう。漫月とは違った季節の流れ方をしている世界だってあるかもしれない。
「春と夏と秋と冬があるの」
「うんうん」
「今はね、春。梅の次は、桃が咲いて、桜が咲く」
「モモとサクラ。綺麗な響きだな」
「お花も綺麗だよ」
「へえー、楽しみだなー。いつ咲くんだ?」
「いつかなあ……気候? とかにもよる、から」
「不定期か。こりゃ散歩が日課になるな」
 メモを取りつつ、ティコは非常に興味深そうに何度も頷いた。知識欲が強いことが伺える。
 他にも巡が知る限りのことをたどたどしく伝えると、ティコは嬉しそうに記録していった。
「いやーいいデータ取れたわ。まだまだ集めてえけど、その前にお礼しねーとな」
「お礼……?」
「ああ。俺様のいた世界にあった植物のデータだ。この世界のやつとはちょっと違うから面白いぜ」
「見る……」
 巡は花が好きだ。なので、ティコの申し出が嬉しかったし、どんなものがあるのか楽しみになる。
 ゴーグルを外したティコは、写真のデータを引き出し、巡に見せてくれた。
 そこに映されたのは、ガラスのように透き通った、薔薇のような花だ。触れたら壊れてしまいそうな儚さがある。
「朝日を浴びると赤く、昼はピンク、夜は星空のように輝くってみんな買ったんだぜ! すごいだろ!」
「え、色が変わるの……? すごいね……」
「俺様の発明品だ。植物の遺伝子に結晶体を組み込んで――って、あんまり専門的な話ししてもつまんねえよな。俺様の悪い癖だ、許せ」
「んーん、つまんなくないよ。面白い」
「そうか? じゃあもっと他にもいろいろあるから教えてやる」
 ティコはご機嫌にそう言うと、様々なデータを巡に見せ、細かく説明していく。
 先程ティコ自身が言ったように、専門的でわからないことばかりだったが、ティコが楽しそうであることと、花が綺麗だったこともあり、巡は真剣に聞き入った。
「あーそうだ。もう一つ聞きてーんだけど、ハナミってなんだ? 植物学者の交流会か?」
「え? 違うよ……花を見てね、ええと……綺麗だなーって。思うの」
「花を愛でるのか?」
「うん。みんなでご飯食べたり、大人の人はお酒飲んだりする、よ」
「ほー。学者の集まりじゃねーのか、そりゃちょっと残念だ」
「でもね、楽しいんだよ……わたしの友達も、今、見てる」
「へえ。俺様も混ざってもいいか?」
「うん、もちろん」
 コクリと首肯すると、ティコはニッコリと笑って巡の手を取った。柔らかくて暖かい手だ。なんとなく、ティコの手が好きだなぁ、と巡は思う。
 手を繋いだ二人は、布留部たちがいる場所へと向かった。そのさなか、不意に思ったことを巡は口にする。
「ティコは、自分のこと俺様っていうの?」
「ん? 変か?」
「俺って一人称、メイとか布留部が使ってるから」
「メイ? フルベ? 誰だ?」
「さっき言った、わたしの友達」
「がどうした?」
「二人とも男の人だから……俺、って、男の人の一人称なんだって思ってた」
「あーん? そんな先入観ってないぜ。誰が何を自由に発言してもいい、そういう世界じゃねえのか? 違ったら息苦しいだろ」
「……わかんない」
「そうか。お前、不器用そうだもんなあ」
「そうかも」
「いいぜ、俺様が楽しいこと教えてやるからよ! 代わりに、この世界のこと、もっと教えてくれよ!」
 その、向けられた笑みは梅の花よりも綺麗で、巡は静かに頷いた――。

リアクション2に続く
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  1. 2018/03/14(水) 01:10:00|
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