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【コモンシナリオ】一日の始まりは自宅から【戦闘あり】

一日の始まりは自宅から


マスター:沢樹一海




 
 緒方 唯我(おがた ゆいが)は、カーテンの隙間から差し込む朝日の眩しさで目を覚ました。彼は今、空き部屋になったマンションの一室に住んでいる。最初に召喚されたからといって、朝比奈愛依(あさひな あい)や夜桜 切菜(よざくら せつな)といつも一緒にいるというのもモヤつくなと思ったからだ。
(僕の立場は、他の召喚者と同じだ。でもあそこにいると、自分まで特別になった気がしちゃうから……)
 唯我の家は大家族の為、静かな部屋で過ごすのには寂しさもあったが仕方がない。
「朝御飯でも食べよう」
 ベッドから出ると、唯我は朝御飯を作って食べた。メニューは目玉焼きと卵かけごはんと牛乳である。この国は今、食糧難だ。だが、卵はニワトリが毎日産んでくれている。ニワトリは子供達でも繁殖させることができ、養鶏場周辺はコケコッコーという声がこだまして騒がしいらしい。牛乳も、まだ生きている乳牛から絞ることで枯渇を防げている。
 だが、ニワトリにも牛にも餌が必要であり、牛は牧草でなんとかなっているが、ニワトリの穀物はもう限界が近い。育てられなくなったら卵は諦めて肉の獲得を考えなければいけない。
 ――それはそれとして、彼はテーブルの上に乗っている何冊かの本の中から一冊を手に取った。漫月国ではない、外国の本だ。本を開いて翻訳機を虫眼鏡のように近づけると、文字を読むことができた。これは、最近になって愛依が翻訳機の機能を全て調べた結果、見つかって使えるようになったものだ。
 今読んでいる外国の本は、戦争終結後に街の復興に尽力した人々の体験記だ。
「どこの星でも戦争はあるんだなあ……」
 本を閉じ、立ち上がる。
 復興に向けて、召喚者達は少しずつ動き始めている。それを手伝おうと思ったのだ。
「僕には特技とかはないけど、皆の手伝いくらいは出来るだろうから……」
 いつか故郷に帰る為にも、自分の役割を見つけるまではなんでも屋よろしく手伝おう。
 そう思いながら、唯我は玄関のドアを開けた。


――――――――――――――――――――――――――――――――

<マスターコメント>

 キャラクターの設定強化兼前回の続きのシナリオとなります。
 何をやるにしても、一日の始まりは居住宅から始まります。
 
 召喚されてからどこに住み、どう暮らしているのか。
 それをメインにしてもいいですし、
 どんな活動を始めたかをメインにしてもいいです。
 個人で自由に動いてください。
 活動する場合でも、どこに住んでいるのか一筆お書きください。

 唯我を始め、NPCは結構どこにでも現れます。
 話したいことがあれば、ひょっこり出てきて応えてくれるでしょう。

※フォックストロットさんのみ、骨折した状態でまんげつ造の地下牢からのスタートとなります。


<リアクション1>

 1 精霊が守る場所

 まんげつ造の近くにある一軒家で、セラス・アキュアは朝風呂に入っていた。
――突然呼び出されて助けてくれと乞われた。
その時はお湯はどうやって作っているのだろうと思ったセラスだったが、幸いにも電気ガス水道のシステムは『まだ』止まっていなかった。おかげで、こうして入浴が出来る。
(力なき子供たちの為にも頑張りましょう)
 そう思いながら、体を芯まで温める。
 お風呂から出ると、体にバスタオルを巻いたまま髪を乾かし、入念に肌の手入れをする。それから服を身に着けると、朝食を作った。
 テーブルにロールパン(冷凍されていたもの)とスクランブルエッグに紅茶を並べる。ここの紅茶はどんな味だろうと最初はどきどきしたが、香り高く美味しいものだった。
 朝食を味わいながら、セラスは考える。
(備蓄が少ないという話も聞いていますし、自分達で食糧を作りたいですね)
 自給自足するとすれば、畑とか牧場だろう。.牛はいると聞いている。この都会に放牧場があるかどうかは怪しいが、育てることは可能だろう。だが、牛の妊娠期間は三百日近い。一頭増やす間に食糧難は進んでしまうだろう。
(お芋があれば当面の食糧は確保できる筈です……。放牧場もあった方がいいですね)
 この時点ではセラスは知らなかったが、後で確認したら芋の在庫はあるということだった。畑にもまだある。収穫すると芽が出始めるまで早いが、それでも二、三週間は備蓄もしておける。
(その間に……他の作物を育てたり新しく育てる動物達を見つけていけば食糧問題は解決出来るのではないでしょうか)
 動物を見つけたら餌で誘導してここまで連れてくる。そして、育てるのだ。
 朝食を食べ終えてフォークを置くと、セラスは窓の外を見た。
(精霊達にも力を貸してもらいたいですが、ここで活動できるでしょうか?)
 精霊達の具合を確かめる為に、セラスは外に出ることにした。

 召喚された時に着ていたローブを纏い、家を出る。彼女はスレンダーな体をしていて、出るところはかなり出ているモデル体型だ。だが、ローブに隠れてそれはぱっと見ても分からなくなった。
(私が力を貸して貰っている精霊は光と水……)
 精霊たちの食事でもある自然の息吹を得る為に、光の当たる場所、​清浄な水のある場所――『精霊の場』を探す。
 住宅地から、建物が少ないエリアに向かう。自然のある場所はモンスターの領域だと聞いている。だが、清浄な存在である精霊が多く居る場所なら、モンスターも近付けないのではないのだろうか。
 自然の匂いを追って、更に歩く。やがて、彼女は見つけた。
 元々は草原だったのであろうその場所には、木は数本あるだけだった。下草が、セラスの胸辺りまで伸びている。
 草を掻き分けて進むと、草原の真ん中にはまるでオアシスのように湖があった。精霊達の気配が濃い。喜んでいるのと同時、精霊達が自分達のオーラを放ち続けている為にここにはモンスターが来ないのだということも理解した。
「初めまして。セラス・アキュアと申します。これからあなた方と助け合っていければと思います。お互いにエネルギーを補い合っていきましょう」
 精霊達が歓迎してくれているのが分かる。ここに畑や牧場を作ってもいいか聞いてみると、精霊達はまた歓迎の意を示した。
「よかった……後は移動手段ですね。ここまで来るにはそれなりに時間も掛かりますし、何か考えませんと……」
 ゆっくりとでも、確実に事をなしていこう。
「大丈夫、精霊の加護があります」
 そう言うと、セラスは精霊達に微笑みを向けた。

 2 やれることをやっていこう

 ――空いている部屋ならどこを住居にしても構わない。
 召喚された時に朝比奈 愛依(あさひな あい)に言われたホーリー・ホワイトは、まず空き家を使ってみることにした。
「おっ!? このベッド柔らけぇなあ」
 もふもふとしたベッドの感触に珍しさと新鮮さを感じながら、軽く埃を払って布団を被る。
「…………」
 十五分経過。
「…………」
 三〇分経過。
「……寝られねぇ!」
 柔らかすぎるベッドに逆に不安になり、ホーリーは引っ越しを決意した。

 次に選んだのは、牧場の納屋だった。牧場と言ってもホーリーが知っているものより随分と小規模だ。牛舎も堅牢としていないどこか頼りないもので、素人が作ったものだと一目で判る。だが、餌となる牧草はそれなりに積まれていて、ベッドにするには充分だった。寝心地も悪くなかったのだが――
「クッソ寒い、やべぇなぁこれ」
 目覚めた時には体は冷え切り、早速くしゃみが出た。冬には厳しい就寝環境だ。
 牧草から降りると、ホーリーは牛舎を見て回り、それから鶏舎へと行ってみた。
「しっかし、牛もニワトリも痩せてんなぁおい。卵貰うぜ」
 栄養不足の為か、ニワトリも全てが産卵しているわけではない。その中から卵を一つ取り、片手で器用に殻を割って生卵を口の中に落とし込む。
「何とかする為には、っつーかこいつらと子供らを太らせる為には、活動圏を広げる準備するっきゃねぇかなぁ」
 ホーリーは召喚されたこと自体については特別な思いを持っていなかった。呼ばれただのなんだのは良く解らんが、なる様にしかならん、と思っている。それだけに考えることは前向きだ。
「開拓精神が必要だって事だな。……森の安全確保して大規模採取って所か、人数が必要だなこりゃ」
 あれこれと考えながら、彼女は街と呼ばれる場所に足を向けた。とりあえず、この世界になじもうと思ったのだ。
「小奇麗だな、都会だな。こうも違うものか」
 ホーリーの故郷は風景の殆どが土と木材の色をしたウェスタンな雰囲気の場所だ。高層ビルが多く建立されている漫月の街は、コンクリートとアスファルト、金属の銀と灰色の場所だった。
 車が通る姿は見られず、歩行者天国化している車道の上をぶらぶらと歩く。今日は寒く、手袋をしていない手が特にかじかむ。
「おっ、あいつは」
 しばらくすると、左側の道を歩いてくる知った顔を見つけた。両手をコートのポケットに突っ込んでいる。
「ヘイ! ユイガー!」
 手を振りながら声を掛けると、緒方 唯我(おがた ゆいが)は「ああ」と微笑んでこちらに向かってきた。
「辛気臭い面だな」
「え? 笑ってるのに?」
「笑っててもだよ。内心がだだもれなんだよ」
「え? そ、そうなんですか!?」
 唯我は白い頬を少し染め、両手で頬を挟んで恥ずかしそうにしていた。その手がやけに暖かそうに思えて、ホーリーは言う。
「おう、手ぇだせ」
「……?」
 不思議そうにしながら、唯我は左手を出してきた。握ってみると「冷たっ」と言われたが、こちらは右掌がほわんと暖かくなってくる。
「あったけぇなぁ……」
「あ、じゃあこれあげますよ」
 唯我は空いた右手で、ポケットから手の平サイズの謎の物体を取り出した。長方形で、薄地の紙に包まれていて、黒い何かが詰まっていて、暖かい。
「何だ? これ」
「カイロです」
「カイロ」
「原料は鉄なんですよ。擦り合わせると発熱してくるんです。薬局の倉庫に残っていたのを持ってきたんですよ。そうだ、お裾分けしますね」
 そう言うと、唯我は背負っていたリュックから赤いビニールで包装されたカイロをいくふつか取り出してホーリーにくれた。
「サンキュー。よし、礼に悩みを聞いてやろう。ここに座れよ」
 近くにあったベンチに座り、隣をバシバシと叩く。唯我は多少戸惑った表情で腰を下ろした。
「悩み……ですか。個人的に考えることはありますけど……」
「それを話してみろよ。悩み続けるのも面倒だろ」
 ホーリーは促すが、唯我は困った顔をしたままだ。
「俺が気になるんだ。話せ」
「それじゃあ……。……僕、朝からずっと考えていることがあるんです。でも、本当に僕に出来るのかなって……」
 彼は、自分の行動方針について決めたものの、うまくできるかどうか自信がないのだと心情を吐露した。
「ぎりレアとか言われたけど、僕にはインフラの知識もないし特技もない。子供達と何も変わらないんですよ」
「ユイガは、子供達は何もできないって思ってるのか?」
「いえ、そんなこと……!」
 顔を上げた唯我は、強い口調で否定する。
「それなら、ユイガにも出来ることあるだろ。特技がどうのこうの、気にする必要ねぇんじゃね?」
「…………」
 唯我は、目から鱗が落ちたという顔をしている。
「人手は何処も足りてねぇし、嫌でも戦力になるさ。そんなもんだ」
「うん……。そんなもんかもしれないですね」
 照れ笑いを浮かべて唯我は言う。会った時のように、笑みの裏に影が見えるということもない。
「特技なんて、やってりゃ身につくしな、ぐいぐいいけよ」
 ニヤッと笑って彼の肩を叩き、締めくくりとしてホーリーは言った。
「後は、人間らしい生活をする為の必需品が必要だな。衣食住だ、常識だぜ」
「そうですね。衣食住は大事です」
「で、俺のほうの相談だが」
 唯我の表情がすっかり晴れたところで、ホーリーは話題を変えた。
「体臭と髪の話だ」
「体臭と髪?」
 おうむ返しに問い掛けてきた唯我は、きょとんとしている。
「すれ違う男も女も、すげぇいい匂いがするんだが、特殊な石鹸使ってたりすんのか?」
「え、ええと……この世界の石鹸は僕の世界のとそう変わらないようですが……そうですね、香料とかは使ってると思いますよ」
「香料? その所為なのか? ちょっと匂い嗅いでいいか」
「い、いいですけど……」
 眉を顰めつつ、若干体を引いている唯我の匂いを嗅ぐ。花畑の匂いがした。
「やっぱり、いい香りだな」
「そうですか? でも、ホーリーさんもいい香りですよ。芝生の上の匂いがします」
「あ、ああ……今日は牧草の上で寝たからな」
「牧草!?」
 それから、二人はベンチの上で他愛ない雑談に花を咲かせた。

 3 学校を作ろう!

 織主桐夏(おりしゅ きりか)は、まんげつ造の近くにあるマンションに住んでいた。2LDKで、そのうちの一室は本とDVD等専用の部屋となっている。この世界に来てから集めたB級作品もかなりの数になった。おかげで、色々なことが学べた。
 桐夏はそれらとは少し違う――完全に棚に溶け込んでいるが、出自が違う――本を手に取ると、マンションを出た。

 まんげつ造の愛依の執務室にて、彼女は冨樫 慶太(とがし けいた)の報告を受けていた。
「また、か……」
「うん。また、だ」
 ――保管されていた遺体が数人分紛失した。
 それが彼の報告だった。
 紛失の理由は判っている。だが――
「召喚者達に伝えるかどうか、まだ決心はつかないか?」
「ああ……まだ早い」
「それ、本心か? 知られるのが怖いだけじゃないのか?」
 どきりとした。答えられないでいると、慶太は言葉を重ねてくる。
「伝えなくても、すぐに分かることなんだぞ? もう知ってるやつもいるかもしれない」
「そう、だとしても……」
 その時、執務室の扉がノックされた。音の大きさと叩き方から相手が男性だと判る。
「朝比奈ちゃん、ちょっといいか?」
 桐夏だ。
「何だ」
 愛依が応えると、桐夏は笑みを浮かべながら軽い調子で室内に入ってきた。
「一つ提案したいことがあってな」
 彼は『現代知識チート大全』という本を持っていた。召喚された時にたまたま持っていたものだ。執務机の上にどん、と置く。
「……?」
 開いてみるように渡されたのだと察した愛依はページを捲ってみる。慶太もそれを覗き込んだ。日常を送っていく上でこうすると楽だ、という、徹底的に楽をして最高の結果を得る方法が書いてある。
「わあ……」
「おもしれー!」
 決して真面目な本ではなく、暇な時間を潰す為のエンタメ本という感じだが、今の愛依達にとっては意外と侮れない内容だ。慶太はすっかり目を輝かせている。
「これ、結構役に立つんじゃねーか!?」
「だろ? そう思ったから持って来たんだ」
 街を散策し、この世界にあるクソ作品を片っ端からチェックした桐夏は、自分の故郷と漫月の文明レベルがほぼ同じであることを確信した。
「魔法とか微妙な差はあるが、俺の故郷とここはかなり似ている。だから、この本の知識は必ず役に立つ。そして、これを教える場が必要なんだ」
「教える場……。つまり、学校ということか?」
 本から目を離し、愛依は顔を上げた。
「そう、学校を作らないか? 今はネットやインフラがまだ生きてるし魔法もあるから問題ないが、このままだとダメなのは君達もわかってるはずだ」
「…………」
「…………」
 愛依と慶太は僅かに視線を落として黙り込んだ。肯定したと捉えて間違いないだろう。
「だから、早いうちから知識を身につけさせて、設備の最低限のメンテが出来るようにしたいと思ってる。電気、水道、ガス、通信関係。そういった所のメンテだな」
 愛依達が異論を挟む余地はなかった。断る理由はどこにもなく、愛依が頷こうとした時、桐夏は滔々と語り始める。
「それと並行して俺の持つ全てのクソ知識を教え込んで、優秀なクソマイスターを世に輩出するつもりだ。むしろこっちがある意味本命だ」
「え?」
「へ?」
 突然のクソ連発に、愛依と慶太は目を丸くする。
「俺の教え子達が世界にクソ文化を花開かせる……素晴らしくやり甲斐のある使命だと思わんかね」
「…………」
「…………」
 桐夏の言うクソ文化というのが創作物のことであると理解だけは出来ている愛依と慶太だったが、理解しているからこそ二人はうんともすんとも答えられなかった。
(作るのってアニメ専門学校だっけ……?)
 必要なのは確かだが、何となく不安になってくる。桐夏は、愛依達が「思います」とも「思いません」とも答える前に話を再開した。二人の反応は特に気にしてはいないようだ。
「とはいえ、今は不足してる物資に目処がつけるのが最優先。この話はそれが終わった後に詳しく詰めよう」
 詰める気らしい。本気らしい。愛依と慶太は何をやる気なのかという共通の思いを込めて顔を見合わせた。
(まあ、普通の学校を作るのは必要なことだから、切菜にも相談してみようかな)
 切菜は確か、源 ハジメの所に居た筈だ。
「それにしても左目が疼くのが気になる……もしや俺にもクソ邪気眼が!?」
「眼科に行……あ、医者いないわ」
 ツッコミかけて、慶太は一人呟いた。

☆★☆★☆★☆彡


 ハジメの提案がきっかけで、まんげつ造では子供達を保護するようになった。まんげつ造は、元々、国の政治家達が個々の職務や会議に使っていた施設だ。部屋数はあるし、無駄に豪華な家具が使われたりしているが広い空間も多い。子供達が暮らすには何気に絶好の場所だったのだ。
 ハジメは首相が以前に式典等に使っていた広場を子供達の遊び場に選んだ。デパートからおもちゃ類を持ってきて遊べるようにもしている。
 しかし、それでもおもちゃよりもスマートフォンでゲームをするのが面白いのか、小さな画面を見ながら話している子供達が多かった。
 課金しても請求会社が機能していない為、現在は恐ろしいことに課金し放題でゲームが出来る状態だ。100連ガチャだろうが1000連ガチャだろうがやり放題で、子供達は目的のキャラが出るまで好きなだけ課金して遊んでいるらしい。
 ――非常に教育に良くない。それに――
 まんげつ造で子供達と共同生活をするようになったハジメは、デスクトップパソコンの前でヴォルクをブラッシングしながら、子供に後ろから抱きつかれながら考えていた。
(読みはともかく、この子達、文字は書けるのかな……?)
 机の上に置いてあるスマートフォンを持って、それを切菜に見せながら訊いてみる。ハジメは切菜を直属の上司と考えていた。彼女の隣には、マンションから到着した唯我も居る。
「これ、便利ですけれど、最低限読み書きを教えるほうがいいんじゃないですか? もしかしたら読みは出来てるかもしれませんが、書きは難しいんじゃないかと思うんです」
「そうね。書くことは出来ないと思うわ」
「あたし、字も書けるよー」
 ハジメに抱きついていた女の子が声を上げる。
「そう? じゃあせつなちゃんって書いてみて」
「いいよー」
 女の子はハジメの持っているチラシの束の一枚にミミズ文字を書いた。『キリナちゃん』と。
「…………」
 切菜はしばし黙ってから、はっきりとハジメに言った。
「書くことは出来ないみたいね」
「で、出来る出来ないは置いておいて、練習は必要ですよね」
 唯我が誤魔化すように応え、ハジメはその後に口を開く。
「はい。以前と同等の教育は無理でも識字率は下げないほうがいいと思います。国語だけじゃなくて、算数も必要でしょうね。ほら、通貨復活した折には計算も必要ですから!」
 通貨の話題を出した途端に彼はとてもイイ笑顔になった。気持ちは解らないでもないので、切菜と唯我は「そうね」「そうですね」と相槌を打つ。
 すっかり興が乗ったのか、ハジメは鞄から数冊の知育ドリルを取り出した。
「書店からそれらしいものをいくつか拝借してみました。ただ、翻訳に頼っている僕が教えるのは効率が悪そうですから、どなたか先生になってくれないでしょうか?」
「先生?」
「先生?」
「できれば僕も一緒に教わりたいんです。永住する世界の文字は使いこなせて損はないですから」
「…………」
「…………」
「…………」
 ハジメは相変わらずニコニコしている。切菜は少し後ろめたい気分で、唯我は複雑な気分で顔を見合わせた。何か思うところがあったのか、ヴォルクもハジメを見上げている。もっとブラシをかけろということではなさそうだ。
 二人と一匹の様子に、ハジメはただ微笑む。そこには、諦めではない別のものが滲んでいた。
 彼は、故郷に戻れないことを悲観してはいない。理由はあったが、まだそれを語る気はなかった。
「僕が居なくても家族は大丈夫だと思います。弟妹達もみんな逞しいですから」
「……そう」
 ハキハキとしたハジメの言葉に、切菜は短く応えるに留めた。そこで、愛依と桐夏がやってくる。慶太は本業に戻り、二人だけだ。
「切菜、学校を作ろうと思うんだが……ん、そのドリルは?」
 二ヶ所で学校作りの話をしていたと知った彼女達は、それぞれにどんな構想をしているのかを話し合う。
 それは、徐々に具体的な話へ変わっていった。

 4 それぞれの一歩(1)

 ドクター・Dは、適当な一軒家を住居として選んだ。足腰の気になるお年頃なのでバリアフリーが整っている場所がいい。住宅地にたまたま条件に合っている家があったのでそこにした。まんげつ造もそこまで遠くはないのでちょうどいい。
(さて……話は十分聞いた。だが、己の目で現実を見ることを欠かしてはいけない。何はなくとも情報収集だな)
 復興は机上のみならず、実情を直に見る必要がある。ドクター・Dは住宅地から繁華街に行ってみることにした。低年齢の子供はまんげつ造に移住したが、中学校に入る年代くらいになると自力で生活している子供もまだ多い。
「大人だ……」
「大人だ……」
 少しずつ召喚者が増えてきている昨今でも、まだ彼等――子供以上大人未満の目の輝きは戻ってきていない。滅びを待つだけの八カ月という期間は長すぎたのだろう。
 立ち止まって振り返ると、視線で自分を追ってきていた子供達はびくっと身を震わせた。警戒してしまうのは相手が大人だからなのか召喚者だからなのかその両方か。
「訊きたいことがあるのだが、構わないか?」
「う、うん……」
 彼等のうち、高校生くらいに見える少女が不安そうに頷いた。少女を含め、何となく足を止めていた子供達にドクター・Dは言う。
「人の街でもモンスターに占拠されている場所があると聞いたが、そういった存在が来た時の防衛戦力はあるのか?」
 見た限りでは、この子供達は武器らしき物を持っていない。スマートフォンだけを持ち、冬服に身を包んでいるだけだ。
「防衛、戦力……」
「服の下に武器を隠しているということは?」
 誰が答えようかと目を見交わし合っていた子供達は、それにはすぐに回答した。ポケットから折り畳みナイフやハンドガンを取り出し、見せる。
「武器は、今、必需品なんだ。でも……使ったことはないよ。恐いから……」
 少年が答え、最初に頷いてくれた少女が口を開く。
「防衛戦力は、もともと武道とかやってた人達が一部集まってたりはする。その人達ががんばってくれたりするけど……」
 少女の言葉は途中で切れ、尻すぼみになる。「けど」の後に何が続くのかは、何となく察せられた。
(ふむ……)
 子供達と別れた後、ドクター・Dは本屋に寄って地図を手に入れた。まんげつ造周辺の街について事細かに載っている。それを持って歩いていると、まんげつ造の方角から歩いてくる慶太を見つけた。すれ違うついでに「やあ」と挨拶すると「こんにちは!」と元気に返してきた。
「どこに行くんだ?」
「仕事だよ。大人達の遺体がまだまだ残ってるんだ」
「遺体か……」
 ドクター・Dは、彼が子供達の中で特に死に近い存在なのだと思い出した。
「君は、子供が死んだらその遺体も処理するのか?」
「そうだよ。他に誰もやらないからね。で、それがどーかした?」
「遺体になる原因として多いのが、飢え死にか魔物の餌食か、どちらが多いか知っておきたくてね。その割合で、漫月の現状がかなり判る」
「そっか……」
 慶太は僅かに俯いて、黙考した後に顔を上げた。
「飢え死にの方が多いよ。9:1くらいで」
「……成程。やはり食糧難は厳しいのか……」
 難しい顔をして、ドクター・Dは考える。そこでふと思いついたことがあり、更に質問を重ねた。
「魔物の餌食になった子供は、人数にするとそれでも多いのか?」
「人数にすると……生き残りの人数から考えると少ないのかもしれないけど、個人の感覚としては少なくはないかな。百人までにはなってないよ」
「ふむ……」
 先日の集会で聞いたこの国の人数は不明。だが、この県に限った話でも六桁は超えていた。その中の百人以下というのは少ない気がする。だが、実際は慶太が言った通りに多いと考えていいだろう。モンスター対策も、完全に後回しにするわけにはいかなさそうだ。
「ありがとう、参考になったよ」
 慶太と別れると、ドクター・Dは次に図書館に行った。機械工魔学がどういったものなのか調べようと思ったのだ。
 見つけた本には、機械工魔学とは機械に魔法を融合させる為の技術だと書いてあった。機械に魔法を通す為の書式を書き込んで融和性を高め、そこに魔力を注ぎ込むことで魔法が発動し、特殊な性能を持つ機械が発動するという仕組みのようだった。注ぎ込むのは個人の魔力ではなくても良く、機械で電気を魔力に変換して使用するものもあるようだ。
(誰でも使えるようになっている召喚者ガチャは、恐らくこのタイプだろうな)
 次に、魔法について調べてみる。
(自分のような外様でも、努力すれば体得できるものであれば尚いいのだが……)
 魔法は、原住民の中でも使える者と使えない者がいるということだった。使えない者には適性がなく、努力でどうにかなるものではなさそうだ。だが、適性は調べないと判らなく、それは専門の機械を使って行うようだ。
 適性がどうしてもない場合は、機械工魔学で作った銃や剣などに電池を入れれば、電池が切れるまでは物理ではない力を使うことが出来る。
 そこまで調べて図書館を出ると、ドクター・Dはまんげつ造に赴いた。
「少々訊きたいことがあるのだが」
 パソコンの前で話していたハジメと切菜に声を掛け、言う。
「機械工魔学で造られた機械だが、まだ残っているものや使えるものはあるのか?」
「機械の種類にもよるけど、完全に無くなってしまった機械というのはないと思うわ。どんなものでも、探せば一つや二つは残っているはずよ」
「そうか。では、探すことを考えた方がよさそうだな。それと、生活必需品の備蓄だが、どれくらい残っているか、今の状態でいつまで持つかは分かるだろうか」
 これは街の子供達にも聞いてみたが、芳しい答えは何一つ得られなかったし、少ないことはもう分かっている。だが、どのくらい少ないのか、彼はそれを知りたかった。外にはなくても、このまんげつ造の中にはまだ食糧があるかもしれない。
「……冷凍庫にある分が無くなるまでは、節約すれば一ヶ月くらいは持つと思うわ。野菜とか生ものは、もうゼロに近いから野草とかで食べ繋いでいる状態よ」
「食糧供給のアテはなさそうだが……どこで行動すればいいか目星くらいなら付くだろうか」
「そうね……畑作りは常に試みてるからそこと……後は、やっぱり森の中で狩りっていうことになるかしら……。街中に居る鳩とかの野鳥を仕留めたり、川で釣り……かしらね。でも、川にもモンスターが居るから気をつけないと……」

☆★☆★☆★☆彡


 リンヴォイ・レンフィールドは、まんげつ造近くにある小さめの一軒家に住んでいた。家は小さいが、庭は大きい。元の持ち主はガーデニングが好きだったのか、家の周囲にはプランターが並べられている。残念ながら花は咲いていなかったが、ここで花を育てたらきっとこの家は可愛らしく彩られるだろう。
 大きな庭がある家を選んだのは、鍛錬をしたかったからだ。街を歩いてみて、一番彼の理想に近かったのがこの家だった。
 朝の鍛錬と朝食を終えたリンヴォイは、まんげつ造で地図を借りると、プレートアーマーとサーコートを身に着けて長剣と槍を持ち、短剣は腰に、盾は腕につけて森へ来た。
 今回の目的は、目的はモンスターの力量確認と、動物性たんぱく質つまりは肉と、紙の材料となる木を持ち帰ることだ。モンスターの力がどれ程のものか分からないし、深入りするつもりはない。
 だが、森に入った者が無事に帰ってきたという事実――モンスターに負けない大人が居ると証明することは、『子供達の生きる希望』となる一歩になるだろう。
「騎士の任務にはモンスターの退治も含まれてた。僕の領域だ」
 森の中は穏やかで、葉ずれの音とリンヴォイが草や葉を踏む音、小鳥の囀りが耳に届く。
(モンスターが居るとは思えないような雰囲気だな)
 迷わないように、短剣で木に目印を刻みながら先に進む。モンスターと言っても、悪意ではなく本能だけで生きているタイプだと森に溶け込んでいるので、気配が分かりにくい時があるからその所為なのかもしれない。
 そのうち、木々の奥に猪の後ろ姿を発見して足を止める。突然足音が消えた形になるが、幸いにも猪は気が付かなかった。
(この距離なら届くな……)
 気配を消し、槍を構える。
 力を込めて投げると、直撃する瞬間に猪が振り返った。「ぶ!?」という驚きの声と、「ぶきいぃ!」という悲鳴がほぼ同時に聞こえた。倒れて足をばたつかせる猪に近付き、剣でとどめを刺す。血抜きをして足を縛り、とりあえず持ってきた袋に入れて背負った。更に獲物を探していると遠くに鹿を見つけ、ほぼ同じ要領で仕留める。そこで、ドスドスっという音がした。血の匂いに誘われたのか、小さな肉食恐竜のような生物が走ってくる。“小さな”と言っても恐竜と比較したらの話で充分に大きい。トサカを持ち、青い表皮を持つそのモンスターは、あからさまに「肉!」という目をして突進してきた。
「風の精霊よ、加護を!」
 リンヴォイは素早く風の精霊の力を使えるようにした。足を狙い、かまいたちを放つ。風の刃は片足に傷をつけ、モンスターは咆哮を上げてたたらを踏んだ。その隙に、槍の柄で突き飛ばす。彼は、肉しか見えていなかった目に怯えの色が宿るのを見逃さなかった。攻撃をする素振りを見せると、踵を返して逃げて行った。
「ふう……」
 ひと息ついて力を抜く。逃げるのならば追わない。力を示すだけで充分であり、無駄な殺生は出来るだけ避けたかった。
「仲間を連れてきたら厄介だし、そうじゃなくても血の匂いに釣られて別の個体が来るかもしれないな」
 すぐにその場を離れることにし、リンヴォイは近くの木を一本伐り倒した。未来に紙になるだろうその木に猪と鹿を吊るすと、目印を追って森を出る。森近辺は危ないこともあり、子供達は寄り付いていない。モンスターの危険領域からも離れたと判断したリンヴォイは、そこで猪と鹿を捌いた。
「これで、子供達が喜んでくれればいいな」
 子供達の笑顔を想像しながら、彼は帰路を歩き出した。

☆★☆★☆★☆彡


 生垣の外に、常緑樹が並んでいる。お互いの葉が重なり合うくらいの間隔で立っている。庭のある一軒家だが、リンヴォイの家と違う所は家が大き目というのと、庭の中がよく見えないということだろうか。
アヅキ・バルは家の庭で、アラクニアン格闘術の練習をしていた。この格闘術は地球のものではなく、別の星の宇宙人、蜘蛛型エイリアンのアラクニア人のものだ。アラクニアン格闘術の神髄は生来装甲というべき硬質な胴部外殻と鋼のごとき多脚から生み出されるパワーとスピード。だから人型形態だと真価を発揮できない。その為、アヅキは本来の姿――人の上半身に蜘蛛の胴体を持った姿で練習をしていた。
「モンスが出るなら、念の為に格闘術の練習もしっかりしないとね」
 息を弾ませながら、アヅキは脚で空気を切り裂く。鋭い音がして、生垣の向こうにある木の葉が裂けて落ちる。地面の上には、既に十枚以上の葉が落ちていた。彼女はまだ未成年だし、何も知らない子供が見たらモンスターと勘違いされるかもしれない。実際、この家を選んだのは蜘蛛形態でいるところをモンスターと間違われたくなくてという部分もあった。一軒家なら中では一人だから気にすることもないし、この庭は自分の姿を隠してくれる。木がまだこれだけ残っている――それだけ森が近い場所ではあるが、しばらくはここに住もうと思っていた。
「シャッドおじさんのアラクニアン格闘術、もっと学んでおけばよかった」
 シャッドは、アヅキの父が乗っていた宇宙船の保安主任だった。船が不時着した時も父と一緒に居て、そのまま地球で過ごすことになった。元軍人で特殊部隊で教官もしていたらしく、アヅキはシャッドから護身術としてこの格闘術を教わっていた。
「アラクニアの戦士に刃物は不要、跳躍して飛び掛かり脚で敵を刺突するだけで足りる。って、おじさんは言ってたなあ……」
 休憩がてら脚を繰り出すのを止める。冬場の空気が、流れた汗を乾かしてくれた。
(でも私は軍人じゃないし、ゲーム以外でモンスターと戦ったこともない。大体、飛び掛かって脚で相手の身体を貫くとかB級SF映画のエイリアンじゃないんだしさ……いや、まぁ、私も半分エイリアンだけどね……)
 一人苦笑したアヅキの表情は、すぐに曇った。シャッドの動きを真似した兄が脚を挫いて泣いてたのをふと思い出したのだ。
「…………」
 自分の脚を見て少し考え、彼女は縁側に置いておいた武器を手に取った。先日、スポーツ用品店で手に入れた――
「クロスボウ~!」
 もしここにテレビ画面の枠があったら、アヅキの手とクロスボウだけがアップになっていただろう。
「地球で大人気だったゾンビドラマでも大活躍してたし、きっと強いはず」
 そして、アヅキは次にクロスボウの練習を始めた。

☆★☆★☆★☆彡


「食料のことを考えると、原始的な生活になるまでに殆ど余裕はないようだな」
 メモをしながら、もう少し猶予があると思っていたが、とドクター・Dは考える。そこで、警備服を着た少年がやってきて愛依に何か耳打ちした。少女の顔が強張った。囁き声ではあったが、次の少年の台詞は耳に届く。
「俺も一緒に行こうか」
 愛依は唇を固く結んだまま黙っていたが、やがて口を開いた。
「……私一人でいい。すぐに行く」
 そうして、愛依は遊び場を出て行った。それから何があったのかは、ドクター・Dの知るところではない。

 ドクター・Dは家に戻ると、今日メモしたことをじっくりと読み返し始めた。
「……親もなく、明日の行方も知れない。彼らの境遇は同情に値する」
 最初の足での調査だから、まだざっくりとしたものだが、それでも有益な情報を得られたと思う。
「この歳では剣も魔法も振るえないが、せめて私なりに救える限り救ってみるとしよう」

 5 地下牢での対峙

 警備員は言った。
フォックストロットが謝罪したいそうだ。折り入って相談があるとも言っている」
 フォックストロット――子供達に暴力を振るい、力で愛依をねじ伏せ、まんげつ造の皆を下僕にしようとした召喚者だ。愛依は、召喚者が自分に危害を加えようとした事実に少なからずショックを受けていた。全ての召喚者が協力的な方がおかしいのに、その可能性を頭から排除していた。
 だが、今は怒りも恐怖もない。敵対者がいるということを受け止められるだけの心の準備が出来ている。
 彼に対しては、もう何の感情もない。彼を助ける気もないし、あのまま死んでも何とも思わないだろう。
 その冷徹さがこの立場になってから身に着いたものなのか、元から潜んでいたものなのか、自分でももう分からなかった。
 牢の前まで行くと、フォックストロットはニヤついた笑みを浮かべて愛依を待っていた。

「……謝りたいそうだな」
 冷たい目で、感情のない声で言う愛依にフォックストロットは普段のテンションで口を開いた。肩を竦めたいところだったが骨が折れている為に断念する。
「オレもちっとばかり調子に乗っちまったのは反省してるっすよ。でもそっちも勝手に呼んでおいて協力しろってんだからアイコっしょ? こっから出して治癒魔法とやらを施してもらいたいっすね」
 愛依のこめかみ辺りがぴくりと動いたのが見えた。何かが彼女の怒りに触れたらしい。何かが、というか既に毛虫のように嫌われているであろう自分の言葉は、内容に関わらず癇に障るものなのかもしれない。
「勝手に呼んだことは認める。そこは謝罪しよう。だが、子供達に危害を与える可能性のある者を治療し、牢から出すことは出来ない」
「『子供達』じゃなく、『自分』の間違いじゃないっすかね?」
「……何だと?」
「おっと」
 思っていることがついぽろっと出てしまった。フォックストロットは笑みを深める。
「痛い目に遭うのが恐くて、嬢ちゃんはオレを出したくないんじゃないっすかね☆ 恐らく、あの時のようなことは初めてじゃない。だから、お強い警備をつけてるんすよね」
「……!」
 愛依の表情が変わる。
「ここに居る間に、色々と妄想したみたいだな。……何を考えた?」
「まんげつ造に地下牢があることがその一つの証拠っすよ」
「地下牢は、大人達が居た頃からここにあったものだ」
「でも、使うのはこれが初めてじゃないっすよね?」
「…………」
 愛依は黙り込んだ。沈黙イコール肯定と考えて間違いないだろう。そして、フォックストロットは推測したことを彼女に語った。
 護衛が付いていたことと、その手際の良さから襲撃されたのが一度ではないと考えたこと。そこから、漫月の子供達は一枚岩ではなく、愛依に反目する者が存在しているのではないかと考えたこと。彼等は徒党を組み、両者は幾度となく衝突しているのではないかということ。
「……それは、本当に推測したのか? それとも、知っていたのか?」
 事実上の肯定だった。牢から出られない存在にその事実を知られても痛くも痒くもないということか。
「推測っすよ☆ オレを解放して治療してくれたら、代わりに反体制派対策に協力するっすよ。どうっすか?」
 子供達にいいように使われるのは面白くないが、愛依に歯向かうのは無謀だと身に染みて分かった。それなら、彼女に自分が役に立つ人材であることをアピールし、骨折状態で監禁されている現状から抜け出そうとフォックストロットは考えたのだ。

「嬢ちゃんのやり方だと敵も多いんじゃないっすかね? なんならオレがそいつらを黙らせるのに力を貸してもイイっすよ?」
「…………」
 愛依は今朝、慶太と話したことを思い出す。
 いずれは召喚者に知られることを伝えないのは怖いだけじゃないのか、と言われた。
 怖い。
 そう、怖いのかもしれない。
『彼等』をどうにかするつもりはない。だから放置していた。だが、『彼等』の存在を知った召喚者達は『彼等』にどんな感情を抱くだろうか。それを考えると、怖いのだ。
(でも、この男なら……)
 ストレートに言って、性格は悪い。その彼ならば、『彼等』の存在を知っても何とも思わずに冷静な意見をくれるのではないか。黙らせる、というのは穏やかではないし、愛依の考えとは違う。けれど――
「嬢ちゃんの​ことだ、そういう汚れ役も召喚者の仕事に盛り込み済みってことっ​しょ?」
 思考が止まった。
(は……?)
 それは、彼女にとっては侮辱だった。頭に血が上っていくのがわかる。フォックストロットはそれに気が付かないようだ。
「オレならそういう手合いの扱いなんざ朝メシ前っすよ、なん​せそっち側の人間っすからね☆」
 動けない体で調子良く言ってくる。愛依はそこで、完全に切れた。
「召喚者に人間を攻撃させる気なんてない!」
 ぴた、とフォックストロットが喋るのを止めた。
「……意見は聞く。骨折も治癒してやろう。『彼等』が何なのかも教える。だが……お前を出すつもりはない。ここで話をすればいいことだ」
 愛依は『彼等』の正体について語り、牢番に治癒魔法の使える者を呼んで彼を治すようにと告げた。
 牢を離れてからも、怒りと精神的ショックからしばらく立ち直れる気がしなかった。

 6 ギブ&テイク

刀神 大和は、まんげつ造の一室に住んでいる。部屋から出ると、彼は愛依に会う為に執務室を目指した。この前は、言いたいことがたくさんあったのに睡眠中の彼女を起こせず、起きた後も色々とあって結局何も言えなかった。
 信頼できる情報源である彼女と関係を築く。
 あの時に言えなかった文句もきっちりと伝えるつもりだが――

 ――執務室の前には、前に見た警備が二人立っていた。入っていいかと訊くと、ダメだと言われた。
「はぁ? 何でだよ」
「朝比奈は今、誰とも会いたくないそうだ」
「またか。どこの引きこもりだ」
「朝比奈はいつも引きこもっているわけじゃない。お前が来た時にたまたま引きこもってるんだ」
「つまり引きこもりだろ。知るか。開けるぞ」
 問答無用で執務室の扉を開ける。背後で扉が閉まる音を聞きながら、大和は愕然としていた。
 愛依は、執務机で泣いていた。
 あの時よりも悪い。
 自分が用意してきた台詞を頭の中で反芻する。この状況で、この台詞が言えるのか。
「……何の用、だ」
 両手で涙を拭い、しゃくりあげながら愛依は聞いてくる。
「何かあったのか」
「…………」
 愛依が更に泣き出した。思い出したらしい。泣き止むことのないまま、彼女は言う。誰とは言わなかったが、誰かに勝手に召喚をして使おうとする自分を、人を道具にしか思ってないみたいに言われたとかなんとか。
(何だそれ……余計に話しづれえ!)
 知らない所で勝手にハードルが上がっている。大和はそう思ったが、話し終わって少しすっきりしたのか愛依は殆ど泣き止んでいた。
「……で、何か話に来たんだろう?」
「ああ」
 顔を上げた愛依と目が合う。既に彼女は、指導者としての表情をしている。
「……俺は俺の世界で生まれ育てられ、得た価値観から将来を見出しそこを目指して己を鍛え、己の世界を作り上げていった」
「……そうだろうな」
 大和がこれから何を話すのか察したのか、愛依は俯いた。それでも、彼は話を止めなかった。これは、彼女に伝えておくべきことだからだ。
「そうやって俺は育っていく自身と環境で未来に思いを馳せていた。だがお前がお前の都合でそれらを俺から取り上げた」
「…………」
「その上で、俺のこれからの時間と今まで培ってきた物を自分の為に使えと言っている」
「…………」
 愛依は何も言わない。ただ、唇を噛み締めている。それを見ていると、大和は気持ちの高ぶりを覚えた。苛ついたというのが正しいだろうか。彼女が男だったら、胸倉を掴んでいたかもしれない。
 どこか遠慮のあった気持ちが吹っ飛んで、感情が先行する。
「ふざけるなよ! お前は何の権利があって俺から奪う……返せ、帰せ、還せよ! 俺の全てをかえせよ!」
「…………」
 やはり、愛依は何も言わなかった。再び大和と目を合わせた彼女は、確かな意志というものを瞳に宿していた。
「……悪いとは思っている。だがそなたは、ここでは何も得られないと思っているのか?」
 目を逸らさずに、彼女は言う。
「ここで得たものを故郷に持ち帰ればいい。そうじゃないか?」
「還れないんだろ?」
「還れない。けれど、私は必ず還す為の方法を編み出してみせる。そなた達を召喚したように」
 彼女に見据えられて、大和は腹の中に何かがストンと落ちてくるような気がした。
「……上等だ」
 彼はそこで、今日初めての笑みを見せた。
「お前はこれからの協力者足りえる」
「…………」
 だが、愛依は笑わなかった。じっと大和を見つめている。
「今の話分は貸しておく。この話はこれでお仕舞い。この瞬間から俺とお前は対等だ」
「……私は、認められたのか?」
 厳しかった顔が、泣き笑いのようなものに変化する。
「何だか、試されたみたいだな」
「今後、俺は俺の為にお前の力になる。お前はお前の為に俺に力を貸せ。さっきの貸しは、俺を元の世界に還す時に返してもらう」
 握手の為に手を差し出すと、愛依は迷わずにそれに応えてきた。
「改めて。俺は刀神大和……大和でいい。今後ともよろしく」
「分かった。……大和」
 安心したような顔で、愛依は笑った。

☆★☆★☆★☆彡


 ぬいぐるみの山の中で、ミーティア・アルビレオは目覚めた。ぬいぐるみは、周辺の店から拾い集めてきたものだ。
「ん~、もう朝ぁ?」
 時計を見ると、時刻は昼を過ぎていた。ベッドを降りて身支度を整える。二階の居住スペースから一階に行くと、そこはバーになっていた。食料はあらかた運び出されていたが、酒類はまだ残っている。
 店のドアを開けて外に出ると、ミーティアはまんげつ造に向かった。

 この前集まったリビングにも、子供達の遊び場にも執務室にも愛依はいなかった。歩き回ったことで建物の構造が自然に頭に入った頃、ミーティアは中庭で愛依を見つけた。キャップ帽に眼鏡にマスクをしてパンツルックだったが、ミーティアにはすぐに愛依だと分かった。
「あ〜、いたいた〜、愛依ちゃ〜ん、探してたんだ〜」
 池の畔に立っていた愛依は、振り返るとマスクをずらして少し笑った。
「ミーティアさん」
「いつもと恰好が違うねぇ。どうかした~?」
 変装だと察した彼女は、無理のない範囲で愛依が話が出来るように簡単に聞いた。あからさまな変装というのは、バレやすいが人から距離を取るのには意外と効果がある。今は話しかけない方がいい、と判断されるからだ。ミーティアが話しかけたのは、変装した愛依が落ち込んでいるように見えたからだ。
「……立て続けに色々あってな。ミーティアさんの笑顔を見て、ちょっと安心した」

 愛依は苦笑する。安心したというのは、本音だった。ミーティアは自分に敵意を持っていない。それに、気を使ってくれてくれているということが分かったからだ。

「そっかぁ。安心してくれたならよかったよ~」
「私を探していたと言ったな。何の用だ?」
「実は聞きたいことがあってねぇ」
 そう言うと、愛依は話を促すように「ああ」と答える。
「ほら、ここって元々普通にモンスターが出るじゃない? だからぁ、武器がほしいなぁって思って。それでねぇ、モンスターが元々いたならモンスターを狩っていた軍? みたいなのがあったりしたのかなぁって思ってねぇ。あったならぁ、そうした人達がいた基地みたいなのの場所、聞いたことがないかなって」
「……基地ならある。ここからは多少距離があるが……そこに武器があると考えたのだな」
「そうそう~。そういうところになら、武器があるんじゃないかなぁって」
 愛依は思案気な顔をしていたが、やがて、一つ頷いた。
「実用に足るものが残っている可能性は充分にあるな」
「やっぱり~。それなら、皆で取りに行きたいよねぇ」
「そうだな。近いうちに声を掛けてみよう」
 笑ってはいたが、愛依の笑みにはどこか疲れが見える。答えも得られたところで、ミーティアは話題を変えた。
「それにしても、愛依ちゃんはすごいよねぇ」
「すごい……私がか?」
 そんな言葉を聞くとは想像もしていなかったのか、愛依は驚いたようだった。ミーティアは知らないことだが、男二人に散々に言われた後なので驚きもひとしおだ。
「うん、皆のために召喚機なんて作っちゃうし、子供たちのリーダーだし。そんな頑張ってる愛依ちゃんはお姉さんが頭をなでてあげよ〜」
 ミーティアは空の袖を「物を浮かせて自由に動かす能力」で動かして愛依の頭を撫でる。
「いい子、いい子」
「ミーティアさん……」
 愛依は涙ぐんだ。その表情からは、リーダーとしての顔は消えていた。堰を切ったように泣き出す彼女は、普通の、どこにでもいる少女だった。
「愛依ちゃんはいつも頑張ってるからぁ、私たちみたいな味方の大人​の前では子供でいていいんだよ〜」
 優しく言いながら、ミーティアは彼女の頭を撫で続けた。


リアクション2に続く

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  1. 2018/03/09(金) 21:36:47|
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