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【コモンシナリオ】復興への一歩【戦闘なし】

復興への一歩


マスター:沢樹一海




 
 等身大の円筒形の機械の中に現れたのは――
「……コモン?」
 切菜が言った。
「コモンだ!」
 慶太が言った。
「ちょっと! そういうこと本人に言っちゃダメだからね!」
 愛依は慌てて注意し、召喚機ガチャのドアを開けた。中でぶるぶる震えていたのは、十代後半に見える少年だった。金髪だったが、頭頂部が黒いことから染めているのが分かる。
「あ、あの……な、何なんですか、何が起きたんですか? 僕、街にいた筈なのに……ここ、どこですか?」
 彼の様子を見て、愛依は胸がずきりと痛んだ。
 やってしまった――私は、やってはいけないことを――
 だが、悔やんでいる場合ではない。ここは漫月の責任者として、きっちりと振る舞わなければいけない。
「ここは漫月。大人が全滅した国だ。お前には、この国を救ってもらいたい」
「えっ……勇者?」
「そう取ってもらっても構わない。勇者は一人ではないがな」
 愛依は詳しくこの星の現状を説明し、何故召喚機ガチャを使ったのかその理由を話した。少年の顔はすっかり青くなっている。
「そ、そんな……」
「そなたの名と歳を教えてくれ」
「緒方 唯我(おがた ゆいが)です……歳は、20歳……」
「「え!?」」
 愛依と切菜は同時に驚き、唯我の肩がびくっと震えた。慶太が叫ぶ。
「ぎりレアだ!」
「ぎ、ぎりレア……? よく分かりませんけど、そんなに驚くことなんですか……?」
 唯我は、一定年齢で成長が止まる星の出身だった。寿命や事故で死ぬことはあるが、病気で命が尽きることは無いという。
 いわば、漫月とは正反対の環境で育った青年だった。
「う、羨ましいわ……」
 切菜が素直な感想を呟く。
「そ、それで、僕は何をすればいいんですか? 魔王が居ないんじゃ、倒せないし……勇者って言っても……」
「何をすればいいかは、分からない」
 正直に愛依は答えた。分からないものをその場ですぐ具体的に説明するのは無理だった。
「えっ、ええっ!?」
「だからこそ、復興の手助けをしてほしい。住居は、良ければ誰も住まなくなった家を使ってくれ。これからも召喚は続ける。『召喚者』が来たら紹介するから、彼等と協力してくれると嬉しい」


 そして、数日後――
 現在までに召喚された者達が一同に集った。

 何をするのか。
 どう過ごすのか――
 それが、召喚者達の最初の課題だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――

<マスターコメント>

こんにちは。沢樹一海です。
こちらは、召喚者達の初顔合わせだったり、愛依の話を聞いて何をすることにしたのかそのスタートだったりを紡ぐシナリオとなります。

個人の活動に焦点を当てたい場合は、無理に交流しなくても構いません。

NPCについてですが、
愛依は心労で自室で寝ています。
切菜と唯我はまんげつ造で召喚者達と一緒に。
慶太は火葬場にいます。

以上となります。皆様のご参加をお待ちしております。
――――――――――――――――――――――――――――――――

<リアクション>

1、失われた芸術と文化の復興

 まんげつ造は、朝比奈 愛依(あさひな あい)達が拠点として使用する前から国の中枢部として機能していた。
 織主 桐夏(おりしゅ きりか)のいた世界では国会議事堂と呼ばれたものと同等の建物だ。ちなみに、形は東京にあるドームに似ている。
 ――と、そんな場所だからか、この地区は他の場所よりも都市化が進んでいた。まんげつ造から少し南に進んだ先にはショッピングエリアがあり、屹立するビルの中には様々なテナントが入っている。
 そのショッピングエリアを、桐夏は一人で歩いていた。ゴーストタウンか、もしくは無法地帯のようになっているかとも思ったがそうではなく、道端に座ってスマートフォンをいじっている子供達が結構いた。ここは今でも繁華街と呼べる場所なのかもしれない。
 桐夏が探していたのはレンタルショップか本屋だった。
 復興をする前にちょっと確かめたいことがある。それは、この街のクソ作品を探すことだった。
 クソ作品とは簡単に言うとB級作品だ。売れているいないは関係ない。ツッコミ所が多くある、そんなクソ作品は存在するのか。
「異世界の復興も大事だが、こっちも重大な案件だ」
 手を抜くわけにはいかない。
(ピンチの女の子と出会うクソテンプレとか起こらねーかな)
 淡い期待を抱きつつ、歩く。そのクソテンプレは近い未来に違う人物に起きるのだがもちろん彼はそれを知らない。
「おっ、ここだろ」
 青と黄色をメインカラーにしている店を見つけ、立ち止まる。ガラスの外壁には、アイドルの新譜のポスターが貼られていた。
 中に入り、「映画レンタル」と看板のついたコーナーに行く。
 以前に入った本屋には、クソと呼べるようなものはなく、いや別の意味でクソと呼べる学術書しかなかった。なんとなく、あそこの店主は老人だったのではないかという気がする。
 だが、この世界にもパンデミック前の平和な時代があった。その頃のクソ作品がまだ残っている筈である。その頃の遺物まで全て堅物なものだったら、この世界は頭が固すぎる。
「お、あった」
 異世界のクソ作品は是非回収したい。
 桐夏は棚から一本のDVDを手に取った。埃を払いながら裏を見る。
『最高の異種宇宙人決戦! 勝つのはドイツだ!』
 という地球出身なら一瞬勘違いしそうな一文が書かれていた。
「ねえ、それが復興の役に立つの? お兄ちゃん、召喚者なんだよね? あたしたちを助けに来てくれたんだよね?」
 同じく店を歩いていた六歳くらいの子供が声を掛けてくる。まだ何も分かっていない、不安だけを目に宿した子供だ。
「これが何の役に立つ? 役立つさ。失われた芸術と文化の復興という意味でな」
「……?」
 子供は意味が分からないようすだだが、そのうち嫌でも意味が分かるだろう。
「名づけて「クソ作品から始める異世界復興大作戦」ってところか」
 自信たっぷりに言うと、子供の目に少し輝きが戻った。彼女の期待に応えるように、桐夏は笑う。
「見てな、最高の復興を見せてやる」

2、火葬の重要性

 霜北 凪(しもきた なぎ)の頭の中で、凪自身(31歳)が謎のくねくねダンスをしながら可愛らしい――否、気持ち悪い声を出している。
『慶太きゅぅ〜ん、きゅ〜んきゅ〜ん♪』
「……ではなくっ!」
 凪は頭をぶんぶんと振って、脳裏に浮かんでいた踊る自分を打ち消した。
 彼は今、いつも火葬場に居るという冨樫 慶太(とがし けいた)の所に向かっていた。慶太に求愛するためではない。手伝うためだ。
 慶太は今、炎の能力をほぼ「葬儀屋」として使うことを余儀なくされている。……ように見える。彼の負担を軽減し、能力を「葬儀屋」以外でも使う余裕が出来るように前向きに考えたい。
 その為にと考えたのが、彼と手堅く人間関係を築くことだった。
「慶太きゅん!」
 妄想は消えきっていなかった。慶太を見つけて名を呼んだ時には遅かった。脚立に手を掛けていた彼は、「へ?」という顔をして振り返る。
「今、慶太きゅんって言った?」
「言ってないぜ! 慶太くん!」
 笑顔を浮かべて近付いていく。
 慶太の前にある軽トラックには、大人の死体が山積みにされている。脚立に上り、上から死体を運ぼうとしていたのだろう。下の死体が崩れないように。
 軽トラックは、地面が黒く焼け切った広場に横付けされていた。ここに死体を積んで燃やすのだろう。
「彼等を運ぶのはちょっと待ってくれ! 俺にいい案がある」
「いい案?」
「とりあえずトラックに乗ってくれ! 案内したいところがあるんだ」
「う、うん……?」
 何が何だかという面持ちながら、慶太は死体に網をかけて固定する。凪もそれを手伝った。死体は見たことがあるため、恐れはない。魂の消えた体の中には、手首にタグが巻かれているのもあった。
「このタグは、個体識別用か」
「うん。絶対に燃えない材質で作ってある。燃やした後にもそれだけは残るんだ。タグがついてる骨は分別して、家族の子供に返す。タグがない骨は、また燃やす」
「なるほどな」
「タグのない人のほうが多いんだけどね」
 さらっと言って、慶太はトラックに乗り込む。分かってはいたが、当たり前のように運転席だ。彼に、地図を見せる。
「ここに行ってくれ。運転はどこで覚えたんだ?」
「誰もいない教習所から教本見つけて、置きっ放しだった車で練習した!」
「ガソリンはまだあるんだな」
「うん。車を使う意味がないから年長者も乗らないし、まだ残ってるよ。ところで、おじさんはこの大人達をどうするんだ?」
「燃やすんだよ。他にないだろ?」
 そして、凪は話し始めた。
「今の感じだと、遺体は野積みにして大火力で燃やしてるんだろ?」
 死体とは口にせずに言葉を選ぶと、慶太は神妙に頷いた。
「それが一番早いからね」
「もっと早い方法があるぜ!」
「え!?」
 今の方法では、慶太の負担は勿論、燃焼効率の点でもロスが大きい。
「炉や釜、火葬場、それでは小さい……ならばいっそ廃ビル一個にまるっと遺体を入れてビルごと火ぃつけちまう方が効率いいんでない?」
「廃ビル一個を!?」
 余程驚いたのか、軽トラックが思い切り蛇行する。
「そうか。だから廃墟に向かってるんだな!」
 廃墟と言っても、人が居ないだけで建物は綺麗だ。そこは県の郊外にあるビジネス街で、食品を扱う店も、農場もない。住むにしても飢えるだけだから子供達はそこを住処に選ばなかった。
「運ぶ手間は同じ。燃やす回数は少ない方がいいだろ」
 廃ビルの前で軽トラックを止め、凪は積極的に大人達を運んでいく。季節が冬だからではなく、冷凍庫に入っていたためにその体は冷たかった。
 まんげつ造で集会が行われるのは知っているが、今回は現状確認が主となるだろう。だが、凪はココロとカラダの衛生問題の課題であるところの遺体を荼毘にふせることの方が、パンデミックの『後片付け』として召喚者が何か新しいコトを始めるよりも優先順位が高い――と思っている。
「おじさん、体力あるな!」
「慶太も十七年後にはちゃんとこうなるぜ!」
 ちゃんと、に力を入れて凪は言った。
(現状俺たちはまだ文明の残滓を享受できてるが、それが失われたら一気に狩猟採取の時代まで後戻りする恐れがある!)
 まずは手や身体を動かそう。
 この大人達を全て運んだら、新たに積む為に冷凍庫に向かおう。

3、食料の調達と巨大スライムと

 街の中を、佳波 まどか(かなみ まどか)は珍しく元気のない足取りで歩いていた。
「事情を聞いても、頭でまだ理解出来ない……」
 確実なのは、ここに来てからまだ大人の姿を見ていないということだけだった。子供達だけで固まり、肩を寄せ合っていたりスマートフォンをいじったりしている。普通なら保護者が近くにいるべきの子供の近くにも、大人は居ない。
(……でも、この子達あまり食べてない感じがする)
 栄養が足りていない――それが一目で分かる。
 それを自覚した時、まどかの心に元気が湧いてきた。
「まずはしっかり食べさせないと! 考えるのは後!」
 そうと決まれば食料の調達だ。
(確か、工場の冷凍庫は生きてるんだよね)
 保存しているのは食べ物じゃないと聞いているが、食べ物もまだあるかもしれない。
「そこに行ってみよう!」
「お姉ちゃん、どこか行くの?」
 コンビニかどこかで地図を調達して冷凍庫を目指そう――
 そう思っていると、外壁を背に座り込んでいた男児の声がした。直感で自分のことだと察して振り返りざまに「うん!」と言うと、小学校3年生くらいに見える男児は少し離れたところにある自転車を指さした。
「あれ、鍵かかってないよ。誰のでもないから、お姉ちゃんが使って」
「ありがとう!」
 早速自転車に乗る。女子高生に自転車が加われば最強だ。まどかは食料調達に向けてペダルを漕いだ。

「チョコやポテトチップスはあるんだ……」
 地図を手に入れるためにコンビニに行くと、お菓子の棚に未開封のものが残っていた。
 大人がいなくなってまず困るのは食料だろう。コンビニのお菓子などは真っ先に無くなる気がするが。
「誰かが補充してるのかな……?」
 ちらりと思ったがここで答えが出る問題でもない。思考を切り替え、コンビニの棚を一通り見て回る。
「あ、コンソメと缶詰がある。持っていこう」
 街にあるものは全て共有財産で、必要なら持っていっていいと聞いている。
「店員さんも居ないし、お金が無かったら目の前の食べ物を諦めなきゃいけないなんて、そんなことで人口を減らすわけにはいかないって言ってたなあ」
 召喚された時に聞いた話だ。オブラートに包まれていたが、つまり餓死者防止のためのルールなのだ。
 チョコとポテトチップス、コンソメと缶詰を入れたコンビニ袋を自転車のカゴに収めると、まどかはまた自転車を走らせた。

 地図に載っていた食品工場に着くと、駐車場に軽トラックが停まっていた。その上に積まれているものを見てまどかはぎょっとした。思わず離れると、工場の入口から『何か』を運び出している凪と慶太が出てくる。二人はまどかを見つけてその様子を見て、次に抱えているものを見て、凪が距離を取ったまま話しかけてきた。
「この工場に用か?」
「うん、肉とか野菜が冷凍されてないかなって」
 男二人は顔を見合わせてまた抱えているものを見て、凪は答える。
「ここにはないぜ!」
「うん、見て何となく分かってた!」
「ちょっと先にある配送工場の冷凍庫ならあったと思うよ!」
 慶太が言い、それを聞いたまどかは三度自転車に乗る。
「ありがとう、行ってみるよ!」

 そして辿り着いた先は、大手と思われる通販会社の工場だった。
「あった……!」

☆★☆★☆★☆彡


 体は大きいといえども、高さは255cmだ。充分に建物の陰に隠れられる。ラクダが隠れていると思ってもいいし、立ったイルカが隠れていると思ってもいい。
 実際に隠れているのはスライムだが。
 否、隠れているのと同じ状態になっていると言うのが正しい。本人にその気はない。身長255cmに加えて体重420kgだが、力士が三~四人分くっついていると思えばそこまで驚くことでもない。
 スライム――ネルネ・ルネールネは、子供達と遊んでいる夜桜 切菜(よざくら せつな)に建物の間からうぞうぞと近付いていっているところだった。切菜は子供達に別れを告げてまんげつ造に向かっていく。ネルネは移動速度を速めた。巨大なスライムの塊に驚いて子供達が逃げていく。
(ふむ……私を見て逃げるということは、この世界にはスライムがモンスターとして存在しているということですな)
 召喚された時のことを思い出す。ネルネの性格を知ってからは冷静だったが、愛依も最初は怖がっていた。
「子供達に恐れられたら、『僕悪いスライムじゃないよ』と言えば大丈夫だ」
 と、地を出して震えた後に態度を取り繕っていた。既に色々と遅かったが。

「素敵な服を着ていらっしゃいますな、レディ。センスとこだわりを感じます」
 そして、振り返った切菜は取り乱さなかった。
「あなたは、もしかして……」
 にこっと笑う。表裏がなさそうな笑みにも見えるし、全く逆の笑みにも見える。
 ネルネは、自分の持つ建築スキルで復興に協力すべく、まずは建物や設備の不備を知ろうと思っていた。復興を手伝うにしても、自分の能力で何ができるのか、まずは状況​把握が必要だ。
 訊ねる相手として切菜を選んだのは、彼女がある程度、子供達の中心である​様が見て取れたからだ。
 彼女の衣服にアレンジの痕跡を見つけ、モノ作りが生業の​自分と波長が合うかもしれないと考えたというところもある。
 彼女はこの世界の住人であるとともに、子供達をまとめるナンバー2でもある。現状を詳しく知っているだろう。
「申し遅れました。建築家のネルネと申します。以後、お見知りおきを」
 お辞儀をする代わりにネルネはうぞうぞと動いた。人間とかけ離れている自覚はあるため、持ち前のジェントルさで​怖がらせないようにと細心の注意を払う。
 見た目でそれを察するのは難しい程度の動きだったが、切菜には理解できたらしい。彼女は服の両裾をちょこんとつまんで礼をする。
「こちらこそよろしくお願いしますね。夜桜 切菜です。それで、何をお訊ねに?」
「……現状、いそぎ修復すべき建物や設備はございますかな? 私は建築家でして、まずはこの世界のインフラを整えようかと思っております」
「修復すべき建物……ですか?」
 切菜は少し眉間に皺を作った。心当たりを思い出しているのだろう。
「もちろん、あれば役立つ施設の要望などでも構いませんが」
「イチから作れるの!?」
 切菜はネルネの姿を見た時よりも驚いていた。
「すぐに実現できるかは分かりませんが」
 生活を支える機能の面でも、心を癒す装飾の面でも、何でも構わない。ひとまずは、スタート地点に立つべく生の声を聞き出してみたい。
「……漫月を囲む川はすごい広いんだけど……各方角に外の県に繋がる大きな橋があったの。でも、混乱の中で全て壊れてしまったわ」
 随分と深刻な状況だったのか、彼女の顔からは笑みが消えていた。
「……差し支えなければ、なぜ壊れたのかお聞きしてもよろしいでしょうか」
「パンデミックが発生したのは、この水花芽県からではないの」
「ほう……」
「北からだったわ。それで、北と陸続きになっている場所に住んでいる大人が皆、こっちに逃げてこようとしたんだけど……」
 それを水花芽県は許さなかったということか。
「自警団が、強力な火力の武器を使って橋を壊したの」
「……壊れた橋を直してしまって大丈夫なのですかな? 外の県の子供達は、水花芽県の人間を恨んでいるという可能性は……?」
「充分にあると思うわ。でも、私達は外の県の状態も確認したいの。だけど……今の状態で向こうの子供達が来たら混乱するから……」
「来られないように壁を作りつつ、橋を直してほしいということでございますな」
 橋が出来たら、ネルネの能力で壁を溶かしてしまえばいい。
「わっ、切菜ちゃん、何!? そのおっきいスライム!」
 自転車に食料を積めるだけ積んだまどかがやってきたのは、その時だった。

☆★☆★☆★☆彡


「何事も腹ごしらえからだよね!」
 調理場は、学校の家庭科室の二倍くらい広かった。そこで食料を広げながら、まどかは明るい調子で言う。召喚される前、彼女はよく料理をしていた。元の世界と同じことをすることで自分の心の安定を図っているのだが、そこには無自覚だ。
「うん。お米はこっちに備蓄があるからこれを使うわね」
 切菜は10kgの米袋を業務用炊飯器に投入していく。この世界の電気は、大人がいなくても生きている。大人に置き去りにされた装置は、まだ勝手に電気を作ってくれているのだ。だが、それもいつまで続くかは分からない。
「お米、洗わなくていいの?」
「この炊飯器は洗米もやってくれるの。でも、機械があっても……」
 切菜の表情が曇る。まどかは一緒に米袋を取りにいった時のことを思い出した。
 備蓄は、多いとは言えない。
「食料……って、どれくらい残ってるの?」
 冷凍肉を鍋で解凍しながら、まどかは聞く。
「あと数か月もしたら殆ど無くなると思うわ」
「数か月……」
「生の食べ物は冷凍されている分だけ。一部の子供達が野菜作りに挑戦してるけれど、やったことがないからうまく育たなくて、食べられそうなものは出来てないの。魚は釣るしかない。お肉は……動物を自分で殺して捌く勇気のある子供はまだいない。本当に飢えたら、やる子達が出てくるかもね。森の中に、モンスターを殺して食べてる子供がいるって噂を聞いたことがあるけど、私達は会ったことないわ」
「…………」
 まどかは俯き、黙ってしまった。溶けた肉を取り出し、出刃包丁で捌いていく。
 気分が落ち込むと、ふと、召喚された時に会った愛依のことを思い出した。彼女は今、心労で寝ているらしい。
 包丁を置き、コンビニ袋からチョコを取り出すと彼女はホットチョコレートを作り始めた。
 
4、疲れている時には甘いものを

 リンヴォイ・レンフィールドは執務室の隣にある愛依のプライベートルームに向かっていた。
(愛依さんと話をして、僕に出来る事を見つけたい。……僕がここに呼ばれた意味が、きっとある筈だから。……でも)
 自分が訊きたいことはなんだろうと自問する。頭の中には靄がかかっていて具体的な絵が浮かんでこない。
「この世界の子供達が、何に困っていて、何をして欲しいのか……を確認したい」
 声に出してみる。
 すると、それが彼の知りたいことだったのだと確信できた。
 子供達が何を求めているか――それを把握した上で、今居る人達で出来る事を探していこう。
 愛依には一番に話を聞いておきたい。お見舞いも兼ねて、リンヴォイは彼女の部屋に行った。扉の前には、心配そうな顔の子供達と警備員代わりなのか十代後半の筋肉質な少年二人が立っている。一人は背が高く、一人は低い。この二人の手には木刀が握られていた。
「随分とものものしいね。いつもこうなのかい?」
「いつもじゃないさ。ただ、今日は切菜さんが妙な予感がするからって」
 背の高い方が先に口を開く。
「あの人の予感はよく当たるんだよ」
 木刀の二人は肩を竦めた。それから視線を鋭くする。背の低い方が言った。
「それで、あんたは何しに来たんだ?」
「お見舞いだよ。それと、ちょっと話しておきたいことがあってね」
 怪訝な顔をする二人と子供達に注目されながら、リンヴォイは扉をノックした。
「愛依さん、少し話が出来たらと思うのだけれど……入っ​てもいいかい?」

「えっ」
 愛依はベッドから飛び起きた。入ってもいいかと訊かれても、今はいつもの正装ではなくパジャマである。パジャマで召喚者に会うわけにはいかない。……じゃなくて、恥ずかしい。
 ベッドに座ったまま硬直していると、扉の先の彼はそっと話し始めた。
「無理なら扉越しに僕が勝手に話すから、聞いて貰えるかな? ……君が今して欲しいことを教えて欲しい」

「私が今、して欲しいこと……?」
 戸惑いつつも愛依が考えていると、彼――この頃にリンヴォイと分かってきた――は話題を変えた。

「もし、君が僕らを召喚した事に罪悪感を感じているならば、僕に関​しては全く気にしなくていいよ」

「え……?」

「僕は騎士だ……まだ見習いだったのだけども、それは今は置いておい​て……」

「…………」

「幼い頃から、騎士として弱きを守り、惜しみなく与える事を夢見て​きた。だから、僕は今、とてもワクワクしている」

「ワクワク……?」

「いや、ワクワクは不謹慎かな……すまない」
 部屋の中の愛依の声は聴こえない。寝ているのか起きているのかも分からない。だから、リンヴォイは彼女と会話が成立していることには気付いていなかった。
「……けれど、君達の力になれる事、頼って貰える事が嬉しい。だって、​それは呼ばれた僕らにしか出来ない事だからね」
 話しながら、リンヴォイは気付いた。自分の本心に。愛依に話しに来なければ、自覚することなく心の奥で眠っていた感情だ。

「嬉しい……? 嬉しいからワクワクしている……?」

「そうだ、僕は僕に頼られる事が嬉しいんだ。だから、遠慮なく何でも言って欲しい!」

「…………」

「僕はこの国については無知だから、色々教えてくれると助かるよ。僕は甘いお菓子に目がなくてね、美味しいお菓子を紹介してくれると嬉しい」

 愛依は扉に近付いた。しばらく考えてから、彼女は言った。
「私も甘いものは好きだ。保存食としてチョコレートがまだ残っている。輸入ものだが、ブラウンカカオから作られたチョコが特に好きでな。ブラウニーにするととても美味しい。……そして、そなたには子供達の生きる希望となってほしい。死に怯えずに暮らせる未来が待っているのだと、行動で示してほしい」
 まだ彼は扉の前に居るだろうか。居なくても――自分の思いを言葉にしたことで、愛依は少し前向きな気持ちになれた気がした。

「教えてくれてありがとう。騎士として、君の希望に応えられるようにがんばるよ。そのブラウニーも、是非味わってみたいな」
 彼女の声が聞こえ、リンヴォイはほっと息を吐き、微笑した。

5、召喚者に選ぶ権利はなく、ガチャは召喚者を選ばない

 まんげつ造の中を歩きながら、刀神 大和は憮然とした顔をした。彼は、召喚されたことを納得していなかった。
 いきなり勝手に呼び出して、復興とかふざけんな、と思っている。
 とりあえず何かするかと考えた結果が、愛依と話すことだった。
(大人しくそのまま滅んでおけばいいものを……。まあ、どんな手段を用いても生き残ってやるっていう気概は認める)
 迷惑なことには変わりないから文句は言うが。
 最終目的は帰ること。その為にも生き残る。
 安定した生活の確保の為にも現状を知らないといけない。誰に話を聞くかと考え、思い浮かんだのが愛依だった。
 彼女の私室まで行くと、やけに人が多かった。子供達に、警備まで居る。
「どうかしたのか?」
 訊くと、警備の二人が理由を話してくれた。次に、子供達が心配そうな表情をして話しかけてくる。
「あいちゃんがお部屋から出てこないの……」
「ガチャを使って気持ちが重くなっちゃったんだって」
「さっき、少し元気になったみたいだけど……」
 要するに、心労で引きこもってしまったということらしい。
「はあ? んなもん知るか」
 ここで遠慮していたら、情報を聞き出すのが遅くなる。
「無駄に時間を過ごすつもりはない。邪魔するぞ」
「「「「「あっ……!」」」」」
 警備と子供達が声を上げる。扉を押してみると、あっさりと開いた。外に警備がいるとはいえ、不用心な引きこもりだ。

(鍵、かけ忘れてた……!)
 布団を肩までかけた状態で、愛依は硬直した。何といううっかりだろう。だが、飛び起きずに硬直する方に反応して良かったと思った。
 外でのやりとりは聞こえていた。誰が入ってきたかは目を瞑っていても判る。
「……寝てんのか」
 大和は、愛依が寝ていると思い込んだらしい。困ったような声がする。
「……あー、その、なんだ? ……ちっ」
 彼がベッドの脇にそっと座るのが、感覚で分かった。気を遣ってくれている。

(ここで叩き起こせないのが俺の限界か)
 仕方なく、大和は愛依が起きるのを待つことにした。待ちながら、彼女に何を訊こうかを考える。
(この世界の知識と現状で生活するのに足らないものは何か、か? 衣食住を十分に満たせていれば問題ないんだが)
「住」には問題はなさそうだ。歓迎できる理由ではないが、子供だけになったことで空室が大量に出来た。召喚者はそこに住めばいい。実家を出たい子供も沢山いるだろうが、部屋が足りなくなることはないだろう。
(後は……モンスターって何だよ? 生態系はどうなってんだよ)
 それに関しては、見事に何も聞かされていない。
(お前らは何処まで行けば満足なんだ? どれくら復興したら俺たちが不要になるんだ?)
自分の手だけで帰る為の手段を用意することになるかもしれないのに、大和にはこの世界の知識が全くない。
 それは、困る。
 だから、知識が欲しい――
 そんなことを考えながら、大和は愛依が起きるのを待っていた。

 そして、愛依は起きようか起きまいかどうすればいいのかと困っていた。

 ――その時。

 扉の外がざわついた。子供達の悲鳴と、「何だお前!」という警備の声が聞こえる。直後、扉が勢いよく開いた。その先には、右脚を突き出したフォックストロットの姿があった。
「オイオイオイ嬢ちゃんよ、せっかく勇者サマが降臨してこのクソ​みてぇな世界を救ってやろうってのに呑気におネンネたぁイイご身​分っすね」
 そう言った彼は、ずかずかと部屋に入りつつ言葉を続けた。
「まぁムリもねぇわな。この世界にゃそこんとをきっちり躾てくれるオレみてぇな大人がいねぇんすからね」
 驚きから覚めていない愛依の前まで来ると、フォックストロットは彼女の頭に手を伸ばした。遠慮のない素早い動きだったが、その手を大和が強く掴んだ。
「何をするつもりだ?」
「ちょっと嬢ちゃんに自分の立場を解らせるだけっすよ」
 口元を歪めて笑った瞬間、彼は膝を上げて大和の急所を狙った。だが、体位を変えることで避けられ、掴まれていた腕を捻られて地に伏せさせられる。その頃には、警備の少年二人も彼に木刀を突き付けていた。少しでも起き上がったら叩きのめせるように。
「朝比奈! 子供達が怪我を……」
 また別の少年が部屋に入ってくる。中の状態を見て絶句する少年に、立ち上がった愛依は厳しい目を向けた。
「子供達が……どうしたと?」
「あ……いや……召喚者に暴行されたみたいで、腹を押さえて呻いてて……」
 それは、フォックストロットの所業だった。愛依の部屋の場所を教えようとしない子供達を殴り、無理やり聞き出したのだ。
 理由までは分からずとも、誰がやったか、はこの部屋の全員が察していた。愛依は冷たい目を犯人に向ける。
「私の立場……と言ったな。それは子供達も含まれるのか?」
「含まれるっすね☆」
 フォックストロットは言った。召喚者であり、大人である勇者の自分は現地民より尊く、主人である自分に彼らは隷属する立場であると。
「ほお……」
 この状況でも、彼は堂々と主張を続けた。
「だから、勇者のオレには食事や住環境の面でも特別待遇をするっす」
「…………」
 愛依は、ただ冷たい目でフォックストロットを見下ろしている。更に、他の誰も何も言わなかった。
「聞いてるっすか? オレたちゃ請われて呼ばれた勇者サマっすよ? それが、なんでクソガキ共と同じ犬の餌みてぇなメシを食わなきゃなんねぇっすか?」
「…………」
「まぁ復興のことは考えてやるっすよ。ただし嬢ちゃん達の態度次第っすけどね☆」
「…………」
 室内に沈黙が落ちる。そして、愛依が口を開いた。
「……分かった」
「解ってくれたっすか☆ これからは心配ご無用っすよ。なにしろオレがきっちりクソガキ共をシメてやるっすからね☆」
 怯えを見せない彼女に多少の不服はあったが、要求が通るのならいいだろう。
「……こいつの意識を奪い、地下牢に連れていけ。食事は……犬の餌は嫌だと言ったな。それでは望み通り、犬の食えないワケギを与えてやろう。玉葱は贅沢品だからな」
警備の二人は「分かりました」とも言わずにすぐに木刀を振るった。返事をする時間が致命的な隙になると判断したのだ。
 容赦のない骨の折れる音と共に、フォックストロットは沈黙した。
「子供達には治癒魔法を。そいつにかける必要はない」
 フォックストロットが運ばれていくと、愛依は途端に泣きそうな顔になってベッドに座った。
「大丈夫か?」
 大和が訊くと、彼女は激しく首を振った。
「あの機械は……召喚する人を選べない……これからも、こういうことが……?」
 震える声でそう言った時、こんこんと扉がノックされた。
「愛依ちゃん、ホットチョコレートを作ってきたんだけど……入ってもいいかな」
 その声には、邪気が無かった。純粋に心配そうな気配に、愛依はベッドから立って自ら扉を開けた。
 チョコレートの匂いがふわっと漂ってくる。
「……すまんな」
「疲れには甘い物がいいからね」
 そうして、まどかは笑った。

6、召喚者の集い

「召喚された人達で一度集まるんだね。やっぱり一度は顔合わせしておきたいしねぇ」
 ミーティア・アルビレオは愛依から貰ったスマートフォンをテーブルに置いて画面を見ていた。そこには切菜からのメールの文面が映し出されている。スマートフォンの読み上げ機能が、ゆっくりと文面を読み上げてくれる。
「まだ早いけど、もう行っちゃおうかなぁ」
 ミーティアは、一足先に集合場所に行くことにした。いつも通りのフリルたっぷりのゴスロリ服を着て、彼女は空の下に出ていった。

 まんげつ造の中にある共同リビングは、過ごしやすさを第一に考えられた豪華な部屋だった。
 広い空間にはまだ誰も来ていない。
「とりあえず何をすればいいのかなぁ〜」
 大きいクッションを見つけると、それを抱いてゴロゴロする。
 集合時間が近づいてくると、アヅキ・バルがリビングに入ってきた。彼女はミーティアを見ると、冷静にツッコミを入れた。
「服がしわになるわよ」
「え?」
 ミーティアは視線を落としてゴスロリ服の状態を確認し、姿勢を直すことにした。
「もうしょうがないなぁ」
 クッションに座ると、腕が通っていない両袖がひらひらと揺れた。

(子供しかいない世界かぁ)
 アヅキもふかふかのソファに座り、喚び出されたこの世界について考えてみる。
(私の知っている技術や知識が有用かもわからないけど、私がここに来た意味はきっとあると思うし、とりあえず頑張ってみよう)
 彼女は地球出身だが、地球人ではない。宇宙船を地球に不時着させて母星に帰れなくなったアラクニア人の父が地球人の母と結ばれて生まれた子供だ。
(事故でワープドライブエンジンや転送装置もない地球に降り立ったお父さんも、最初こんな気持ちだったのかな)
 未知の土地に放り出され、その中でも前向きにやることを見つけていく。そうして、母を見つけ、家族を見つけ、居場所を見つけた。
 自分も、ここでやることを見つけて、この世界のことを知って生活していくのだろう。
(まぁ、この世界には転送装置はあるみたいだから地球より文明レベルは上かな)
 そんなことを考えていると、次々と召喚者達が入ってきた。切菜も来て、緒方 唯我(おがた ゆいが)を含めた七人と一匹の召喚者が集まる。
 まず、アヅキが自己紹介をする。彼女は、皆に挨拶廻りをしようと思ってこの集合場所に来たのだ。挨拶は良好な人間関係を築く基本、と母がいつも言っていた。
「私は、アヅキ・バル。アヅキは秋の月と書いてアヅキです。小さい豆じゃないのでよろしくね」
 よろしく、と召喚者達がそれぞれの口調で挨拶する。
「地球という星の日本という地域から来たの。……他にも地球から来てる人とかいるっぽい?」
 アヅキが皆を見回すが、意外にも手を上げたり同意したりする者はいなかった。揃って顔を見合わせている。
「……同じ種族っぽい人もいるけど、地球、という星にそっくりな場所から来たのかもしれませんね」
 遠慮がちに唯我が言う。アヅキはえっ、という顔をしてから少し考える間を置いた。
「そっくりな星なんてあるのね……でも宇宙は広いし、あるのかもしれないわ」
 一度頷いて納得すると、アヅキは自己紹介を再開した。
「まぁ、厳密に言うと母は地球人だけど、父はアラクニアっていう別の星の出身で私はハーフなの。この姿以外に蜘蛛ライクな姿にもなれるけど……今はやめておくね。ちょっと皆の正気度が減りかねないっていうのは冗談だけど、まぁ、服がね」
 着ている人間用の服をちょっと摘んで、苦笑する。
「アラクニア人用の服ってこっちの世界じゃないと思うし、うん」
 そして、思案気な表情になり、召喚者達に訊く。
「……んで、皆さんこれからどうするんです?」
「何をしたらいいのかわかってないのが問題だと思うのぉ」
 アヅキの問いを受けて発言したのはミーティアだった。
「あ、ミーティアだよぉ。よろしくねぇ」
 一通りの自己紹介をしてから、彼女は話を戻した。
「ほら〜、復興って言ってもいろいろあるし、何をしなくちゃいけないのかを把握するのが当面の目標かなぁって私は思うんだけど、みんなはどうかなぁ」
「そうだな。何をするべきなのか、これから何をしていくかを考える為にも、この世界の現状を知る必要があるだろう。ところで……」
 ミーティアに応える形で口を開いたドクター・Dは、切菜と唯我に目を向けた。
「愛依の姿が見えないが、どうかしたのかね?」
「それが……」
 切菜は僅かに顔を曇らせた。彼女の説明を聞いて、ドクター・Dは「成程」と言った。ニヤニヤと笑っているが、馬鹿にしたような雰囲気はない。
「事情は理解した。まぁ確かに、君達のやっていることは悪と言おうと思えば言えるだろう」
 糾弾するような口調でもない。ただ、感想を述べている――という感じだ。
「……そうかもしれないわ」
 肯定している割に、切菜にはそこまでの罪悪感は無いように見える。ドクター・Dは満足そうにしてから話を続けた。
「……だが、世には必要悪というものもある。私にも君達を責める権利はあるというものだが、そんなのは放棄することとしよう」
からかうようでもあり、和ませるようでもある言い方に切菜と唯我は肩から力を抜いた。室内の空気が弛緩する。
「――要するに、私には君達を助ける意思があるということだ」
「私もです」
 公 玲蘭が同意する。彼女は長い髪をポニーテールにした、整った顔立ちとスタイルをした二十代前半の大人だった。チャイナドレスによく似た服を着て、腰に剣を提げている。
 彼女には、一つ訊ねたいことがあった。
「あの、愛依さんが心労で寝込んでしまったというのは……やっぱり、私達が故郷に帰れないからなんですよね?」
「……その通りです」
 唯我が暗い顔で言う。彼にも何か思うところがあるのかもしれない。玲蘭は一瞬沈黙すると、冷静な口調で言った。
「まあ……、帰れないなら仕方ないですね」
 平静を装ってはいるが、彼女の目が泳いだことに何人が気付いただろうか。
(……子供相手に八つ当たりをしても仕方ない。……賽は投げられたのだから)
 玲蘭にとって、十代半ばの切菜や愛依もまだ子供だ。そうして、彼女は自分を落ち着かせた。
「今はこれからの事を考えた方が良いでしょう。改めて、私も協力を申し出させていただきます」
「玲蘭さん、ありがとう。……ええと……ドクターはこの世界の現状を知りたいのよね」
「そうとも。この漫月の置かれている状況と、何がどのように絶望的であるかの情報を把握しておきたい」
 ドクター・Dは最前線で体を動かすタイプではない。裏方としてこの世界を救うために必要なのは、情報だ。
(愛依が一番詳しそうだが、この世界で最大のキーパーソンでもある彼女をこれ以上疲労させるわけにもいかない。……ならば、このまま話を進めるのが得策だろう)
 切菜と唯我も愛依に次いで二番目と三番目に情報を持っているだろう。唯我は「一人目の召喚者」だ。召喚者の中でもこの世界に居る時間が最も長い。
「まず、この世界の産業と生存領域、そして、生命を脅かす存在について知っておきたい。後者については生き残る為にも特に重要だ」
「この世界の産業……?」
 切菜は少々首を傾げてから、ゆっくりと答え始めた。
「色々とあるし、全てパンデミック前の話になるけど……まずはお米ね。ただ、お米は国によって好みや種類が違うから、あまり輸出はしていなかったわ。主に自分達で食べる用ね」
 それと、自動車製造と機械工魔学が発展していたという。機械工魔学とは、魔法で動く機械を作る技術だという
「あと、生命を脅かす存在……つまりモンスターや魔物と呼ばれる類のものですね。生存領域に関してこれは子供達に聞いたんですけど……」
 唯我はそこで続けにくくなって言葉を切った。この情報は彼が自分の身を守る為に集めたものだが、聞いた時に気分が暗澹としたことを覚えている。
「自然のある場所にはモンスターがいると考えて間違いないそうです……。人の街でも、占拠されている場所があるとか。元々、人間とモンスターの比率は6:4くらいで、それが5:5くらいに変わっているという話です」
 以前はモンスターと対等に戦える大人が多く居た。それが抑止力となり、モンスターと人間の均衡が保たれていたのだという。
だが、子供達は無力だ。人間から戦える者が居なくなったと察したモンスター達は人間の世界にも進出してきた。人を糧にすることも少なくないという。ちなみに、中には話の分かるモンスターの集団も居てその集団が動物性蛋白以外の食料を育てたりしているらしい。しかし、モンスターの食料は人間には毒が強くて食べることはできない。
「パンデミック以降は力が強まっているらしくて……。特に、竜と海のモンスターが強くなっていて、現状、漫月から外国に行くことは不可能だそうです。だから、生存領域は人の住宅やビルがある区画だけということになりますね。あえて言えば、その『人に敵意のないモンスターの集落』も入るかもしれません」
「ふむ……では次の確認だが、ここでは子供達の行動方針はどうやって決めているのかね? いわば、政治体系ということだが」
「政治体系という程のものでもないけど……今は私と愛依、慶太の三人で相談してルールを決めることが多いわ。決めごと自体は数えるほどしかないけれどね」

 ――話が続く中。
 首にスマートフォンを提げた犬――自他共に認める紛うなき犬――ヴォルクは源 ハジメ(みなもと はじめ)をじっと見つめていた。
(このハジメとかいう男、ブラッシング係には最適な気がする)
 ヴォルクは犬の習性として順位付けをする為に、そしてブラッシング係を探す為にこの集まりに参加した。
 毛を梳く係としてターゲットされたハジメは、「ん?」という顔をすると笑顔で彼をモフりだした。ハジメとしてもまんざらではないらしい。
(集まった者達は信用できるのかどうか……)
 召喚者達を見極めようと話し合いを観察していると、そこでハジメが手を上げた。
「あの……」
 モフられが感じられなくなった。
(む)
 ハジメの尻側に回り、強めに甘噛みする。
「痛っ」
 補足しておくと、ヴォルクはオイタをしないような他の子には優しいと自負している。
(おりこうさんの犬なのだ)
 知能は高校生レベルだが、面倒だからおりこうさんの犬でいる。ちなみに愛読書は『銀河 天の川金』だ。立派な行いを見ると、漢だぜ……と感動する。
「あ、そうか」
 こちらを見て、どうして噛まれたのかを察したハジメはまたヴォルクを撫で始めた。だが、どこか困ったような顔をしている。
(質問したくてうずうずしているようだな)
 寛大な心で、わん! と言ってやる。すると、ハジメは安心したようだった。自分の尻をさすりながら口を開く。
「質問いいですか? 現在の人口は把握されているんでしょうか? わかる限りで一番歳の小さな子は幾つですか? パンデミック後に生まれた子供はいますか? 乳児と幼児では必要な物、食べられる物、食べさせ方もどんどん変わるし月齢によって気を付けるべき事も随分違ってきますよ」
 新生児の生存率は低いだろうし、そもそも調査してなさそうだと思いつつハジメは言った。
 彼の怒涛の質問を冷静にスマートフォンに打ち込んだ切菜は、画面を見ながら話し始める。現在のおおよその人口を告げてから、他の問いにも時に迷いながら答えていった。
「記憶にある限りでは、一番歳の小さい子は2歳ね。パンデミックの直後は生まれたばかりの子もいたんだけど、親が居ない状態じゃ生き抜けなかったの」
「そうですか……」
「私の知らない所で生き抜いている子もいるかもしれないわね……。あと、パンデミック後に生まれた子はいないわ。生まれる可能性のある子はいるけど……」
 ハジメは切菜の答えを集めてきたチラシの裏にメモしていく。手が離れたことで、ヴォルクがまたわん! と吠えて彼の尻を甘噛みした。
「痛っ!」
 彼の尻はこの集会が終わるまで保つだろうか。
「人手、足りないんですよね? それなら無駄は省かないと……」
 言いながらメモをし、それを終えると彼は再び一つ一つ質問していく。
「役所のような施設は、ここ以外にありますか?」
「あるけど、今は機能していないわね」
「ネットワークは……スマホが使えるということは生きているみたいですけど、ネットを使ってもう少し詳しい現状を知ることは可能ですか? 情報を集めて、それを元に生産すべき物資の取捨選択をしてみてはどうでしょう」
「できると思うけど……一日二日で調べられるものでもないわよ」
「もしここのパソコンを使わせてもらえるのなら、僕がやります」
 切菜としては、申し出てくれることを断る理由はない。助けてもらう為に彼等を呼んだのだから。
「ありがとう。じゃあ後でパソコンのある場所に案内するわね」
「はい。それと、思ったのですが……幼児を集めて世話できる場を作っては?」
 情報収集の役割を担ったハジメが次に提案したのは、子供達を死なせない為にはどうするかということだった。
「その方が確実ですし、物資を輸送する手間も省けます。兄弟が居るなら一緒に保護して上の子には世話役もお願いしてもいいかな……僕は七人兄弟の長男で、入営するまでは常に幼児と接してきました。その手の世話や扱いは慣れてますよ」
「お願いしたいけど……そんなに頼んじゃってもいいのかしら」
 切菜は悩んでいる。そこで、唯我が口を開いた。
「それなら、子供達を集める場所にパソコンを持っていけば、ハジメさんは情報収集をしながら子供達の世話もできるんじゃないですか?」
「あ、是非、それでお願いします」
 報酬の話は追々……と考えつつ、職が欲しいハジメはニコニコと自分を売り込む。
 さすがの切菜も、彼が後で賃金交渉をしてくるとは思わなかったが、その時に彼女は少し困ってからこう答えている。
『価値の無くなったお金だったらいくらでもあげるけど……。そうね、お金が価値のないままっていうのもよくないわよね。お金で取引できるくらいになるのが目標かしら……』
 と。
 残念ながら、この台詞はハジメとヴォルク以外は聞くことがなかった。

「ところで……今は具体的に何が足りないのでしょうか」
 玲蘭が訊く。足りないものを補充しないと、三日月が満月になることはない。
(たぶん、衣食住の内、食が足りないと思うのだけど。あと安全ね)
 そう思っていると、切菜はそれと殆ど同じことを言った。
「圧倒的に食が足りないわ。それと……紙ね」
「紙」
「紙」
 玲蘭以外にも、何人かの召喚者がその一言を呟く。
「そう。紙を新しく作ることが出来ないの。だから……減るばかり。必需品として使う紙のことは……言わなくても想像できるでしょう?」
 切菜は少しばかり恥ずかしそうだった。つまり、トイレットペーパーやティッシュペーパーのことだ。
「紙は木から作る……。それなら、森へ入らないといけませんね。でも、森は危険……地図を見せてくれませんか?」
「ええ」
 頷いた切菜の隣で、唯我が地図を開く。それを見て、玲蘭は気が付いた。
(漢字しか読めませんね……)
 言葉は翻訳機で何とかなっても、文字までは読むことができない。それを伝えると、切菜は目から鱗という顔をした。
「そういえば……。文字が読める機械……あったかしら」
 考えても思い出せないようで、まずは話し合いを優先することにしたらしい。
「どこか気になるところはある?」
「はい。どうやって森に入るかもそうですが……やはり子供達の住むところ、でしょうか。確実に安全という所はありますか?」
「ここの周辺なら、比較的……他に大きな建物は……」
「このまんげつ造を子供達の家にすることはできませんか?」
「……あ」
 切菜は多少間抜けとも言える声を出した。
「そうね。ここで特に問題ないと思うわ」
 相談を続けながら、玲蘭は内心で苦笑した。
(子供は放っておけないし……。お人好しよね)

☆★☆★☆★☆彡


 話し合いが終わり、切菜は珍しく敬語で召喚者達に言った。
「では……これからどうぞよろしくお願いします」
「任せたまえ。これでも私は復興のプロ、つまり君達にとってはSSレアの召喚者だ」
 ドクター・Dが茶目っ気を含ませて復興を請け負う。
「政治と暗躍ならお手の物だ。戦う事はあまり出来ないがね」

「あの……」
 まどかがリビングに来たのはその時だった。エプロンをつけた彼女は、嬉しそうに言う。
「料理が出来たよ。子供達と一緒に食べない?」
 この場に、彼女の提案に反対する者はいなかった。
 リビングを出た召喚者達は、キャンプの時に外でカレーを食べる時のように、子供達と共にまどかの作った料理に舌鼓を打った。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<あとがきマスターコメント>

皆さま、ご参加ありがとうございました。
結構な長さになってしまったリアクションを読んでいただいてありがとうございます。←(読むと決めつけ)

とりあえず、バレンタインに間に合ってほっとしています。
バレンタインと言えば、なぜ祝日ではなく平日なのだろうと解せぬのですが、平日だからこそ生まれるものもあるのでしょうね。
そして、このリアクションがささやかなバレンタインチョコとなることを願って。

次のシナリオもなるべく早く出したいと思います。
その時はよろしくお願いいたします。
――――――――――――――――――――――――――――――――

<定員> なし
<参加締め切り> 1月31日23時
<アクション締め切り> 2月4日23時
<リアクション公開予定日> バレンタイン

<参加者>
刀神 大和
織主桐夏
ヴォルク
ドクター・D
佳波 まどか
リンヴォイ・レンフィールド
公 玲蘭
源ハジメ
アヅキ・バル
セドリック・イレヴンス
ネルネ・ルネールネ
フォックストロット
ミーティア・アルビレオ
霜北 凪

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  1. 2018/02/14(水) 14:11:00|
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