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【レアシナリオ】召喚者達の選択

召喚者達の選択


マスター:沢樹一海




 
 漫月造の研究室で、朝比奈愛依は改造を終えた召喚者ガチャを見上げていた。
「……これで、皆を元の世界に帰すことができるんだ……」
 目標を達成したにも関わらず、彼女の表情は明るくなかった。試行錯誤してみたものの、召喚者達が帰還先から漫月に再訪する機能はつけられなかったのだ。
(やっぱり、双方にガチャがないと、そもそもの通り道が作れない……)
 目を閉じて心を落ち着けること数秒――瞼を開けた愛依はスマートフォンを操作した。メール画面を開き、召喚者ガチャが完成した旨を入力していく――

☆★☆★☆★☆彡


「家に帰れる……」
 漫月造のとある部屋でパソコン作業をしていた緒方 唯我は、スマートフォンを見て驚きと困惑を含んだ声を出した。
(でも、戻ってこられないんだ……)
 そうなるであろうことは今までに届いたメールや愛依に聞いた話から察していた。しかし、もう揺らがない結果として報告されると心が重くなった。
「帰るの?」
 正面でキーボード操作をしていた夜桜 切菜が声を掛けてくる。いつも通りの口調と表情で、何を思っているのかは読み取れない。
「僕は……」
 唯我は一瞬言い淀んだが、長くは迷わなかった。
「まだ帰りません。ここに来た頃、僕は何をすればいいか分かりませんでした。大人と言っても、復興に役立つような知識も、魔物と戦える強さも持ってなかったし……。でも、今は毎日忙しくてやることがたくさんあるのが楽しくて……だから、まだ帰りません」
 自分が今やっていることは、自分だけができることではない。だから、気負っているわけではない。
「もうちょっと、この世界に居ようと思います」
「そう……。じゃあ、これからもよろしくね」
 肩の力を抜いたように姿勢を崩し、切菜は微笑んだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――

<マスターコメント>

こちら、メインシナリオ最後のガイドとなります。
召喚者達が故郷に戻ることが出来るようになりました。とはいえ、まだ帰らずに漫月に残る召喚者もいると思います。その為、今回は↓

・故郷に帰る前の召喚者

の他にも、

・これからの召喚者

についてのアクションもかけられます。また、

・故郷に帰った後の召喚者

というアクションも可能です。
基本的にはメインとできるテーマは一つですが、ダブルアクションによりメインテーマを二つまで選べます。テーマは上記以外のものでも構いません。
自分の中での「最終回」となるアクションをお待ちしています。「故郷に帰った後の召喚者」に関しては、今回の時間軸ではなく、「いつかの未来」に帰還した時のアクションも可能です。

「いつかの未来」に関してのみ、プライベートシナリオとしても受け付けます。
プライベートシナリオはこのシナリオとは別扱い(別記事)となりますが、ご希望の方は
http://rosuoru.blog.fc2.com/blog-entry-53.html
上記を参考にご参加ください。こちらのご参加は8月15日まで受け付けます。

以上となります。よろしくお願いいたします。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<リアクション>

 夏のある日――

 1

 故郷に帰れるようになった、と連絡があったが、上野木 幸蔵の心は乱れなかった。帰らない、と彼は決めていたからだ。
 故に、幸蔵にとってはこの日もいつもと変わらず復興活動に精を出していた。
(まだ為すべき事はあるし、個々の事件では任務を果たした。だが、某は何かを成し遂げられたと思えるほどの事はまだしておらぬ)
 そして、そういうのは今わの際に振り返って結論を出すものだとも思う。
 ということは、その時が来るまで幸蔵は漫月で日々を過ごすのだ。
「とりあえず、水車を動力として動かせるようにしないとな」
 幸蔵は水車小屋へと入っていく。これを終えたらどうしようかと、彼は既に次の動きについて考えていた。
「どこで何が不足しているのか……聞き込みで調べていくとするか」
 足を使うのは得意だ。物資でも人でも、足りないところを調べてそこで尽力する。
 そして、子供達の笑顔を増やしていくのだ――

☆★☆★☆★☆彡


「元の世界に帰れる……のですか?」
 時たま届くメールで、その準備が進められているのは知っていた。だが、本当に帰れる日が来た今、公 玲蘭は困惑した。
「この世界に来た時に、私は戻れないか。と聞きましたが……」
 戻れないと聞き、仕方ないと平静を装いながらも目を泳がせた――あの時と同じように、彼女は視線を定めることができなかった。あんなに帰りたいと思っていたのに、脳裏に浮かんでくるのは漫月での情景が殆どだった。
「……元の世界では私が育った孤児院に恩返しとして仕送りをしてました、けど……」
 今、玲蘭に呼びかけてくるのは、故郷の子供達の声よりも漫月の子供達の声だった。
(玲蘭さん……)
 愛依は、彼女の迷いを察していた。それが『どちら』に対してなのかも、何となく分かる。自分の中の正直な部分が、嬉しいという感情を伝えてくる。しかし、愛依はその感情に素直になれなかった。
「…………いえ」
 逡巡の末、玲蘭は愛依と向き合った。
「漫月に残ります。貴方達の行く末……。見守らせて貰います」
「……そうか」
 安堵したものの、愛依はその気持ちを表には出さなかった。唇を引き結び、彼女の選択に短く答える。
「それに……、うん。愛依さん達の子供の顔も、見たいですからね」
「私達の子供……? えーと……私の方は期待できないかもしれないが……」
 雰囲気を和らげる為の冗談めかした玲蘭の台詞に、愛依ははにかむ。言葉と表情がかみ合っていないような気がしたが、やっと浮かんだ笑顔を前に、玲蘭も微笑んだ。だが、その心にあるのは決して望ましいとは言えない光景だ。
(この世界で過ごした時間と同じだけ、あの世界でも時間が過ぎてるなら……)
 あの世界は、治安が悪かったから孤児院は無くなっているかもしれない。
 だが、その推測は話さないでおいた。愛依達が良い悪い、という話ではない。
(彼女らは生きる為に必要な事をした、それだけの話です)
 この世界に残るなら、私は保護者代わりになり、同時に母親代わりになろう。
 漫月の住民として……。

 2

 会う時に日常的に使うようになった愛依の部屋を訪れると、ミーティア・アルビレオは明るく言った。
「愛依ちゃん、召喚ガチャ、完成したんだってぇ? お疲れさま、だねぇ~」
「うん、そうだね……」
 愛依は、普段着に身を包んでいた。白いセーターに赤いスカート、もこもこのルームソックスという格好でベッドに座っている。何をしていたわけでもないらしい。
「……なんだか、浮かない顔してるけどぉ……どうかしたぁ?」
 ミーティアが持っているものをちらりと見て僅かに微笑むと、愛依は話す。
「完成はしたけど、戻ったらもう漫月には来れない。往復できれば、どちらかを選ぶ必要も、諦める必要も無かった」
 愛依が思い浮かべていたのは、先程の玲蘭の様子だった。漫月を選んでくれた彼女は、何かを切り捨てたような表情をしていた。
「あぁ……こっちにまた来れるようにする機能はぁ、つけれなかったんだぁ」
 ミーティアの顔が少し真面目なものになった。それが何を意味するのか解ったからだろう。
「私の力が足りなかったから……」
 隣に座ったミーティアは天井のライトを見ながら足をぶらつかせた。
「私は前にも言ったけどぉ……元の世界にぃ、戻る気は……ないからぁ、いいんだけど……他の人はぁ、そうじゃないもんねぇ」
「うん……」
 俯いた愛依の声は、沈んでいる。
「召喚者が戻った先にも召喚者ガチャを置けないと、往復は難しい。でも、その方法が思いつかないんだ……」
 正しく言えば、『現実的』な方法が思いつかない。愛依が召喚者達と一緒にガチャを通って異世界に行き、新しいガチャを造るという方法はある。だが、実際に造れるかどうかは不明であり、可能であってもひとつにつき1年以上は掛かる。全てを造るには20年以上掛かるだろう。
「ん~…………召喚ガチャの造り方、みたいなのを……何かにまとめて、帰る人たちに渡したらどうかなぁ~」
「……!」
 盲点だった。どうして思いつかなかったのか。
「材料とか動力の問題とかもぉ、あるだろうけどぉ……全く同じものは造れなくてもぉ……似たようなものなら、造れるかもだよぉ~」
「そうだね、専門職の方なら、あるいは……」
「さてと、小難しいお話は置いといてぇ~」
 少しばかりの希望が見え、愛依が笑顔になったところでミーティアは話題を変えた。
「せっかく、装置も完成してひと段落ついたんだし……二人でぇ、お祝いでもしよっかぁ。ケーキ、持ってきたんだぁ~」
 脇に置いていたケーキの箱をテーブルに移し、蓋を開ける。中には、オーソドックスなショートケーキが入っていた。こうしたデザートが作れるようになったのも召喚者達のおかげだ。ケーキを見ていると、自然と気分が上がってくる。
「ありがとう、甘いもの、欲しかったんだ」
「一緒に食べよぉ~」
 頷き、2人でティータイムの準備をする。可愛らしい茶器を選び、お湯を沸かしている間に飲み物を用意する。
「ブロッサムティーがいいかなぁ~?」
「うん、ケーキに良く合うしね」
 ブロッサムティーは、花の香りもそうだが若干ある塩気が愛依は好きだった。甘い物にはちょうどいい。
 支度が終わってテーブルに落ち着くと、2人は早速フォークを取った。
「……そういえば……2人きり、だねぇ~」
「え? あ、うん」
 初めて2人でこのお茶を飲んだ時から、この部屋で会う頻度は増えていた。だが、改めてそう言われると――それっぽい雰囲気が濃くなった気がしてちょっと背筋が伸びる。
「もっと……私にぃ、甘えていいからねぇ~」
 ミーティアは嬉しそうだ。単純に考えると誘惑されているように見えるが、彼女は友人としても同じことを言う気がする。自分は――
「いつの間にか、ただの私に戻る方法を忘れちゃった気がするな……」
 うんうん、とミーティアは話を聞いてくれる。こういった告白も甘えることの一つだが、愛依は気付いていなかった。
「愛依ちゃんはずっと、頑張ってたからねぇ。でも、プライベートな時間にはもっと力を抜いていいんだよぉ。好きな人に甘えてもらえるのって……うれしいしねぇ~」
「う、うん……」
「前にも言ったけどぉ……愛依ちゃんの事ぉ、愛してるからねぇ~」
『好きな人』と言った後から挙動不審になっていた愛依は『愛してる』と聞いて苺にフォークを刺し損ねた。
「幸せにしてあげたいし……一緒に幸せになりたいんだよぉ~」
「あ、わ、私は……」
 愛依は口をぱくぱくさせている。何とか、今の気持ちを言葉にしようとしているらしい。それが、ミーティアにはとても愛しく見えた。
「うん、すぐに返事をもらいたいわけじゃないからねぇ。愛依ちゃんに好きになってもらえるように……私はぁ、がんばるんだよぉ」
 彼女を安心させるように言って、ミーティアは気楽な笑みを浮かべた。
「ありがとう……。好きになってくれて」

 3

 そして、それぞれの故郷に戻る日が訪れた。無論、ガチャはこれから任意の時に使用できる。だが、初日の今日に出発する者は、同時刻に集まることになっている。
 木々に囲まれた一軒家を、毎日寝泊まりしていた家を、アヅキ・バルは見詰めていた。
(漫月とも今日でお別れか……)
 アヅキが元いた世界にガチャはなく、一度戻れば二度と漫月に来ることはできない。それでも、自分は帰らないといけない。
「我が家同然に馴染んでいた家ともお別れだね。ここにまた誰かが住むことはあるのかな?」
 自分が居なくなった後のこの家を想像する。初めて来た時は人の温もりが完全に消え、冷え冷えとしていた家もアヅキが住み始めたことで生き返ったような感じがした。それがまた、ただの無機質な存在になってしまうのは寂しい気がする。だが――
「うん、きっとある」
 アヅキは確信を瞳に宿した。世界は、復興に向かって歩み始めているから。
「これは、元の場所に戻しておこう」
 荷物に入れていたバールのようなものを持って庭の物置に行き、様々な場で活躍してくれた道具をしまう。
 ある時は工具、ある時は打撃武器、またある時は投擲武器として助けてくれた。
 結局、この道具の正式名称は判らなかったけれど――
「いままでありがとうね、バールのようなもの」
 バールのようなものは、やっぱりバールのようなものなのだ。

☆★☆★☆★☆彡


「はい、行くよー!」
 腕をピンと伸ばしてスマートフォンを自分に向けて、2人の少年少女とほぼくっついた状態の佳波 まどかはシャッターをタッチした。
「ありがとう! じゃあメールで送るね!」
 少年少女に今の写真を送ると、次はおにぎりを頬張っている7歳の男の子と写真を撮る。今度は、けんちん汁を食べている4人組と――
(ここでの思い出をたくさん残そう)
 故郷に帰るか、帰らないか。
 迷い続けたままだったけれど、どちらにしろ後悔しないように、まどかは仲良くなった子供達と写真を撮りまくった。結論が出たのは、それをプリントして見ていた時で――
(紙も、前よりは使えるようになったかな)
 そんなことを考えながら、まどかは“紙”を載せた机に向かった。

☆★☆★☆★☆彡


「私も、一緒にお見送りするよぉ~」
 そして迎えた召喚者ガチャを起動させる日、ミーティアは皆の見送りに来ていた。彼女が提案したガチャの開発方法をまとめたファイルは既に帰郷希望者に渡してある。
「お見送りされる側じゃなくてぇ……お見送りする側ねぇ~」
 ミーティアが笑いかけると、愛依はうん、と頷いた。そこに申し訳なさはない。
「でも、意外に戻る人、少ないんだねぇ~」
 ガチャのある部屋には、アヅキと霜北 凪、まどか、織主桐夏だった。だが、桐夏も見送りであって、ガチャを使いに来たのではない。
「まだまだこの世界を旅したいからな!」
「俺様は帰るぞ! ここへ来て健康になりすぎちまったからな!」
 凪が宣言すると、冨樫 慶太と屍蔵 聖はそれぞれ離れた場所から半眼で言った。
「そうか。元気でな、おじさん」
「戻って来れないんだよね、心底ほっとしたよ」
 全く名残惜しそうではない2人に、凪は全くめげずに指を突き付ける。
「お前ら! どうしていつでもどこでも仲がいいんだ!?」
「はぁ!?」
「仲がいいとかじゃなくて、凪に呼ばれただけだからね」
 慶太は何を言っているんだと怒り、聖は冷静に訂正した。だが、そんな2人の様子をどこ吹く風に、凪は続ける。
「あと、どっちも課題解決して、もしかして俺様が立ち入る余地もない?」
「アヅキさん、まどかさん……先に行くか? 実は、2人と彼の帰る世界は同じなんだ。到着地点は違うがな」
「そうなんですか? 私は待ってても構いませんが……」
「あ、あのね愛依ちゃん、ちょっと相談が……」
 凪が慶太と聖をげんなりさせている間に、珍しく呆れたような顔をした愛依がアヅキとまどかと話を始める。
「相談……何だ?」
「えっと、このガチャで人以外のものって送れる? ……たとえば手紙とか」
「手紙……?」
 まどかが何を考えているか察したようで、愛依は表情を曇らせた。
「人以外を送るのは論理的には可能だと思う。到着地点は“召喚者がその時に居た場所”になるが……」
「え、そ、そうなの?」
「ああ、でも、手紙だと……」
 愛依は申し訳なさそうに言った。ガチャを通った先に誰も居なければ、手紙が目的の人物に届かない可能性は高い。そして、彼女は故郷に帰る仕組みについて説明してくれた。漫月に来た時のルートを解析、数値化して到着地点を割り出し、そこに帰れるようにした。
「到着地点からの正確な距離が分かれば、目的に近い場所に届けられるかもしれないが……」
「え、場所が分かればいいの?」
 まどかは比較的家の近くから漫月に来た。それならば、何とかなるかもしれない。
「それでも、道端や草むらに着いてしまうことも十分に考えられる」
「あ、だったら、私がポストに入れましょうか?」
 そこで、アヅキが申し出た。同じ故郷に戻るのなら、ポストに入れれば確実に届く。
「それはありがたいけど……いいの?」
「うん。ついでだからね」
 まどかは彼女に切手代と手紙を渡す。その頃には凪の弾丸トークも終わりを告げようとしていた。彼は帰郷の理由を滔々と語っている。
「……更に漫月で医学を学んでわかった、みんな意識高い、健康面で」
 さめざめと凪は泣くふりをする。コメントはしなかったが、それはそうだろうなと慶太は思う。病気に因って、この国は滅びの道を辿ろうとした。皆、病気には敏感だし、予防意識は高い。心構えだけではどうにもならなかった昔と違い、環境も少しずつ良くなってきている。
「そして時間の経過とともに、物理的な面で、酒やタバコのようなオトナのお楽しみが補給切れになっちまう漫月は、退廃の国から堕落を広めにやってきた俺様には住みづらい」
 嗜好品はしばらくしたら製造を始める元子供達が出てくるだろう。酒類は料理にも使うということで、見よう見まねながら、もう研究は進みだしている。
 だが、聖は黙っていた。凪が語る帰郷の理由は真実だろうが、それが全てとも限らない。真面目な理由もあるだろう、多分。
(帰りたいなら帰ればいいよ)
 100%帰ってほしいと思っていないのが自分としては意外だったが、名残惜しさはない。
「規則正しい生活や肉体労働を経て健康的になっちまった俺様、キャラのアイデンティティーが揺らいでいるぞ揺らいでいるぞ」
 うざ演説をしていた凪は、次に愛依達女子に超高速接近してくる。
「あー、ねーちゃん口説きたい。ナンパしたい」
「そう。じゃあさっさと帰ればいいわ。愛依」
 冷たい目で切菜が言い、愛依が素早くコンソールを操作する。ガチャの入口が異空間に繋がった。
「慶太くん! ひじりん! 結婚式には絶対出るから呼んでくれ!」
「はよ行け!」
「がぅう!」
 とんでもない事を言われて怒りと拒絶感がピークに達した慶太と、つい狼に変身してしまった聖が、青空にキメようとしたが屋内だったので天井にキメポーズを取った凪にタックルする。
「NOOOO!」
 ポーズ姿のまま、そして腕をガチャに強打しながら、凪は異空間に消えていった。
「あっ!!」
「どうしたの? 愛依」
 大きな声を出した愛依に皆が注目する。脱げた服が床に落ちてしまっている為、聖は狼の姿のままだ。
「腕がぶつかった時に数値が変わった。彼は……同一世界ながら来た時とは別の場所に飛ばされてしまった」
「……何だ、そんなことか」
「大したことじゃないわね」
「ぐる」
「……ひどいな、お前達」
 愛依が珍しく突っ込みを入れ、アヅキがガチャの前に立つ。
「次は、私ですね」
「これで、お別れかぁ~。でも……もしかしたら、また会えるかもしれないし……」
 ミーティアはアヅキの持つ分厚いファイルをちらりと見て、いつもと変わらない気負わない笑みで言った。
「それじゃ、またね~」
「またなー。どこかで会おうぜ」
 桐夏も空気を読んで軽い調子で言う。アヅキがファイルの中身を活用できれば漫月でまた会えるかもしれない。それに、実を言えば彼も彼女達と同じ世界からやってきたのだ。もしいつか帰還したら、その時に会えるだろう。
「はい、また」
 放課後の別れのように気楽に挨拶し、アヅキはガチャの中に入り、消えた。まどかの書いた手紙と共に。
(お父さん、お兄ちゃん……さよなら)
 まどかはちょっと涙を浮かべ、それを拭うと愛依達の方を向いた。とびきりの笑顔を浮かべる。
「改めて、よろしくね!」
「よろしくぅ~」
「よろしくな!」
 ミーティアと桐夏は、“帰ってきた”まどかを暖かく迎えた。

 4 

 解散後、桐夏は家に帰って粛々と遠出の準備を始めた。皆にこれからもよろしくと言ったのは嘘ではない。幸いにもネット環境が充実しているこの世界では、いつでもネット通話が出来るし連絡も取れる。
(ネット回線が整ってない国もあるだろうけどな)
 水に食料、寝袋、野宿に使う物と武器、この世界に来てから自分達がやってきた事をまとめたノートと『異世界チート大全』と、オススメクソ作品達等を大きなリュックやトランクに詰めていく。
「……あまり嵩張らないレベルで、持っていける物は持っていこう」
 家の中にあった必要なものを詰めると、桐夏はそれを携えて外に出た。

「はい! これでいい?」
「ばっちりだ!」
 最近は、自分の得意分野で自主的に店を出す子供も増えてきた。街自体がフリーマーケットの会場のようなものだ。そんな店のひとつで足りない物を調達する。この辺りの子供達とはもうすっかり顔馴染みで、店主の少年は桐夏の大荷物を見て訊ねてきた。
「どっか行くの?」
「そうだな、ちょっとこの世界を旅してくる」
「世界を!?」
 少年はびっくりして目を丸くした。『世界』ということは外国を含めたどこかへ行くということだ。
「そんなこと、出来るの!?」
「探せば、何かしら方法はある筈だ」
「世界にクソ作品を探しに行くのか!?」
「それもあるが、召喚者達が元の世界に帰れるようになったのはいいことだが、残される現地民は不安よな。織主、動きます」
「???」
 少年の声が大きかったせいか、周囲に子供達が集まってきていた。その中には、たまたま外にいた切菜の姿もあった。
「それ、あなたの世界であった時事ネタよね。子供達には解らないでしょう。それに、盛り上がりはそこがピークで、あとは有耶無耶になって話題にならなくなったって聞いたけど?」
「俺は有耶無耶にはしないさ。安心しろ」
 桐夏は胸を張った。
「で、どっか行くの?」
「ああ。漫月をはじめとした俺達が交流した場所はある程度安定したとはいえ、他の地域がそうとは限らん。もしかしたら結構やばい地域だってあるはずだ」
 そうした地域にも、自分達の持っている知識等が役立つ筈だ。と言うと、切菜と少年達は驚きを顔いっぱいに現していた。
「お兄ちゃんが、まともなこと言ってる……」
「初めて見たわ」
 なかなかにひどい。しかし、桐夏はそれを誉め言葉と受け取った。実際、彼にとっては立派な誉め言葉だ。
「それに俺がこの世界でやりたかった事は、この世界のクソ作品を見たいってのと、そんなクソ作品を使ってこの世界を大いに復興する……『クソ作品から始める異世界復興大作戦』のためだ。それを成し遂げない限り、元の世界に帰るわけにはいかんでしょ」
「……やっぱり、いつものお兄ちゃんだ」
「通常運行ね」
 切菜と少年達はほっとしたようだった。その上で、切菜は口の端に笑みを乗せている。内心で、桐夏は思う。
(……なんて最もらしい事を言ったが)
 後半は一般的には最もらしくないのだが。
(ぶっちゃけ異世界来たのにチートも無双も現地の女の子と素敵なラブロマンスもしてないんじゃ、ちょっと味気なさすぎだろって話だ)
 身も蓋もない。
 そして、その身も蓋もないこと他諸々の為に、漫月を離れて危険生物が跳梁跋扈する場所を旅するのは危険だというのも分かっていた。
(ワンチャン、道中死ぬかもしれない)
 だが、異世界を旅するってのはそういう事だし、危険を侵さねばその先にある未知のクソ作品という宝は手に入らないから仕方ない。
「当面は今まで世話になった奴らがいる街を巡りつつ各地を放浪するが、ゆくゆくはこの国を巡り終え、それが終わったら……世界へ旅立つ!」
 そう宣言する頃には、愛依や慶太、聖や緒方 唯我も集まっていた。
「そして……やるべき事が終わったらまたここに戻ってくる。その時は、またクソ作品を語り明かそう……!」
「うん、待ってるよー!」
「僕達もクソ作品を発掘しておくよ!」
「むしろ、作っちゃったりして!」
 帰ってくる頃には、漫月にコミケ文化が花開いているかもしれない。桐夏は大きく頷くと、拳を上げた。どこかの海賊漫画のシーンのように。

「では俺は出発する……さぁ、俺の異世界冒険は、ここからだ!」

 5

「ただいま私の世界……」
 アヅキは故郷の地球に戻ると、良く知った道を歩いてその辺のコンビニに向かった。切手を買ってそれを貼ると、日本国内某所に向けて手紙をポストに投函する。彼女は知らないことだが、まどかは手紙に漫月での生活をありのままに書いていた。信じてもらえるように辻褄を合わせようと思ったけれど。
 嘘くさくなってしまうし、これは、本当のことだから。

 ――机に向かい、まどかは手紙をしたためる。まず、自分が突然異世界に行ってしまった事について。
(本当はガチャで誘拐されたようなものだけど、それは黙っておこう……)
 苦笑いしながら、漫月側が帰る為のたった一度のチャンスを作ってくれた事、迷った結果、自分で残ると決めた事等を書いていく。
『異世界に行っても救世主になれたわけじゃないけど、お父さんたちみたいに、作ったごはんを美味しいと言ってくれる人達に出会えたよ。

 私もみんなに喜んでもらうごはんを作りたいと思ったんだ。
 特殊な能力は目覚めなかったけど、野菜作ったり牛の世話とかはできるようになったよ。

 お父さんもお兄ちゃんも身体にはきをつけてね。
 お父さん、ちゃんと休肝日つくってよ。
 お兄ちゃんもちゃんと洗濯物はだしてね、こっちきて分かったけど5歳の子だってできるんだよ、男だからって言い訳はなーし! ……あ、話がずれた。でもこっちの世界でも頑張ってみるよだから心配しないで』

 最後に、まどかは撮りためた写真を封筒に入れた。ポストに入れた翌日に、手紙は父と兄の手元に届いた。

☆★☆★☆★☆彡


「ただいま、私の家……」
 子供の頃から過ごした家の前で、アヅキは感慨にふけっていた。そして、すぐに元気な笑顔を作り、玄関ドアに手をかける。
「ただいま、皆! ……って、開かない。鍵かかってる!?」
 びっくりした勢いでチャイムを押し、しばらく待ってみるが反応はない。
(ちょ、行方不明になった家族が戻ってきたのに留守とか……)
 ここは、驚きつつも皆でアヅキの帰りを喜ぶ感動のシーンになるところだろう――と若干早口で考える。
(いや、待って、落ち着こう、私)
 ――今日は何日?
 ――セミが煩い。
 ――途中の公園で、小学生と思しき子供達が携帯ゲーム機でマルチプレイをやっていた。
 ――つまり学校は休み、夏休み中……
(家族で旅行かお母さんの実家に帰省しているという線もありえるかな)
 と、玄関ドアの前で思っていると、「アヅキ!?」という声が聞こえた。
(兄ちゃん!?)
 急いで振り返るが、そこには誰の姿もなかった。慌てて踵を返したのであろう兄が両親に掛ける声がする。
「母さん父さん、大変、アヅキ生きてた」
「ええっ!?」
「いきなり何を言ってるんだ」
「ほら、こっちこっち!」
 立ち尽くしたまま家族の声を聞いているうちに、裏庭の方から焦った表情の兄が来る。続けざまに母と父が顔を見せた。
「嘘でしょ……触れる? すり抜けない?」
「……馬鹿な、お前は死んだはずだ」
「なに、その驚き方……地味に傷つく。というか皆、裏庭にいたのね」
 幽霊を見た、みたいな反応に緊張が吹き飛ぶ。だが、まあ余計な力が抜けて良かったかもしれない。
「バーベキューの準備をしてたのよ」
「一緒に食うか。……おかえり、アヅキ」
「……ただいま」
 色々と言う事を考えていたのに、家族の顔を見たら、何かもう、全部忘れてしまった。
「皆、心配かけてごめんね」
 ――でも、兄ちゃんは後で殴る。

☆★☆★☆★☆彡


 そしてその頃、凪は――
「時空を『難破』させてくれとは言ってねえ!!」
 戻ると思っていた歌舞伎町ではなく。
 ユーラシア大陸の大草原の真ん中で、1人孤独に叫んでいた。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<マスターコメント>

大変お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。リアクションをお届けいたします。
真夏に受け取ったアクションのお返しが真冬になったということで、
皆様からいただいた時事ネタが若干(ではなく)フレッシュではなくなってしまいました……。リアクションの世界の中では時系列的なものはごまかせたと思うのですが……。


そして、こちらのリアクションで、lost oldの運営を全終了させていただきます。
参加していただいたマスターさんやILさん、プレイヤーさんに多々ご迷惑をお掛けした運営だったと思います。
学んだこととしては、『運営は(特に筆の遅い運営は)リアクション書いちゃダメ』ということでしょうか……。
多分、これがぐだぐだになってしまった原因の大半を占めているのではないかと思います。
各PBWで運営さんが執筆していない理由がよくわかりました。いえ、私の知っている運営さんは皆筆が早いですが。
もし今度どこかでリアクションを書くことがあったら、運営さん書かせて! といちマスターとして書かせてもらうことになるでしょう。


さて、今後についてですが。
こちらのサイト、Jindoのサイトは残しておこうかと考えています。
更新はよほどのことが無い限りありません。
Twitterの方は今年中に削除いたします。
NPCは……
割とお気に入りなので、どこかのオリジナル小説に似たキャラが出ることはあるかもしれません。


末筆として。
これまでご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<定員> なし
<アクション受付> 8月5日23時~
<参加締め切り> 8月9日12時
<アクション締め切り> 8月11日23時
<リアクション公開予定日> 8月31日
<リアクション公開日> 12月3日

<参加者>
アヅキ・バル
上野木 幸蔵
佳波まどか
ミーティア・アルビレオ
織主桐夏
霜北 凪
公 玲蘭
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  1. 2019/08/03(土) 12:00:00|
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