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【レアシナリオ】悲劇の再来を防ぐために

悲劇の再来を防ぐために


マスター:沢樹一海




 
 大人が死に絶えたパンデミックの原因となったワクチンは、タナトウィルス硬化症という病気を治す為のものだった。この病気は――
「今も消えたわけではない。未成年だけになってからも、ウィルスに罹って亡くなった子供は存在する。治す手段が無い以上はどうしようもないと、何の対策もしてこなかった……」
 一旦解散して召喚者達を帰した後、ソファに座った朝比奈 愛依は僅かに俯き、声を低めて言った。それを聞き、冨樫 慶太も下を向く。
「俺に出来るのは遺体を灰にして埋葬することだけだった。……でも、治す手段が無いのは今でも変わらないよな。研究所に行ったって……って、何考えてんだ?」
 先程、タナトウィルス硬化症のワクチンを開発した、葉刈県にある真田製薬研究所に調査に行くことが決定した。将来ワクチンの再開発が行われた時にパンデミックの原因となったワクチンと同じものが出来ないように、製造法を調べて皆に周知しようということで決まったことだ。新しい治療法をその場で見つけるのは難しいだろう。
 しかし、愛依の表情には後悔が滲んでいるように見えた。
「まるで、治す手段があったのにほっといた、みたいな顔だな」
「治す手段は無い。だが、それを探そうと行動を起こすことは出来たんじゃないかと思ってな……」
「「無理でしょ」」
 夜桜 切菜屍蔵 聖が同時に言った。2人は顔を見合わせてから、切菜が先に口を開いた。
「生活を整えることに追われる毎日の中、知識も乏しい子供だけで病気を治す方法を探すなんてできなかったわよ」
「ワクチンの資料を探すくらいなら、知識関係ないから出来たかもしれないけどね」
「…………」
 愛依は俯いたままだったが、やがて頷いた。
「……そうだな。今は出来ることをしよう。葉刈県の現状を確認し、出発の準備をしよう」

☆★☆★☆★☆彡


 葉刈県は、農地や森が多い場所だ。景観を保つ為に建物の高さは決められていて、高層ビルは存在しない。真田製薬研究所はそこの中央付近にあった。周囲500メートルは研究所の土地だが、寮が建っている他には芝が敷き詰められているだけで何もない。人の姿はどこにもなく、代わりに居るのは魔物達だった。様々な種の、統一性皆無の魔物達が暮らしている。彼等は敷地内に子供達が近付くと襲いかかり――
「あーびっくりした。ここの魔物が安全だなんて嘘じゃんか。本当だったら」
「で、でも兄ちゃん……」
「ん?」
「僕達、一度も攻撃されてないよ……?」
 ――特に攻撃はしなかった。

 そして、研究所内では――
「……もう少し……もう少しで完成する……早くしないと、いつか……」
 白いひげを蓄えた老人が、使用中の化学器材の前で声を絞り出していた。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<マスターコメント>

パンデミックを二度と起こさないようにする為に、ワクチンを開発した製薬会社の研究所に赴くことになりました。
現地までは車で行きます。研究所への突入方法はアクションによって変わります。

今回もダブルアクションOKといたしますので、最終回に向けて入れたいアクションがありましたら遠慮なくお書きください。

同行NPCはリアクションの内容によって変わります。もうちょっと役割がある筈だった聖君あたりは特に役割がないのでリストラされる可能性があります。

以上になります。
皆様のご参加とアクションをお待ちしております。


<リアクション>

 1 

 漫月造の会議室に集まった5人の召喚者は、朝比奈 愛依夜桜 切菜、冨樫 慶太から話を聞いて葉刈県の真田製薬研究所に調査に行くことを決めたようだった。
「ワクチンの情報の入手かぁ」
 ソファに座ったhref="http://rosuoru.blog.fc2.com/blog-entry-45.html" target="_blank" title="ミーティア・アルビレオ">ミーティア・アルビレオは話の内容を思い返しながら口を開いた。
「確かにぃ……同じことが、起きたら……いけないもんねぇ~。うん、おねーさんも……ついていきますよぉ~」
「ありがとう」
 愛依が微笑むと、彼女は真面目な顔で頷いた。
「一応、護身用に武器は……持っていくねぇ。愛依ちゃんに、何かあったら……いやだもん」
 穏やかに笑い、愛依と視線を合わせる。赤くなった彼女を前にまた笑うと、ミーティアは立ち上がった。
「早速用意してくるねぇ~」
 廊下に出て、住処にしているバーに向かう。閉まったドアと愛依を見比べ、切菜が首を傾げていると織主桐夏が訊ねてきた。
「葉刈県について調べてみたんだよな。何か判ったのか?」
「そうね……」
 切菜は表情を引き締めた。
「まず、パンデミック前に使われていた県内の役所とか学校の電話番号に掛けてみたんだけど、電話線が切れているのか繋がらなかったの。それで、次に衛星写真を確認してみたわ」
 そこから判明したのは、研究所が3階建てであり、周囲に様々な種族の魔物がうろついているということ。その少し先には人が住んでいるということだった。
「ただ、それぞれが住んでいる場所があまり離れてないのが気になるんだよな。あの程度の距離だったら襲われる可能性もあると思うんだけど……」
 難しい顔で慶太が言う。そこで、上野木 幸蔵が話に加わる。
「魔物か。某は護衛と人足を担当しよう」
「……そうか、ありがとう。よろしく頼む」
「頭を使った事や、現代科学的なことはできそうに無いからなぁ」
 愛依の真摯な顔の前で、幸蔵は相好を崩した。
(最近、御奉公できていなかったからな)
行く先の状況は分からないが、問題解決を阻害するような出来事があれば、何であれ一助になりたい。そう考えていると、アヅキ・バルも同行を宣言した。
「私も行きます。色々と気になることがありますから」
「俺様も行くぜ! 建物は3階なんだよな。ちょっと考えがあるから軽く準備してくるぜ。なーに、そんな待たせねえから」
 言うが否や、霜北 凪はドアノブに手を掛ける。
「分かった。皆も準備があるだろうし、じゃあ1時間後に広場に集合ってことにしようぜ。俺はマイクロバスを持ってくるよ」
 慶太が言い、一同は一旦解散した。

☆★☆★☆★☆彡


 約1時間後、皆はマイクロバスに乗り込んだ。バーから各種魔兵装と水晶ナイフを持ってきたミーティアは、窓の外を見ている愛依を見つけて立ち止まった。その横顔を前にちょっと首を傾げ、荷物を空いた席に置いて彼女の隣にすとんと座る。
「にへへ、お隣~」
「ミーティアさん……」
 こちらを向いた愛依は、きょとんとした顔で瞬きし、笑みを浮かべた。どことなく緩んだ、しょうがないなあという感じの笑みだ。
「ねぇねぇ、葉刈県までどのくらいかかるのかなぁ~」
「あ、えーと…………4時間くらいかな」
「4時間かぁ~、宇尾県よりかなり遠いねぇ~」
 脳裏に地図を思い浮かべつつ愛依が答えると、ミーティアは少し考えるような仕草をしてからおもむろに伸びをした。
「じゃあ、つくまではぁ……ゆっくり、してようよ~」
 ふぁぁ~、とあくびをすると、愛依の頭をぽんぽんと撫でる。
「う、うん……そうだね、やることもないし……」
「そうそう、やることもないしぃ~、リラックスして、一緒に休憩、休憩、だよぉ~」
「り、リラックス……? で、出来るかな……」
 それを聞いて、ミーティアはバスに乗った時に見た愛依の顔を思い出した。
「出来るよぉ~、何も考えないで、誰かと一緒にいるとほっとするよぉ。膝か肩、貸してあげるよぉ~」
「え、えと……」
 慌てた愛依は、頭の片隅に残っていた憂慮を一時忘れた。テンパりながら、ふと浮かんできたことを口に出す。
「じゃ、手を繋いでもいいかな……?」
「いいよぉ~。ひと眠り、しよぉ〜」
 繋いだ手をぎゅっと握り、背もたれに体を預けて目を閉じると、愛依は間もなく眠りについた。ミーティアも彼女の寝顔を見ているうちに眠ってしまった。
 それからしばらく――
 いつの間にか体が傾いた結果、愛依はミーティアの膝を枕にして寝息を立てていた。

 2

 目が覚めた時、愛依は状況が分からなかった。視界が横になっていて、柔らかい何かが枕に……つまり――
「……!」
 理解した瞬間に慌てて起きる。マイクロバスは、広い道路を走っていた。人影はなく、両側に高い壁があることから高速道路だろう。
「ここは……?」
「葉刈県直通の高速道路よ。もうすぐ県内に入るわ」
 前の席に座っている切菜が答えてくる。「そっか」と呟いて外を眺めている内にバスは一般道に出て、速度を緩めた。車道歩道を問わずに子供達が歩いていて、危なかったからだ。
 反射的に脇に避けた彼等は、顔を見合わせるとすぐに追いかけてきた。更に、バスの前方からも多くの子供達が現れて行く手を阻んだ。
「な、何だ?」
 慶太がブレーキを踏み、召喚者達は彼と同様に窓の外を注視した。子供達は皆、厳しい面持ちでこちらを見詰めている。
「ん~、よく寝たねぇ〜」
 空気が変わったのを感じたのか目を覚ましたミーティアが伸びをして、外を見てから首を傾げた。
「着いた……んじゃなさそうだねぇ~?」
「話を聞いてみましょうか。……攻撃してくるならバスにしているでしょうし多分安全だとは思うけれど……念の為、誰か一人にだけバスに乗ってもらいましょう」
 切菜が言うと、運転席の窓を開けた慶太がそれを子供達に伝え、程なくして一人が乗り込んできた。背中に剣を携えた、中学生くらいの少年だ。警戒心を持っていることが一目で分かる。
「あの、ここに何しに来たんですか? それに……」
 明らかに20歳を超えて見える召喚者達に不可解そうな目を向けてくる少年に、凪が言う。
「俺様達はパンデミックの後に別の世界から来た召喚者だ。だから大人なんだぜ!」
「べ、別の世界……?」
 少年は、どういうことか解らないという表情をしている、凪が更に説明すると、彼は純粋な驚きを見せた。
「そんなことが……」
「其方らを害しに来たわけではない。この県にある研究所を調べようと参った次第だ。パンデミックの原因となったワクチンの製造法を確認することになる」
 幸蔵が話し、その目的について召喚者達が補足する。全てを聞くと、少年は安心したようだった。
「そうですか……。俺達を襲いに来たんじゃないんですね……」
 肩の力を抜いたらしい彼は、警戒していた理由を話してくれた。葉刈県の生き残りの中には、真田製薬研究所の職員の子供も多い。その為、近隣の県から「お前達の親のせいだ」と強襲されたりしたらしい。
「幾つもの県が結託して、本気で俺達を潰そうとしてきたんです。その争いの音や声がうるさかったのか、研究所に居ついた魔物達が彼等を追い払いました。それから、外部の子供達が攻撃してくることは殆ど無くなりましたが、たまに遠くの県から乗り込んで来られたりもするので……それに、攻撃されることは少なくなりましたが、疎まれていることには変わりません」
 それが警戒していた理由のようだが、話の重さにバスの中は沈黙する。それぞれが思索を巡らせる中、桐夏が訊く。
「研究所の魔物は、それから葉刈県の子供達は襲ってこなかったのか?」
「はい。あれから一度も俺達を襲ってくることはありません。研究所の周囲から先に来ることもありませんし」
「そうか……」
 桐夏は考える。近場に人間が居るのにも関わらず襲わないということは、魔物達は子供達に害意を持っていないということになる。
(そんなに友好的な魔物が研究所の近くに……。妙だ。例えば魔物を大人しくさせる技術や薬が使われてるとか……)
クソ映画では騒動の元になる代物として登場するものだが、自分の仮設だけでは確証が持てない。
(皆の……鋭い意見と勘を持つ夜桜ちゃん辺りにも聞いてみるか)
 そう思った桐夏は、少年の前に立っている切菜に魔物が人を襲わない理由を訊いてみた。
「そうね……人殺しが嫌いな魔物達なのかもしれないわ。それか、人間の子供に無関心で殺す対象でもないとか……魔物が喋れれば直接教えてもらえるんだけど……」
「無関心ということは無いと思います。魔物達は、子供達が研究所に近付いたりすると、攻撃するような格好をして追いかけてくるんです」
「それって、襲ってきてるっていうのとは違うのかなぁ? 攻撃しようと追いかけてくるんだよねぇ~?」
 ミーティアが首を傾げると、少年は「それが……」と少し戸惑った顔になった。
「追いかけてはくるけど、実際に攻撃された子は今までいないんです……」
「…………」
 バスの中が再び沈黙に包まれる。しばらくして、それを破ったのはアヅキだった。
「魔物は子供達を威嚇して、逃がすか追い払うかしてるんじゃないでしょうか? それだけで、積極的に襲ってこないということは……そこに何者かの意識の介在を感じさせませんか?」
「……誰かに命令されているということか?」
 愛依の言葉に、アヅキは頷く。
「はい。子供達を研究所に入れないように追い払っているのだとすると、そうするように指示をしている存在がいる、または、いたはずです」
「……ふむ……」
「そこまでして護りたい何かが研究所にはあるのかもしれません。研究所に暮らしていた研究員の家族とか生き残りの子供達がいる可能性もありますよ」
「研究所に行けば、その誰かに会えるかもしれねえな。とにかく行ってみるか」
 慶太が言うと、電話で外の子供達と話をしていた少年が顔を上げた。
「皆さんの来訪理由を伝えました。俺達から邪魔をすることはありません。ただ、皆さんの行動によって魔物達が俺達を襲うようになると困るので、そうさせないと約束してください」
「……約束は出来ないが、善処しよう」
 少年は少し困ったような顔をしたが、「分かりました」と愛依に答えた。
「出来れば、研究所までのルートまでの地図があると助かるんだが、頼めるか?」
「あ、はい」
 桐夏に頼まれ、少年は地図を用意してくれた。それを元に、バスは研究所の近辺まで移動した。

 3

「研究所に到着~」
 研究所近くの森にマイクロバスを止めて全員が降りる。ミーティアは伸びをすると、気合を入れた。
「さて、それじゃ、がんばるよぉ~。愛依ちゃん、一緒にいこぉ~」
「うん。まずは研究所の中に入りたいけど……」
「中にも外にも魔物がいるねぇ。でも、攻撃してこないなら無視しても大丈夫かなぁ~。門は開いてるけど、研究所までは500メートルくらいあるんだよねぇ?」
「バスで突っ切るか? とはいえ、ぶっつけ本番は危ないし、魔物の反応を知りたいよな」
 慶太が門の方を見て顔を顰め、幸蔵も門の近くをうろうろしている魔物達を注視する。
「某が様子を見て来よう。安全かどうか、慎重に確かめる必要があろう」
 彼は門に近付いていく。和紙作りをする時に使っている鉈を持っているが、自分から攻撃するつもりはない。
(こちらから先に手を出すことで援軍を呼ばれて詰みそうになっても困る)
 門の側にいるのは、角が2本生えた2足歩行の馬みたいな魔物だった。手足には蹄ではなく爪が生えている。
(相手は4体か。子供達が無傷だったのは攻撃されていなかったからだろうが、追いかけて襲っていたのは事実。それが素振りだとしたら……)
 こちらが逃げなければ如何なる反応をするのか。幸蔵に気付いた魔物達は、腕を振り上げて迫ってきた。幸蔵が逃げずにいると、肉薄していた爪がぴたりと止まる。
「ブルル……?」
 困惑したように鳴く魔物達と幸蔵は、向かい合ったまま膠着する。やはり、人間を本気で攻撃する気はないらしい。
(和紙を掬う時の様に、良いタイミングをしっかり見極めれば……)
このまま魔物を引き付けられれば、その間に皆が門を通過出来るかもしれない――そう思っていると、森から慶太が駆けつけてきた。
「ブルッ!?」
 人数が増えても魔物達は攻撃してこなかった。隣に立った慶太が耳打ちしてくる。
「このまま門の脇に誘導して、正面が開いたところでバスを通過させる。俺達は……」
「了解した」
「……ブ、ブルルゥゥウ!」
「ブルゥ!」
 その時、何なんだお前らとでも言うように、魔物達が咆哮した。幸蔵と慶太は彼等の間をすり抜けて移動した。
「ブ、ブルルルルゥ!?」
 魔物達が追いかけてきた直後、バスが突っ込んできた。そのまま門を抜けたところで、幸蔵達は全力で走って敷地内に入り、追いつかれる前に門に閂をかけた。停止しているバスに急いで乗り込む。
「研究所まで一気に行くぜ!」
 運転席の凪が言い、バスが発進する。敷地内に居る魔物達が追いかけてきたが、それを無視してアクセルを踏み続ける。研究所の周囲を一周して、建物に窓が無いことを確認してから正面玄関の前に停車させた。その途端に、弓を持った魔物達から矢が放たれる。更に、追いついてきた魔物達もそれぞれに攻撃を加えてきた。
「これは、バスの中に居るより外に出た方が安全そうね」
 切菜が言い、破壊されつつあるバスから出る。ぴたりと攻撃が止まり、愛依は確信した。
「生身の人間に攻撃してこないのは確実なようだな……」
「これ以上……攻撃、してこない限りは……相手にしなくてもいいよねぇ」
 自分達を取り囲む魔物達を見ながらミーティアはのんびりとした口調で言う。しかし、一応魔兵装・ハンマーと水晶ナイフは持っている。
「愛依ちゃんへの攻撃はぁ……絶対に、だめ、だからねぇ」
 そして、言葉が通じているかどうかは不明だが、彼女の笑顔を前に魔物達は怯んだようだった。ミーティアは続けて、正面玄関のドアをハンマーで殴る。だが、ガラスにはひびさえも入らなかった。
「かなり分厚いねぇ~。これは割れないかもぉ?」
 凪を見てから皆に視線を巡らせると、皆も、そして凪も頷いた。街で少年から話を聞いた後、彼は皆に建物に侵入する策を説明していたのだ。
「窓も無く、入口からも入れないならそれしかなさそうです。じゃあ、一応魔物達の目を反らしておきますね。乱戦状態の方が気付かれにくいと思いますし」
 アヅキは本来の姿であるアラクニアンスタイルに戻り、格闘術で魔物達に攻撃する。攻撃されれば、流石に魔物達も反撃してきた。
「ガウガウガウッ」
「キイィィイ!」
 彼女達と慶太が戦うことで魔物の視線と意識を集中させる。その隙に、おんみつの能力を持った凪は魔兵装・スコップを手にダッシュした。ここまでが1秒。
 魔物に気付かれずにスコップを壁前の地面に突き立て、一気にジャンプする。2秒。
(ここだ!)
 スコップの柄を屋上まで伸ばし、着地。3秒。
 凪のシリアスモードが保たなくなった。屋上に魔物の姿はない。
「うっし! ロープを下ろすぜー!」
 真剣な顔からいつもの笑顔に戻った凪は、屋上からロープを垂らし、皆を1人ずつ引き上げていく。地上の魔物達が怒りの声を上げるが、こちらに危害を加えられない(多分)以上、彼等に成す術はなかった。
 そして、凪はバスの中で、こう話していた。

~~~~~~~~~~


「知ってるか、『おんみつ』と『あんみつ』は似てる。つまり、スイート、スイーテストハニーな俺様の出番だ!」
 窓から入れなかった場合にどうしようかと話している時に切り出すと、皆は「いきなり何を」という顔になった。
「まず、魔兵装・スコップの正しくない使い方を教えてやろう」
クエスチョンマークが飛び交うバス内で、凪は魔兵装・スコップを持って棒高跳びの要領で屋上に到達する方法を説明した。
「華麗なるあんみつ、いや、おんみつの俺様ならば研究所の壁でもらくらく越えられるし、ちょっとした建物の2階3階くらいの窓ガラスぶち破って飛び込むことも不可能ではない……という目算だ」
 痛いから出来れば屋上まで伝っていくほうがいいな、と思っていたら、そこまで高さがなく助かった。
「あとは引っ張り上げてやるから任せろ、潜入、なっ!」
 凪は白い歯を見せ、頼りがいのある笑顔を決めた。
「なお、あくまで華麗だ。あんみつだ(誤字)。スイーツだ。カレーではない。もちろん加齢臭でもない。俺様はまだ、認めたくないものだな老い故の以下略とか……」
「そういや、そのスコップって伸びるんだったな。一旦帰って持ってきたってことはあの時には思いついてたのか?」
 すっぱりと話を遮った慶太に、凪は即答した。
「それは言えない、明かせない」
 うかつに触れようものなら百トンハンマーを携えた天敵にしてすべての捕食者(育てて食べる的な意味で)の”彼女”が襲来するらしい。さっぱり分からず、慶太は首を傾げた。
「……誰だ? 召喚者じゃないよな?」
「あ、女といっても、天才ょぅι゛ょ科学者の朝比奈のことじゃないぞ」
「……私は百トンハンマーを持ったこともないし、ょ……ではなくようじょでもない」
 愛依は非常に不服そうだった。

~~~~~~~~~~


 ――という経緯があり、いざとなったらこうして研究所に入る予定になっていたのだ。
 屋上のドアを破り、1、2、3階を手分けして調べることにした。愛依とミーティア、アヅキは2階を探索しながら話をしていた。
「魔物は居ないみたいですね」
「うん、建物の構成から考えると外の魔物も入ってこないと思うし、この中は安全なのかな」
 アヅキと会話していた愛依は、手を繋いで歩くミーティアを見て微笑んだ。
「ミーティアさん、何か嬉しそうだね。さっきまであんなに緊迫したりしてたのに……」
 そう言ってはいるが、愛依には彼女がご機嫌な理由が解っていた。
「好きな人のそばにいれるならぁ、どんな所でも、うれしいんだよぉ〜。一番幸せなのはぁ……一緒に、寝る時だけどねぇ〜」
 ミーティアは、バスでの数時間を思い出す。ほわほわとした空気の中で、幸福感に包まれて眠ることが出来た。
「次はこの部屋だねぇ。倉庫かなぁ~?」
「ファイルや段ボールが沢山あるね。中身を調べて、持ち帰るものを一か所にまとめようかか」
「そうですね。では始めましょうか」
 4人は棚1列ずつを分担して資料を調べていく。
「詳しいことは分からないけど……とりあえず、それっぽい資料はぁ~、どんどん回収していくよぉ〜」
 割と躊躇いなく、ミーティアは資料を選び取っていく。大卒レベルの知識を有するアヅキも、内容を確認しつつ手際良く作業を進めていた。思い出すのは、出発前に愛依から聞いた話だった。
「ウィルスの根絶に至る道はまだ険しく長そうですねぇ……」
 アヅキが手にしているのは、タナトウィルスワクチンの失敗作の記録だった。
「愛依ちゃん、これから改めて病気の研究をするには、その為の施設が必要ですよね」
「そうだね、そうなると思う。個人で研究するのは難しいから、皆で集まって……」
 ミーティアと話している時の延長で、愛依はアヅキに対しても素の口調を使うようになっていた。
「その時に、この研究所を使えないでしょうか」
「……この研究所を?」
 考えてもいなかったのか、愛依の声には驚きが含まれていた。
「将来、新しい施設を一から作り上げるのは大変です。箱作るだけでも測量や建築技術が、しかもかなり高度なそれが必要になりますし」
 更に、中に置かれることになるワクチンや新薬の開発に利用される精密機器は特殊なもので、製造には高度な専門技術を持った技術者と設備が必要になる。
「つまり、将来ワクチンを作ろうとするなら、今あるものを再利用するのが一番近道だと思うんです」
「それで、ここを?」
「真田製薬研究所だけじゃなく、現存している真田製薬研究所のような施設を見繕って、いつかの為に準備しておくのも悪くないんじゃないかと思います」
 設備があってもそれを扱える研究者が居なければ実際の運用は出来ないだろうが、いい状態で保存することぐらいなら可能な筈だ。
「そうだね……外の魔物を何とかしたらそれも出来そうだね……」
 愛依は考え込んでいるようだ。その時、ミーティアが声を上げた。
「わぁ、この日誌、すごいことが書いてあるよぉ~」
 アヅキと愛依も彼女の居る棚に行き、一緒に日誌を覗き込む。
「え……!」
 それを見てアヅキは目を丸くし、愛依は絶句した。

 桐夏は切菜と一緒に1階を調査していた。このフロアには研究室が集中していて、一か所ずつ確認していく。頭痛薬や処方薬、アレルギー薬等の研究室らしき場所を経て、2人はタナトウィルス硬化症という記述がある紙が置いてある場所に行き当たった。しかし、その部屋は閑散としていて、資料の数は少なかった。
「どこかに運び出した形跡があるな。とりあえず、残っている資料を調べてみるか」
「ええ、そうね」
 2人は手分けして資料の内容を確認していく。桐夏は中央テーブルの上にある紙に載っている元素記号や数式の記述を写真に撮っていく。
(魔物に関係する資料はないか……?)
 彼は、魔物に人を攻撃させない秘密についての資料も調べていた。
(どう考えてもあの魔物達の行動は変だった。何があったのか……?)
 魔物を無害化する方法が判れば、今後の魔物対策に使えるかもしれない。
 しかし、今までに入った部屋でも、この研究室でも魔物に関係する資料は見つかっていない。
「夜桜ちゃん、何か見つけたか?」
「ええ。これなんだけど……」
 切菜が見ていたのは、1枚のメモ書きだった。様々な薬品や化学物質の名前が書きこまれているが、問題なのはメモの上部にある日付だった。
「今日の日付だな。ということは……」
「ここに誰かが居るのは確実のようね」
「やれやれ、忘れ物をしてしまうた……だ、誰じゃ!」
 その時、部屋のドアが開いた。振り向いた先に、ひげの老人が立っている。謎の人物が突然現れたのにも驚いたが、桐夏と切菜は彼の容貌に驚愕した。
「子供じゃない……!?」
 2人同時に声を上げた後、桐夏は咄嗟に魔兵装・銃を構える。
「どうして子供がいるんじゃ!」
 老人は怒りにも似た声を出し、踵を返した。
「あ、待て!」
 慌てて追いかける。老人は走っていたが足が遅く、2人はすぐに追いついた。廊下の隅で追い詰めると、桐夏はなるべく階上に聞こえるように大声を出した。
「関係者を見つけた! 1階だ!」
 まだ何も聞いていないが、こんな意味深な場所で意味深な見た目をしている人物はクソ作品ではなくても関係者だ。これでただのホームレスなら、寛容な桐夏もさすがにキレる。
「念の為に訊くが、ホームレスじゃないよな?」
「ここに住んでいるのを家が無いとするなら、そうとも言えるかもしれんな」
「仲間は居るの? あなただけ?」
「……わしだけじゃ。他には誰もおらん。そっちはまだ仲間がいるようじゃな。余計なことをしていないといいんじゃが……」
 表情にも声にも挑発的なところが無く、老人は本気で心配しているようにも見えた。
「どういうことだ? 何か危険な場所があるのか?」
「3階にはタナトウィルスとそのワクチンの他、人体で変異した後のキラーウィルスが保管されているのじゃ。容器の蓋を開ければキラーウィルスが拡散され、再びパンデミックが起こる危険がある。あれから成人している者もおるじゃろう」
「大丈夫だ! 蓋は開けてないぜ!」
 そこで、凪が階段を降りてきた。彼だけではなく、上を探索していた全員が合流してきていた。
「お、大人、じゃと……?」
 凪と幸蔵を見て、老人が驚きを露わにした。一方で、ミーティアは不思議そうな顔をしていた。
「……お爺さん?」
「生きてたんだ、大人」
 アヅキもびっくりして目を瞬く。
「いや、付け髭とヅラを被った子供という可能性も……」
「わしは子供ではない。残念ながらな。……ならば、何故わしが生きていると思う? 考えてみい」
 自分の髪と髭を引っ張って見せながら、少し面白そうに老人は言う。それに答えたのは、慶太だった。
「……召喚者か? あの時にこの世界に居なかったんなら……」
「召喚者? 何じゃそれは」
 愛依が説明すると、老人は「違う」と首を振った。
「生まれた時から漫月に住んでおる」
「だったら、一体何者なんだ? それだけじゃない。ここで何をしているのか、あの魔物達は何なのか、話してもらうぞ。話さないなら今後開催するクソ映画エンドレス鑑賞会に強制参加だ!」
 桐夏が真に迫った表情で言うと、老人は真顔になった。
「まあいいじゃろう。何をしにここまで来たのかは知らんが……お主らは悪い輩ではなさそうじゃ。……話は長くなる。食堂に移動するとするか」
 歩き始めた老人の背中に、ミーティアが言う。
「さっき、タナトウィルスはこの研究所で作られたって書いてある日誌を見たんだけど、そのことにも詳しいのかなぁ?」
 一緒に日誌を読んだ3人以外の全員の表情が変わった。弛緩しかけていた空気が張り詰める。
「……記録上の事でいいなら、知っている限り話すとしよう」

 ――老人は狩ヶ谷丸真(まるま)という名の魔物である。産まれた直後に親に捨てられ、人間の夫婦に拾われて人として暮らしてきた。見た目が人と変わらない為に自分が魔物だとは気付かなかったが、パンデミックで生き残ったことではっきりとそれを自覚した。そしてこの時、彼の伴侶であった女性は亡くなった。
 パンデミックが二度と起こらないようにしたい――
 そう思った丸真は、タナトウィルス硬化症のワクチンを作った真田製薬研究所を訪れた。ワクチンを変容させることは禁忌であり、研究は出来ない。だが、その研究課程を調べることで、別の――新たなワクチンを作ることは可能かもしれない。
 研究所の周囲を魔物に守らせたのは、当時、復讐として研究所を破壊しようとする子供達がいた為だ。彼等が葉刈県の子供達を襲ったのはその前振りに過ぎない。実際に建物に危害を加えようとした子供もいた。
 人間ではない自分は、魔物と意思疎通が可能だった。彼はとある魔物の集落に赴き、その長と友人になった上で研究所の護衛を依頼した。対価は人として生きてきた丸真が言う「子供を殺したくない」という要望を長は吞んでくれた。長の武力と権力、加えて説得で他の魔物達にも了承させたらしいが、それから丸真と魔物達はかなり親密になり、今の彼等は心から護衛を続けてくれている。住み心地がいいというのもあるだろうが。
「最初は安全を確保する為じゃったが、そのうち復讐目的の子供達は来なくなり、平和になった。だが、ここには生きているタナトウィルスや危険な薬剤が存在する。子供を中に入れるのを阻止する為にも、魔物達には協力してもらっている」
 真田製薬研究所がタナトウィルスを作ったというのは、ここに残っている資料で知った。元々は筋力虚無症という筋肉を失ってしまう病気を治療する為に開発が進められていたものらしい。結果的に、それがタナトウィルスになってしまった。治験も行われていて、それがタナトウィルス硬化症を広げた一因にもなっている。
 この研究所には、ウィルスに関する資料が豊富にあった。初めにワクチンを完成させたのも当然だったのかもしれない。丸真も――
「あと少しで、安全なワクチンが完成しそうなんじゃよ。あとひとつ、正しいピースが嵌ったら……」
「だったら、俺達が協力するぜ!」
 丸真は「む?」と桐夏を見返す。続けて、愛依が口を開いた。
「私達はワクチンが再製造されないように製造法を確かめに来たのだが、新しいワクチンの製造も考えていたんだ。それがあと少しで完成するのなら、ぜひ手伝わせてほしい」
「そうか……分かった」
 話が終わると、桐夏は『現代知識チート大全』を丸真に見せた。
「これには浅く広くだが色んな知識が詰まってる。大したことは書かれていないが、別世界の知識だ。もしかしたら何かの役に立つかもしれない」
「ふむ……娯楽書に見えるが……」
 丸真は首を傾げながら本を受け取った。水花芽と葉刈の間には長い距離がある。相談の上、情報のやり取りはメールで行い、何かあれば車でここを訪れるということにして召喚者達は葉刈県を離れた。

 そして、真田製薬研究所では――
「ほー、面白いのお。ほー、これは魔法が無いからこそ発展した文化じゃの。これはこっちの世界にもあるのお。あやつのいた世界と漫月には共通点が多いようじゃな」
 丸真が『現代知識チート大全』に夢中になっていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<マスターコメント>

2か月以上という大変大変長い間お待たせしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
内容については、医療関係のお話ということで、
本職の方が読んだら矛盾だらけだったりするのかもしれませんが、そこは平にご容赦ください。
最後のリアクションにつきましては、
今月中ないし、11月初旬の公開を目指して執筆させていただきます。
よろしくお願いいたします。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<定員> なし
<アクション受付> 7月17日23時~
<参加締め切り> 7月21日12時
<アクション締め切り> 7月23日23時
<リアクション公開予定日> 8月7日
<リアクション公開日> 10月20日

<参加者>
織主桐夏
ミーティア・アルビレオ
上野木 幸蔵
霜北 凪
アヅキ・バル
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  1. 2019/07/17(水) 12:00:00|
  2. シナリオガイド

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