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【コモンシナリオ】第七話 同じ釜でご飯をつくろう

第七話 同じ釜でご飯をつくろう


マスター:有沢楓花




 
 まんげつ造のある都市から離れたとある場所に、瀬織市という小さな市がある。
 中心部は都会的な賑わいを見せ、離れれば田畑や牧場も見られる、そこそこ都会、そこそこ田舎という何かにつけ便利な市だ。
 その「そこそこ田舎」な場所に、小川町はあった。


「食糧事情が改善したお祝いに、今日は君たちの故郷の美味しいものを、紹介してもらおうと思うんだ
 町長・立花 凪(たちばな なぎ)が召喚者たちに向かってした発言は、全く無計画に食料を消費したいという欲求からではなかった。
「いや腹ぺこは腹ぺこだけどね」
 町長代理の長谷川 陽向(はせがわ ひなた)が補足する。
「この前のキマイラがいなくなったことで、ショッピングモールに偵察に行くことができ、非常用発電機が問題なく稼働していることが判明した。
 物資は潤沢で小型発電機を一台を入手。食料も幾らか運んできた。
 だがあの子供たちを返すことでいくつかのコミュニティとの接点ができたし、それらの町もショッピングモールの解放を知った」
 パンデミック前後、小川町とその周辺では子どもが失踪する事件が起きていた。事件を解決し救出した召喚者たちは各コミュニティに子どもたちを無事に帰すことができたのだが……。
「今後起こりうる物資の奪い合いその他の衝突を未然に防ぐためには、同じ釜の飯を食べる、というのがいいと思う。正確には同じかまどで食事を作るのが小川町、食べるのが両方だが」
 全ての町が慣用句に近い状態になるには時間がかかるだろうが――そして別段町を合併するつもりもないが、物資も人の手も足りない世界では一蓮托生の面がある――それを目指すと言いたいらしい。
 上手く言えなかったせいか、彼はごほんと咳払いをし、
「それから……僕ももっとよく皆について知りたいと思っているし、他の町の人にも“召喚者”が夫々背景がある個人だって分かってもらうのにうってつけじゃないかと思う。
 だからモールでの町長会議の提案を手紙にして使者を送った。会議の際に提供する食事を考えて欲しい」


                      *


「人助けで問題が発生するっていうのはねぇ……」
 生徒会書記の斎藤 雨音(さいとう あまね)が鍋を火から下ろす。今のところ、小川町中学校の給食室は問題なく稼働している。
「助けた恩を感じてくれてれば仲良くなれそうだけど、どこもそれより生存が先って感じだったし」
 実際、お礼もそこそこに門を閉ざされたような感じなのだ。とはいえ、それも最初に召喚者を迎えた小川町の面々の態度とそう大差は無いので面と向かって非難するつもりもない。
 立花は苦笑した。
「それで召喚者が複数人いるっていうのも知られた。召喚者はそれだけで“武器”だね。この辺は他に召喚者もいないようだし、脅威に感じられたのかもしれない。
 ただね、逆に頼られたってこっちも小川町へ大人数受け入れするのは厳しいし――」
 立花は、ボウルの中の砂糖とクリームをガシャガシャと泡立て器でかき混ぜていた。
 悩ましげに言葉を切ると、ボウルからバットに移す。なめらかなクリームの合間に冷凍ベリーを放り込むと、ラップをかけて冷凍庫の扉を閉じた。
「よし、できた。あとは待つだけで簡単アイスのできあがり」
 振り向けば、陽向と目が合った。彼は棒を三角錐のような樽の中で上下させて、バターを作っている最中だった。
 牛乳は少量だが牧場から運んでくることができたので、自分たちで乳製品を試作してみることになったのだ。
 召喚者だけに料理を任せるわけにはいかない。
「はっく……しょん……ん、こっちはかまどの準備ができたぞ。これからピザを焼く」
 加賀 陸(かが りく)がマスクの下で時折くしゃみをして鼻をすすっている。
 校庭に、ホームセンターや地元の店で調達してきたレンガとセメントで作ったかまどは、調理は勿論のこと簡単な陶芸にも使える。
「燃料は杉だ、よく燃えている」
「薪って言えばいいじゃない」
 雨音が分かっていてそう言うと、何故か勝ち誇ったような笑みをマスクの下に浮かべた。
「そんなことを言っていられるのも今のうちだけだぞ」
「家族はアレルギーと無縁だったの。とりあえずカッテージチーズなら出来上がったからすぐ持ってくわ。
 そういえばこの前の研究所の件で私と何人かで再訪問したでしょ? 最初に長谷川から聞いてた話とこの前確認した時で薬の在庫が違ってたんだけど」
「何の在庫だ?」
 陽向が、吐息に疲労を滲ませながら訊いた。
「臨床実験の前段階の薬。キマイラを作るんじゃなくて、動物の能力を人間に取り入れる薬……確かネコ科のがひと瓶」
「そうか……ざっと見ただけだから在庫数が僕の記憶違いかもしれないな。明日にでも再確認してこよう」
 あの後、小川町の面々は子供たちを送り届けること、キマイラを閉じ込めることに注力していた。キマイラの処分と薬類の廃棄は後回しにしたのだ。
 立花は陽向の肩をいたわるように叩く。
「で、さっきの話の続きをすると……物資の奪い合いに武力は論外。それ以外の競争になれば輸送手段の車の運転手がいない小川町は遅れをとる」
 その点は召喚者にも説明してあった。
 それから小川町の現状報告、ショッピングモールの偵察結果報告、キマイラ処分日の検討などなども。
「なら車の運転ができる召喚者に指導を依頼しよう」
 陽向が言って、額の汗を拭った。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<マスターコメント>

 こんにちは、有沢です。
 小川町のシナリオ、第七回となります。
 『Lost Old』運営終了が発表されまして、残り少なくなりましたが、よろしくお願いいたします。

 今回のシナリオは、次回シナリオとのインターバル及び前回のシナリオの整理です。
 次回シナリオとの関係もありつつ、基本的には、故郷の料理を作ってみんなで試食しようというシナリオです。
 前回の整理については、キマイラの扱いになります。特に反対の理由が無ければ処分されることになります。
 また、自動車等の運転ができる方は教習をお願いしています(報酬は鶏肉の塩竃焼き)。
 舞台は小川町(海亀公園含む)の中のみとなります。

 食材は、今回特別に用意したということで、基本的なものなら揃っているとしてアクションをかけられます。
 ただ消費期限が短いものに関しては用意できない可能性があります。モールの冷蔵庫は稼働していますが、野菜は冷凍や缶詰など以外の野菜は腐ってしまっているので小川町内から採れるものだけ、などです。


●海亀公園について
 拠点についてもアクションをかけることは出来ます。
 今までのガイドと基本的には変わりませんが、
 ・井戸を手入れすれば使えそうである
 ・飲料水はペットボトルの濾過装置でそこそこ安定供給がされるようになった
 ・水道水が使用可能になっている
 ・畑は耕されています。現在は豆、小松菜、ジャガイモ、タマネギ、トマト。(その他、既に植えたことにしても構いません)
 ・田んぼには稲が植えられ、収穫途中。(全て収穫した、でもOKです)
 ・ホームセンターからキャンプに使えそうな物を運び入れた
 ・中学校では羊と鶏も利用できるようになりました
 ・モールへの道が開通したため、食糧事情が一時的に改善(NEW!)


●町の利用について
 住民として認められています。
 町の施設の利用が出来ますが、物資は豊富とは言えません。
 あからさまな監視役はいませんが気にされてはいるので、不審な行動(武器を手に持ったり)は見咎められます。

それでは、アクションをお待ちしております。


<リアクション>

ご飯をつくろう


 瀬織市小川町、小川町中学校給食室――。
 大きな冷凍庫が開かれる。だいぶ暖かくなった春の気温のせいで、白い冷気がぶわっと吐き出された。
 町長・立花 凪(たちばな なぎ)は固まりかけたアイスをざっくり混ぜて戻す。
 昨日も今日も今この時も、電気は問題なく供給されている。
「インフラの技術者が誕生するまで何年かかるか……だね。シミュレーションゲームじゃ、人口が増えた方が研究力が高まるんだけど」
「何か懸念事項が?」
 加賀 陸(かが りく)に背後から声をかけられ、彼女は飛び上がりそうになった。背後を振り向き抗議する。
「急に話しかけるのはマナー違反だよ、全くもう」
「ピザが焼けた」
「うんうん。それで?」
「生地は一種類なのでトッピングにバリエーションを付けた。
 カッテージチーズの蜂蜜がけ、カッテージチーズにトマト乗せ、チーズとバジル。ホウレン草にベーコン、シーフード……それぞれ試食の上で、好評を得たものをメニューに加える」
「食べ比べね。アレルギーには気を付けて。あと、他との兼ね合いを考えると、多少冷めてもいける感じのがいいな」
「了解した」
「……ん」
 窓を開けて外を見やると、春の日差しの下で小学生たちが机と椅子を並べており、オープンカフェかピクニックのような雰囲気を醸し出していた。
 中学生たちはかまどで焼けたピザを冷ましつつ、冷めたものから小さく切り分けている。
「いい子たちだよ」
 立花は微笑み、それから。
「……ん?」
 小中学生が何故か一斉に振り返ってこちらに向かってくるので、怪訝に思って首を傾げた。
「おーい、こっちはまだ時間がかかるよー!」
 言ってみたものの効果は無く、あっという間に興味津々の顔で窓の外が埋まる。
「ちょっとちょっと、もう! 何なの……」
 言いかけて理由はすぐに判明した。
 それは窓の外へと流れ出した、暴力的なまでの匂いであった。
 子供たちの視線の先――立花の背後ではたっぷりの油が鍋の中で十分に熱せられて、そこに衣を纏った鶏肉が黄金色の油に次々と沈み、ゆっくりと泡をたてていた。
 泡が鶏肉から剥がれ、表面に浮かんでは弾ける度になんとも言えない香りが立つ。
 そして菜箸がつまんだそれ――唐揚げが油を切られつつ皿の上に乗る。
「ねーねー、味見させて!」
 たまらず声を上げた子どもの一人に、アヅキ・バルが目線は手元のまま返す。
「まだだめよ。これから余熱でじっくり熱して、そして……」
 はじめは低温の油で揚げる。これが唐揚げの外側を揚げることで肉汁を閉じ込めつつ、皿の上でゆっくりと内部に火を通していく。
 全ての唐揚げを皿に乗せ終えると、火が通るのを待つ間にアヅキはコンロのつまみをひねって油の温度を上げる。
「更に二度揚げ――これがコツ」
 菜箸の先を油に入れて、泡で温度を確かめる。それから再度唐揚げを投入すれば、先ほどよりも勢いよく泡がたつ。
「懐かしい臭いだな……」
 いつの間にか町長代理の長谷川 陽向(はせがわ ひなた)が鍋を見に来ていた。
 アヅキの邪魔をしないようやや離れた位置で腕をさすっている。
「長谷川君はバター……だよね? 作れるんだ?」
「え? あ、ああ……今終わったところだ。……せっかくだから牛乳から作ろう、と図書館の本を見て挑戦してみたが……本番は別の方法にしようと思う」
 バター作りの樽は昔ながらの方法で、人力で棒でかき混ぜるタイプ――恐らく労力が最もかかるタイプ――だ。
 額に汗かき肩で息をし、目に見えて疲労困憊している。
 蓋を開けると戦利品として、上澄みに柔らかく固まったバターが少量あった。
「苦労の分だけ美味しければ良いのだが……市販品が何故大量に流通していたかという理由をよくよく実感した」
「ふむふむ。それじゃあ、お疲れ様なので一番に味見をさせてあげよう」
 アヅキはすちゃっと小皿を取り出し、揚げたての唐揚げをコロンと乗せる。
「唐揚げは下味が命よ。醤油ベースでしっかりした味付けだから、そのままでもいけるわ」
 醤油の色が付いたできたて唐揚げの表面には油がじゅわじゅわ。それを箸でむぎゅっと口に詰め込む。
 陽向はごくん、と喉を鳴らし。
「お、美味しい……」
「ふふ、この唐揚げのポテンシャルはこんなものじゃないのよ。試食会を楽しみにしててね」
 アヅキは意味ありげに微笑むと、残りの唐揚げを揚げにかかった。


「俺は料理が得意って訳じゃあない……が、それならそれなりの方法がある訳だ」
 織主桐夏もまた、大鍋の前に陣取っている。
「テクニックと経験に左右されない、そのものが持つ骨太のうまみを感じさせる料理……!」
 小説やアニメには異世界チートというジャンルがあるが、異世界チートそのものの存在であるところの召喚者・桐夏は、ジャンルのド定番であるチート料理も出来るはずである――というか、そのシーン再現と言えばいいのか。記憶にあるレシピを検索すればいくらでもそれらしいものが該当する。
 その中から手順、調理時間、材料、味……その他諸々を検索条件に加えて最適なものを選び出す。
(すごく異世界チートっぽいな……!)
 嬉しさをかみしめつつ、気合いを入れて叫ぶ。
「俺が選んだ料理は……これだッ!!」
 桐夏が集中線を付ける勢いで鍋に水を満たし、キューブタイプのコンソメを投入。そこに皮をむいて一口大にしたじゃがいもをごろごろ追加し、
「更に根菜を投入! そのまま火を付けるッ!」
「これは……スープ!?」
 窓から小学生が声を上げる。
「ただのスープじゃない、ポトフだッ!!」
 桐夏はドヤ顔を披露する。
「野菜をたっぷり採れるから体にいい上に、煮てあるから胃にも優しい」
 ある程度根菜に火が通ったところで、追加の食材を加える。
 火の通りにくいものから順に煮ていくのは料理のセオリーだ。じゃがいも(煮崩れが気になるなら後で)、人参、玉ねぎ、キャベツ、ブロッコリー……。
 じゃがいもはこの町で採れたものを。カット済みの冷凍野菜を入れれば更にお手軽。冷凍のソーセージも調達できて一安心だ。鶏の命をリリース&キャッチ(鍋と胃で)する覚悟は一応していたが。
 味付けは塩こしょうを程々に。
 そしてここが煮込み系料理の利点でもあるのだが……。
(ぐつぐつ煮ている間に別のことを済ませる。これもまたデキるチートっぽいな)
「な、鍋をもう一つ取り出したっ!?」
 桐夏は窓の方へふっと意味ありげに笑ってみせると、陽向に顔を向けた。
「陽向、バターを少々もらいたいんだが」
「勿論構わない。バターだけ食べるものでもないからな……いや、バター揚げというものがあると聞いたことが……」
「それはやめておいた方がいいわよ」
 斎藤 雨音(さいとう あまね)が突っ込むと、陽向は会話を遮られたことに若干しゅんとしつつ、バターをスプーンでタッパーに取り分けた。
 できたてのバターは薄いクリーム色をして、もったりしていた。桐夏が思い描く、夏祭りであの切れ目に思い切り塗りたくるあれと同じような柔らかさだ。
「しかし何に使うんだ?」
 陽向がタッパーを渡しながら問うと、桐夏は秘密めいた微笑を浮かべる。
「理由は後で分かる」


 ミーティア・アルビレオは冷蔵庫の中身を眺めながら思案していた。
(故郷……の料理、かぁ~)
 ミーティアの故郷は、コンクリートとアスファルトに覆われた場所が多い(ついでにその合間から植物が侵食している)小川町の町中と違って、自然にあふれていた。
 森や川の恵みを使ったプリズニアの料理なら幾つも記憶にあるが、
「私はぁ……あんまりぃ……料理、得意じゃぁ、ないからねぇ~」
 故郷の味を再現できるかというと、自信が無い。ここにあるのも故郷と全く同じ食材がある訳でもないし、美味く出来なくてこれが故郷の味かって思われても残念だし……。
「必ずしも凝ったものである必要はないんだが……」
 陽向はミーティアの脇からバターを作った後に樽に残った水分――バターミルクを冷蔵庫に入れながら尋ねる。
「むぅ……何その顔~。お姉さん、だってぇ……苦手なことくらい、あるんだよぉ……」
「……といっても、相互理解のためにも何か……」
「う~ん……」
 ミーティアはしばし黙り込み。
「……あ、そうだぁ~。あれならぁ……ここの素材でもぉ、作れるかもぉ」
 ミーティアは何か思いついた顔で頷いた。冷蔵庫から卵と小麦粉を慎重に【空渡る透手】で取り出し、冷凍室からは果物の袋を。
「果物を解凍してぇ~……こうやって潰したらぁ~お鍋に、入れてぇ~」
 ホーローの小鍋に入れた果物に蜂蜜をかけて、火加減は弱火で煮ていく。
「じっくり、ことことぉ~焦がさないようにぃ……気を付けて~」
 水分がじっくりとしみ出してくるよりも火の方が強いと、すぐ焦げ付いてしまう。ごく弱火で慎重に、こまめに確かめながら調節して……。
(調節……ちょう……せつ、し……)
 ふわあぁ。
 ミーティアはあくびをかみ殺そうとして失敗した。
「こうしてのんびりやってるとぉ……なんだか、眠くなってきちゃうよねぇ」
 折しも春でいい陽気だし、鍋は暖かいし、良い匂いはするし……コトコトくつくつというリズムが耳に心地良く眠気を誘う。
 彼女は何回も瞬きをして首を振って眠気を追い払うと、
「後はぁ……しばらく置いて、熱を取ればぁ……完成かなぁ」
 鍋を火から下ろし、鍋敷きの上でゆっくりと冷ましている間に、今度は室温に置いた小麦粉と卵の方に向き直った。
 ボールに小麦粉、卵、水を少しずつ加えると、さらさらとした粉がだんだんと粘り気を帯び、まとまってくる。
 丁度良いところで生地をひとつにまとめてから、器に入れてそれをオーブンへ。
「焼きあがるまで……しばしお待ちを~、だねぇ」
「ふむ……両方合わせた料理なのか?」
「こっちの世界でいう……ジャムと……スコーン? ナン? パン?」
 首をあっちへ傾げこっちへ傾げ、
「みたいな、ものか……なぁ~」
「主食のようなものだろうか?」
「ご飯とお菓子の……間? みたいなぁ? 同じ材料はなかったからぁ……代わりになりそうなので、作ってみたけどぉ~」
 やがてこんがりもちもちと焼けた。ほんのり甘い良い香りを纏ったほかほかのそれの端っこを、早速味見する。
「見た目は大体、同じになったかなぁ……味も、うん、結構いい感じかもぉ」
 そうやっているうちに、立花のアイスの方も丁度想定よりやや固まった感じで出来上がった。
「これで最後の料理が完成だね。それじゃみんな、お待ちかねの試食会だよ。順番に渡すからね、落とさないよう持って行ってー!」
 わいわいと窓越しに料理の受け渡しをする。
 お腹に優しい臭いや甘い香りも加わって、給食係と給食の先生たちのようで……昔の給食室が戻ってきたようだった。
 窓の外の子供たちが一斉に、差し出した手に手に皿やトレイを受け取り、騒ぎながら歩いて行った。



ご飯を食べよう


 校庭に涼しい風が吹き渡る。
 一つの皿にピザや唐揚げがそれぞれ乗って、子供たちの見つめる瞳が輝いている。
「それじゃぁ、みんな~食べて食べてぇ~」
 全員が席に着いてからのミーティアの声がけに、
「いただきまーす!」
 全員で手を合わせると、フォークやスプーン、お箸を手に数秒の沈黙の後、あちこちから笑い声が上がった。
 生徒会の面々は年下の子供たちの反応を見つつ、自分たちも試食を始める。
「あれ、唐揚げに調味料があるんだ? 醤油じゃなくて?」
 雨音が赤いチューブを見て首を傾げて作者であるアヅキを見やる。
「うん。お父さんとお兄ちゃんはマヨネーズかけてたけど……」
「マヨネーズはどれくらいかけるの?」
「父も兄もマヨラーだったから、それはもうたっぷり」
 アヅキの返答に雨音はチューブを手に取って、目を丸くした。
「これ、マヨネーズじゃない……わよね……?」
「うん。私としてはマヨネーズより練乳を推したい」
 それは、チューブタイプの練乳だった。陽向が怪訝な視線を向ける。
「練乳? ……唐揚げに練乳?」
「私も初めて友達から練乳唐揚げを教えられた時はそれ何の罰ゲーム? って思ったけど、食べてみるとこれが意外というか、普通に美味しいの。シンプルな醤油のうま味の上に練乳の甘味が加わることで奥深い甘辛さが楽しめるのよ。ということで、どうぞ、召し上がれ」
「そこまで言われたら試すしかないか……世の中には唐揚げパフェなんてのもあるみたいだし……うーん」
 半信半疑になりつつ、練乳のチューブが一同に回される。
「んー……意外と? 合うような? 合わないような?」
「初めての味だな……」
「結構くせになる味かもね。お兄さんとお父さんとは仲良かったの?」
「うん。あとお母さんと妹もね」
「……召喚者のみんなが家族の元に帰れたら良いわよね。……やっぱり。こっちも余裕出てきたし、帰してあげられたらいいんだけど……」
 雨音が少ししんみりしながら、陽向に何か言いたげな視線を送れば肩を落とし、
「残念だけど……見当も付かないな。召喚者が来たっていうのも最初に噂で聞いたときは信じられなかったくらいだから。勿論、何か分かったらすぐ報告するし協力するつもりだが」
「そう、ね……」
「――まあ暗くなっててもしょうがないだろ」
 顔を上げると、桐夏がスープ皿を配っているところだった。
「大地の恵みを凝縮したひと皿、どうぞ召し上がれ」
 薄いスープにごろごろと野菜とソーセージが入ったスープに口を付けると、陽向が唸った。
「滋味深い味わいだ」
 材料も故郷と変わらないし、味覚の違いがそれ程なさそうで良かった――と桐夏は思った。場合によっては同じ国でも、カップうどんのスープの濃さを変えたりする。異世界なら尚更だ。
「ふっ、しかし……料理はシンプルになるほど、素材の良さが引き立つというもの。1+1は2でなく、引き立て合って3にも4にもなる。組み合わせによっては天井知らず……!」
 桐夏は一安心するもそれを表情には出さず、もう一つの鍋の蓋を開けた。
「それでいて安価、今もなお神々が集う場所(神社)の祭礼(お祭り)では、人々が饗応する(出店)するという――これが最強のじゃがいも料理、じゃがバターだ……!」
 見た目は素朴な料理だ。あつあつほくほくのじゃがいもに切れ目をすうっと入れる。そこにバターを乗せれば、熱でとろけたバターが割れ目にとろけて絡んでいく。
 目の前の皿に、それが乗せられる。はふはふしながら口にした陸が一言。
「実にシンプル。しかし折しも新じゃがの季節。できたてバターが口の中でミルクの川となって流れ決壊する……!! これは味の洪水だっ!」
 なんかの漫画の読み過ぎなノリで反応する。
 雨音も口に運びつつ、
「陸は大げさだけど……はふ……あー、やっぱり炭水化物に脂肪は美味しいわ……」
 桐夏はスープとじゃがバターを皆に振る舞って、来年のじゃがいも増産計画を無意識に植え付けていった。
 そうして鍋が空になったところで、立花の前で足を止める。
「ところで……町長、生徒会の皆。試食中のところ悪いんだが……」
「ん?」
 口元のバターをなめつつ彼女は顔を上げ、桐夏の真剣な顔に自身も表情を引き締める。
「キマイラについてだが、処分に賛成する」
「うん」
「残したままだと他の街の連中に余計な刺激を与えかねん」
「ありがとう……悪いね。言いにくいことを言わせて。……こういうのは自分が“悪役”を引き受けるもんなんだけど」
「俺も意思決定に参加しなきゃなんねーって思ってな。それから盗まれた薬についても……」
 彼が懸案事項を口にすると、
「飲んだ訳じゃあないから効果が正確には分からないけど、多分普通の猫以上の力は付与されないと思うんだよね。ただし人間が使用する以上、組み合わせによっては想定以上の身体能力にはなるかもしれない」
 動物には人間より優れているところが沢山ある。たとえば猫のバランス感覚それ自体は驚異的だ。が、猫がそのバランス感覚で人間にとっての脅威になるわけじゃない。
 ただし人間の頭脳だの武器だのが加われば話は別だ。忍者のように偵察するとか、人間には無理な場所から狙撃するとか。
 陽向が確認したところ、子どもたち救出以後に、救出した子どもやその周囲の人間が、ミナト製薬に戻って持ち去ったと思われる。
「今、小川町の中にはないのはよく確認したんだ」
「となると……。猫耳と尻尾が生える程度なら放置してもいいが……」
(絶対それで済むわけねえよなぁ)
 と桐夏は、思うところがある顔をする。
「それはそれで本人には重大事だろうけどね。……気を付けておくよ。そっちも何か気が付いたら教えてくれる?」
「ああ、分かった――」
 と言いつつ、
「気が付いた!」
 と桐夏の代わりに叫んだのは陸だった。
「何かが足りないと思っていた。これらの料理には決定的に足りないものがある」
「足りないもの……だと!?」
「そうだ。足りないもの、それは――」


「――待たせたな。やはりこれがなくては始まらないだろう」
 現れたのは上野木 幸蔵だった。
 背から降ろしてテーブルにどんと置いた荷物の風呂敷包みをほどけば、中から現れたのはおひつだった。
「ご飯!」
 生徒たちの注目が一気におひつに集まる。
「そうだ。海亀公園で炊いてきた。そのままでもいいが、後で茶漬け、湯漬けも試してみてくれ」
 と、幸蔵は言ったが子どもたちの歓声に後半部分はかき消された。
「それならお茶漬けの素っていう便利なものがあるよ。鮭や昆布、のり、瓶詰めやご飯のお供なんかもね」
 勢いに苦笑しながら、立花がしゃもじと皿を追加で持ってこさせる。
「そうか、この世界にも便利なものがあるな」
 米食文化。生まれ育った世界でも何十年も先、いつかこんな風になるのだろうかと故郷に思いを馳せつつ、彼はおひつの蓋を取った。
「これが銀シャリだ」
 湯気を立てて米粒はひとつひとつ立っている。銀シャリと言い切るだけあって、光の加減で銀色に輝くふっくらとつやつやのご飯はそのままでも勿論美味いが、どんなおかずをも受け止める力を秘めている。
 幸蔵がご飯を、粒が潰れないように手際よく茶碗によそう。
「米だけで三杯はいける。……飯ごうはよく炊くが、これはかまどだな」
 陸が感動してご飯をかき込んでいるのを見て、幸蔵は頷いた。
「やはり羽釜が良いと思ってな……それに収穫済みの米を精米からしたからな。ついでにまだ収穫してない分もしておいたから安心だ」
 古民家の中のかまどで、藁と集めてきた枝を燃料にして炊いたのだった。
 この時代の人々には半分失われた技術だが、彼にとっては日常でお手の物だ。そして小川町で使っている炊飯器よりも美味い。
 これが彼に出せる最低限で最高の料理だった。
 ……幸蔵はあまり「世の中の美味いもの」を知らない。領主の嫡男だの豪商の跡取りだのなら漆塗りの食器で贅沢な食事をするか羽振りよく料亭に行くのだろうが、部屋住みの三男坊ではそんな世界を垣間見られるわけもない。そこで出る料理の味など想像も付かない。
 普段は質素に、野菜の煮たものや魚、豆腐に漬物、汁物、たまに肉や果物といった具合だ。
 しかし、そう。料理を知らなくても――どんな領主の館でも高級料亭でも、どこでも銀シャリは出るだろう。
(おかずと飯、役割分担、と……いう訳だが、満足してもらえたか)
 生徒会の面々もご飯とおかずを交互にかき込んでいる。
「ご飯がないと食べた気しないんだよねぇ」
「ご飯で口をさっぱりさせ、また味のしみこんだご飯で味わう……この相乗効果……」
 桐夏も唸りつつ自分の皿に手を付ける。
「おかずとご飯を交互に食べることによって満たされる口福……!」

「それからデザートも、あるん……だよぉ~」
 食べ終えないうちから、ミーティアが一皿を持ってきた。
 お手製スコーンの横に立花のベリーアイスを添えて、ジャムをかけたものだ。
「あ、凄い美味しそう。私にもちょうだい」
 アヅキが身を乗り出す。ミーティアはえへへと照れながら、
「アイスにジャムかけたら……美味しいかなって……思ったらぁ~、こういう料理……小川町の……レストランでも、あったん……だってぇ~」
 これで全部出揃った料理は、ほかほかご飯におかずにデザート。
「ん、これならきっと満足してもらえるな。様々な年代に訴求するために、ソースかディップを用意するとなお……」
 陽向はもぐもぐしながら言い、周囲も当初は頷いていたが、冷静にレビューしていた陽向の話などいつしか誰も耳に入らなくなり、当の陽向もいつのまにか口数少なく、ご飯とおかずを交互に口に運び続けていた。
 しばししてはっとし、
「一応試食なんだから提供する順番などを決めないか?」
「スープは煮込むほど美味くなるからな、先に作っておけるぜ」
 桐夏が言い、
「会議の開催場所はレストランで、最低限インフラが使えるのは確認してあるよ。先に行って向こうで作ってもいい。あ、保存できるものはこっちで作っておいた方が楽だね」
「じゃあ、今日頑張ったから、当日は他の人に任せてもいい? どっちかって言うと寝てたい――」
 美味しいものを求めることが出来、余暇活動としての料理もいいが、黙って美味しいものが出てくる方が好み派の雨音が言うと、
「慣れたんなら引き続き頼むよ。ほら、布団売り場の分配に影響があるかもよ。高級オーダー枕店も入ってたし」
「……全力で頑張るわ」
 雨音はアピールのためか、リコッタチーズをデザートの皿に追加した。カッテージチーズを作った後に残ったホエーを、煮詰めるとこれができるのだ。
「提供する順番は、先にご飯、おかず、スープを出して、その後チーズ、最後にデザートにパンとアイスを組み合わせて出して……うん、うまく、格好が付いたね」
 立花が嬉しそうに言えば雨音がしみじみと、
「贅沢できるようになったわね……」
「人間なんてそんなものさ。お米がなけりゃご飯を食べたくなる、ご飯だけならふりかけ。パンも食べたくなるかもね。バター、目玉焼きにベーコンって具合にね。あ、私は目玉焼きにはソース派だから」
「僕は醤油派です。……じゃなくて、それはつまり……」
 陽向がさりげなく主張しつつ問いかけると、陸が返す。
「利害はどうやったって対立するなら、胃袋を捕まえるって言うのもありかもな」
 ……少し前までは、生きるためだけに、何か口に入るものなら何でも食べた。
 幸い小川町にはインフラが残っていた。水があり冷蔵庫があった。土地があり、学校の授業で野菜を育てた経験も。
 図書館もあった。
 海亀公園でもいちから作物を育て、収穫し加工し、保存し……そして、力は道を拓き、今では贅沢品のアイスクリームや、それを「もてなし」として出すことが出来るようになった。
 多分、人間らしく余暇を楽しめるようになるのもそう遠くはないだろう。
 食事をしながら、皆、そんな気がしていた。


                      *


 後日、町長会議の招待について、全ての町から色よい返事が戻ってきた。
 日時は一ヶ月後、日曜の午前11時。場所はショッピングモールのレストラン街。
 三つの町、各町の代表者三名に料理を振る舞う。
 食事をしながらショッピングモールでの定期開催と物資の振り分け、この先の瀬織市の来し方行く末について相談する。


 ……しかし、小川町の喜びの裏で何かが動いているのを、彼ら彼女らはまだ知らない。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<あとがきマスターコメント>

 こんにちは、有沢です。
 今回は美味しいご飯をありがとうございました。
 奇しくも主食におかずに汁物、デザートと大変バランスの良いメニューになりました。
 次回はこのメニューをひっさげて、小川町と瀬織市の行く末を決める会議を開催することになります。

 その次回ですが、『Lost Old』の小川町シナリオは最終回を予定しております。
 最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<定員> なし
<アクション受付> 4月4日23時~
<参加締め切り>4月8日12時
<アクション締め切り> 4月8日23時
<リアクション公開予定日> 4月23日
<リアクション公開日> 4月22日

<参加者>
ミーティア・アルビレオ
アヅキ・バル
織主桐夏
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