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【コモンシナリオ】宇尾県探索

宇尾県探索


マスター:沢樹一海




 
 漫月国の首都県である水花芽県の周囲は全てが川だ。この川――巫女月川(みこづきがわ)の幅は最大100メートルあり、各所に橋が架かっていた。それを壊したのは、水花芽県の自警団だ。
 パンデミックが起こったのは水花芽県からではなかった。
 その為、他の県からまだ無事な――加えて、他と隔絶された『島』と言える水花芽県に人が殺到したのだ。彼等の上陸を防ぐ為、県の自警団は橋を全て壊した。
 結果として、水花芽県は完全な孤島となったのだ。
 子供達だけになった今、朝比奈 愛依達は他の県にも行ってその様子を見たいと考えた。
 その上で巫女月川に水底トンネルを作り始め、あと少しで完成というところまでこぎつけていた。
「これで宇尾県に行けるわね」
 夜桜 切菜は愛依の執務室で表情を引き締めた
「宇尾県だけじゃなく、他の県にも行くことはできるよ。だけど……」
「……それは、向こう側の人達にとっても同じことなのよね」
 2人は軽く溜息を吐いた。トンネルが開通したことに宇尾県の子供達が気が付いたら、彼等がこの水花芽県に来る可能性が高い。
「あっちが友好的であればいいんだけど、どうだろう……」
 パンデミック時、まだあまり被害が及んでいなかった水花芽県は、逃げてきた宇尾県の大人達を受け入れずに橋を壊してしまったのだ。それから水花芽県がどうなったか知らない宇尾県の子供達は、親達が助からなかったのは水花芽県の所為であると思っているかもしれない。
「こっちに来てても亡くなっていたでしょうけど、見捨てたのは事実よね。愛依だったら、水花芽県を許せる?」
「……許せないかもしれない……でも」
「でも?」
「水花芽県が被害に遭っていないと思っていれば、恨みや憎しみよりも、ここを『物資があるユートピア』だと考えて憧れているかもしれないな」
「それなら友好的……に接してくれるかしら。私だったら強奪に走るかもしれないけど」
「…………」
 2人の間に沈黙が落ちる。
「……トンネルが出来たら、宇尾県に気付かれる前に様子を見に行こうか」
「そうね。召喚者達にも声を掛けて……愛依も行くの?」
「……ほら、視察はする必要あるから」
 誤魔化し笑いをする愛依の顔には『行きたい』と書いてある。好奇心だけではなく、使命感のようなものもあるのだろう。
「分かった。皆で行きましょう。あ、ちなみに、水底トンネルって一部強化ガラスも使っていて、川の中が見えるみたいよ」
「川の中かあ。それはロマンチックだね」
「トビラニアの泳いでいる姿が見えるわよ」
「……モンスターだよね」
「モンスターよ」
 トビラニアとは、体長2メートル程の細長く、口と牙が大きい魚系モンスターだ。普段は魚を食べているが、近付く人間を捕食する危険な存在である。多くが水面を跳ね飛んでいる為、常に水の揺れが激しくて船も出せなかった。トンネル内から見る分には安全だろうけれど。
「虹色をしているし、意外と綺麗なんじゃないかしら」
「うーん……」

 ――ということで、愛依と切菜、召喚者達は水花芽県の隣、宇尾県に視察に行くことになった。


――――――――――――――――――――――――――――――――

<マスターコメント>

 大変お久しぶりです。
 こちらは、隣の県、宇尾県の探索シナリオです。それぞれ気になることを調べてみてください。

 ガイドでは愛依と切菜だけということになっていますが、慶太はトンネルまでバスの運転手として同行します。誘えばその後もついてくるかもしれませんし、緒方唯我と屍蔵聖もついてくるかもしれません。

 愛依と切菜が不在のまんげつ造では、警備の少年達が建物と子供達を守っています。

 スマホで宇尾県の最新情報を調べるのは不可能です。宇尾県は県独自のSNSシステムを持っていて、県民は全てそのSNSを使っています。アクセスするには、宇尾県住民のログインIDを持っていなければいけません。

 テレビは使えません。電源をつけてもノイズが入るのみです。

 以上になります。
 皆様のアクションをお待ちしています。


<リアクション>

 1

 朝比奈 愛依に、宇尾県の様子を見に行きたいと誘われて一度集まった面々は彼女と夜桜 切菜、冨樫 慶太の話を聞いてそれぞれに思案しているようだった。
「謎に満ちた宇尾県か……面白い。それで、いつ出発する? 俺も同行する」
 そう言った織主桐夏を始め、宇尾県に行くのは愛依と切菜、緒方 唯我、水底トンネルの建設者であるネルネ・ルネールネの他に召喚者7人となった。

☆★☆★☆★☆彡


 巫女月川(みこづきがわ)では、今日も変わらずトビラニアが跳ねている。そのジャンプ力はかなりのもので、再び水に入っていくまでの魚系モンスターの姿は、美しい曲線が別種の虹にも見えて美しい。しかし、水は常に激しく波打ち、近付くとトビラニアに襲われるこの川を渡ることはできない。かつて壊された橋は岸から先が無い状態を延々と晒し続けている。
 だが――
 地下鉄から通じているトンネルを、バスを降りた愛依達が歩いている。此処を進めば、川を越えることができるのだ。
「このドアの先がトンネルですな」
 先頭を歩いていたネルネがドアを開ける。彼の後に続いてトンネルに入ると、皆はそれぞれに内部を見回した。
「ここを真っ直ぐに進めば、宇尾県へ行けますぞ」
「出口は、宇尾県の地下水道に通じているのよね」
「はい。そこから梯子を上ってマンホールから外に出る形になっております」
 ネルネは切菜に答えながら、トンネルの構造について説明していく。
 この遠征に際して、ネルネが何より注目したいのは、自らが設計した水底トンネルの使い勝手や使い心地だった。彼は建築家だ。どんな設備も建物も『使う人あってこそ』という信念がある。
――というわけでネルネは、皆の反応に留意しつつ、トンネルのガイド役を務めていきたい――と思っていた。
「川自体は100メートルですが、トンネルはそれよりも長く、ここはまだ地下にあたります。宇尾県に気付かれないようにということで、通常のように地上からトンネルを繋げるのではなく入口を地下にしたのでその兼ね合いでございます。問題として車等で宇尾県に入れないことが言えますが、相手方と和解できれば道路と繋げることも可能です」
「和解、か……」
 愛依が難しい顔で考え込む。
(車、か……)
 彼女の横顔を見ながら、霜北 凪は閃いた。水花芽県と宇尾県を分かつものは、まず川だ。そして水棲モンスターとしてトビラニアの存在が、河川の往来を困難たらしめている。これを一時的にでも「静かにさせる」ことができたら、両県の往来が可能となる。
「……ふむ。ボカチンだな」
 その一言に、皆が彼に注目する。
「ダイナマイトなどの爆発物を水中に投げ込んで爆発させると衝撃波で魚が浮いてくるやーつだ。川に船を渡せるようになれば、車を運ぶこともできるんじゃないか? 魔兵装・弓の矢の部分にマイトつけて点火して放って、トビラニアがいない間に船を出すってのはどうだ?」
「……爆破して、船を……」
 愛依と切菜、唯我は顔を見合わせた。
「……トビラニアって、人を襲うんですよね?」
「そう。川に入って助かることはまずないわ。他のモンスターとの言語による意思疎通もできないし、生まれつき狂暴な性質を持ってるわ。見る分には綺麗なんだけど……」
「全部の退治は無理だが、一部を退治してその間に船を出そうってことか……物資を乗せた車を運べれば……」
「宇尾県の子供達と交流するきっかけになるかもしれませんね」
 難しい顔をして相談していた3人が出した結論はひとつだった。
「ここの住民が水花芽県に敵意を持っていてもいなくても、やってみる価値はあるかもしれないな」
 愛依は言うと、思案気な顔をしたまま歩き出した。その隣を歩きつつ、凪は彼女に耳打ちする。
「ところでだ、ひじりんが月が満ちるとおかしくなっちゃうよゲンショーなんだが、究極解を思いついた!」
「……? 究極解?」
「人間の遺伝情報を経口摂取しているのがヒントだな。そこで慶太きゅんの出番だよ!」
「……慶太が、彼の問題を解決できると……?」
「その続きは本人がいる時に、ってな!」

――トンネルの中で、ネルネは防衛装置についても話をする。特に、まとめ役の愛依と切菜には、外敵の殺到に備えて重点的に説明しておきたかった。
「一定間隔ごとに壁にあるこのボタンを押すと封鎖シャッターが下りるようになっていますぞ。戻すのはこのボタンです」
 そして、実際にシャッターを下ろしてみる。
「いかがですかな?」
「……これは、すごいな」
 愛依がシャッターを触り、驚いている。同行している召喚者達もそれぞれにチェックして感想を交換していた。切菜は一通り確認し、頷いている。
「一定間隔ごとということは、もし一枚破られても盾が何枚もあるということね」
「そういうことでございます」
「これだけ厚みがあれば、一枚破るのも大変だと思うが……、万が一に何か……もしくは誰かが襲ってきた時にも心強いな」
「ありがとうございます」
 シャッターを上げて、先に進む。歩きつつ、佳波 まどかは愛依と切菜に話しかけた。
「こっちに来てから初めて他の県にいくことになるんだね。ねえねえ宇尾県ってどんな所? 水花芽県と違う感じ?」
「……宇尾県は、パンデミック前までは観光地だったわ」
「県の真ん中に湖があって、そこが人魚の集落になっていてな。人間に友好的な種族で、彼女達を中心に観光事業が行われていた」
「人魚で観光事業……?」
 まどかは小さく首を傾げる。
「簡単に言うと、アイドルとして活動して人を集め、グッズ販売をしたりしてその利益の一部を県の収益にしていたのね。他にも広い遊園地や豪華な旅館、それにギャンブル施設も充実していたわ」
「じゃあ、食べ物の生産とかはなさそうだね……」
 食糧事情を知りたかったまどかだったが、『畑』『農業』という文字があまり想像できない宇尾県のメイン事業に肩を落とした。食べ物は殆ど仕入れという形を取っている可能性もある。
「自分達で作ってなかったとしたら、今は何を食べているんだろう……」
 子供達の健康状態が心配になってくる。そこで、愛依が彼女の気持ちを察したのか、「いや……」といつもよりも優しめの声で言った。
「旅館の周辺でご当地野菜を育てていた。温泉卵用に鶏舎もあったし、酪農もしている。きっと大丈夫だ」
「そっか、それなら大丈夫かな?」
 そんな話をしているうちに、視界の先が明るくなってきた。 トンネルの曲線の部分が透明になり、川の中が一望できる。虹色の細い巨大魚がたくさん泳いでいる様を、皆が見上げる。
「うわあ……」
 まどかの故郷では、流れる川の多くが濁っている。だが、巫女月川は透明で、不純物など無いように見えた。
 トビラニアは顔と牙が狂暴だが、そこを見逃せば水族館にいるような気分にならなくもない。川の中が見られるというのをちょっと楽しみにしていたまどかは、わくわくした。
 ネルネもうぞうぞとした動きを止め、トビラニア達を見上げている。
「この強化ガラスには、巨大魚達がぶつかってきても割れない強度があります。テスト済でございますのでご安心ください」
 これまで堅い話ばかりしてきたネルネは、緊迫感を解こうとジェントルマン式の気遣いで柔らかく言う。
「虹色の巨大魚も、こうして見る分にはなかなか美麗でございますな」
 彼の言葉を聞いて、まどかの中に少しだけ残っていた不安が解消される。
(……この大きい魚はモンスターみたいだけど、それなら安全だよね)
 素直にトビラニアや魚を鑑賞するまどかの後ろの方では、刀神 大和がぼーっとガラスの向こうを眺めていた。
(そういえば修行ばっかりで水族館とか遊びに行かなかったし、こういうの見た事なかったな)
 川の中を泳ぐ魚は、普通の魚でも見たことのないような色彩のものが多く、熱帯魚の水槽を見ているようだ。
「何か不思議な感じだな、朝比奈はこういう所によく行ってたのか?」
「よく……ではないが、何回かは行ったことがあるな。魚だけではなく、様々な水棲生物がいて楽しめる場所だ」
「ふーん、機会があれば行ってみるか?」
「…………」
 沈黙した愛依が不自然に動きを止めた気配があった。それからしばらく口を開かず、やがて言った。
「1人で行けばいいだろう」
「いや、案内してくれる人がいると助かるんで」
「…………」
 愛依はまた沈黙した。
「俺は俺の目的を、お前はお前の願いを叶える。その為に手を組む俺達は対等だ、と思ってる。だから助け合っていこうって感じだ。
「……そういうことか。分かった」
 三度目の沈黙の後、愛依は了承の言葉を口にした。

 ――トンネルから宇尾県側の地下水道に出ると、梯子を上る前に皆で最終確認をする。
「宇尾県に気付かれる前にって事はこっそり行動なんだよね」
 まどかが確認すると、愛依はこっくりと頷いた。
「ああ、水花芽県が宇尾県にどう思われているか分からないから……なるべくここの現状を知った上で、ここの子供達に会いたいと考えている。予備知識はあった方がいいと思う」
「だけど、もし宇尾県の人達と遭遇したらどうする?」
 大和から質問され、愛依は言葉を詰まらせる。
「それは……」
 すぐには答えを出せない彼女に対し、大和は続ける。
「話したいなら話をすればいいし、隠れるなら隠れるでいいし。お前が前に進もうとしている限り何があっても守るから好きにやりな」
 それは確かに大和の本音だったが、純粋な彼の意見はもっとはっきりしていた。
(前に進もうとしなければ何も始まらない。慎重にいくのには賛成だが、人の様子に関しては話をしてみないと分からないだろうな)
 と――だが、もし愛依が『隠れる』を選択したとしても、大和は自分の考えを伝えるつもりはなかった。一緒に『隠れる』を選んで彼女のサポートをするだけだ。
「…………」
 長考していた愛依は、一度大和を見てから皆に言った。
「原住民に会ったら、話をしてみよう。生の声を聞けるのならそれがいい」
 それを聞くと、場に在った緊張が何となく和らいだ気がした。そこで、まどかがずっと考えていたことを口にする。
「私は湖の方に行ってみるね。旅館の近くにある畑も見てみたいし。ええと、地図は……ないんだよね」
「地図……コンビニか本屋にならあるんじゃないですか?」
 考えながら唯我が言い、続けて切菜が声を掛ける。
「私達も地図は欲しいし……もし良かったら、見つけたらメールに画像添付してくれる?」
「うん、わかった」
「私はここで待機しておきますね」
 ネルネが守りを請け負うことを宣言し、そして、召喚者達は宇尾県の地上に上がった。

 2

 マンホールから出た先は住宅街だった。道には自動で動く歩道があったが、利用する者の姿は見えず、利用しない者の姿もなかった。
 つまり、誰も居なかった。
 一応視線に気を付けながら歩いたが、何事もなくコンビニに辿り着いた。
(えっ……!)
 中に入った途端に驚いた。「いらっしゃいませー」とカウンターの中の少女が声を掛けてきたからだ。少女は気怠げな表情でぼーっと正面を見詰めている、暇そうだ。
(店員さんがいる……?)
 久しぶりの光景に驚き覚めやらぬまま、地図を探す。雑誌コーナーは空だったが、地図は残っていた。『1000』と値札が付いているが、これはパンデミック前の名残りなのか、それとも今の値段なのだろうか。
 店内を歩いてみると、弁当コーナーには作ってせいぜい数時間後の弁当が置いてある。生鮮食品もあり、そこにも値札が置いてあった。
(これって、もしかして……)
 試しに地図をレジに持っていくと、少女は「千円です」と言った。困ったまどかは、召喚された時に持っていた財布を出して千円を見せてみた。
「……?」
 少女は千円札をまじまじと見て、「外国のお金?」と言った。
「う、うん……今はこれしかなくて。でも、どうしても地図が必要なんだ」
「うーん……」
 地図の表紙を凝視して、少女は何か考えている。やがて、顔を上げた。
「広げた地図を写真に撮るならいいよ。サービス」
「ありがとう!」
 まどかは早速スマートフォンを出し、地図を撮影した。

コンビニを出て、切菜達に地図を送った上でこの県に貨幣制度が残っていることを伝えると、まどかは話に聞いた観光地へ向かい始めた。動く歩道に乗った状態で考える。
(畑や鶏舎があって酪農もしてたって言ってたけど……どのくらい発展してるんだろう?)
 鶏や牛、豚はどのくらいいるのだろうか。コンビニに弁当があるくらいだから、沢山いるのかもしれない。
(私にも、何か協力できる事があればいいけど)
 そう考えていると、後ろから誰かが駆け寄ってきて突然まどかの腕を取った。
「え!?」
 驚いている間に、彼女は建物の間に引っ張りこまれる。
「きゃ……」
「黙って」
 顔の前に回された手が口を塞ぐ。
「そんな堂々と歩いてたら危ないぜ」
「む、むむう(あ、危ない)?」
「そう。スマホ見てないのか?」
 少年が手を離し、まどかは深呼吸してから咄嗟に言った。
「あ、私、別の県から来たから……」

 3

「ここまで誰もいないとは思わなかったわね」
 スマートフォンに表示された地図をちらりと見てから、切菜は住宅街を見回した。人が誰も歩いていない。愛依は黙ってスマートフォンの地図を見つめていた。その隣では、ミーティア・アルビレオが明るい笑顔を浮かべている。
「今日は愛依ちゃんと探索だね~。とりあえず……向こうの人たちとはぁ、仲良くしたい、って方針でいいんだよねぇ〜?」
「え? ……うん。……対立しても、良いことはないからね」
 もし対立したとして、どちらが勝っても負けても気の晴れないものになるだろう。交流が可能ならそうしたい。
「まぁ、取りあえずぅ……仲良くしておいて、損はないもんねぇ。ただ……向こうはどう思ってるだろうねぇ……」
「……うん……」
 言われて、愛依は俯いた。それは、一番知りたいことで、内心で一番恐れていたことだった。敵意を向けてくる相手に歩み寄るのは消耗するし、何より、恐い。
 そこで、2人の話を聞いていたアヅキ・バルが神妙な面持ちで口を開いた。
「……危険な伝染病が蔓延した地域と安全な地域間で人の行き来を制限するのは基本中の基本だと思うし、橋を落としたことは瀬戸際で食い止める為と考えると適切な行動だったと思います」
 水花芽県の生き残りである少女達は口を引き結んだ。愛依は黙ったままだったが、切菜は「そうね」と同意する。
「私もそう思うわ。私の知り合いは、死ぬ前に『どうせ感染するならあんなことしなきゃよかった』って言ってたけど……」
「……結局水花芽でも感染が起きてしまったとはいえ、それは結果論に過ぎないです」
「……そうか、そういう考え方もあるのか……。罪悪感や後ろめたさばかりで、適切だと考えたことはなかったな……」
 愛依は、少なからず驚いているようだった。切菜が小さな声で付け加える。
「やられた方はどう思ってるか分からないけどね」
「愛依ちゃん、出会い頭にぃ、敵視されても……くじけちゃ、ダメだからねぇ」
「…………」
 ミーティアと愛依、暫く黙って目を合わせていた。そして、愛依は口元に笑みを浮かべた。
「……挫けないよ」
「大丈夫〜、何かあったら……お姉さんが、守ってあげるからねぇ」
 にこっと笑ったミーティアが、ふよふよと浮くと彼女の頭をなでなでする。撫でられて、愛依は嬉しそうに目を細めた。その様子を見ながら、唯我が遠慮がちに話を進めた。
「ええと……これからどうしましょうか? 誰もいないみたいですけど……」
「まずはぁ、こっちの県の状況把握からかなぁ〜。住人に会えたり……何か痕跡があるとぉ、いいんだけどねぇ〜。コンビニに店員がいるなら、他のお店にもいるかなぁ~」
 ミーティアが言い、皆はしばし考え込む。店を回って挨拶していくのも手だが、この辺りに店舗らしきものは見当たらない。その中で口火を切ったのはホーリー・ホワイトだった。
「ここの住民は、独自のSNS? で情報のやりとりをしてるんだよな?」
「ええ。昔は県全体のニュースとかは大手サイトに載ったりしてたけど、今は情報を外に漏らさないようにしているのか何も伝わってこないの」
 切菜が答えると、アヅキがそれを踏まえて提案した。
「それじゃあ、まずSNSのIDを見つけてログインできるようにしましょう」
「そうだな。空き家なんかをを探して、死んだ大人のIDを探すところからだな」
 アヅキとホーリーは頷き合うと同時、自分達が似たような考えを持っていることを感じ取っていた。
「んでまぁ、次に探すのはSNS上でピンチっぽい処を探すところかだな」
「ピンチっぽい場所って……?」
 ピンと来ていないらしい唯我に、ホーリーが言う。
「オレとかはさ、出来る事も少ないし戦う事が一番手っ取り早いじゃん? つまり、求めるものを与えよ、与えられるものが在る場所を探せって事だ」
「えーと……つまり……」
 要約しようと唯我が彼女の言葉を脳内で繰り返しているうちに、大和が彼の後を接ぐように言った。
「魔物に襲われている所を助けるとか出来れば話しやすいなと思ってたんだよな」
「……ああ、なるほど! そういうことですか」
「そんな都合よくはいかないかと考えてたんだけどな。たまたま遭遇するんじゃなくて、その場所を探すっていうことか」
「んで、そこに行ってみて、傭兵ごっこでもやってみれば、貸しは作れるんじゃねーの?」
「貸し……」
「…………」
 ホーリーの言葉に、愛依は真面目な顔で何かを考え出し、切菜は逆に面白そうに笑みを浮かべた。
「生きている住民にすぐ出会えればそれがベストですけど、そうでないなら、SNSを通じて生存者に救援にきたことも呼びかけられますし、少なくとも県内の情報が入るはずです。闇雲に動き回るよりは効率がいいはずですよ」
 アヅキが更に続け、ホーリーが訊く。
「唯我はどう思う?」
「僕ですか? そうですね……」
 唯我は少し考えてから、彼女を見た。
「それが1番早く情報を手に入れる方法でしょうし、IDを探しましょう」
「……恨まれてるにせよ、なんにせよ。過去は変えられない。踏み込んでみないと何も始まんねぇし、思い切って行動するしかねーわな」
 話はまとまり、皆はSNSのIDを探すことになった。

 4

 手分けしてIDを探すことになり、大和と愛依は住宅街の近くにある鍛冶屋を訪れていた。携帯電話が落ちていないか確認していく。
「意外と落ちてないもんだな」
「子供達が回収したのかもしれないな……」
 懐中電灯で家具の隙間をチェックしながら言う大和に、愛依は応える。
「そうだな……。2階に行ってみよう」
 この店には店員も職人もいなかった。だが、人が住んでいる温もりの残り香のようなものがあり、探索するのが少し後ろめたかった。

「スマホは私が探すから、大和は中を見て回るといい」
 懐中電灯を受け取って2階の細かな所を照らしながら、愛依は言った。
「鍛冶屋があるということは、観光を売りにしている地区でも武器が必要なんだな」
「どんな土地でも狂暴なモンスターが現れることはある。持っていて損ということはないからな。私も小型ナイフくらいは持っている。そうだな……」
 愛依はちょっと間を置いてから、また話し始める。
「冒険もののゲームとかでも、どんな町にも必ずある店とかってあるだろ? それに近いかな。鍛冶屋は多分、どの県にもひとつ以上はあると思う。造る武器の種類の違いとかはあるだろうがな」
「……なるほどな」
 大和は竈の中を覗いたり、残っている道具を触ってみたりしながら考えている。
「それぞれの設備を見て、参考にすればいい。……現状がはっきりしない限り、この県のものを利用するのは難しいと思うが……それにしても、スマホって意外と落ちていないものだな」
 子供達が回収したのだろうと思いながら、愛依はスマホ探しを続行した。

☆★☆★☆★☆彡


 これで何度目だろうか。
 コンコン、コンコン、とミーティアは一軒家の扉をノックした。暫く待ってみたが、誰も出てくる気配はない。
「これはぁ~、空き家か留守にしてるか……隠れてるか、だねぇ~」
 取っ手を持って手前に引っ張ると、それは容易く開いた。
「はいっちゃぇ~」
「入っちゃいましょう」
 ミーティアに続き、切菜や召喚者達も中に入っていく。既に慣れたものである。まだ昼間だったが家の中は暗く、カーテンを開け放し、一度電気を点けてみる。電気が通っていることを確認してから捜索は始まる。1階、2階、その中のリビング、寝室等を手分けして探す。人が隠れている気配はなかった。
「あ、あったよぉ~」
 やがて、ミーティアが寝室から声を上げた。
「おっ! あったかぁー!」
「何本あった?」
 凪とアヅキが階段を上ってくる。ミーティアは、ベッドとベッドの間にあるキャビネットの前に立っていた。
「1本あったよぉ~」
「充電してる間は休憩ね」
 切菜が言ったのをきっかけに、皆は寝室内に腰を下ろした。この家に来る時までの探索で、彼女達はスマートフォンを見つけていた。だが、充電が完全に切れていた為、引き続き充電器を探していたのだ。
「スマホと充電器があったこと、愛依や唯我君達にも伝えておくわね」
 自分のスマホを出すと、別行動していた2チームにメールを送った。

「ホーリーさん、スマホと……あと、充電器が見つかったようですよ」
 スマートフォンを見ながら唯我はホーリーに話しかける。2人は、家から家への移動中だった。
「おお、やったな! ええと……割とここから近いな。よっしゃ、早速合流しようぜ」
「はい」と応え、唯我はホーリーの後からついてくる。
「……そうだ、ホーリーさん、今日はどうして僕にも行こうって言ってくれたんですか? 留守番の予定だったので嬉しかったです」
「そ、そうか……嬉しかったのか……」
 正面から見れば、ホーリーの目が泳いでいたのが分かるだろう。彼女は『あいつトラブルに巻き込まれやすいし、なんか面白い事にもなんだろ』とか考えて唯我を誘ったのだった。
「はい! とっても……」
 その時、唯我の声が途切れた。背後から強風が吹きつけてきたのだ。ホーリーが振り返ると同時、赤いドラゴンが唯我を咥えて上空へ舞い上がる。
「うわああああああ!?」
「唯我!?」
 ドラゴンは唯我を咥えたまま、空の彼方へ去っていってしまった。追いかけたが、動く歩道を使った上でも人の足で追いつくのは無理だった。
「唯我……」

 ――唯我が捕まった――
 充電器の見つかった一軒家で、合流した大和と愛依、切菜、ミーティア、アヅキ、凪はホーリーから一報を聞いてそれぞれに驚きを現した。
「また?」
 心配しなかったわけではないのだが、切菜はつい眉間に皺を作ってしまった。
「まただ!」
 ホーリーはまたという言葉を否定せずに断言すると、拐われた時の状況を説明した。
「捕まったっつっても、今回は単純な意味でメシに選ばれただけかもしれねえ。……前回もメシ目的じゃないとは言い切れねえけどな」
「だとしたらすごくまずいよね。……もしかしたら、ドラゴンの行き先がSNSで追えるかもしれない。調べてみましょう」
 アズキはスマートフォンの画面を表示させた。指紋認証式のロックは掛かっていない。
「SNSのアイコンは……これだな」
 愛依が画面を指差す。水色の背景に白い魚のアイコンだ。タップすると、ニュースサイトのトップページのようなものが現れた。画面の右上にあるアイコンからして、これでもうログイン済らしい。右側には明らかにハンドルネームだと分かる名前が表示されている。記事はパンデミックが起きた時期から更新されていない。記事の上にあるタブをタップしていくと、やがて複数人の書き込みが現れた。
『またドラゴンが子供連れてきた』
『誰?』
『何か外国人っぽい。他の県から連れて来たのかも』
『子供かな。大人に見えないこともないけど』
『今日はまだ皆無事?』
『無事』
『誰も連れていかれてない』
『でも怖い』
『暑い』
『早く助けて』
『ごめん。今、そこに行く方法を考えてるから』
「…………」
 書き込みを読み上げていたアヅキが顔を上げ、皆はそれぞれに考え込む。
「複数人が連れ去られてるみたいだな。場所は、簡単には助けに行けない場所っぽい……か?」
「もう少し書き込みを遡れば、場所も分かるかもしれないな」
 凪と大和がそう言った時、まどかから愛依に電話が入った。
『あ、あのね! 火山にいるドラゴンが人を攫ってるんだって』
 大通りにいたら住人に注意され、避難所に連れていかれたこと、他の県から来たことを伝えたら歓迎されたこと。ただし、水花芽県は強く敵視されていることも教えてくれる。
『人間も、人魚もその気持ちは同じみたい。あ、それでね、子供達が運ばれてる場所なんだけどね……』
 火山は少々特殊な形をしていて、山頂が大きく抉れてコップのようになっているのだそうだ。
『その中にマグマが溜まってて、マグマの中央に広い足場があって、そこに集められてるみたい』
「そうか……」
 避難場所を聞いてから電話を切る。そこは、この住宅街から然程離れていない公民館だった。切菜が言う。
「火山……登山禁止になっている亜祖山ね。確かに、あそこに連れていかれたら助けるのは難しいかもしれない……」
「この辺りにいる赤いドラゴン……もしかして、これか?」
 愛依が自分のスマートフォンの画面をホーリーに見せる。そこに載っているドラゴンを確認し、ホーリーは「ああ、そうだ」と答えた。
「それなら、倒すことも可能かもしれない。こいつは体の大きさと火属性とで一見して強く思えるが、竜種では最弱だ。そうだな……ゴブリン20匹分くらいの力だと思う。ちなみに火は吐かない。火に強いだけだ。微力ながら私もドラゴン退治に協力する。何よりも、唯我さんが捕まっている以上、どうにかしないとな」
 話を終えた愛依に続き、ずっと考えていた切菜が言う。
「……火山の中にいる子供達を人の力で助けるのは難しいけど、宇尾県の人魚にも協力してもらえば何とかなるわ。県同士で同じモンスターに対すれば、少しは雪解けもできるかもね」
 そして、皆は意見を出し合って対策をまとめ、それを先にまどかに伝えてから公民館に到着した。

 公民館では、子供達とそれぞれ髪の色が違う20代前半くらいの女性達に迎えられた。誰もが眩い程の美人で、彼女達は人魚だという。驚く召喚者達に、地上で活動する時は腰から下を人型化できるし、それで死ぬこともないのだと愛依が説明する。
 真ん中の、ピンク色の髪の人魚が前に出た。
「まず、子供を攫いに来たドラゴンを魅了して、火山にいる皆をここに連れてこさせる。それから誰もいない湖に誘導してあなた達でドラゴンを倒す、ということね」
「ああ、そういう作戦だ」
「私達がやることは簡単だけど……そっちは難しそうね。こっちにも武器はあるし、回復魔法も使えるから手伝うわ。ところで、別の県から来たそうね」
「そうだ。水花芽県から来た」
「え……!?」
 堂々としたホーリーの告白に、人魚達と子供達の顔が一変した。恐い程に険しい表情がずらりと並び、その全てから一気に殺気が立ち上る。
「…………」
 愛依の右足が床を擦りながら後退する。それに伴って半分ほど体が下がり、彼女の右手が誰かの手に当たった。隣を見ると、ミーティアが小さく笑って手を握ってくる。愛依はその手を握り返し、右足の位置を元に戻した。左端の、エメラルド色の髪の人魚が詰問してくる。
「はっきりと言ったね。自分達が何をしたのか自覚が無いのかな」
 人魚の眼圧が目に見えるものであれば、ホーリーがそれを跳ね返す様が見えていただろう。
「隠してもしゃーねぇかんな。それと、橋を壊した奴は皆死んだよ」
「死んだ……?」
 話を聞いた全員は更に厳しい顔になる。だが、オレンジ色の髪をした人魚が1人、辛さに耐えるような表情をして水花芽県側に言った。
「それは……お悔やみ申し上げる」
 腰を曲げ、深々と礼をする。それに少々戸惑いながらも口を開いた。
「……まぁ、こっちも結局は死んだって事だ。橋を壊しても間に合わなかった、そういう事だ」
「…………」
 オレンジ色の人魚は、淡い微笑みを浮かべる。
 他の人魚と子供達の多くは、こちらを睨んだまま何も言わない。しかし勿論、宇尾県の住民の考え方は1人ずつ違う。声を上げたのは、高校生くらいの赤髪の少年だった。
「話は後でもできる。今、優先するべきは火山にいる子達の救出だ。……ドラゴンを退治できるんだな?」
 魔兵装・刀を持った大和が頷く。
「やるよ。皆で攻撃すれば倒せる」
「俺達も少しは武器を持ってる。一緒に攻撃するぜ。それでいいよな?」
 少年が振り返って確認すると、人魚達は堅い表情ながら肯定の返事をする。その中で、水色の髪の人魚が口を開いた。
「でも、聞いた作戦だと、ドラゴンが子供を攫いに来ないと私達も何もできませんよね? まずはSNSでドラゴンが火山を出たことを教えてもらってから動きかないと……」
 人魚は自分のスマートフォンを出して操作をする。皆がSNSを確認すると、『ドラゴンが出ていったら教えてください』『うん』『わかった』と書き込みが続いていた。顔を上げ、水色の人魚は皆と視線を合わせてきた。
「……待っている間に聞きたいことがあるんですけど、あなた方の中にどう見ても大人にしか見えない方がいらっしゃるようなんですが……彼は誰ですか? それに……どうやってこっちに来たんですか? 川は渡れないですよね?」
 人魚は猜疑的な目をしていた。彼女はこちらが本当に水花芽県から来たか疑っているようだった。召喚者と愛依達は束の間黙った後に一斉に凪に注目した。
「ん、俺!?」
「20代を大幅に過ぎているのは霜北さんだけだし、間違いないと思う。それに、川の件。今話すのが一番いいんじゃないか?」
「おぉ、まあ、そーだな!」
「召喚者の件……話すのはどうかと思ってたけど、そういや見りゃあわかるよな」
 愛依と凪の話を耳に入れつつ、ホーリーはひとりごちる。宇尾県側にどれ程戦力があるかはわからないし、黙っておこうかと考えていた。だが、隠し通せないことはもう確かだし、後の戦いで宇尾県側の戦力も判明するだろう。
「召喚者?」
 ピンク色の人魚が彼女の言葉に怪訝な表情を浮かべる。「それは……」と、愛依が答え始め、話し終えた時には皆がぽかんとした顔をしていた。
「で、作った水底トンネルを通って来たのね……。たまに異世界から渡ってくる存在がいるけど、その通り道を任意に発生させられるようになった……」
 彼女だけでなく、真剣な顔で人魚達や子供達がこちらを見詰めてくる。何となくだが、敵意が和らいだようにも見えた。
「それと、川に関しては霜北さんから提案があるそうだ」
 凪が愛依達に話したことを繰り返す。それを聞いて、宇尾県の住人達は渋い表情になった。そしてあっという間にざわざわし始める。
「あのモンスターってキレイなんだよね……」
「キレイとか関係あるか? モンスターだぞ」
「関係あるでしょ、可愛いでしょ」
「可愛くはない」
「爆破させた後にトビラニアが食えるならいいんじゃないか?」
「爆破しても、生き残りがすぐにその穴を埋めてくるんじゃないかな」
 様々な意見が出る中、「あっ!」という声が方々から上がった。先程の赤髪の少年がスマートフォンを示す。
「ドラゴンが亜祖山から出た。これから来る!」
「…………!!」
 集まっている皆の空気が引き締まる。その後、作戦が始まった。囮として広場の中央に愛依と大和が立ち、召喚者や子供達は近くの建物に隠れて待機する。だが、ドラゴンはなかなか現れなかった。

 その頃、ネルネは水底トンネル出口で時間を持て余していた。ひたすらに誰の姿も目にせず、モンスター1体すら通らない。
 とはいえ、宇尾県の状況を把握していない訳ではなかた。スマートフォンで共有された情報を確認して、ひとりごちる。
「今が正念場のようですな。誰も怪我なく終わると良いですが……」
「しょ、しょしょしょ、召喚者かっ!?」
 声が聞こえて視線を上げると、そこには小学校中学年くらいの少年2人が銃を構えて立っていた。幼子が銃を持っていることに、ネルネは少し悲しい気持ちになる。
「そうでございます。危ないことはありませんよ」
「ほ……ほんとか? しんりゃくとかしてこないか!?」
「そんなことは致しませんよ。私共は皆様と仲良くしたいと考えておりますから」
『…………』
 ネルネを見上げる少年達の瞳が徐々に輝いていく。その時、空の彼方から赤いドラゴンが飛んできた。艶のある嘴は、明らかに少年達を狙っている。
「うわあぁ!」
「危ない!」
 ネルネは少年達をスライムで包んだ。直前まで迫っていた嘴がぴたりと止まり、ドラゴンは向きを180度変えて去っていった。
「……ありがとう」
 スライムの中で、少年がぽつりと呟いた。

 ドラゴンが高速で愛依に向かって飛んでくる。ぐあっと開いた口の下部分を、大和が魔兵装・刀で斬り落とす。ぎゃうっという声を上げて距離を取ったドラゴンに向けて人魚達が歌い出す。
「ぐるる……?」
 怪訝そうに首を回したドラゴンの目から、攻撃性がなくなっていく。鼻から下の部分が何となくだらりとなり、笑っているように見えなくもない。
「朝から捕まえている子供を返してくれませんか?」
 水色の人魚が話しかけるとドラゴンは「がう」と返事をした。言葉は解らない筈だが、魅了することで意思が伝えられるようになるのか、ドラゴンは誰も捕まえずに飛び立とうとした。そこで、大和が待ったをかける。手には袋を持っている。
「非常食と水だ。子供は順番に運ぶことになるだろうし、待っている間に少しでも口に入れた方がいい」
「そうですね、足にくくりつけておきます」
 袋を足に提げたドラゴンは飛び去っていく。2人ずつ掴んで戻ってくるを何度か繰り返し、その度にSNS内で歓声が上がった。
「唯我、無事だったか」
「はい、ちょっと暑かったですけどね」
 ホーリーと唯我が会話を交わし、召喚者達も一安心する。――そして、全ての子供達が返され、その安全を確保した時――人魚達がドラゴンに一斉に銃を向けた。
「ぐる?」
「……悪いけど、あなたを逃がすわけにはいかないの。ここを離れたら、あなたは別の土地で同じことをする。食事はしないといけない。だから……ここで倒させてもらうわ」
「ぐる……?」
 ピンク色の髪色の人魚の言葉に、ドラゴンはゆっくりと首を傾げてから「ぐるうぅううううううぅ!」と咆哮した。目に敵意が戻ってくる。
 それから、ドラゴンと水花芽県&宇尾県の戦いが始まった。ゴブリン20匹分くらいの強さを持つドラゴンとは長期戦にならず、やがてドラゴンは地に伏した。

 沈黙が落ち、皆がドラゴンに注目する。緊迫感が解けないまま、本当にもう動かない――そう確信できるだけの時間が経った頃、武器を構えた子供達の顔に安堵が広がっていく。
 そして、わっと喜びを爆発させた。
「ありがとう!」
「ありがとう! 助かったよ!」
県同士のしがらみはそこにはなく、皆が笑顔を浮かべていた。
「あれ……もしかして、いつの間にか受け入れられてる……?」
「ほとぼりが冷めたら元に戻るかもしれないわね」
 驚く愛依の隣で、切菜が苦笑しつつ言う。そこで、ネルネが少年2人を連れてやってきた。子供達は赤髪の少年に駆け寄っていった。
「おにいちゃん!」
「おにいちゃん!」
「お前達! どこ行ってたんだよ!」
「そ、それは……あ! 召喚者のスライムにドラゴンから助けてもらったんだよ!」
「スライムに?」
 赤髪の少年はネルネに目を向け、そして真面目な顔で礼をした。

 5

 巫女月川に船を渡す計画は相談の結果白紙になり、その代わり、車が通れるように水底トンネルと道路を繋げることになった。
 そして桐夏は、宇尾県の子供達と県で一番大きい書店に向かっていた。この県の文化を知る為だ。
 パンデミックによって交流が断絶していたから、宇尾県では地域特有の法律、文化、極端な話文明ができて発展していても不思議ではない。現時点で判明しているのは貨幣制度が残っていることくらいだが、他にも何かあるだろうか。
(俺らは来訪者だからその地域に合わせる必要がある。郷に入りてはなんとやらだ)
 独自文化が無ければ無いで構わないが、あるのならば、自分達が今後彼らと友好的な関係を築くためにもその辺は学ぶ必要がある。
 ――とはいえ、やることは普段と変わらないのだが。彼らの文化を……宇尾県のクソ作品事情を調べるのだ。
 子供の1人が訊いてくる。
「なんで本屋に来たかったの? 本が好きなの?」
「本はもちろんいいものだが、俺は特にクソ作品が好きなんだ」
「くそさくひん?」
「苦咀錯品?」
 子供も少年も成人間近そうな青年も、疑問符を浮かべた顔をする。桐夏は喜々としてクソ作品について自論を展開させる。漫月に来てから――否、来る前からクソ作品と言うと首を傾げられることが多かったが、桐夏は説明を苦にしない。
 書店に着くと、話を聞いて何となく理解した子供達が自分のお気に入りの漫画や本を持ってくる。
「これこれ! これが面白いんだよ!」
「この辺が名作って言われてる漫画だよ。子供にはあんまり人気がないから結構残ってるよね」
「へえ、何で人気がないんだ?」
「何か絵が古くて面白そうと思えないからかなあ」
「アニメもやってないし、どんなのかわかんないんだもん」
「今はテレビ映らないしね!」
「ふーむ、名作にはエモいのもクソなのも多いんだけどな」
 桐夏が棚から漫画を出して背表紙のあらすじを見比べていると、他の子供が雑誌を持ってくる。
「この雑誌を見れば何が流行ってるか大体わかるよ! パンデミック前の雑誌だけど、どれも今も人気があるよ!」
 雑誌を開くと、今となっては桐夏が知っている作品が載っていた。つまり、水花芽県で見たものと同じということだ。ここがファンタジーな世界なのにファンタジーなものが多い。
「パンデミック後の作品はどこで見られるんだ?」
「ネットだよ!」
「無料で公開できるところがあるからな、作者はそこで公開して閲覧数で競うんだ。今は書籍化はできないから、サイトで人気のある作品の作者は職人扱いされている。1円も収入はないわけだが」
 高校生の、どこか厨二っぽい少年が教えてくれる。先程も別種の厨二少女がいたが、この県ではこれもひとつの性格なのだろうか。
「そのサイト、教えてくれるか?」
 以前行ったクソ意識調査で、この世界の嗜好が俺の知ってるそれと食い違ってる可能性も出てきた。そのサイトには独自のネットワークで生まれた独自のクソ作品達が存在してるかもしれない。
(そう考えると、オラワクワクすっぞ!)
 厨二っぽい少年はスマートフォンを操作し始めた。
「ああ、SNSのここから入るんだ」
 ネットを見ると、閲覧数上位にあるのはファンタジー系の災害ものだった。
「自分達の環境に近い設定の話が人気だな。感情移入しやすいというのがその理由だ」
「なるほどな」
 話を聞きながら、桐夏は夢中になってまだ見ぬクソ作品のチェックを始めた。

☆★☆★☆★☆彡


 畑に来たまどかは、少々ぽっちゃり気味の少女の後を歩いていた。
「じゃあ、早速ここの案内するね」
 少女は畑の脇を歩き出す。元々はもっと規模の小さい畑だったが、自分達で広げていったのだという。作られている野菜はどれも瑞々しく、肥料も足りているようだった。
「有機肥料を使ってるからね。ここが鶏舎で、向こうに牛舎と放牧場があるよ、ほら」
 少女が指差すと共に、モウ~という声やコケッコケッという声が聞こえた。歩いているうちに、水道の蛇口が見えてくる。
「この蛇口の水は牛や鶏の飲み水に使ったり、掃除に使ったりしてるんだ。畑にも蛇口はいくつもあるよ。あ、あと、ちょっと離れてるけど湖の方には田んぼもあるし」
「田んぼ!? お米があるの!?」
「あるよ。この県が観光業をしていて良かったよ。自分達だけで田んぼを作るのは難しかったと思うから」
 大人がいた頃には、米生産量が非常に高い県があり、米の供給はほぼその県で賄っていたという。
「観光業をやってて、ご当地食材に拘ってなければ私達は今頃飢えていたかもしれないね」
「はぁー、そっかぁ~」
 まどかは感嘆の息を吐いた。土地柄でそれだけ育てられるものが違うのだ。それなら――
「湖から美味しい魚とかも獲って食べられるの?」
「うん、食べられるよ。流石に皆に行き渡るほどは無いけどね」
 想像以上に豊かな環境にこちらとしては驚くばかりだ。特に米などは、喉から手が出る程に欲しいものだ。交換できそうならそうして、水花芽県の子供達にも食べさせてあげたい。
(でも、こっちは交換できそうな物を持ってないな……)
 もともと分けられる程の食料もない。技術や知識についても、ここの子供達は充分に持っているように見える。
「これだけ食料があったら、食べられない子とかはいなさそうだね」
 まどかの言葉に少女は僅かに顔を曇らせ、うーんと言った。
「ここ以外にも畑はあるし、地域のお店にも卸すことはできてるけれど……お金を持ってる子とそうじゃない子で食べられる量が変わることもあるし……なるべくあの公民館に集めて配給はしてるけど、今のままじゃダメだと思ってる。やっぱり、前みたいに皆が食べるものを自由に買えるくらいにならないと」
 今の宇尾県では人魚が子供達の仕事を決め、それによって自分達の貯金から給料を分配しているのだという。だが、そうではなく、親が残した貯金を使えるように年長の者達が銀行のシステムを勉強中なのだという。
「その親の子供だという証明ができたら下ろせるようにする予定なの」

☆★☆★☆★☆彡


「え? 異世界から……?」
「そう。私達はこの世界で生まれた人魚じゃないの」
 公民館にて、残った召喚者達は人魚達から話を聞いていた。
「私達を受け入れ、市民権をくれたこの県の人達にはとても感謝してるわ。だから、彼等を殺したと思っていた宇尾県が許せなかった……けれど、今は心境の変化を感じている」
 ピンク色の髪の人魚は、そう言うと愛依を正面から見詰めた。
「あなたは異世界とここを任意に繋げられる装置を造ったのよね? それなら、逆も造れるはず……。私達を故郷に帰す為の研究をして。――それが、私達が水花芽県に協力する条件よ」
「……分かった。私には召喚者達を故郷に帰す責任もある。必ず装置を完成させる」
 愛依は人魚達に対して、強く頷いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<あとがきマスターコメント>

リアクションの公開が大変遅くなってしまい、誠に申し訳ございませんでした。
一生書き終わらないのではないかと本気で思ったことが何度あったか分かりませんが、何とか形にすることができました。
遅れた要因は、自分の想像力、まとめ力、キャラクターへの同調律の衰え、そしてメンタル的な部分が大きかったと思います。
ご心配、ご迷惑をおかけいたしまして、改めて陳謝させていただきます。

この度は、ご参加いただきありがとうございました。

――――――――――――――――――――――――――――――――


<定員> なし
<参加締め切り> 11月24日23時
<アクション締め切り> 11月28日23時
<リアクション公開予定日> 12月20日
<リアクション公開日> 2月24日

<参加者>
刀神 大和
アヅキ・バル
ネルネ・ルネールネ
佳波 まどか
ミーティア・アルビレオ
ホーリー・ホワイト
織主桐夏
霜北 凪


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  1. 2019/02/24(日) 15:46:47|
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