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【キャンペーンシナリオ】アルタン戦記 その1 ~出港~

アルタン戦記 その1 ~出港~


マスター:神明寺一総




 
 少年は、海を見ていた。
 ゆるやかな右下がりのカーブを描き続ける成績に対する、両親や担任の突き上げ。何につけ空気を読むことを強要される友人関係。それら全てに嫌気が差し、海に来るようになってもう何年経っただろうか。
 家庭。学校。友人関係――。
 そうした、逃げ出したかったモノ全てが消え去って久しいというのに、少年はまだ、毎日のように海に来ていた。
 丘から臨む漫月の海には、行き交う船の影一つとてない。パンデミック後の世界において、遠洋航海を成し得る国は未だ存在せず、漫月もまた例外ではない。代わり映えしない水面を日がな一日眺めるのが今の少年の日課であり、その日もそうして一日が終わる――はずだった。その時までは。

(ん……?)

 なんとも言えない違和感を感じて、少年は彼方に目を凝らした。海と空の境目。水平線が、空の青と混じり合って溶け合う辺りに、何かシミのようなモノを見つけたのだ。そのまま、身じろぎもせず見つめ続ける事数十秒。

「あ……」

 小さな声が、少年の喉から漏れた。目が大きく見開かれる。彼方のシミは、今や黒い点となっていた。

「あ……、ああ……!」

 驚きのあまり石になったようになっている少年を尻目に、黒い点はドンドンその大きさを増していく。今やその点は、ハッキリとした船の形を成していた。

「ふ、船だ――。船が、船が来たんだ!」

 少年は弾かれたように立ち上がると、転げるように丘を下っていく。

「ブォーーーー」

 何かに憑かれたように駆けていく少年の耳に、遠くから汽笛の音が届く。

「みんな、船だ!船が来たんだ、船が!!」

 少年はあらん限りの声で叫んだ。



「いやー、まさかア東から船が来るとはねー」

 朝比奈愛依は『感心した』という風に呟いた。その目は、伊丹満貞が半日足らずでまとめた報告書に向けられている。既に一度目を通しているため、流し見、という体だ。

 何十ヶ月か振りに漫月の港に入港した船の名は『スタルカ号』。アルタン大陸東部の港湾都市リガティアを母港とする貨客船である。

「しかも乗員はたったの5名。うち遠洋航海の経験があるのは、船長役の元二等航海士1名だけだっていうんですからね。まさに奇跡ですよ」

 愛依の話に伊丹が相槌を打つ。自分で取り調べにあたったのでなければ、にわかには信じられない話だ。

「やっぱり覚悟が違うのかしらね。国に残してきた人達の命が懸かってるんだものね」

 スタルカ号の船長、アレクセイ・アシモフの話によると、現在リガティアではほぼ全てのライフラインが停止。食料も底を突きかけ、このままでは次の冬は越えられないという。漫月国が召喚ガチャのお陰で復旧の途にあると聞いた彼等は、この絶望的な状況を打開すべく一か八かの賭けに出た。はるばる海を越えて、漫月国まで救援を要請しに来たのである。

「お願いします。俺達を、国の子供達を助けてください」

 そう言って頭を下げるアレクセイの悲壮な顔が、満貞の脳裏にまざまざと甦った。

「ね、伊丹さん。助けに行くんだよね?元々ア東に行くつもりだったわけだし」
「もちろんです。渡航のための船と乗組員が向こうからやって来てくれた訳ですからね。文字通り『渡りに船』ですよ」

 ア東進出計画が具体化してから、既に数ヶ月。ア東に行くための船と人員の確保が出来ず切歯扼腕していた伊丹にとって、今回の件はまさに天佑と言って良い。

「良かった~」

 伊丹の言葉に心底ホッとした顔をする愛依。

「既にスタルカ号の整備や物資の調達・積み込みを急ピッチで行っています。完了し次第、出港です」
「間に合うと良いけど……」
「間に合わせます。必ず」

 伊丹は決意に満ちた顔で言った。


 数日後――。

「いってらっしゃい。気をつけて」
「吉報をお待ち下さい」

 手早く出港準備を調えた伊丹は、スタルカ号と5人の乗員、それに先遣隊のメンバーと共に漫月を出港した。目指すはア東の港湾都市リガティア。まさに「冒険」と言って良い、期待と不安に満ちた旅立ちであった。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<マスターコメント>

★注意!★

 このシナリオは『アルタン戦役』というキャンペーンの第1話にあたりますが、前日談として第ゼロ話がありますので、実質第2話となります。
 第ゼロ話に参加していない方でも問題なく参加出来ますが、第ゼロ話は一通り読んでおいて下さい。
 また時間軸としては、「漫月国内の情勢がある程度落ち着きを見せ、海外進出の余裕が生まれた近未来(数ヶ月~数年先)」を舞台としています。
 これはアルタン大陸を舞台とする本キャンペーンと、漫月国を舞台とする他のシナリオの両方に円滑に参加して頂くための措置となります。


★あらすじ

 第ゼロ話で具体的な目的地が決定し、順調に進むかに見えたアルタン東部進出計画ですが、まだ実行段階にも入らぬ内から思いもよらぬ理由で頓挫することになりました。漫月には、先遣隊をアルタン大陸まで送るための船も、その船を動かせる人員もいなかったのです。パンデミック後の混乱の中、海原に乗り出すような余裕はついぞありませんでした。
 元商船学校の学生や工業系の学校の生徒を乗組員や整備士として養成し、放置され痛みの激しい船を修復して――と、『出港出来るようになるまで少なく見積もっても数年はかかる』という報告に、計画立案者である伊丹が頭を抱えてきた所にやってきたのが、ア東から来たスタルカ号でした。
「飢餓の危機にある子供達を救ってほしい」という乗員の懇請を伊丹は快諾。伊丹とPC達先遣隊は、一路アルタンへの航海に出発したのでした。



★アクションについて

 今回のシナリオの舞台は、リガティアへと向かうスタルカ号。
 期間は漫月出港直前からア東到着まで。

 プレイヤーの皆さんには「この航海の間をどう過ごすか」を考えていただきます。

 NPCやPCと交流を深めるもよし。
 船内作業を手伝うもよし。
 何か気になる事を調べるもよし。
 もちろんただだのんべんだらりと過ごすのもよし(笑)

 今回の航海はとにかく人手が足りませんので、炊事洗濯掃除などの雑事から船の点検整備、航海の警戒監視に至るまで、キャラクターのやる仕事は五万とあります(労働を強制される訳ではありませんが、働かないとそれはそれで周囲の風当たりがキツくなるのは間違いありません)。


 アクションとしては最低限、

①何をするのか(極力具体的に)
②何処でするのか
③何故それをするのか(行動の意図・狙い)

 最低でも、以上3点を記載して下さい。

 その他、もしいれば

④一緒に行動したいPC・NPCの名前

 も書いておくといいでしょう。

 場所の例としては、スタルカ号のブリッジ、機関室、貨物室、厨房、食堂、バー、遊戯室、図書室、各個人の船室、アクションが出港前であれば漫月国内の何処か……等が挙げられますが、キャンペーンの幅が広がるような(要するに面白いw)アクションであればドンドン採用して行きたいと思います。



★登場NPC

本シナリオには公式NPC以外に、以下のオリジナルNPCが登場します。

 伊丹 満貞
 レヴィス・マレスティウス

①アレクセイ・アシモフ
②オリガ・ユロフスキー
③タチアナ・ユロフスキー
④マリア・ユロフスキー
⑤アナトーリ・ハバロフ

 伊丹とレヴィスについては【NPC】の項目を参照して下さい。
 アレクセイ以下の①~⑤については、下記を参照して下さい。


①アレクセイ・アシモフ 人間 男 20歳
 リガティア沿岸警備隊の隊員。階級は軍曹。
 船員の中で正規の軍人としての訓練を受けた、ただ一人の人物。
 船を操ったり海図を読んだりと航海に関する知識を持っているのは彼だけであり、そのため船長を務めている。
 優秀で決断力もあるが生来の心配性であり、そのため船長の職を負担に感じている。


 以下2~4は姉妹。いずれ劣らぬ美形。

②オリガ・ユロフスキー 人間 女 18歳
 整備士。整備士として正規の訓練を受けている。
 船の整備の他、無線を扱ったり計器を読む事も出来るため、アレクセイのサポートを行う事も多い。
 長女という事もあり、責任感が強く面倒見が良い。几帳面な性格。


③タチアナ・ユロフスキー 人間 女 17歳
 副整備士。正規の訓練を受けておらず、オリガの指導を受け技術を習得した。しかし実際に行えるのは点検と簡単なメンテナンス程度で、修理は姉に任さざるを得ない。
 やや勝ち気な性格で、男勝りな言動もしばしば。姉やアレクセイを気遣うあまり、背伸びする傾向がある。


④マリア・ユロフスキー 人間 女 14歳
 食事の用意から洗濯まで、船内の雑用一切を一手に引き受けている。
 健気な頑張り屋。実は3姉妹の中で一番合理的。


⑤アナトーリ・ハバロフ 人間 男 13歳
 リガティアから車で数日の距離にある小さな漁村出身。
 出港していくスタルカ号を見て、父の遺品である小さな漁船で追いかけたもののエンジンの故障により漂流。アレクセイ達に助けられる。
 普段はマリアの仕事を手伝っているが、船長の仕事に興味があるらしく、たびたびアレクセイを質問攻めにしては3姉妹にたしなめられている。



★スタルカ号

 全長約130メートル。総トン数・総積貨数共に約7000トンの中型貨客船。艦齢約20年。古びてはいるが、充分航海に耐えうる状態である。
 貨客船であるため、一等・二等船室や各種娯楽設備なども備える。
 漫月出港時には、充分な量の物資を積んでいる。



 では皆さんの腕によりをかけたアクションを、心よりお待ちしています。



※ここから下はキャンペーンの舞台設定となります。内容は第ゼロ話と同じです。

★アルタン大陸とアルタン社会主義共和国連邦★

『アルタン社会主義共和国連邦』(以下ア連)というのは、大洋を挟んで漫月国の西方に位置する『アルタン大陸』の全域と、その周辺の島々を領土としている大国です。オーストラリアと同程度の面積を有するアルタン大陸はいびつな「く」の字型をしており、中央部を南北に走る山脈によって、大きく東部・西部・南部の3つに分けられます。アルタン大陸には北から寒帯~亜熱帯までの気候帯が存在します。
 ア連は今から数十年前にアルタン大陸西部に成立した国で、わずかな期間で軍事大国化すると、10年余りでアルタン大陸内に複数存在した国を片っ端から征服・服属させ、一大強国となります。しかし、無理な拡張政策がたたり国内は常に不安定で、パンデミックを機に連邦内の共和国が次々と独立を宣言して内戦に突入。その結果パンデミック収束前には、既に国家としての体を成していませんでした。



★アルタン大陸東部地域

 アルタン大陸東部は最も遅れて連邦に編入された地域です。自然環境は厳しく、最北部にはツンドラ地帯が、内陸部には砂漠と荒野が広がり、人が住むのに適した地域は南部の沿岸域に限られます(気候帯としては寒帯~温帯に属す)。しかし天然資源に恵まれた土地であり、域内には多数の油田や鉱山を有します。



★アルタン東部進出計画

 愛依の提案は、このア連の東部地域に進出しようというものです。

「パンデミック後に残された国内の物資は既に底を突き始めており、元々資源の乏しい島国である漫月国がこの先も存続していくためには、海外において物資を確保する事が必要不可欠である」

というのがその理由ですが、では何故、アルタン大陸東部が初の海外進出先に選ばれたのか。その理由は2つあります。

 1つ目の理由は、アルタン大陸東部が豊富な資源を有している事。
 今現在愛依達に油田や鉱山の操業を再開させられるだけの能力はありませんが、パンデミック時の避難の慌ただしさを考えれば、現地には相当量の物資が手付かずのまま残されている可能性が充分にあります。実際、ア連から漫月国に避難して来た難民からその想定を裏付けるような証言が得られており、それらを確保するだけでも、当面の窮状を脱するには充分と言えます。

 2つ目は、この地域が現在ほぼ無住となっている事です。先のパンデミックの際真っ先に感染者の出たア連東部では、感染者の徹底した隔離と、非感染者の西部地域への強制避難が行われました。このためもし東部地域に進出したとしても、ア連当局や住民との衝突はまず無いと想定されるのです。また、ア連自体がパンデミック以前に崩壊していた事もあり、東部以外の地域から干渉もまず考えられません。

 なお進出と言っても、今のところ愛依達首脳部は「武力による実効支配」などは考えておらず、「放置された物資の確保」を最優先に、「生き残りの子供達の保護」「現地における脅威(モンスター等)の除去」程度を想定しています。

<リアクション>

『ア東先遣隊 日報』

                  先遣隊隊長  伊丹満貞 記

 〇〇月XX日 快晴

 一昨日起こりしスタルカ号機関の不調、ユロフスキイ姉妹の努力にも係わらず回復せざりし事、誠に痛恨の極み也。
 作業後ヲリガ嬢より「以後本船は全速での航行不可能成りし事、及ドツクに入らずしての修復は不可能也」との報告有。
 斯くて止むを得ず初頭の航行計画の変更せし事、我本国に無電にて連絡せし。司令部の落胆足るや如何許か、察するに余りある物有。
 未だ航途半ばにして斯様な仕儀に至りし事、吾心中忸怩たる物有と雖も、必ずや任務を全うし司令部の付託に応えんと、決意を新にする物也。

 尚、航海延長に伴い予測されし燃料の逼迫に対処す可く、本日より各部署に於て節電対策を実施する物也。

 以上。

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「ん~!今日も良い天気ですね~♪」
「洗濯物がよく乾きそうですね!」

 公 玲蘭とマリア・ユロフスキーは、スタルカ号のデッキで眩しそうに太陽を見上げた。

「良かったですね、精霊さん。今日はおひさまピカピカですよ♪」

 ポワッとした光を放つ光球が、セラス・アキュアの周りをクルクルと廻っている。セラスの契約している光の精霊は、日の光が殊の外好きなのだ。

 スタルカ号のデッキには、端から端までロープが幾重にも張られ、さらにその上から太陽が、燦々と日光を注いでいる。
 スタルカ号の機関が不調をきたしてからこっち、洗濯はデッキで行う事になっていた。洗濯機や乾燥機の電力を節約するため、洗濯は洗濯板で、乾燥は天日で行うのだ。
 今までマリアが一手に担っていた雑用はそれぞれ担当が割り当てられ、洗濯は玲蘭の、干すのはミーティア・アルビレオの仕事になっていた。また真水を節約するため、デッキ掃除は洗濯で汚れた水を使ってする事になっているが、こちらはセラスの担当である。

「はい、ミーティアさん。これ、洗濯終わりましたので」
「わかったよぉ。あとは私にお任せなのですよぉ」

 ミーティアが洗い終わった洗濯物の山に意識を向けると、一番上に乗っていたシャツがすうっと浮かび上がった。シャツはそのままヒラヒラと宙を舞って行ったかと思うと、洗濯紐の所でピタッと動きを止める。すると今度は洗濯バサミが独りでに動き始め、器用にシャツを洗濯紐に留めて行く。
 全てはミーティアの仕業であった。ミーティアは事故で両腕を失ってはいるが、その代わり魔法的な力で物体を動かす事が出来るのだ。

「マリアさん。この水、もういいですか?」
「あ、ハイ。大丈夫ですよ」
「わかりました。では、初めましょうか。水の精霊さん、お願いしますね」

 セラスがそう呼びかけると、大桶に並々と入っていた汚水が一塊浮かび上がり、デッキにぱしゃり、と広がった。

「ありがとう、精霊さん」

 セラスはそう言って、デッキブラシでゴシゴシとデッキを磨き始める。セラスの契約している水の精霊が汚水を撒いているのだった。


(しかし、今日はいいお天気ですねぇ~。こう天気が良いとポカポカして……)

 まずは第一陣を干し終え、次の洗濯物を待っている内に、ミーティアはいつの間にやら船を漕いでいた。意識を向けた物しか動かせないとはいえ、ミーティアは自分の身体を動かす訳ではない。一処にじっとしていては、眠くなるのも道理と言えた。

「あの……ミーティアさん、寝ちゃいましたけど……」

 デッキ磨きの手を止めて、セラスがマリア達に囁いた。

「こっちが洗い終わるまでまだ時間がありますから。もう少し寝かせてあげましょう。いいですよね、マリアさん?」
「ハイ♪」
「わかりました。私も、少し遠くの方を磨く事にしますね」
「大丈夫だよぉ、愛依……。ちゃんと、資源を持って帰るよぉ……ムニャムニャ……」
「まあ♪」

 マリア達はミーティアの寝言に目を合わせて笑い合うと、静かに作業を続けた。

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「そういえばマリアさん」
「はい?」

 それからしばらくして、玲蘭がマリアに声をかけた。前々から聴いておきたい事があったのだ。

「マリアさんたちは、『漫月国は復興が進んでいる』っていう話を聞いて、助けを呼びに行こうって決めたんですよね?」
「はい。そうです」
「その話、どんな人から聞いたんですか?」
「えっと……漫月から来たっていう旅の人です」
「旅の人……?」

 今のこの荒廃した世界に旅人とは、およそ似つかわしくない言葉である。

「エレミアという名前のエルフで、魔法使いなんだそうです」
「エルフの……魔法使い?」
「はい。ずっとずっと昔から生きているらしくて、パンデミックで変わってしまった世界の様子を見て回ってるって言ってました」

 そのエレミアというはエルフは、その旅の途上漫月国に立ち寄ったという事だろうか。少なくとも玲蘭は、そんなエルフに覚えはない。

「その方とは他にどんな話を?」
「それがエレミアさんはとっても急いでいて。私達に漫月国の話をして、助けを呼びに行くように言うと、すぐに行ってしまったんです」
「そうですか……。他には?他にその方について、覚えている事はありませんか?」
「物凄いキレイな人でした!」
「綺麗?」
「キレイ過ぎて、男の人なのか女の人なのかもわからないくらい!あんなにキレイな人、今まで見たことがありません!それと、声もキレイなんです。
ただ話しているだけなのに、まるで歌を聴いているみたいにうっとりしてしまって」
「そんなに綺麗な方だったんですか?それに、ずっとずっと昔から生きてるなんて……まるで、神様みたいですね」
「そう!それです!まるで美の神みたいな!」
「まぁ、マリアさんったら」

 身を乗り出して、目をキラキラさせながら話をするマリアの様子に、玲蘭は思わず吹き出してしまった。

「ご、ゴメンナサイ!つい夢中になっちゃって」
「いえ、私こそごめんなさい。でもそんなに綺麗な方だったら、私もお会いしたかったですね」
「もう一度会いたいなぁ~。また戻ってこないかな~」

 エレミアの事を思い出しているのか、半ばうっとりとしているマリア。
 一方玲蘭は黙々と手を動かしつつ、謎のエルフについて思いを巡らすのだった。

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(あ~、クソ……。暑い、重い、疲れた……。なんで倉庫番やるなんて言っちまったんだー、オレはー?)

 そびえ立つ積荷の山を前に、霜北 凪
は早くも自分の決断を後悔し始めていた。

『荷役を通じ、船内どのブロックに立ち入っても不自然ではない立場を得る』という狙い自体に間違いはなかった……と、今でも思う。
間違いがあったとすればそれは、積荷の量――ひいては先遣隊のメンバーの数――を、完全に見誤っていた事だろう。

「せいぜいが10人やそこらだと思ったのによー?その倍も居んだもんなー。
デカい船が手に入ったからって、ここぞとばかりに詰め込みやがって、伊丹のヤツよー。
オマケに節電でエレベーター使用不可とか、俺様を殺す気かっつーの」

 などと伊丹に毒づいてみるものの、所詮は八つ当たりである。
初めから倉庫番をやるつもりだったのだから、積込の段階からしっかり仕分けを行っておけば良かったのだ。

「だいたい人手が少な過ぎんだよな~。なんでこんだけ人がいて、倉庫番が俺様とあんな小僧っ子一人っ切りなんだよ。あれじゃ、半人前にもならねぇっつーのー」

 霜北の脳裏に、アナトーリという少年の姿が浮かぶ。もやしのような、ヒョロヒョロとした体躯。いかにも血が足りていなそうな、青白い顔。
 元々アナトーリの生家が貧しかった事に加えて、パンデミックも重なって充分な栄養を摂る事が出来なかったのだろう。
 いくらなんでも、あんな様子では力仕事は任せられない。

「下手に仕事させて、怪我でもされた日にゃあ目も当てられないしのー」
「ご、ごめんなさい……。半人前にもならなくて……」
「いいのいいのー別に謝んなくってー。こんな仕事に志願してくれたその心意気だけで俺様は――って、え!?」

 突然の声に振り返った霜北の眼の前。そこに、すっかり肩を落として「しゅん」としているアナトーリの姿があった。

「あ、アナトーリ……」

 いつの間にやら、独白が口をついて出ていたらしい。

(やべ……!)

 元々青白いアナトーリの顔だが、今やすっかり血の気が引いてしまっている。

「べ、別におめーを責めてる訳じゃないんだぜー!悪いのはエレベーター使えないのに人増やさない伊丹のヤローでー。お前は、悪くない!」
「で、でも……」
「俺様は荷物を整理して、言われた物を探す役。お前はその荷物を届ける役。お前はちゃんと仕事してるぜ?俺様こー見えて、いっつもお前の働きには感謝してるんだぜー?だからそんな顔するな、な?」

 霜北は、ここぞとばかりにまくし立てた。数日間仕事を共にしてようやく打ち解けてきた所だというのに、ここで下手なわだかまりを持たれる訳にはいかない。

「ほ、本当に……?」
「ああ、ホントホント」

 霜北はきっぱりと言った。さっきはちょっと口が滑ってしまったが、その気持ちに嘘はない。

「さ、わかったらホラ、これをデッキに届けてくれ。もし洗濯が遅れたせいでシャツが乾かなかったら、明日一日湿気ったシャツを着なけりゃならなくなるぜー?」

 霜北は洗剤を2個突き出した。わずかな逡巡の後、アナトーリはそれを受け取る。

「わかった。行って来る」
「おう、急いでな」

 霜北の言葉にしっかりとうなずくと、アナトーリは勢いよく駆け出していった。

(やれやれ、なんとかなったかねー)

 その後ろ姿が見えなくなった所で、霜北はホッと息を吐いた。どうやら、上手くフォロー出来たらしい。

(年を取ると独り言が多くなるとは言うけど……『壁に耳あり障子に目あり』とも言うしなー)

「気をつけないといけないな。ウン」

 決意からして独り言になっている事に、まるで気が付いていない霜北であった。

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 アナトーリが出ていってしばらく後。
 「コンコン」というノックの音がして、霜北は荷物から顔を上げた。倉庫の入り口にドクター・Dが立っている。

「なんだ、ドクターか。なんか用か?」

 意外な人物の来訪に、怪訝そうな顔をする霜北。

「いや、用という訳じゃないんだが……少し手伝いをしようかと思ってな」
「手伝い?俺様の?」
「これだけの荷物、君と子供の二人きりじゃ手に余るだろう?」
「確かに余りまくってるけどよ……大丈夫か?年寄りの死に水になってもしらねぇよ?」
「……私は、崩れてきた荷物の下敷きになる前提かね?」
「冗談はともかくとして、だ。あんまりムリしねぇ方がいいぜ?」
「わかっているよ、ムリはせん」
「はぁ……。じゃ、そこのズタ袋運んでもらうか。夕飯の食材を厨房に届ける所なんだ」

 自信満々なドクターの様子に却って不安を抱きつつ、霜北はジャガイモの詰まった袋を指し示す。

「これを運べば良いんだな、任せておけ」

 ジャケットを脱ぎシャツの袖をまくりながら、ドクターが袋に歩み寄る。久しぶりの肉体労働だからだろうか、少し楽しそうだ。

(あの袋ならせいぜい10キロがちょっとって所だし、ダイジョブだろ。いくらロートルだっつったって)

 しかし、この数分後――。
 霜北の期待はあっさりと裏切られたのであった。

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「す、すまんな。君の仕事を余計に増やしてしまった……」
「大丈夫ですよ。こんなのすぐに終わりますから――ハイ、おしまい」

 10キロそこいらのジャガイモでいともあっさりと腰をやってしまったドクターは、もれなく医務室に担ぎ込まれ、たまたま手すきだったマリア・ユロフスキーの処置を受けていた。
 処置と言っても腰に湿布を貼られただけなのだが。

「ありがとう、助かったよ」
「次から気をつけて下さいね」
「寄る年波には勝てんな。気をつけよう」
「それもですけど……」
「ん?」
「物凄い目で睨んでましたよ、霜北さん。ドクターのコト」
「あ~……。確かに彼には迷惑をかけてしまったな。あとで謝罪しておこう」
「それが良いと思います」

 話しながらテキパキと後片付けをするマリアを、ドクターは惚れ惚れと見つめた。

「な、なんですか?」

 ドクターの視線に気付き、きょとんとした顔をするマリア。

「これは失礼。『歳の割によく気が廻るものだ』と感心していたんだ」
「そ、そうですか?」
「これまで君と同じ年頃の子供を何十人となく見てきたが、君は別格だ。……経験の差かな、やはり」
「そ、そんなコトないです。私なんて――」

 ドクターに褒められ、居心地悪そうにモジモジするマリア

「マリア君。君、この後少し時間あるかね?」
「時間……ですか?大丈夫ですけど?」
「良かったら、少し私と話をしないか?教えて欲しいんだ、ア東やリガティアの事を」
「良いですけど……。でもその事だったら、もうアレクセイや姉さん達が伊丹さんにお話してますよ?」
「その報告書は読ませてもらったが、君の話も聴いてみたいんだ。見る人が違えば感じ方も変わるし、何より君は子供だ。大人では気付かないような事に気付く事もある」

 ドクターの話に、マリアはじっと耳を傾けている。

「私の使える武器は謀略だ。だがそれには情報が必要だ。教えてくれ。君が目にしたアルタン東部とリガティアの現状、蔓延る敵、そして――君の望みを」
「私の……望み?」
「君が私達に何を望んでいるのかを。今回のア東進出計画、私達には私達の目的があり、君には君の願望がある。もしその二つの間に差があるのなら、今のうちに埋めておきたい。……わかるかな?」
「……はい。わかります」
「よし。やはり君は賢い子だ」

 満足気に頷くドクター。

「どれ、それでは食堂にいこうか。長話にはやはりお茶が無いとな――うぐっ!?」

そこまで言って、そろそろと立ち上がろうとしたドクターの腰に激痛が走る。

「だ、大丈夫ですか?」
「す、スマンが……。良かったら、ここにお茶を持ってきてくれんかね?今動くのは、止めておいた方が良さそうだ」

「わかりました。ちょっと待っていて下さいね」

 マリアはクスッと笑うと、医務室を出ていく。
 ドクターはまるで自分の孫を見るような目で、その後ろ姿を見送った。

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「ハイ、これ……。ジャガイモとニンジンとタマネギ……確かに届けたぜ……」

 ゼェゼェと息を切らせながら、霜北 凪は野菜を厨房の隅に積み上げた。
「はい、確かに。ありがとうございました霜北さん……重かったですか?」

 疲労困憊といった様子の霜北を、マリア・ユロフスキーが気遣うように言った。

「いやいや……、これくらいどーって事無いって」
「痩せ我慢しちゃって~。露骨に汗だくじゃないですか」
「うるへー」

 それに対し、アヅキ・バルの霜北に対するツッコミには容赦がない。
 霜北の仕事は倉庫番である。各部署からの要望に基づき、船倉の物資の山から必要な品を見つけ出し、届けるのが仕事だ。今回の注文は夕食に使う野菜、しめて20キロ。
 電力削減のため非常時以外にはエレベーターが使えないことになっているため、霜北はそれを一人で船倉からここまで運んできたのである。 廊下では台車が使えるとはいえ、階段は荷物を担いで登らねばならない。
 更に今回はドクター・Dを医務室までおぶって行くというオマケ付きである。
 正直霜北は、階段を何段登り降りしたか思い出したくもなかった。

「こういうときは、重くても重くないっていうのが大人の男ってもんだ」
「ただの見栄っ張りですね♪」
「そこはわかっていても見て見ぬふりをするのが大人の女ってもんだ」
「私、子供ですから♪」

 などと霜北とアヅキが軽口を叩きあっている内にも、マリアはテキパキと調理の準備を進めていく。

「さて、食材も揃った事ですし。そろそろ始めましょうかアヅキさん」
「はいはーい。じゃあね、霜北さん」
「お~う、上手い夕飯頼むぜ~」

 霜北はそういうと、身体を引きずるようにして船倉へと戻っていった。

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「よろしくね、マリアちゃん」
「こちらこそよろしくお願いします。にくじゃがの作り方、バッチリ覚えますからね!」

今日のメニューは肉じゃがだ。マリアが肉じゃがを食べた事がないというので、アヅキが作り方を教えてあげる事になったのである。先日マリアからアルタン風煮込み料理を教えてもらったので、そのお礼という訳だ。

「あ~、なんか給食のおばさんになった気分」

 イモの皮むきを始めて30分。イモは一向に減る様子がない。

「何十人もいますからね~」

 アヅキに相槌を打ちながらも、マリアの手は休まずイモを剥き続ける。

「ま、こうして毎日料理が出来て、美味しい食事が食べられるっていうだけで恵まれてるんだから、文句言うつもりもないけど。そうそう、マリアちゃん知ってた?もしスタルカ号が来なかったら、私達漁船でアルタンまで行くはずだったんだよ?」
「漁船で?ホントですか?」
「ホントホント。伊丹さんが愛依さんと話してるの、私聞いたもん」
「うわ……。何隻必要なんですか、それ……」
「さあ?そもそも動かせる船も何隻も無いから、必要なら何回も行ったり来たりしてピストン輸送するとかなんとか。そんなちっちゃな船じゃ料理なんか出来ないじゃない?だから、マリアちゃんたちが来てくれてホント良かったなぁって。ありがとうね、マリアちゃん」
「そんな……。私達こそ助けに来てもらって、本当にうれしいです!」
「いいのいいの!私達だって人命救助以外の目的もあるんだし、持ちつ持たれつ。お互い様よ♪」
「ハイ、ありがとうございます」

 イモを剥く手を止めて、頭を下げるマリア。
 まだ14歳だというのに、礼儀正しいしっかりした娘である。

「そうだマリアちゃん?『アルキンスキエ』ってしらない?」
「アルキンスキエ?」
「ウン。本で読んだんだけど、結構いい温泉があるんだって。しらない?」
「う~ん……。聞いた事無いです……。ごめんなさい」
「そっかぁ。やっぱり『知る人ぞ知る』なのかなぁ」
「私、リガティアから出た事ないから……。温泉も入った事無いし」
「そうなの!?気持ちいいよ~、温泉!それじゃ、落ち着いたら今度一緒に行こうよ、温泉。オリガさん達とか、リガティアの街のみんなとかも連れて。温泉で温まって、きれいな景色見て、美味しいモノ食べて。楽しいよ~、きっと」
「そうですね……。いつか、行けたらいいですね……」
「行けるよ!私が連れてってあげる!」

 リガティアの惨状を思い出し、一瞬暗くなりかけたマリアの気持ちを、アヅキの明るい声が引き戻した。

「約束ね♪ハイ、指切りげんまん」
「指切り……?」

 差し出された小指に、きょとんとするマリア。

「しらない?指切り。小指出して?」
「こうですか?」
「そうそう。小指と小指をこうして――『ゆ~びき~りげんまん、嘘吐いたらハリセンボンの~ます、指切った!』これで大丈夫♪」

 大丈夫と言われても、マリアには何が何やらさっぱりわからない。

「魔法……ですか?」
「違う違う、ただのおまじない」
「おまじない……」

 アヅキと絡めあった小指をじっと見つめるマリア。なんの根拠も無いけれど、けれど何故か何もかもが上手く行きそうな気がして来る。

「はい。行きましょう、温泉」

 まだ見たこともない温泉の温かさを小指に感じる不思議に、マリアは微笑んだ。

----------------------------------------

「どうですか、刀神さん。大丈夫そうですか?」
「ああ。なんとかなりそうだ。アレクセイの教え方が上手いからだな」
「刀神さんの物覚えがいいんですよ。俺は、人に教えるのは苦手です」

 ここ数日、刀神 大和はアレクセイ・アシモフについて操船について学んでいた。アレクセイの手の空いている時には常に側にいて、計器の見方や航海についての基本をマンツーマンで教えてもらっていた。
 今までブリッジに入り浸っていたというアナトーリ・ハバロフの姿を見る事はなかった。倉庫番に回されたせいもあるのだろうが、刀神に遠慮しているのかもしれなかった。

「早く一通りの事を覚えてしまわないと。いつまでもアレクセイに任せっきりというのは、この船の安全保障の観点から問題がある。将来、ア東と漫月の間に定期航路を出せるようにもしたいしな」
「もうそんな先の事まで考えてるんですか?」
「先の事ばかりじゃないぞ?まずは、アレクセイが休暇を取れるようにしないと。そのためには代わりがいるだろう?」
「そんな、俺の事は別に――」
「それはダメだ。休息も重要な仕事の一つだ。軍で習ったはずだろう?」

 刀神の言葉にハッとした顔をするアレクセイ。
 だが次の瞬間、その顔には自嘲的な笑みが浮かんでいた。

「忘れてしまいましたよ、そんな昔の事。俺達には休息を取ってる暇なんてありませんでしたからね……」

 刀神はすっと立ち上がると、アレクセイの肩に手を置いた。
 振り返ったアレクセイの目を、正面から見据える。

「もう無理しなくていいんだ、アレクセイ。何でもかんでも、一人で背負おうとするな。今は俺達がいる――そうだろ?」

 刀神の言葉に、アレクセイの瞳が潤む。

「――そうですね。それでは、お言葉に甘えさせてもらいます」

 アレクセイは、肩に置かれた刀神の手を、ぎゅっと握りしめた。

「それじゃ、今まで以上にスパルタで行きますよ?リガティアに着く前に丸一日くらい休暇取りたいですからね。いいですか?」
「ああ、望む所だ」

 刀神は、アレクセイの手を強く握り返した。

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「いや~、こんなデカいもんが水に浮くってやべぇなぁ~!」

 どこまでも続く一面の海と、生まれて初めて乗る船に、ホーリー・ホワイトはすっかり舞い上がっていた。

「あなた……、ホワイトさんでしたっけ?」

 後ろからの声にホワイトが振り返ると、そこにツナギ姿の女性が立っていた。三つ編みにした金髪が陽の光に輝いている。整備担当のオリガ・ユロフスキーだ。

「ホーリーでいいよ。よろしく、オリガさん」
「よろしくお願いします、ホーリーさん」

 オリガは柔らかい笑顔を浮かべ、ホワイトの差し出した手を握り返して来た。

(整備なんかしている割には、綺麗な手をしているんだな……)

『手の様子といい、落ち着いた物腰といい、随分と女性らしい人だな』というのが、ホワイトの受けたオリガの印象だった。

「早速だけどさ、オリガ。オレに整備教えてくれないか?」
「え?整備?」
「そうそう。オレ、こう見えて機械いじるの結構得意なんだぜ?銃とか、それからこの腕とか、全部自分で面倒見てんだ」

 ホワイトの左腕は、肩から先が義手である。
 オリガはホワイトに近寄ると、その義手を興味深そうに見つめた。

「スゴい腕ですね……異世界の技術で出来るんですよね?」
「そうさ。こいつのメンテの仕方覚えるのは苦労したよ」
「――わかりました。いいですよ、お教えします」
「お!やった♪」
「それじゃ、早速始めましょうか。ついてきて下さい」
「なんだ、意外とスパルタなんだな」
「お嫌いですか?」
「イヤ、大好きだ♪」


 これが、ホワイトとオリガの出会いであった。
 あれから数日、ホワイトはオリガにつきっきりで勉強した。ホワイトはなかなかに良い生徒だったようで、既に無線を使いこなせるまでになっていた。

「とりあえず、漫月との定時連絡は済ませといたぜ」
「ありがとうございます。もう無線は大丈夫そうですね」
「まあな。これで、他の場所とも連絡がつけばなぁ」

 色々と周波数を変えたり電波帯を変えたりして試してみたが、今の所漫月国以外と交信出来た事はない。

「仕方ないですよ、それは。私達も国で散々試しましたし」
「まぁなぁ」

 やれやれ、といったカンジでホワイトは大きく伸びをした。自分でも高望みをしているのはわかっているが、ガッカリしたというのが正直な所だ。

「なあオリガ?」
「なんです?」
「お前らさあ、少し休暇取ったら?」
「休暇……ですか?」
「そう休暇。お前ら、リガティアにいる時からずっと、ろくに休み取ってないだろ?」
「それは……まあ……」
「少し休んでおいた方がいいぜ?今ここでお前らに倒れられたら、目も当てられねぇ」
「でも……。代わりを任せられる人がいませんし」
「それはそうなんだけどよ。でも、たまには恋人とゆっくり過ごすのも大切だぜ?」
「恋人って……誰と誰がです?」
「お前とアレクセイ?」
「やだ!そんなんじゃありません!」

 オリガは心底驚いた、という顔をしている。

「あれ、違った?」
「違います!」

 オリガは手をブンブン振って否定している。もしやと思ってカマをかけて見たのだが、この様子だと本当に違うようだ。

「なんだかお前、やたらとアレクセイの事心配するからてっきり――」
「だって、危なっかしいんですもの、アレクセイは。なんでも一人で背負い込んで……。今だって、すっかり胃を悪くしてしまって……」
「それで年中青い顔してるのか」
「昔からなんです、あの人」
「昔?」
「幼馴染なんです、私達」
「ああ、それでか」

 道理で仲が良い訳だ、とホワイトは納得した。このチームワークの良さも、長い付き合いあっての物なのだ。

「休暇の話はお気持ちだけ受け取っておきます。今はそれより、一日も早く私の代わりを育て上げないと」
「おう、任せろ。頑張るぜ」
「やる気があって助かります。それじゃ、そろそろ無線の修理を教えましょうか――電気は得意?」
「義手と同じ仕組みならイケるぜ」
「……イチから教えた方が良さそうですね?」
「オレも、そう思う」

 悪びれた様子もなく、ホワイトは頷いた。

----------------------------------------

「へ~、勉強熱心なんだ?」

 その日の夜。
 聞き慣れた声に、織主桐夏は広げた書物から顔を上げた。タチアナ・ユロフスキーが、悪戯っぽい視線をこちらに向けている。意外そう、というよりは、こちらをからかっているように見える。

「図書館で勉強するようなタイプだとは思わなかった」
「一日も早く仕事を覚えたいからな」

 織主は乗船してからこっち、タチアナについて整備やメンテナンスについて学んでいた。今日も数時間前まで『筋が悪い』と散々タチアナに罵倒されていたのだ。男勝りなのはいいが、ここまで口が悪いのは問題だと思う……直接本人には言えないが。

「ここ、ロクな本ないでしょ?元々娯楽室のオマケみたいなモンだものね」

 書架に並べられた本のタイトルを見るに、船の整備を学ぶのに役立ちそうな本は一切ない。元々この図書館は乗客に暇つぶしを提供するためにあるのだ。

「そもそもここの本は読んでない。ここは机が広いし、静かだし、昼間教えてもらった事をまとめるにはちょうどいいんだ」

「ふ~ん……。もし良かったら、貸してあげよか?アタシの教本。オリ姉のお下がりだけど」
「ナニっ!そんなモンがあるのか!」
「確か、持ってきたと思うんだよね~。探しとくよ」
「頼む、恩に着る」

 アレクセイはパンッと手を合わせてオリガを拝んだ。

「……なにそれ?」
「えっと……感謝の気持ちを表す仕草?」
「ヘンなの。アンタ、色々変わってるわよね。異世界の人ってみんなそうなの?」
「それは、まあ、異世界から来た訳だし……そんなに変わってるかな、俺?」
「変わってるわよ。なんだかいっつも本やらゲームやらにブーブー文句言ってるし。そんなにつまんないなら止めりゃいいのに」
「それは出来ない」
「訳わかんない」
「俺にもクソマイスターとしての矜持という物がある」
「バッカみたい」
「バカにしたければしろ。万人に理解してもらおうとは思わん」
「ホラ、やっぱり変わり者じゃない」
「グヌヌ」

 ここぞとばかりに胸を張った織主だったが、いともあっさりとタチアナに一刀両断されてしまう。タチアナとは、一事が万事こんなカンジである。

「だいたい、メンテにしたってアタシに教わりに来るのがおかしいのよ。オリ姉に教えてもらえばいいじゃない。向こうの方が専門家なんだから」
「オリガにはもうホーリーがついてたしな。それに正直、俺はそこまで理系という訳じゃない。それに――」
「それに?」
「どうせ教わるなら、オリガじゃなくてタチアナがいい」

 そう言い切って、織主は何時になく真面目を表情をタチアナに向けた。
 そのまま、彼女の瞳をじっと見つめる。

「なっ――」

 一瞬の間があって、彼女の頬がみるみる紅く染まっていった。

「――な、ナニ言ってんのよ、バッカみたい!」

 タチアナはバンッ、と机を叩いて立ち上がった。
 あまりの勢いにビクッとした織主をキッと睨みつけると、

「フンッ」

 と鼻を鳴らして去っていく。
 引き止める言葉が織主の口から出るよりも早く、その姿は図書館のドアの向こうに消えていった。

「う~ん。いいタイミングだと思ったんだけどな~。ちょっとイキナリ過ぎたか?」

 ブスッとした表情で腕組みする織主。
 今の一連のやりとりを反芻してみたものの、それほど問題があったようにも思われない。

(ともかく、意思表示は出来たんだ。それで良しとしよう。露骨に嫌がられた訳でもないし。……嫌がられてないよな?)

 一旦疑問が芽生えると、途端な不安になってくる。

(うおお!ど、どうなんだ今の反応は!!てっきりタダのツンデレだと思ったんだが!?)

 誰もいない図書館で一人頭を抱えて悶絶する織主。だがいくら悶絶しても、答えが出るハズもない。

(ど、どうするんだぁぁぁ!こんな精神状態で、俺明日タチアナと会えるのかぁぁぁ!!)

 なんというお約束な反応。
 まさに『この展開前に見たな』を地で行く織主であった。

----------------------------------------

「コンコン」
「どうぞ」
「失礼します」

 控えめなノックの音に続いて医務室に入ってきた神楽岡 航の様子を、レヴィス マレスティウスは素早く見て取った。
 立ち姿、歩き方、顔色、表情。見た目には異常はない。

「どうしました?」
「あ、あの……。あなたが先生……ですか?」

 神楽岡は、「恐る恐る」といった様子で訊ねた。

「専門の医者では無いのだけれど、薬師の心得があってね。一応、ここの責任者という事になっている。幸いにして、エルフと人間の生理機能はほとんど同じだからね。それで?どこか悪い所でも?」
「いえ。俺は至って健康です。これを――渡しておこうと思って」
「これは……薬?」

 神楽岡が差し出したのは、個包装された錠剤の束だった。少なくとも10種類くらいはありそうだ。

「俺のコミュニティで使ってるヤツです。ア東についたら役に立つだろうと思って持ってきたんですけど、よく考えたら船でも使うかもしれないって。船で使うんなら医務室に置いておかないと。そうでしょう?」
「君の言う通りだ、神楽岡君」
「お役に立てば良いのですけど……」
「確かに、預からせてもらったよ。ありがとう」

 神楽岡から薬を受け取ったレヴィスは、神楽岡に頭を下げた。
 最近レヴィスが覚えた漫月国の『仕草』の一つである。

「いえ。それじゃ、俺はこれで」
「おや、もう帰るのかい?」
「ええ。もう用は済みましたし……失礼します」

 パタン、とドアを閉め、神楽岡は去っていった。
 神楽岡の足音が、足早に遠ざかっていく。

(『取り付く島も無い』と……。悪人ではないようだが……何かあるのか?)

 神楽岡の態度に不自然な物を感じ、レヴィスは秀麗な眉を寄せた。特に彼の機嫌を損ねた覚えもない。
『思う所があって、神楽岡が召喚者との関わりを避けている』という事実をレヴィスが知ったのは、随分後になってからの事である。

----------------------------------------

「ふ~、いいお湯でした~……って、あれ?」

 燃料節約のため、2日に1回に減らされた入浴からの帰り道、セラス・アキュアは廊下の突き当りの階段を、誰かが降りていくのを見た。

(あれは……アナトーリさん?)

 掃除の後片付に手間取って、セラスがお風呂に入ったのは一番最後。アナトーリはとっくに入浴は済ませたはずだし、普段早寝早起きなアナトーリが起きているような時間ではない。
 なんとなく胸騒ぎがして、アナトーリが消えた階段へと廊下を進むセラス。アナトーリの後を追うべく階段を降りようとしたその矢先――船内放送を通じ、タチアナの悲鳴のような声が響き渡った。

「誰か!誰か来て!アレクセイが、アレクセイが血を吐いて――!早く、アレクセイが死んじゃう!!」

----------------------------------------

 今にして思えば、これが全ての始まりだったのだ。
 船長が血を吐いて倒れた、この夜から。
 
 故国に富と豊かさをもたらす壮挙。
 危急の淵にある人々を救う義挙。

 それらは、この夜を境に我々の前から消え去った。
 そして我々は今、自らの――否。人類全ての生存を賭けた、何時果てるとも知れない闘争の巷にいる。


 レヴィス・マレスティウス

----------------------------------------

――――――――――――――――――――――――――――――――

<あとがきマスターコメント>

 皆さんこん〇〇は、神明寺です。

 まずは前回のガイド公開から随分と時間が経ってしまった事、お詫び致します。

『続きは近日公開(予定w)のエピソード1のシナリオガイドで!』

 とか言っといてこの体たらく……。
 シナリオのネタ自体はこのキャンペーン始めた時から考えてあったんですが……。純粋に時間が取れなくて……。
 本当に申し訳ないです(土下座)。

 しかし、今回はマリアちゃん大人気でしたね。
 女子力アピールって事で女性陣が行くだろうなーとは思ってたんですが。
 ここまで徹底スルーされるアレクセイって……www

 最後にいかにも思わせ振りな一文が入ってますが、次回からいよいよ戦記っぽい話に入って行き……行くはず……行くと思う……多分(笑)

 ともかく、継続の方も新規の方もご参加ありがとうございました!
 次回以降も引き続きご参加頂けると幸いでございます!(最敬礼)

 とゆー訳で、今回はご参加いただきありがとうございました!

――――――――――――――――――――――――――――――――

<定員> なし
<参加締め切り> 9月28日23時
<アクション締め切り> 10月2日23時
<リアクション公開予定日> 10月12日
<リアクション公開日> 10月13日(提出日12日)

<参加者>
刀神 大和
織主桐夏
ミーティア・アルビレオ
ドクター・D
ホーリー・ホワイト
公 玲蘭
アヅキ・バル
神楽岡 航
セラス・アキュア
霜北 凪
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