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【コモンシナリオ】第三話 浄水場探索

第三話 浄水場探索


マスター:有沢楓花




 
 まんげつ造のある都市から離れたとある場所に、瀬織市という小さな市がある。
 中心部は都会的な賑わいを見せ、離れれば田畑や牧場も見られる、そこそこ都会、そこそこ田舎という何かにつけ便利な市だ。
 その「そこそこ田舎」な場所に、小川町はあった。


                       *


「水道の汚染の場所と原因だが、更に上流で問題が発生して処理能力を超えているか、浄水場内部で問題が発生したかのどちらかだと思う」
 町長代理の長谷川 陽向(はせがわ ひなた)は、中学校の職員室で、パソコンのモニターに表示した「瀬織市浄水場」のホームページを睨んでいた。
 最終更新日はパンデミック前の日付のまま。簡単な見取り図や施設の紹介に目を通した後、アクセスマップをクリックする。
「瀬織川沿いの道路まで出て上流へ辿る……どこかの建物を借りるにしても、キャンプ道具一式が必要だな。電車が動いていれば……」
「車が運転できればいいんだけど、長谷川は品行方正だもんねー。免許なんて持ってないでしょ」
 向かいでぽりぽりとスマホを見ながらせんべいをかじっている斎藤 雨音(さいとう あまね)が目だけ上げた。
「それは校則で禁止されて……の前に、年齢的に無理だ。斉藤も同じじゃないか」
「そうよ」
「またあっけらかんと……。とりあえず加賀のバイクなら二時間少々で往復出来るだろう。先に道が通っているか偵察を頼みたい」
 加賀 陸(かが りく)が頷いた。
「分かった。機械化部隊も昔は自転車だったというからな」

 調査の結果、小川町から浄水場までの道は繋がっていたことが判明した。
 陽向の呼びかけや、駅前の掲示板に出した浄水場調査部隊募集の張り紙を見た者が集まってパーティが結成された。陸と武器をもった三人の少年たち――前回ホームセンターに行ったメンバーに加え、陽向、雨音、それに召喚者も含まれている。
 生徒会からは人数分の自転車が提供された。何度か獣や怪物の襲撃、迂回、自転車を降りて押していく場面があったものの、朝食後に出発した一行は三、四時間ほどかけて無事昼前に浄水場の正門前に到着した。
 ここまで来て分かったことだが、敷地から川に向けて突き出している搭状の建物――取水塔の周辺は少し生臭くはあるものの、着色がなかった。そして内部からは生臭い匂いがより漂ってきている。つまり浄水場の内部で何か問題が起こったのだろう。
「広いわね……中が良く見えないわ。鍵も見たとおり掛かってる」
 水の魔法が使えるからと同行させられた雨音が、正門の格子の隙間から中を覗く。
 浄水場の周りには外部からの侵入を防ぐためにセメントの塀がぐるりと巡らされていた。正門越しに見える範囲では、芝生の敷地の上に奥に向かって何本かアスファルトの道が延びていた。分かれ道の手前に小さなクリーム色の建物がある。
「正門には鍵が掛かってるわ」
「……通用門の方は……大丈夫だ、開いた」
 陽向がすぐ脇の通用門の閂を隙間から手を差し込んで開けると、あっさりと扉は開いた。
「じゃあさっさと見に行きましょ」
 雨音は通用門を真っ先に潜り、正門横にある事務所のような小さな建物に近づいた。カウンターがあるところを見ると、本来はここに警備員でもいたのだろう。
 カウンターには水滴型の重しがされたパンフレットが置いてあった。
「これ広報用みたいね。この地図によると正面が管理棟……って、あれ何?」
 雨音は眉をひそめた。
 正面の道からSF映画から抜け出してきたようなロボットが脚部のキャタピラを動かしてやってきた。
 細長い電球のような丸みを帯びたフォルムから手足が生えていて、警備服のような青いペイントがされている。
 頭部の目の部分から赤く光るモノアイがこちらを見ていた。
 目をカシャカシャ動かしながら雨音と背後の面々を捉え、合成音が告げた。
「職員ハ、パスコードヲ提示シテクダサイ。見学ノ方ハ、本日担当者不在ノタメ受ケ付ケテオリマセン。マタノオ越シヲオ待チシテオリマス」
「見学できないの?」
「見学ノ方ハ、本日担当者不在ノタメ受ケ付ケテオリマセン」
 同じ合成音を繰り返すロボットの語尾に重ねて、今度は左手からグワッグワッという音が響いてきた。まるで人体よりもずっと大きな体から発せられたような……。
「何あの声……今度は何!?」
 太陽の光りが遮られ、頭上に突然影が出来た――と思った途端、地面にびたんという音を響かせて、それは着地した。
 ヌメヌメとした灰色の肌にぎょろりとした目、大きく裂けた口、でっぷりとした腹……愛嬌があると言えなくもない。小型であれば。
 それは人間の背の二倍ほどもあり、小山のようなフォルムをしていた。
「カ、カエル……生臭っ!?」
 後ずさる雨音の前に陽向が庇うように出て拳銃の安全装置を外した。その後ろで陸や他の少年たちも自身の銃を構えた。
「下がれ、斉藤!」
 カエルは口を開けたかと思うと、ピンク色の舌をシュッと雨音に向かって伸ばした。
 同時に陽向の拳銃から魔力の弾が発射されて舌を打ち、カエルは急いで舌を引っ込める。
 そして先ほどのロボットが何故かカエルに向けてガシャガシャとモノアイを鳴らすと、
「コードヲ認識シマシタ」
 ――こちらを向いた。
「管理権限者ト敵対。三秒以内ニココカラ退避シナイ場合、排除シマス。3、2……」
「逃げろ!」
 陽向が叫ぶ。
「1……攻撃開始」
 モノアイが光り、前に伸ばしたクレーンのような手の中央から覗いた発射口から、魔力の銃弾が発射される。
 先ほどまでいた地面が穿たれ、一行は一目散に管理棟に向かって走り出した。
「止マリナサイ、警告、止マリナサイ……」
「走れ、止まったら撃たれるぞ」
 陸に促されて全員速度を緩めずに走る。背後から発射音とカエルの気配が追いかけてくる。
 途中鼻が曲がりそうな悪臭がした。草むらの上にカエルの物らしき大きな排泄物の塊が見えた。悪食なのか色々な鳥や何かの骨に混じって布の切れ端も見える。
 息を切らして管理棟のドアノブを回す。幸い入り口の鍵は掛かっていなかった。
 最後に入った陽向がドアを閉めると、声はそれ以上追ってこなかった。こちらの姿を見失ったようだ。
「全員無事か?」
 陽向が息を切らせながら点呼している間、加賀が静かに一つの机に歩み寄った。
 一つのパソコンの電源が入ったままになっている。暗い画面をクリックすると、モニターが明るくなって中年男性のバストアップが写った。首から下は制服らしき作業服だ。
 合成音声ではない、録音の音声が流れてくる。
『誰かいるのか? ユウタ、サヤカ、二人とも無事か? パンデミックからどれくらい経ったのか……一年か、三年か? それとも異常があったか?
 所長と数人、ここに残ることにしたがいつまで無事だろうか。
 何にせよ、中央管理室はこの建物の三階だ。何かがあった時のため資料を用意しておいた。紙の資料もこの机の三段目の引き出しに入れてある。慣れが必要だが、最低限の操作はできるはずだ。
 水質管理室は二階にある。
 警備ロボットを敷地内に何体か導入したから、ちょっとした動物の襲撃からも守られるだろう。三階の壁にIDカードがかけてある。所長命令でも出ない限り敵対しない』
「何それ、守られてないどころか襲ってきたんだけど」
 雨音の呟きを録音が気にするはずもない。
『良かったら水質管理室の金魚のベッツィーの無事を確かめてくれ。再度再生するときは俺の顔アイコンをクリックだ。……では、健闘を祈る』

 二階と三階にはロボットが一体ずついた。
 身構えたが戦闘用プログラムは用意されていないらしく、保守に忙しそうだ。
「只今野生生物ガ繁殖シテイル模様。水質ノ汚染ヲ浄化スル為、特別ナ薬品ヲ定期的ニ注入シ、消毒シテオリマス」
 三階のモニターは、専門的なデータを表示するものから、敷地の監視カメラの様子を映したものもあった。
 気になったのはカエルだ。水を消毒する過程で幾つものプールを通るのだが――黒い中心部を持つ丸い物体がゼリー状のものに包まれて浮いており、その周辺でカエルが飛び回っていた。最初に出会ったカエルより少し小さめのカエルが一匹、そして他のカエルたちも多分相撲取りくらいの大きさはある。
 時々警備ロボットが銃で遠巻きにして撃っている様子も見られる。死体が何匹も転がっていた。
「どうする、警備ロボットは全部破壊するか。怪我人は出したくない」
 陸が問い、雨音が口を挟む。
「それより所長を探した方がいいんじゃない? 生きてるか分からないけど」
 陽向は召喚者たちの方を向いて問いかけた。
「……君たちはどう思う? 手分けして探すか、それとも先に脅威を排除するか……カエルか、ロボットか」

――――――――――――――――――――――――――――――――

<マスターコメント>

 こんにちは、有沢です。
 小川町のシナリオ、第三回となります。今回からのご参加も歓迎しております。

 今回の舞台は浄水場です。
 瀬織川に建てられた取水塔から地下のパイプを通って取り入れた水を、浄水し、きれいな水を家庭や工場へ送る場所となっています。
 場所は大まかに分けて四つです。
 今現在いる管理棟は、敷地の様子を確認したり機械のモニタリングをする中央管理室(三階)と、細かい水質を管理するための水質管理室(二階)、その他事務所や休憩室がある一階になっています。
 水は、取り入れられてから異物を排除するため「天井がない池」を幾つか通り、この辺りにカエルが繁殖しています。
 このプール(池)を通った水は、「天井があり蓋がされている池」でオゾンや炭、塩素等で消毒・消臭され、一時保管された後、敷地外の配水池まで運ばれていきます。池とは言っていますがそれぞれの建物の中で消毒されたり、建物の中のパイプを通っていきます。
 三つ目は薬を注入する装置、機械が並んだ建物です。ここは基本的に作業用のロボットが一体いるだけです。
 警備用以外のこれらのロボットは事前にプログラムされた施設の保守を最優先します。簡単な命令はIDカードがあれば多少聞きますが、保守以外の作業はしません。
 なお停電や地震があったときのための貯水槽が更に地下にあるため、現状、小川町の人間だけなら数ヶ月は楽に保つ量があります。
 四つ目として排水処理施設もありますが、今回は問題ありません。

 問題の水の汚染ですが、汚染の原因はカエルの繁殖および、特別な薬品注入の双方によるものです。
 薬品は通常人間が投入や量の調節を判断していますが、今回想定外の出来事(カエルの繁殖)が増えたため勝手に薬品を注入しています。



 その他、前回の繰り返しも含めますが、小川町周辺は現在このような状況になっています。
●海亀公園について
 拠点についてもアクションをかけることは出来ます。
 前回のガイドと基本的には変わりませんが、
 ・井戸を手入れすれば使えそうである
 ・飲料水はペットボトルの濾過装置でそこそこ安定供給がされるようになった
 ・畑は耕されています。何を植えるかは今後のアクション次第になります。
  特に今回アクションがなければ、前回ご希望がでているものから豆が植えられています。
  (畑にはスペースがまだありますが、米は種籾があるものの田んぼは別途作る必要がありそうです)
  ※種・苗リスト
   米、大豆、かぼちゃ、人参、じゃがいも、さつまいも、玉葱、ピーマン、カブ、ほうれん草、小松菜。
   聞けば他にもあるかと思いますが、パンデミック後に残せたものですので、専門店のような品揃えはありません。
 ・ホームセンターからキャンプに使えそうな物を運び入れた


●町の利用について
 町の施設の利用が出来ますが、物資は豊富とは言えません。
 あからさまな監視役はいませんが気にされてはいるので、不審な行動(武器を手に持ったり)は見咎められます。
 まだ住むことは出来ません(怪我などしていれば治療・一時保護はされます)。


それでは、アクションをお待ちしております。

<リアクション>

いつかのほかほかご飯のために


 縄文時代は狩猟と採集の時代であった。弥生時代に入って農耕が発展し、食糧の安定供給とそれに伴う余剰の貯蓄が村を大きくし……と、日本人の佳波 まどかは学校で習った。
 そしてそんな弥生時代を支えた農耕の主役、革命的食物、日本人のソウルフードは……。
「お米! みんなにほかほかご飯を食べさせてあげるんだー! そのためには田んぼが必要っ!」
 小川町・海亀公園に流れる小川の側で、まどかは額を流れる汗を首にかけたタオルで拭い、空に向かって拳を突き出した。
 まどかは自然と海亀公園における農業責任者のような立場になっていた。
 周りには大小のスコップや草刈り鎌、ハサミに土入れホースなどが転がり、空の植木鉢やプランターが積み重なっている。ホームセンターの収穫物や生徒会で保管してある品を自転車に積んで貰ってきたのだった。トラクターは流石になかったけれど。
 目の前にはこの前耕した畑があって、豆や小松菜の小さな葉っぱが生えている。その隣にはジャガイモの種芋を植えた。主食のジャガイモにタンパク質の豆、成長が早くてビタミンや鉄分が摂れる小松菜となかなかバランスがいい。
 ここにお米が加われば大分栄養もとれるはずだ。何よりどんなおかずにも合う。
(生徒会の畑、色々あったなぁ)
 まどかは小川町の自治会・本拠地となっている中学校の校庭を思い出した。道具を借りに行ったときにちらっと見たが、校庭のあちこちに土を盛ったり、板で囲んで水を入れたりして田んぼと畑をつくっていた。苗は苗で育てていて、苗から移植した方が、管理が楽で雑草や病害虫も予防しやすいらしい。
 お米に関して言えば、板で四角い枠を作り防水したあと、ホースで水を入れてサイフォン現象を利用して排水していた。
 まどかは飲料水をペットボトルで喉に流し込むと、大きなスコップを手に取って穴を掘り始めた。穴を掘って、出た土で周りを少し高くして中に水を貯めるのだ。
 召喚されてから徐々に筋肉の付いた腕に、あちこちにマメができた手。現役女子高生としてはさみしい気持ちがないでもないが、逞しくなった実感がある。農作業の要領も分かってきて、少しずつ楽になっている。何より畑が出来ていくのは楽しい。
 本で読んだ限り、稲は一粒の種から1000粒から2000粒くらいになるという。ざっと換算して一食分二株。2メートル四方の田んぼで、ここの召喚者一日分くらいのお米だ。
 ここで農業が行われていたのは数十年は前のことで痕跡はすっかり消えてしまっていたが、かつては農地だったのだから、出来るはずだ。
 まどかは何も植えられていないまっさらな地面を自分がどれだけ耕せるか考えながら、黄金の稲穂を幻視した。


所長の行方


 水質汚染の原因を求めて瀬織市浄水場まで辿り着いた小川町の一行は、突然巨大カエルと警備ロボットに追われて建物に退避した。
 そこは浄水場の管理棟だった。
 一階のパソコンに遺された動画から三階が中央管理室、二階が水質管理室だと知った一行は次なる手を求めて三階に上った。
 三階の中央管理室に並んだ机にはそれぞれパソコンが置かれ、頭上からもモニターが幾つも吊り下げられていた。
 画面に写っているのは大まかに二種類。浄水場の各機械・設備の様子をモニタリングしているもの――数値や略字、グラフの読解は専門家の領域に入るのだろう。そしてもう一つは敷地内の監視カメラの様子を映したものだった。
 監視カメラは元々浄水場に不審者が侵入しないためのものだったのだろうが、管理者もいない今ではカエルとロボットの戦闘を傍観している。
 浄水場の機能の監視・制御は自動で行われているが、予想外の事態にまでは対処できなかったということ……なのだろう。
「どうする、警備ロボットは全部破壊するか。怪我人は出したくない」
 加賀 陸(かが りく)が問い、斎藤 雨音(さいとう あまね)が口を挟む。
「それより所長を探した方がいいんじゃない? 生きてるか分からないけど」
 町長代理の長谷川 陽向(はせがわ ひなた)は召喚者の方を向いた。
「……君たちはどう思う? 手分けして探すか、それとも先に脅威を排除するか……カエルか、ロボットか」
 真っ先に答えたのは織主桐夏だ。
「俺はカエルの排除に一票だな。アレがいなくなれば水は元に戻るんだろうし、探しモンとかはその後でもいい」
「そうだな、浄水場の汚染源はカエル。そして汚染が止まれば『特別な薬品』の注入も止まる……か」
 陽向が頷く。
「でもカエル退治にはロボットが邪魔そうだけど。管理者権限があれば止められそうだけど……それは所長が持ってるんでしょ? 生きてるかは……パンデミックだから難しいと思うけど」
 雨音が意見を求めるように周囲を見る。
 と、召喚者たちは顔を見合わせた。そして互いに、同じ表情をする。同じ可能性を思いついて。
「さっきの警備用ロボット、カエルの方を見てぇ、コードを認識したって言ってたよねぇ。管理権限者に敵対ともぉ。……もしかしてぇ、所長さん、あのカエルに食べられちゃったんじゃないかなぁ」
 ミーティア・アルビレオがその可能性を口にする。
 皆一斉に頷いた。
「……そうか、そうなのかもしれない」
 陽向は少し面食らって――現実に向き合うのにワンテンポ遅れているように見えた。
 刀神 大和が陽向に申し出る。
「それを確かめるために少し時間が欲しい」
「あ、私もぉ~」
「……分かった、管理棟で調査と準備を整えることにしよう。とりあえず一時間、その後行動を話し合うのでいいか?
 それまで僕は浄水場の全体像の把握と、残された資料を探して読んでおく。疲れている者は遠慮なく休憩してくれ」
 陽向は壁に幾つも掛けてあったのIDカードのひとつを首にかけ、空いた机に一階に置いてあった資料のファイルをどさりと置くと、早速めくり始めた。
 IDカードは職員それぞれに発行されていたものらしく、ネックホルダーにいれられて、壁にまとめてかけられてあった。
 どれも知らない名前が印字されているが、確かに少し前まではここで働いていた人たちが存在した証だ。
「私はこれを一個借りるねぇ~。所長のカードの権限移せないかなぁ~?」
 ミーティアはパソコンを立ち上げカードリーダーを読み込ませて試行錯誤してみたが、所長のカードやパスワードの入力が求められ、諦めてマウスを放した。
「無いよりは良さそうだからぁ、これ持ってカエル退治に行くねぇ~」

 桐夏が監視カメラの画面と入り口にあったパンフレットを見比べておおよそのカエルの位置を頭に叩き込むと、隣で大和も画面を見上げていた。
「浄水場確保後はロボットに警備を続けてもらいたいな」
「ああ」
 カエルが密集しているのは孵化しているプールの側だ。
 その周辺に警備ロボットが何匹かおり遠巻きに戦闘を続け――散発的に銃弾を撃って近寄らせないようにしていて――くぐり抜けたカエル、遠回りしたカエルたちが敷地内に何匹か散らばっているという具合である。
「……こっちのモニターを借りるぞ」
 大和はパソコンを操作してカメラを手動で切り替えていく。管理棟周辺の映像が映し出される。ここに来るまでに見た排泄物の塊も映される。
 更に切り替える。
 あの巨大カエルは正門の辺りまで戻っており、見慣れない物体、つまり門の向こうにあるバイクや自転車にご執心だった。跳躍を繰り返している。門を飛び越えるまでの高さにはまだ至っていないが、体当たりを繰り返す度に門が大きく揺れて、画面越しにきしむ音が聞こえてくるかのようだ。
 あまりに悠長にしていられないな、と大和は全ての監視カメラのデータを同時に呼び出すと、パンデミック後から数日おきに飛ばし飛ばししながら早送りしていく。
 パンデミック後、浄水場の門で別れを惜しむスタッフたち。所長らしき人。しばらくは通常通りの業務が続いているようだ。姿がしばらく映らない。やがてその所長が画面に映った。所長は管理棟から別の場所に移動している最中に倒れる。
 カメラを選択して拡大すると、更に早送りを続ける。
 やがて巨大なカエルが出現し、その死体を――食べた。
「決まりだ。所長は腹ん中だ」
 大和が唸ると、部屋の中にしんとした空気が漂った。モニターを見上げる者、目をそらす者。
「うむ。カラクリはカエルの腹の中の印籠を見抜くことが出来たので御座るな」
 上野木 幸蔵が口を一文字に結ぶと、その時代がかった言い回しに雨音が口元を緩めた。
「……そうね」
「某が駆除も兼ねてカエルの腹を掻っ捌いてみよう。先にこ奴を倒せばカラクリも我らの味方となるのであろう? なれば今後の手助けにもなろう」
「決まりだな。じゃあ、全員の武装を確認したいんだが」
 桐夏が言うと皆はそれぞれの武器を見せ合った。銃や鉈といったものから、木刀、バール、肉体そのものまで。
「……あとは加賀たちのアサルトライフル、長谷川の拳銃と。斉藤は?」
「私、戦えないわよ。水の魔法で護身くらいは何とかなるといいけど……そっちはどうなの?」
 雨音は首を横に振った。何故かキレキレな動きだった。
「……俺の武器? この魔眼だ」
 桐夏は顔の前で片目を隠す仕草をする。ちょっと開いており向こう側が見えるのがポイントだ。
「魔眼? 魔法でも使えるの? ……魔王とか封印されてる?」
「今はまだその時ではない」
「そ、そう……あ、もうすぐ一時間よ、陽向」
 スマホの時計表示を見て雨音が声をかけると、陽向は資料から顔を上げた。
「ざっくりとだが浄水場の仕組みは把握した。今後の行動だが、まずは最初に出会ったカエルを対処する、でいいのか」
「……蛙の腹からIDカードを取り出してロボットを味方に付ける。邪魔はなくなるし手数は増えるで一石二鳥。その後は他のカエルの掃除だな」
 ホーリー・ホワイトが話をまとめた。
「そのカエルですが、見た感じかなりの卵がありますよね。カエルが一度に産む卵のは数千から数万。個体種によって差はありますが、カエルは多産の代表格ですし、数千の卵が孵ったら大変ですよ」
 懸念を表明したのはアヅキ・バルだった。
 倒すのは吝かではない――気持ちは悪いが、背に腹は代えられない――し、そのままにするわけにもいかない。手が付けられなくなる。
「貯水槽には数ヶ月分賄える水はあるようですし、孵化を止めるために一度プールの水抜きしてしまったほうが早いんじゃないですかね?」
「確かに。孵化と成長のスピードは分からないが、戦闘中に増援が来ても困るな」
 陽向が頷いた。
「それから……地震などが起こったときのために応急給水槽というものが市街地に一定間隔で地下にあるらしい。全く知らなかったが……これは水道管を共有しているらしいので、どちらにせよきれいな水をしばらく流す必要があるようだ」
「食用に出来るなら飼育……するにしても浄水場のプールというのは遠慮してもらいたいですね」
「分かった、先に水を止めよう。取水停止すれば水が抜けていくはずだ」
 陽向は資料をめくると、パソコンに繋がったカードリーダにIDカードを読み込ませた。緊急時の取水停止と再開の手順も書かれていた。
「現地のサポートは、斉藤と加賀に任せる」
「……分かったわよ。……あんまり趣味じゃないけど」
 陸は無言で、雨音は何かに思い当たったのか嫌そうに頷いた。
 陽向は立ち上がると一同を見回し、力強く、
「……よし、外出組は一緒に行こう。残る者はバックアップを頼めるか? 監視カメラで確認して連絡をくれると助かる」

     *

 大和は外出組――自分以外の全員だったが――が出発後、二階の水質管理室に移動した。
 三階に司令室のような雰囲気があるとしたら、二階は一見して科学の実験室に見えた。黒いつるっとしたテーブルや並んだ試験管立て、白い鍵付きの棚、蛇口が並んだ水道。少し違うところがあるとすれば、普段は家のガスや水道の配管でしか見ないような計器が並んでいるところだろうか。
 隅の机の上には小さな水槽があった。一階のメッセージにあった金魚は一匹で水草の中を泳いでいる。金魚だけでなく小さな半透明のエビも砂の上を散歩していたがこっちには名前はないのだろうか。水槽の隣に手作りの自動浄化装置のようなものが取り付けられているが、水槽に餌が沈殿しているせいか元気がない。
 水の入れ替えや手入れの細かい作業は、作業用ロボットには出来ないのだろう。
「ココデハ水質管理ヲシテイマス」
 大和の持ってきたIDカードに反応して、作業用ロボットが答えると黙々と計器の様子をチェックしている……ようだ。
「残された資料によれば、生物でも水質管理をしているとのことだが……。……水質はどうなっている?」
 計器では確認できないような水質汚染――金属や人為的に入れられた毒など――が水に入り込むと金魚が反応し、異常を発見できるということらしい。
 パンデミックで巨大化でもしていたら、ここで金魚の活け作りを作らなければならないところだった。或いはどこかから金魚を連れてくるか。
「現在ノ水質ハ、健康ニ多少ノ影響ハ認メラレマスガ、消毒ヲ優先シテオリ、タダチニ問題ハアリマセン」
「……影響あるんじゃねえか」
 飲まなくて良かった、と大和は思った。どれほどの影響かは知らないが、物資と医療不足の中じゃただの下痢でも愉快な状況じゃない。
 大和は一人管理棟の中を調べ回り、仮眠用ベッドや物資、日記、遺書や遺体を発見した。
 パンデミックに備え限界まで維持しロボットまで導入したこと、発電所も同様に人が残ったこと、残してきた家族のことなどが綴られていた。
 次第に切羽詰まっていく文章の最後は、病気への怒りに満ちていた。


カエルの合唱


 正門へ再度引き返す前、一行は道の脇の草地で放置されているカエルの排泄物に立ち寄った。
「匂いは覚えてるが、何か気になることが?」
 陸の疑問に、提案した陽向は悪臭に顔をしかめつつ、黒い塊に近づいた。
「刀神君が調べたかったそうなんだが、用事があるようだったから代わりに。……これは作業服の切れ端か。腹の中説が濃厚になったな」
 周囲には飲み込まなかったのか白骨も散らばっている。一人分以上……少なくとも二、三人分はあった。
「助けに来て敵わなかったのかもね……」
 流石に雨音もいつもいじっているスマホを仕舞い、陽向は手を合わせて少しの間黙祷する。
「……待たせて済まない。あのカエルが敷地外に出ないうちに行こう」

 巨大カエルと警備ロボットを警戒しながら一行は元来た道を辿った。正門と事務所が見えてくると同時にキャタピラの駆動音が聞こえてくる。
 この辺りを巡回しているのだろうか、モノアイが先にこちらを見付けた。
 陸がアサルトライフルを構えるが、ロボットはもう忘れているのだろうか。「人間」と認識しているのか攻撃のそぶりは見せない。
「職員ハ、パスコードヲ提示シテクダサイ。見学ノ方ハ、本日担当者不在ノタメ受ケ付ケテオリマセン。マタノオ越シヲオ待チシテオリマス」
 来たときにも聞いた台詞を繰り返す。ミーティアは首にかけたIDカードを持ち上げて突き出した。
「これはどうですかねぇ?」
「コードヲ認識シマシタ。……職員ハ、オ通リ下サイ」
「うん、これなら襲われずに敷地内を行ける……かなぁ?」
 ミーティアは半信半疑で通り過ぎたが、そのすぐ先には例のカエルがいた。正門は巨大な灰色カエルがぶつかる度に大きな音を立ててたわむ。閂を取り巻く鎖と南京錠がギシギシ鳴った。
 こちらの気配に気付いたのか。カエルは跳ねて向きを変えると、鼻腔をひくひくさせて口から警告のような音を発する。
 それから巨大な肉とアスファルトを打ち付けつつサイのように突進してきた。
 彼我の距離は20メートルほど。
「管理権限者ト敵対。職員ハ退避シテ下サイ。退避シテ下サイ」
 何度か繰り返したロボットは、モノアイを何度も瞬きするようにカシャカシャ鳴らした。
「異常検知。非常用プログラムヲ起動……降伏シテ下サイ」
「やっぱりねぇ~。残念だけど強硬手段だねぇ」
 ミーティアはカエルに背を向けると、すかさず【空渡る透手】でロボットの腕を掴んで回転させた。かなりの力が必要だったが、ロボットから見れば何もない場所から突如かけられた力は想定外だっただろう。射線をカエルに向けると、既に発射された銃弾がカエルの皮膚の上ではじける。
「……ターゲット確認中……確認中」
 ロボットは体をぐるんと動かして腕を振り払うと、照準を再びミーティアに向けた。
「……攻撃モードニ移行……敵対行動確認、排除シマス」
 さっきまで攻撃モードじゃなかったのかという突っ込みはロボットには意味が無いらしい。魔法の弾丸を飛び退いて回避すれば、背後のカエルにぶち当たった。
 顔面に銃弾を浴びたカエルはいったん立ち止まって顔を反らして首をぶるんぶるんと振り、喉から腹にかけて膨らませると怒りのような雄叫びを上げる。
「ゲロゲロゲロゲロ……グァグァグァッ!」
 叫んだ次の行動は舌をロボットにぶつけることだった。跳躍。地面が振動し、ミーティアの目の前にカエルの巨体が現れる。風切り音がしてピンク色の舌がロボットをの左腕を巻き取った。ロボットはキャタピラを地面にこすりつけながら引きずられる。
「管理権限者ニ攻撃、管理権限者ヨル攻撃。マタ侵入者ノ敵対行為ヲ確認……」
 想定外の行動にロボットは動きを止めてモノアイだけ動かし、目標を探す。その腕をカエルは口に含むと、飲み込もうとして、ぺっと吐き出した。美味しくなかったのだろう。そのまま口をミーティアに向ける。
 ロボットはよろけながらも持ち直すと、よだれでベタベタの手の中央についた銃口をミーティアに向けた。
 どちらかしか逃げられない。そう彼女が覚悟したとき、空中を巨大なサメが滑っていった。カエルが本能なのか舌をシュッと舌を伸ばしたが、巻き取られたはずのそれは何も掴んでいない。
 ミーティアが急いで銃口から逃れると、再び魔法の銃弾がカエルに撃ち込まれた。
「同士討ちは難しいか」
 そう言ったのはサメを操っている桐夏だった。彼の能力【魔眼『K・C・E』】のうちのひとつ、【ファントムシャーク】で出現させたものだ。ロボットは人間の視覚とは違うからか無反応である。
 なお魔眼『K・C・E』――と言うと暗黒的な格好良さがある(正式名称は『クソ・クリエイト・アイ』だ)。
 これは左目が異世界の環境に影響された結果、左目が変質して目覚めた力で――左目が疼いて邪眼の真の力が目覚めて俺から離れろお前らを殺したくないんだ的封印された魔王の力ではなく――リスクと引き換えに特別な『眼』を発動させることが出来るのである。
「隙あり――!」
 サメに気を取られたカエルの足を幸蔵が鉈で切り裂く。深く肉が抉れた。カエルの悲鳴。動きが目に見えて鈍くなった。
「跳弾の心配はするな、撃ち込め!」
 陸の指示に同行した三人のアサルトライフルの銃弾が頭部に浴びせられる。破裂した頭部に銃撃が止むと、幸蔵は地面を蹴って再度低く接敵した。
「破ァッ!」
 顎から腹まで、唐竹に切り下ろす。掻っ捌かれた腹の端を内側からめくりながら、カエルはその場に沈むように倒れた。一種、破かれたゴムの玩具のような風情があった。

 幸蔵が鉈の血振りをしつつカエルに近寄ると、中から丈夫そうなネックホルダーに収まったIDカードが出てきた。他のカードと使用されている色が違う。
「酷い匂い……濯ぐわね」
 雨音が何もない空中からバケツ一杯程の水を呼び出して、胃液やら何やらを濯ぐ。
 幸蔵がカードをさっと取り上げて、遠距離での撃ち合いをしていた警備ロボットに掲げると、ロボットは攻撃を取りやめた。
「管理権限者トノ戦闘中止シマス……侵入者ヲ優先シテ排除……」
「用は済み申した」
「……了解シマシタ。通常ノ警備モードニ移行シマス……」
 その声に誰かが安堵の息をついた――のもつかの間、陽向が声を上げた。
「……皆、警戒しろ! 囲まれるぞ」
 周囲に相撲取りほどの大きさのカエルが数匹、集まってきていた。
 敵のいない正門を背後に半円の陣形を取った、というより知らないうちに取らされている。
 監視カメラのモニターで見たカエル――小さいものは犬程度、大きな者は相撲取りほどの大きさのカエルがそれぞれの音量で、同じ音程と一定のリズムを繰り返して鳴いていた。ゲロゲロという鳴き声が輪唱となって真夏のアブラゼミのように鬱陶しい。
「なるべく近寄らせるな!」
 陽向が銃の引き金を引く。魔法の銃弾がカエルの肉にめり込んだが歩みを止めない。
「……カラクリ、頼むぞ」
「了解シマシタ」
 幸蔵に従って警備ロボットも射撃を始める。
「さっきの鳴き声で呼び寄せたんでしょうか……」
 アヅキが【シェイプチェンジ】を解き人間から蜘蛛に似た胴体のアラクニアンスタイルを現した。
「カエルさんに恨みはないですが……!」
 アヅキは銃の支援を信じて自ら進み出た。カエルの舌を多足を操って回避すると、【アラクニアン格闘術】で比較的小ぶりなカエルの前脚を掴んだ。
(……重いですね)
 正面から掴んでいるから何とかなっているが、やはり体当たりされればひとたまりも無いだろう。
 再度カエルが口を開く。四本足の上に攻撃手段が舌ときている。しかし彼女にも二本の腕がある。
「せいっ!」
 【バールのようなもの】――数々の世界で数々の勇者に操られた伝説の武器・バールによく似た工具――を突き出して蛙の頭部を狙った。
 ゴツッと言う手応えと共に尖った先端がめり込んで、力一杯引き抜くと同時に血液が勢いよく吹き出た。
「兄が家のPCでやっていたポストアポカリプス物のRPG、あれも水辺で甲殻類だかが変異して繁殖してましたね……」
「アヅキ、横だ!」
 ぴょんと跳ねたカエルに横合いから襲いかかられ、アヅキはとっさに両手でバールの両端を支えると、カエルの前脚を防いだ。相撲の張り手のような攻撃にがくんと後に押される。
 カエルが再度跳ねてアヅキに飛びかかる。
「……がら空きだぜ」
 そこをホーリーは義手で銃を抜きながら手首の角度だけで狙いを定め、右手でハンマーを上げて撃った。
 パンドラの援護射撃が一直線に蛙の頭部を撃ち抜いた。びたんという嫌な音を立てながらアスファルトにカエルが転がる。
「へへっ、図体ばっか大きくても知能は変わらねぇな」
「ホーリーさんも油断しないで下さい!」
 背後からホーリーに巨体をぶつけてきた別のカエルの後ろ足を、横からアヅキは引っ張って転がすと蜘蛛の足で馬乗りになって押さえ込んだ。喉の当たり、膨らんだ喉の辺りの袋――鳴嚢をひと突きする。薄い袋は破られて奥の顎までぐしゃりという手応えがした。
「……私、いつから荒事担当になったんでしょう」
「あー、心配すんなって! 撃つのも打つのも同じだ!」
 ホーリーが励ます。それもこれも、戦闘に前衛と後衛があるなら圧倒的に後衛が多い編制のせいである。
「君が引きつけてくれるおかげで安心して撃てる」
 陽向に励まされたが、素直に喜んで良いものか。
(……おじさんは喜んでくれるでしょうか)
 カエルの合唱はまだまだ続く。あちらから、こちらから。
「……大方プールから来るなら、まだまだ距離がある。今のうちに一体ずつ確実に仕留めて行こうぜ!」
 桐夏の激励に全員の了解、の声が重なった。
 桐夏は幻影のサメを更に二体作り出した。一体だけなら本物そっくりだが、二体目はどことなくCGで作られたような姿になる。それが三体……初めに作った幻影がにじむように形を変えて、ローポリゴンのような懐かしささえ感じる姿になった。
 これが普段見ているクソ映画ならこれはこれで美味しく映画鑑賞できるのだが、生死がかかってる場面じゃ笑い事じゃない。
(緊張感がない面してやがるが、クソ映画に出演してる役者はこんな気分なのかもな)
 カエルの眼の悪さにかけて彼はサメを泳がせた。まぁ予想通りカエルは目が悪い。突進し、跳ねてつかみかかろうとするカエルもいる。
「よし、食いついた」
 桐夏は他の面々をサポートするように、カエルの攻撃を避けるようにサメを泳がせた。偽物とばれないに越したことはない。
「今のうちだ……足を中心に狙い撃て!」
 加賀と三人、そして陽向がカエルの下半身を中心に銃弾を撃ち込む。分厚い肉は致命傷を届けるには邪魔だが柔らかい。ステーキに刃を入れるように引き裂かれて見る間に機動力が落ちていく。
「よっしゃ、任せろ!」
 ホーリーが狙いを付けやすくなったカエルの頭部を打ち抜いていった。



夏の日の大掃除


 パンフレットによれば、川に立っているのは取水塔といい、その名の通り水を浄水場に取り入れるところだ。
 地下のパイプで繋がっているのは着水井(ちゃくすいせい)というプールで、ここから量を調整して浄水場に取り入れていく。
 次に水は隣の薬品混和池で薬を混ぜて、細かい土砂・汚れを固めて沈める。その次にはプロペラのように縦回転で土砂を大きく固めるフロック形成池がある。
 そして沈殿池で土砂を沈め、沈めた土砂を濃縮設備で水分を減らし、脱水させて、土だけ別の用途に再利用する。
 水の方は沈殿池から濾過池へ。大小の砂を順に敷き詰めた場所を通して更に綺麗にしていく。この当たりは海亀公園で作ったペットボトル浄水器と同じ原理だ。
 ここから先は蓋があるため外部の侵入はできない。
 塩素を注入して消毒したりして、隣の浄水池で一時保管をして配水池に送り出す――標高差を利用して配水するために山の上にあるのだという。時間に応じて水を流す量を変えたり、この先も水道管のメンテナンス等局員の仕事は多かったはずだ。
 そしてもうひとつのインフラ――電気の確保も今後問題になるかもしれない。この浄水場も電気によって動いているので、浄水は勿論給水所から圧されて流れる水も弱々しいものになる。
 ……話を戻して。
 カエル退治を終えた一行は、着水井の前にいた。
「濾過池より先は蓋がある。そして濾過池には砂利もあるからここからの侵入はまず難しいだろう」
 陽向はパンフレットとプールを見比べる。
 実際にあまり綺麗すぎる水は好みでないのか、そもそも濾過池には卵がない。
 殆どの卵は外部に最も近い着水井に産み付けられていた。透明な紐状のゼリーに黒い卵が並んで、とぐろを巻いていた。
 カエルの卵も帯の大きさも違う。個体も大小様々で、パンデミックによる変異は一律に発生しているのではなく、個体によっても影響が違うのだろう。その下の世代までどうなるかは分からないが、楽観的に構えられるものでもない。何世代もかけて行われる進化なのか、一足飛びに起こさせるのかも分からない。
 その卵が眼下にぷかぷかと浮いて……沈んでいく。水位が下がっていく。
「えーでは、今から大掃除を始めます!」
 広々としたプールの側に立って、バールをモップに持ち替えたアヅキが宣言した。
「あまり愉快じゃない。見たくない奴は外の蛙を警戒していてくれ」
 陸が珍しく声を大きくし、始めるぞ、と雨音に声をかけた。
「仕方ないなぁ……」
 雨音がプールの残りの水に手をかざす。……と、プールの底に水が蒸発していった。残り少なくなって一端止める。次に陸がその手から出した炎をかざした。水から徐々に湯気が立ち上って、卵や大小のオタマジャクシ、それに人類に理解できる大きさのカエルが茹だっていく。
「茹でガエルの実験とかこんなとこでするハメになるなんてねぇ」
「確かに実験じゃ勿体ないな。干物にするか。保存がきくからな」
「……そういう問題じゃない」
 着水井の卵が一掃された後、アヅキらが梯子を伝って降り、掃除に取りかかる。
 二人の眼下で、食べられそうなのはこっちに入れてねー、という声が聞こえてきた。


           *

 夜の海亀公園。
 スマホで田んぼを撮影していたまどかは、仕上げにメダカにスマートフォンをかざした。
「はいチーズ……っと」
 写真を撮る。川から引かれた水の中をすいすいと泳ぐ姿が涼しげだ。これもボウフラ対策になるらしい。
 ……とのんびりしているところに、賑やかな足音が近づいてくる。
「ご飯持って帰ったよー。これでしばらくお肉には困らなそう!」
 遠くから聞こえてくる声にまどかはぱっと笑顔になって立ち上がった。
「おかえりー! えっーと、鶏肉みたいな味なんだっけ?」
 泥まみれの長靴で田んぼの中をぼしゃんぼしゃん歩いて仲間たちに近づいた。
「もう苗植えたの? 早いね!」
「んー、とりあえずこれだけ。様子見て、後でまた拡張するかも」
 陽向がまどかに声をかける。
「お疲れ様。女子一人で大変だったろうに。これが採れた時のために、おにぎりの具を考えておかないといけないな」
「それとこれはお土産の『浄水場の美味しい水』。これはパンデミック前のだけど、できたての水が飲める水道もあったわ。あと浄水の処理で出た土が園芸用に使えるんだって」
 雨音がまどかにペットボトルを渡した。
「ちゃんとした駅前まで行けば娯楽もあるんだけどね……今度はみんなでどっか遊びに行きましょ」
 わいわいと成果を報告し合っていると、陽向が手を叩いて注目を促した。
「今回の報告だ。浄水場の警備と保守はいったんロボットに任せるとして、今後は前線基地の一つにする。
 ただし向こうに大人数は割けないし、少人数では士気の問題もある。常駐自体が精神的にきついだろう。なので移動の危険はあるが、ひとまず巡回ルート兼休息・補給場所として使おうと思う」
 そして、と続けて頭を下げる。
「ここまで出来たのは召喚者のおかげだ。小川町の町民として……いや、客分として迎えたい。町としては必要だったと今でも思っているが、今までの非礼を詫びたいと思う。済まなかった」


 その夜、小川町ではささやかな歓迎会が催された。
 中学校で飼っている鶏の卵による卵焼きや、ウサギ肉とほうれん草のキッシュ、ビスケットやチョコレート。お茶やジュースも充分用意された。
「この甘さ久々だな、陽向。チョコレートは美味いが、溶けるし入手性に難がある」
 部屋の隅で陸がチョコレートをかじっていた。
「携帯性に優れる非常食なら羊羹もある。小豆と砂糖もホームセンターで貰ってきた。作れるぞ」
「相変わらずだな……」
「趣味のサバゲーが役に立つ状況になるとは思ってなかった……そんな状況来ない方が良かった。しかし全員が全員、何でも良い、各自出来ることをやるだけだ」
 陸はそう言ってまた口にチョコレートを放り込んだ。
 陽向は眼鏡の下から真剣な目で召喚者たちを見やり、決意を込めて。
「今日が……皆で生き延びる、最初の一歩だ」

――――――――――――――――――――――――――――――――

<あとがきマスターコメント>

 第三回シナリオ、ご参加ありがとうございました。
 浄水場の確保が成功しました。 水の方は数日の後、綺麗な水が小川町に供給されることになります。
 保守と警備はロボットが行い、セキュリティを向上させた上で、当面は小川町の人間が定期的な巡回をすることになりそうです。
 数人が最低限生活できるよう、ここを拠点に遠出できるよう整えることになります。

●海亀公園について
 水は問題なく供給されるようになりました。
 海亀公園での栽培は、豆、小松菜、ジャガイモ。そして米が現在植えられています。
 他に欲しいものや家畜は分けて貰えますが、ここで育てずに中学校まで行って貰うこともできます。
 生徒会としては、中学校の生産力では何かしら不足する可能性があるため、可能なら自給自足を続けてもらいたいと思っています。

●町の利用について
 町の施設の利用の他、空き家に住むことが出来ます。
 基本的には町民と同じですが、年長であり戦力があるという立場上、依頼者と物資提供等の協力関係にある立場でもありそうです。



 それでは、もしご縁がありましたら、また次回お会いいたしましょう。

――――――――――――――――――――――――――――――――


<定員> なし
<参加締め切り> 7月14日23時
<アクション締め切り> 7月18日23時
<リアクション公開予定日> 7月28日
<リアクション公開日> 7月28日

<参加者>
織主桐夏
刀神 大和
ミーティア・アルビレオ
アヅキ・バル
佳波まどか
ホーリー・ホワイト
上野木 幸蔵
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