FC2ブログ

ブログPBM Lost Old

個人運営企画PBMだかWだかの試用サイトとなります。ブラウザ倍率100%推奨

【コモンシナリオ】第二話 狩猟と採集、そして農業

第二話 狩猟と採集、そして農業


マスター:有沢楓花




 
 まんげつ造のある都市から離れたとある場所に、瀬織市という小さな市がある。
 中心部は都会的な賑わいを見せ、離れれば田畑や牧場も見られる、そこそこ都会、そこそこ田舎という何かにつけ便利な市だ。
 その「そこそこ田舎」な場所に、小川町はあった。


                       *


 小川町駅は、小さな駅だ。
 今は使われていない時刻表を見れば、パンデミック以前から三十分に一本くらいしか通っていなかったことが分かる。
 入り口からは改札が十分見渡せた。使い込まれた駅舎に、新しい自動改札と自動券売機が目を惹いた。100円入れるタイプの小さなコインロッカーは殆ど空き表示になっている。
 黒板の伝言板に置かれた欠けたチョーク。掲示板に壁新聞が張ってあり、チラシ用スタンドには色あせたチラシが差さったままだった。
「伝言板とコインロッカーは自由に使用して貰って構わない。壁新聞は速報性には欠けるが、今はこれが精一杯だ」
 町長代理の長谷川 陽向(はせがわ ひなた)はそう言った。
 壁新聞は小川町の自治体・「生徒会」が発行しているもので、内容は町内の大きな出来事、各種お知らせ、下手くそな四コマ漫画など。かつてニュースには付き物であった天気予報は、予報ではなく――勿論この町に気象予報士はいないのだろう――過去のこの季節の平均気温と天気のデータに取って代わられている。
「そこには地図がある」
 次に駅のすぐ側にある地図看板の前に移動してから、地図の上、そして駅前から見える店に指をスライドさせた。
「土地勘がないと分かりづらいだろうが、そこが雑貨屋だ。雑貨屋というが、在庫があるなら品目は選ばない。線路を通って時々行商人が来るが、そういったものも置いてある」
 それから指を今度は地図上の、駅から遠くにある大きな建物の場所に置き、
「次にここが瀬織市立第三中学校。今は『生徒会』の拠点として使っている。用事があるなら大抵はここにいるので訪ねて欲しい」
 その他に図書館兼学校、食料品店、診療所、食堂、交番、宿泊施設……と、陽向はテキパキと地図を示した。他にも倉庫や作業場、保育園などの施設があるそうだ。
 店については基本的には配給制なので町民は必要に応じてだが、町外からの旅人も利用する。今日からは召喚者にも対応するという。
「生活に必要なものは引き続き申請してくれれば準備はするが、この前の通り余裕がない。融通できるものには限りがある」
 基本的には自給自足になる。そのために必要なもの……バケツなどは元々町にあるので渡せたが、例えばテントや寝袋などはそもそも小川町自体に幾つも存在しないのだ、という。
 陽向は眼鏡の位置を指で直すと、多少言いにくそうな雰囲気で、
「町としても様々なものを確保しておきたい。そこでだ……町から数キロ行った先に、ホームセンターがある。あった、というべきか……パンデミック後は行ったことがないので現在どうなっているかは不明だ。近々、調査を行おうと考えている」
「早い話、今外に出てる調査隊が帰って来るまで、人手が足りないのよね。しかもあの辺りには川があって、変異した貝がいてね。中型犬くらいの大きさのが繁殖してるんだけど……」
 それまで黙っていた「生徒会書記」の斉藤 雨音(さいとう あまね)が、いじっていたスマートフォンから顔を上げる。しかめっ面をしていた。
「……あいつら肉食なのよ。共食いもするし」
「川の上流の様子と浄水施設の方も気になる。だから調査隊の帰還を待たず状況を見ておきたいと思っている」
「とは言うけど、私たちもただの高校生なんだからね。身の丈以上のことやろうったって上手くいかないわよ」
 陽向はあくび混じりの雨音に分かっているというように頷くと、召喚者たちの方を見た。
「今すぐにとは言わない。公園の方もあるから、近いうちに手伝ってもらいたい。無論、報酬は払う」
 召喚者の拠点となった海亀公園は暮らすに快適とはまだ言いがたい。
 トイレと手洗いの水は使用可能になったものの水質が安定していない。川の水を浄化したきれいな水は貴重品で、量産化するか、どのように使うかも課題だ。
 食料の方にしても、川魚の漁と採集ではいずれ限界が訪れる。
「狩猟と採集を続けるなら――狩りなら町の外に行けば野生生物が増えている。狸くらいは捕れるかもしれない。
 しかし農耕も必要になるだろう。元々はあの辺りは農地だったから、手を加えれば可能なはずだ。
 そこで先の報酬の話だが……生徒会から種や苗を幾らか提供できる。できればこのリストの中から選んでくれ」
 陽向は几帳面な字で書かれたメモ帳を寄越した。
――――――――――――――――――――――――――――――――

<マスターコメント>

 こんにちは、有沢です。
 小川町のシナリオ、第二回となります。今回からのご参加も歓迎しております。

 前回の繰り返しも含めますが、現在このような状況になっています。

●海亀公園について
 ひょうたんのような楕円形の形をした公園です。公園としてはそこそこ広く、元々は古い時代の文化保存を目的としていましたが、その後、敷地の一部に子供用遊具を幾つか設置しています。
 普段は子どもたちが遊び、春には住民が花見を楽しんだりしていました。
 一応水飲み場(上に飲用の噴水型、下に通常の蛇口のあるもの)とトイレがあります。
 ひょうたん型の楕円の一方には、中央に大きなコンクリ製の海亀の遊具があります。登ったり、滑り台にしたり、亀の甲羅の下に入って遊ぶことができます。ここで雨宿りできますが、足を伸ばして寝られるのは数人程度でしょう。
 また藁ぶきの古民家が一軒、水車小屋、使われていない古井戸も保存されています。小川や鯉が泳ぐ池もありますが、どれも水はそのままでは飲用に適しません。
 古民家は玄関兼煮炊き用の土間、土間と連結した板の間(中央に囲炉裏)、奥に畳の部屋があります。ひと家族程度が寝泊まりできます。かまど(釜はありません)はありますが、内部に照明や水道はありません。
 また、公園全体のあちこちに街灯が設置されていますが、町中のように十分な数がありません。

 止水栓が開けられたので、トイレ(男女別)と水飲み場(水を飲むのと手を洗ったりする蛇口があります)が利用できます。
 ただ水質は不安定です。たまに着色・異臭がするので、その時は使用を避けてくれと言われてはいます。
 この異常は町中の水道でも発生しています。

・飲料水の確保
 ペットボトルの濾過装置を使用中です。前回の後、大きなポリ容器も幾つか提供されました。
 小川の水は「異臭や着色」はしていませんので、飲用に適したものが作れました。
 同じ装置の量産化や単純に改良型にする場合などの場合は、すぐに作ることが出来ます。
・食糧の確保
 現在の公園で採取したことがあるのは、魚と野草です。これに加えて、配給の食料と水が残っています。
・水車の修理
 技術や知識があれば部品を取り付けて使用可能です。基本的には脱穀用です。
・寝床の確保
 女子が古民家、男子が海亀の下(と鉄棒に作ったハンモック)です。男子だけど古民家がいい、家を作りたい、等の場合は要交渉&アクションです。
・お風呂
 水の確保は必要ですが、ドラム缶風呂がひとつできました。
・燃料
 現在、燃料は公園の枝拾いで得ることが出来ています。大きなキャンプファイアーをするには足りないでしょうか。


●町の利用について
 町の施設の利用が出来ますが、物資は豊富とは言えません。雑貨屋で購入できる食料と水は現在はなく、前回までの提供分のみです。
 あからさまな監視役はいませんが気にされてはいるので、不審な行動(武器を手に持ったり)は見咎められます。
 まだ住むことは出来ません(怪我などしていれば治療・一時保護はされます)。

・駅について
 前回リアクションの「黒板の掲示板」は、黒板の伝言板のことで、掲示板は別にあるものでした。申し訳ありません。
 この伝言板は、メタ的には、アクションでPC同士、またはNPC、不特定多数と連絡を取りやすくするものです(時間軸で齟齬が出ない範囲になります)。携帯に比べ不便な面もありますが、必要に応じ活用して頂ければと思います。

●調査について
 現在加賀 陸(かが りく)他二、三人が行くことになりそうです。なお装備は銃器中心となっています。
 ホームセンターは道中何事もなく、舗装された道を歩いた場合には、徒歩1時間くらいで到着します。町の年長の子どもなら場所を知っています。
 半分ぐらい歩いた場所に川と橋があり(町より上流です)、肉食性の巻き貝が繁殖しています。それほど強くありませんが数が多かったため(数十匹程目撃されています)、パンデミック後の小川町の子どもたちは川を渡ったことがありません。
 昔は普通の巻き貝で、川遊びをしたことがある地元民は見かけたことがあります。内臓にフグのように毒があるものの肉は一応食べることが出来ると知られています。
 這い寄ってきて、人間でいう口の部分を大きく開けて捕食します。殻が非常に固いため、殻部分は通常の刃物(包丁など)では効果的なダメージを与えられませんが、戦闘の心得があればそれ程驚異ではありません。

●種・苗リスト
 米、大豆、かぼちゃ、人参、じゃがいも、さつまいも、玉葱、ピーマン、カブ、ほうれん草、小松菜。
 聞けば他にもあるかと思いますが、パンデミック後に残せたものですので、専門店のような品揃えはありません。

それでは、アクションをお待ちしております。


<リアクション>

「文明」のはじまり

 瀬織市、小川町の外れにある海亀公園――召喚者たちが地元民に提供された土地、拠点となっていく場所。
 そこに「文明」が作られようとしていた。
 狩猟と採集から、農耕による食料生産の増加と定住による――、
「いや、召喚者には元の文明もある上、浄水器も作成していた。文明的というなら既に現代の基準で文明的だ。しかし出身地域が違う者同士が、現地の文化を混ぜ合わせ作り上げるという意味では、新しい文明……文化ができるだろう」
 町長代理の長谷川 陽向(はせがわ ひなた)が、瀬織市立第三中学校の職員室で考え込んでいた。
 返事はない。
 陽向がそういう小難しいことを考えるのが好きで、別段返答を求めているわけでもないことは、小川町の年長者なら皆が知っていた。
 なので、陽向も返答がないことを気にかけることなく机の上の書類――ホームセンターへの遠征の許可を求める書類に、手作り感のある許可印を押した。
 それを見届け、書類を提出した本人・加賀 陸(かが りく)が普段通りぶっきらぼうな口調で、
「実弾の残りが少ない。魔法が使えない奴を前に出せなくなりそうだ」
「解ってる。まさかホームセンターに銃弾がある訳もなし、今回の調査に召喚者が加わってくれて助かった。浄水場攻略のためにも近いうちに補給が必要か……」
 陽向の表情は、眼鏡のレンズが蛍光灯の光に反射してよく見えなかった。
「……町長が帰ってくるまでには水の件くらい何とかしたいものだな」


         *


「おいしいご飯があれば人間どこでも生きていける……けど……けど……」
 佳波 まどかは配給された食糧の小山を眺めて呟く。
 主食に肉・魚、野菜・果物は揃っている。この公園での採集も今のところやろうと思えばできるけれど。
「……ほかほかご飯が足りないよ!」
 日本人の主食、何より大事な炊きたてご飯。古来よりご飯があれば梅干しだけでもふりかけだけでも食事になると言われるほど。ご飯マイスターになればお米をおかずにお米を食べるという。
(水車が脱穀用っていうことは、この辺りで昔はお米を作ってたんじゃないかと思うけど……)
 まどかは思い立つと駆け足で水車小屋に向かった。向かいながら見回せば、この辺りの土地には小さいけれど川もあるし、労力さえかければ田んぼや畑も作れそうだ。
 水車小屋の中を覗くと、歯車が外されて動いていない杵、小屋の隅には展示用らしい鍬と鋤が置いてあった。ただしかなり古びていて長期使用に耐えられるかは怪しい。
 ちょっと考えて、まどかは腕まくりをすると鋤を握りしめた。
「美味しいお米と野菜のためだもん、頑張るぞー!」
 持ち上げるときちょっとよろめいたが、すぐにコツを掴んで畑作りに取りかかった。
 水を引くのは大変だから最初は畑からだよね、と、田んぼ候補地を残して鋤を土にざくざく入れていった。
 先が金属で出来ている鋤は四角いシャベルのよう。雑草が生えまくりの地面に鋤を入れて、草の根っこを断ったり掬ったりして取り除いた。
 それから焚き火の燃えかすの灰をまいて、鍬で耕して畝を作る。こちらも先端の曲がったフォークのような形をしている。
 鍬を打ち込んで横に返すと、土がひっくり返ってふわふわになった。小鳥が飛んできて、ぴょこぴょこ跳ねながら姿を見せたミミズをつついている。鶏でもいれば餌にできるだろうが、公園には食料になりそうな動物は見かけなかった。
「見よう見まねだけど、結構いい感じ!」
 できあがった畑に満足して額の汗をぬぐう。まっさらな畑に、これから何を植えよう。
 最初は短期間でできる葉物野菜を植えたいところだけど、さて、どこから種や苗を調達すべきか……。
(ホームセンターに行った人たちが何か持って帰ってきてくれるかも)
「図書館があったよね……町に出てみようかな」
 太陽が沈むまで間がある。まどかはぱんぱんと体をはたいて土埃を落とすと、町への道を歩き始めた。


 ミーティア・アルビレオの目の前で、ポリ容器――大きめポリタンクの出口から、透明な水がちょろちょろと流れていく。
 この前皆と作った2リットルペットボトルの浄水装置が上手くいったので、量産化に入ったのだ。
 何個もの容器に、前回と同じ要領で布や小石、炭などを順序よく詰めて、皆が飲料水に不自由しないだけ作る。後はバケツに受けた水を沸騰させればいい。
 今は水道が二カ所使えるようにはなったけれど、いつ異臭と着色が起こるか分からないから、必須の作業だ。
(ん~、でもぉ、時間がかかるのも手間だよねぇ~)
 ミーティアは沸騰したお湯が冷めるのを眺める。いつも眠たげな顔をしている彼女だが、暖かな日差しと小鳥たちの歌声に誘われて本当に瞼が重くなる。
 溢れても困るし、と、眠気覚ましに【空渡る透手】で細かい灰を操って除けて、綺麗に小山を作った。畑に使うんだとまどかに頼まれたのだった。
(ふわぁあ……あ、あの古井戸って使えないかなぁ?)
 視線をずらすとすぐそこに古井戸が見える。
 石造りの井戸の上に小さな屋根があり、滑車が取り付けられていた。滑車からはボロボロの縄が垂れ下がっていて縄の両端に取り付けられた木桶が二つ、地面に置かれている。
 ミーティアはとことこと近寄ると、井戸にかけられた筵を退けて中を覗き込んだ。
 長い間放って置かれたのか、土や苔の臭いがひんやりと頬をなでる。
「あぁ~……」
 ――ああぁ~あぁ~……。
 ミーティアの声は、ぼわんぼわんと反響しながら小さく溶けながら落ちていった。
「結構深そうだなぁ……ちゃんと湧いてるといいけどぉ」
 木の桶を早速浮かせて力を解除すると、滑車がさび付いた音を立てながらガラガラと回って木桶が吸い込まれる。
 もう一つの桶が滑車にぶつかる直前、ミーティアは縄を見えない手で掴んだ。木の桶がガランガランと井戸の底で返事する。
「これは涸れてるかなぁ~」
 自分で確かめようと彼女は井戸の中に飛び込んだ。
 自分の体ひとつなら【空渡る透手】で降りることができる。すぐに視界が闇に包まれ、手がかりは釣瓶をつるす縄だけになった。
 苔むした井戸の側面に何かが走り抜ける気配がする。
「明かりがあったら……あぁ、これは町まで明かりを借りに行かなきゃいけないねぇ~」
 いったん地上に戻ろうとした時、つま先が桶に触れた。
 空気が湿り気を帯び、水の臭いがする。
 つま先で慎重に濡れ落ち葉を掘ると、冷たくて濡れた感触がした。一見涸れたように見えても帯水層があれば、掘れば水の流れが戻ってくるかもしれない。
 ミーティアはシャベルも借りなきゃねぇ、と僅かな泥水を桶ですくって、井戸の外に上がっていった。



準備を整えて


 小川町駅の小さな伝言版は、その日珍しく幾つもの書き込みがされていた。
 召喚者の行き先や、俺達が頑張るから安心しろというものなどがあった。
 初めて知った召喚者の生の声に、まだ若い子どもたちは安心したようだった。


 図書館兼学校は、話に聞いていた通り民家を改装したものだった。
 広めの玄関にしつらえられた靴箱に、子どもたちの靴が不揃いに突っ込んである。
「いらっしゃい、そこで靴を脱いでこちらへどうぞ」
 扉を開けたエプロン姿の少女が、織主桐夏を案内した。
 かつてダイニングとリビングの続きだったろう部屋の壁に、作り付けの本棚と、高さも大きさもバラバラな本棚が壁に並べられている。
 子どもたちは床に座って絵本を読んだり、クレヨンで絵を書いたり、椅子と机で勉強したりと思い思いに過ごしていた。
「この図書館の利用は自由ですよ。貸し出しの場合は私が名前と書名をノートに記録しますので、あちらで」
 部屋の一角に机があり、貸し出しカウンターのようになっていた。
 なるほど彼女が図書館を任されているのだろう。
「オーケーオーケー。地元の図書館もそんな感じだったわ」
「……珍しいですね、今日で三人目です。召喚者と言うのでしたっけ」
 口調は丁寧なもののどことなく警戒心……いや、興味津々の視線が桐夏の目に頬に肩に突き刺さる。
「ああ。……ん? 俺の前にも来たのか?」
 部屋をよく見渡すと、奥の机で刀神 大和が資料を広げていた。
「調べ物つったら図書館は定番だよな。最近は図書館ロールってのも流行ってるしな。じゃ、ちょっと読ませてもらうわ」
 軽く手を上げると、桐夏は整理が追いついてない棚の、雑多な本の中から浄水施設について書いてありそうなものを抜き出した。
 手持ちの【現代知識チート大全】にも浄水施設の概要は載っているが、もっと……自分が浄水施設の機械を目の前にして最低限理解・操作できる知識が必要だ。
(っつっても、ちょっと専門的なことになる本はあんまないんだよなぁ……)
 小川町には元々図書館がない。この家の持ち主、書店の本、それから町の住民の家から集めた本にも、彼が求めるような設備の動かし方のような具体的な技術が記されている本は見当たらなかった。
 ダムから浄水・給水の工程と簡単な仕組みについては本に書いてあるので分かるが――濾過とかゴミの沈殿を待つのは、割とペットボトルでも同じだ――、ポンプの動かし方などは専門書に当たらないと無理だろう。
(パンデミックが起きて大人がいないっつーのに水が無事供給されてるんなら、自動化されてるんだろうが……異常発生時の対処までは無理だったんだろうなぁ)
 とりあえず仕組みを頭に叩き込むと、桐夏は浄水に必要な材料をメモした。
「オゾン?……無理だろ。炭……はある。ポリ塩化アルミニウムがゴミを沈みやすくして……ええと、消毒……塩素……次亜塩素酸ナトリウム」
 塩素で消毒するのは桐夏も知っており、前もって目星を付けていた。
 桐夏はメモを持って雑貨屋に寄ると、余っている塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウムが希釈されている)をひと瓶調達して海亀公園に戻り、ミーティアと同じように濾過装置を作った。
 流し込むのは水道水――異臭と着色が現れるのを待って、だ。
「……ん」
 緑色にうっすら濁った水から、かすかな異臭がする。一度気になったら鼻の奥に染みついた。それはどこか生臭い、潮の臭いを連想させる。
 桐夏は何度も水道水を濾過し、それを2リットルペットボトル三本分ポリタンクに入れて漂白剤で消毒する。……しかし、少し薄まった気がするものの取り除くことは出来なかった。
 生徒会に報告しに中学校に行くと、陽向は自分が思い至らなかったことに悔しそうな顔になった。
「うかつだった。消毒するのは考え付かなかった」
「で、この俺専用の非常用クソウォーターは……」
「ク、クソ……?」
「ああ。クソって言うのは――」
「いや、話が長くなりそうだ。それはまた後日ゆっくり。味の方はまさかと思うが……」
 桐夏は話を遮られて嬉々とした顔を一転、残念そうに眉尻を下げると、
「飲もうと思ったんだがな……ヤバそうなんで、舐めた。指先だけ。指先だけじゃ味はそう変わらないが、あれをコップ一杯飲むのはきついな」
 体調の変化を確認するにはもうちょっと飲まないとな、と言ったところで、陽向は慌てて制止する。
「無理するな。……いいか、何かあったら保健室に行くんだ。倒れられたり突然変異されても困る」
 意外と心配性なのかもしれないと、桐夏は思った。


 一方、大和は図書館で調べ物を続けていた。
 広げているのは周辺の地図と、『わたしたちの瀬織市』という本だ。
 瀬織市の地図というのは、一枚目は有名な出版社が出している地形図だ。この辺りは大小の川が何本か流れており、最も大きいのが瀬織川という。今日ホームセンターに行く前に渡る川は、支流に当たるようだった。
 二枚目の地図は市役所や病院などの建物などが書かれたいわゆる普通の地図の本。
 そして『わたしたちの瀬織市』、小学校の授業で使うような郷土資料。
 その中から大和は浄水場の位置を見つけ出す。
 瀬織市浄水場は、瀬織川の上流、川のすぐ側にあった。
 郷土資料には瀬織川と上下水道についても簡単に書かれており、航空写真と簡単な見取り図が書かれていた。
 水を綺麗にするための「池」が幾つも並んでおり、巨大なプールが何個も並んでいるような姿をしている。それに管理センターやポンプ場などの建物が幾つか。
 大まかに配置は分かったが、ちょっとした町くらいの大きさがある。
「浄水場について調べたければ、ホームページがあるんじゃないですか」
 エプロンの少女が大和を手招きした。受付カウンターに設置されたパソコンを操作すれば「ようこそ瀬織市浄水場へ」と水滴型マスコットと一緒にカラフルな文字が出てきた。
「瀬織川を中心に発展してきましたから、この浄水場も古くからあるんじゃないですか」
 大和は礼を言うと概要を頭に叩き込み、早速中学校に行った。

 加賀陸は、空き教室の机に銃器を並べ、手入れをしていた。
 拳銃やアサルトライフルは、見たことがあるものもあれば、知っている銃とは少し違うものもあった。
「水の変質が川の上流や浄水施設の問題なら何か心辺りはあるか?」
「…………」
 陸は黙っている。別に大和を嫌っているのではなく、元から口数が少ない印象を受けた。
「特定の生物の定期的な活動が原因なら原因を取り除かない限りは永遠に無くならないだろう」
「……その可能性は……ある。というより、ついさっき出た。……お前の仲間の召喚者が持ってきた」
 教室を通り過ぎたときに見た桐夏の顔を思い出す。
「パンデミックが様々な生物を変異させ、繁殖させた。元からいるモンスターも、生存域を広げた」
「浄水場の問題に対処する道具が欲しい。ホームセンターの調査に同行して良いか」
「陽向が許可をしたなら問題ない」
 陸は黙々と武器を磨いている。



化け貝退治とホームセンター


 ホームセンターというのは、生活に必要なもの、便利なものは大抵揃うところらしい。勿論規模によるのだが、だいたいそういうことになっている。
 これから向かうのは地元民が時々利用していたチェーン店で、陸も行ったことがあるという。
「町から出たら警戒を怠るな」
 彼はそう言った。彼と同行する三人の少年も拳銃を手に持ったままだ。
 しかし途中野犬に出くわしたくらいで、何も起こらず時間は過ぎていった。刈る者がいない草がアスファルトを浸食しようとしているが、この辺りはまだ文明が強く残っている。
 河川敷側の道路に出ると川を上流へと辿る。土手の上から見る限り、着色も異臭も感じられなかった。
「修理なんかの拠点周りのことは頼むわ。細かいことは苦手なんでな」
 ホーリー・ホワイトが両腰の二丁の拳銃をさすりながら大和に言った。
「その代わりっちゃなんだが、戦いの方は俺に任せてくれ。俺の出身地じゃ荒野でしょっちゅう殺しが起こってたんだ。
機械が人間を殺しててな――俺は、まぁそれだけじゃないが、そんな機械を狩って暮らしてたんだ。腕もそのときに持ってかれた」
「何となく理解した。それでその『腕』で銃を撃つのか」
 ホーリーの左腕は義手である。ただ鍛治の一族出身である大和は銃とはいえ同じ「武器」に興味を持った。そう、義手でなければその反動に耐えられないだろう。
「そういう訳だ。手前は何をしてきたんだ? どんな世界だった?」
「馴れ合うつもりはない。ただ朝比奈頼まれたから来ただけだ。……水も安心して使えた方がいいしな」
「まぁまぁ、オレだって話したんだ、いいじゃねぇか」
「……文化的には似ている。鍛冶師だらけでの場所で育ったが、俺は使う方が好きだ」
「私も環境は似てるかな。普通に海があるし陸地にはいろんな国があって学校もあったし。もしかしたらちょっと違うところがあるとすれば……宇宙人がいるわ」
 アヅキ・バルの言葉に、陸は驚いたようだった。
「宇宙人……だと?」
「そう、宇宙船で不時着した蜘蛛型エイリアンと現地人のハーフなの。大丈夫、悪いエイリアンじゃないよ」
「いいエイリアンと悪いエイリアンか」
 陸も本や映画で見たことがある。各地から人間を誘拐して改造したり記憶を入れ替えたり、玩具の木馬に執着したりするやつらだ。
「適応するために人間の姿になってるの。これから驚かせたら困るから先に言っておくけど、半分蜘蛛が本当の姿なのよ」
「……着いたようだな」
 大和が言った。
 通常水は下流の方が汚れているものだが、少しずつ、川の水が何となく、ほんの少しだけだが、生臭いような気がしていた。その中にまた別の生臭さが混じった。
 川にかかっている、二車線と歩道付きの橋。
 そのすぐ下の川べりに、話に聞いていた“中型犬くらいの大きさの、変異した肉食の貝”がうごめいていた。
 実はここに来るまでにも数匹見かけていたが、体力と平気の温存のために避けていた。
 アヅキが疑問を口にする。
「汚れたから繁殖しやすいのか、それともあいつらのせいで余計に濁ってるのかな」
「どっちにしろ倒すだけだ。アズーキ、前衛よろしくな」
「はーい」
 ホーリーが自信満々に銃をホルスターから抜けば、アズキが貝の群れめがけて堤防を駆け下りる。
「待て、ここから銃撃を……」
 陸が止めようとして声を引っ込めた。
 かき分けていた草の揺れがいつの間にか範囲を広めていた。そればかりか背丈が高くなったような気もする。そして、人と思えないほどの速度で駆けていた。
 川べりに辿り着き半ば隠されていたその下半身が露わになる、アラクニアン――蜘蛛の胴体。
「せいっ!」
 【アラクニアン格闘術】が一斉に襲いかかる貝をいなしていく。何せ脚は八本ある。四方から来られても四本は余る……のだったが、中型犬ほどの大きさの貝殻は重量があり、それを背負って獲物を襲うだけの筋肉は、俊敏さは、本当の犬のようだった。
 何度も払いのけたアヅキだったが、遂に一本が足に絡みつく。
「痛いしぬめぬめだし、気持ち悪い! しかも重いし!」
 アヅキはバールのようなものを貝殻の殻頂(かくちょう)に振り下ろして打撃を与え、ひるんだところを殻に引っかけるように引き剥がしにかかる。

 ホーリーはシングルアクション式のリボルバー【ヘルハウンド】を引き抜いて高所から狙いを付けていた。
 通常高所が有利だが、貝は殻が邪魔になってその下の本体を狙えない。
 しかしアヅキが近寄ったので、美味しそうな肉だと思ったのだろう、それまで巨大な巻き貝たちは砂地を這い回るように動いていたが急に片方の先端を持ち上げた、と思うとその下の本体――鮮やかなオレンジ色を覗かせ大きな口を開けた。
 体を伸ばし、地面から弾み、殺到する。
 ホーリーは引き金を引いた。
 【ドミネーション】で位置を探ろうとするが、数十体もの貝の動きを正確に把握するには、入ってくる情報が多すぎて捌くので頭がいっぱいになるだろう。
 アヅキの周囲の空間に意識を集中させて、確実に一体一体の口にぶち込もうとする。何発か本体でなく貝殻に当たったが、殻を砕いて銃弾が肉に突き刺さる。のけぞった貝が体をくねらせながら予想外の動きをしつつアヅキに尚も食らいつこうとする。
「貪食な奴らだな。アヅーキ、気を付けろよ!」
「援護する」
 陸以外の三人が、銃をアヅキにの周囲に撃ち込んで弾幕を張った。
 オレンジ色の肉片が飛び交う。それを目にした貝が大きな口で飲み込むと、まだ足りないというように隣の貝を飲み込んで殻から引きずり出した。貝は弱った貝を襲い、弱った貝はさらに弱った貝を襲い……。
 そのまっただ中にいるアヅキがその光景に引いていると、隣にいつの間にか陸が立っていた。
 アサルトライフルの弾をばらまきつつ、
「女子一人におとりをさせる訳には……この野郎」
 アサルトライフルを持つ腕を食らおうとする貝に、陸は片手を放し――掌から炎の弾が出現して貝を炙った。
 炙られた貝がアサルトライフルを放して宙を舞うと、一発の弾丸が撃ち抜く。どう、と音を立てて巻き貝は地面に転がった。
「アヅーキ、大丈夫か!」
「ありがとう。それにしても匂いは美味しそうだね」
 アヅキはホーリーに答えると、どこからか袋を取り出したのだった。

 その後、橋周辺の貝を一掃した彼らは、昼頃ホームセンターに辿り着いた。
 ホーリーが【ドミネーション】で再度索敵して、皆に頷いてみせる。
「……大丈夫だ。ネズミや虫くらいだな……ああ。普通の大きさのな」
 店内は荒れ、勝手に商品が持ち去られた形跡があった。それでも使えそうなものはまだ大分残っていそうだ。
 あれから大人は消えたが……あの時よりも状況は厳しくなっているのだから。



お帰りなさいと今日の夕食


 まどかは古民家前の岩に座り、図書館で借りた本の、斜陽でオレンジに染まったページを目でゆっくり追っていた。
「日当たりと、水もちと水はけね……窒素、リン酸、カリ……ふむふむ、灰はphの調整だったんだねー」
 足音がして顔を上げると、ホーリーとアヅキが袋を抱えて帰ってきたところだった。その後ろから大和がネコ車に工具などを乗せて戻ってくる。
「お帰りなさい! どうだった?」
 本を閉じて立ち上がったまどかは、期待に瞳を輝かせた。それから貝を見て凄いねと感心する。
「今日の夕ご飯は貝にしましょ」
「じゃ、さっそくお湯を沸かすね! 町で味噌も借りてきたんだ!」
 まどかとアヅキは仲良く料理を始める。町でこれも借りてきた鍋に湯を沸かし、貝を捌いて放り込む。
 塩ゆでにして、残った出汁と具で味噌汁、バター……は貴重品なので炉端焼き。
 一働きしたせいもあってか、醜悪な見た目と内臓の毒に反して、コリコリした歯ごたえにジューシーな肉汁が美味しかった。
 そしてやっぱり、皆のお腹は炊きたてご飯やパンが恋しくなるのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<あとがきマスターコメント>

 第二回シナリオ、ご参加ありがとうございました。
 今回は水質調査とホームセンターへの調査まで成功しています。
 生徒会からの報酬の方は、米と豆の希望がされていますが、他にご希望があればまた次回以降もお願いいたします。

 今回、濾過装置が増設されたため、水道が使えなくても最低限の水の確保は問題なくなりました。
 井戸の状況も判明しました。井戸は、本体の修理は必要ではありませんが、掃除ともう少し下まで掘る必要はありそうです。

 ホームセンターは以後、いつでも往復が出来ます(さすがに丸腰だと危険でしょうけども)。
 ホームセンターにありそうな道具は手に入れられます、が……大抵の食料とすごーく便利なものなどはあらたかパンデミック後に持ち去られてしまっています。
 カップ麺やご飯のパックはないけど漬物の缶詰はある、携帯ガスコンロとガス、懐中電灯や電池は殆どない……けれどキャンプ用品の着火剤などはあるという感じでしょうか。
 工具やちょっとした修理部品、道具、文房具、寝具などは残っています。寝袋、テントは元から扱いが少ないので幾らか残っています。
 この辺りではパンデミックで引きこもった住民が多いので、元から家にある・代用できそうなものはあまり持って行ってないような感じです。


 それでは、もしご縁がありましたら、また次回お会いいたしましょう。

――――――――――――――――――――――――――――――――


<定員> なし
<参加締め切り> 4月16日23時
<アクション締め切り> 4月20日23時
<リアクション公開予定日> 4月30日

<参加者>
刀神 大和
佳波 まどか
ホーリー・ホワイト
ミーティア・アルビレオ
アヅキ・バル
織主桐夏


関連記事
スポンサーサイト
  1. 2018/04/30(月) 16:28:00|
  2. リアクション

プロフィール

sawaki

Author:sawaki
FC2ブログへようこそ!

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (2)
スケジュール (2)
PC (23)
クリエイター募集 (1)
お知らせ (9)
ストーリー (3)
シナリオの遊び方 (7)
マスターページ (4)
NPC (11)
クリエイター一覧 (3)
イラストレーターページ (7)
シナリオガイド (0)
リアクション (21)
キャラクター別イラスト (6)
プライベートシナリオ (1)
武器 (39)
武器・スキル・アイテム一覧 (18)
スキル (35)
アイテム (7)
防具 (4)

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR